2018/01/06

膝関節の可動域制限の考え方

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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膝関節の可動域制限の因子としていくつ挙げられますか?

変形性膝関節症など臨床でも膝関節疾患は多く担当すると思います。

「なんとなくストレッチしているけどよくならない…。」

なんて悩んでいる方も少なくないと思います。

実際、私もそうでした。

同じような悩みを持つ方のために、臨床でもよく認められる制限因子を中心にまとめてあります。

膝関節の可動域制限があるとどうなるの?

膝関節の屈曲が制限されると、生活場面においてかなり支障がでてきます。
立ち上がりや階段昇降、自転車の運転、浴槽の跨ぎ動作、床上動作、正座など様々な場面で支障が生じます。

膝関節伸展が制限されると、膝関節の安定性に影響が出ます。
膝関節が安定性を得るためには完全伸展できることで初めて安定性を得ることができます。

わずか5°でも伸展制限があると、歩くなど動作の度に膝関節にストレスが蓄積し、結果として変形性膝関節症のような状態へとつながります。
さらには、膝関節の負担を他の関節で代償しようとしますので、股関節痛や腰痛をも引き起こしかねません。

そもそも関節可動域運動自体を間違ったやり方で実施している場合があります。
まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということです。
 
よくある間違いが、筋肉など軟部組織が固まったから制限が起こっているという誤解。
これは逆で、運動パターンの異常で関節に偏ったストレスがかかった結果、骨の変形や軟部組織が変化し可動域制限が起こるという流れが自然です。
骨折による急性外傷などはまた別ですが。
 
膝関節で多いのは、変形性膝関節症で骨の変形が起こったから痛いという考え方。
変形があっても痛みがない方はいますし、間違った運動パターンが繰り返されるから骨が変形して結果的に痛くなることがあるわけで、骨の変形を手術で改善しても痛みの改善にはつながらないことがあります。
 
つまり、可動域制限や痛みを改善するために手術で骨の変形を治す、それで改善されないのは仕方がないといった考えは間違いで、骨の変形を起こしてしまった運動パターンの異常を改善するべきということです。
 
関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。
 
そのためにも、まずは制限となる要素を整える必要があります。

膝関節の正常な可動域

膝関節の正常な可動域の範囲は、0~130°。

伸展時には骨性のエンドフィールによって制限され、屈曲時には大腿と下腿の軟部組織性のエンドフィールによって制限されます。

つまり、これ以外のエンドフィール、または、正常な可動範囲に満たない範囲での制限がある場合、何らかの原因によって可動域が制限されていると考えます。

 

屈曲可動域の制限因子

筋肉の要素

大腿四頭筋の柔軟性低下

膝関節の伸展に作用しますので、柔軟性が低下すると言わずもがな、屈曲制限へつながります。

ここで重要なのは、大腿四頭筋の4つの筋の内、どれが最も制限因子となっているかということです。

まずは、静的なアライメントから膝蓋骨がどの方向に動きにくいのか、大腿骨に対して脛骨はどの方向に動きにくいのか確認してから予測を立てます。

膝蓋骨が内側に動きにくく、脛骨も内側に動きにくい場合であれば、外側方向へ引かれており、外側広筋による制限が大きいことが予測できます。
膝関節の屈曲に合わせて、各筋を触診し、軽く押圧することで柔軟性を評価することができます。

また、大腿二頭筋と癒着を起こしている場合もあるので、外側広筋単体の柔軟性だけでなく周囲組織との癒着がないことも評価しましょう。

当然、複数の筋肉の柔軟性低下が混同している場合もあるので、必ずしも一つの筋肉に限定できなくてもよいです。

 

中間広筋に関しては、大腿直筋を左右どちらかによけてその下を触れることで触診が可能です。

外側広筋は大腿骨遠位部で大腿二頭筋と隣接しています。
内側の筋群(内転筋群、腸腰筋など)の弱化があると、外側の筋群で姿勢制御するパターンが多いので、その両者の筋は外側への姿勢の制動の役割として働きます。

そうなると、膝関節の屈曲、伸展といった動きの役割は薄れ、大腿二頭筋-外側広筋間で癒着が生じることがあります。
ここで癒着が生じると、作用が反対の筋同士なので膝関節の動きに影響が出るのはもちろん、緊張が下腿へ伝わり、下腿を外旋方向へ引っ張ります。
それにより、膝関節屈曲に伴う、下腿の内旋が起こりずらくなるため、屈曲の制限因子となる場合があります。

 

ハムストリングスの筋出力低下

ハムストリングスの筋出力が低下していると、相対的に大腿四頭筋が優位に働きますので、下腿は前方へ変位します。
下腿が前方へ変位すると、本来膝関節の屈曲に伴って下腿の後方移動が起こるはずが、前方に変位しているため、そのまま屈曲すると途中で下腿が大腿に対して引っかかるような形になってしまいます。

さらに、下腿が前方に変位することで、膝関節の適合性が崩れるため、他の筋群で安定性を代償しようと緊張を高めて固い安定性を獲得しようとします。
これによってアライメントが崩れた状態で保持され、悪循環へと陥ります。

関節アライメントを見る上で、拮抗筋と主動作筋のバランスを見ておくことはかなり重要だと思います。

大腿四頭筋とハムストリングスのバランスが崩れると上述した大腿二頭筋-外側広筋間で癒着が生じやすくなります。

 

腓腹筋の過緊張

足関節底屈筋である腓腹筋は膝関節にもまたがる二関節筋であるため、膝関節にも影響を与えます。

短縮すると伸展制限が起こりますが、過緊張となると弛緩することも難しくなるため、屈曲制限の因子にもなります。

屈曲するためには弛緩できることが必要で、弛緩できないとつまったように感じられます。

 

腸脛靭帯の柔軟性低下

大腿筋膜張筋から腸脛靭帯へと移行し、腓骨頭へ付着します。

ここの柔軟性が低下すると、下腿が外側、外旋方向へ引っ張られ、屈曲に伴う内旋運動が不十分となり、屈曲の制限因子となります。

さらに、腸脛靭帯の深層には外側広筋があり、両者の間で癒着が生じやすいポイントでもあります。
癒着が生じるとより下腿の変位を助長しますのでチェックしておくべきポイントです。

 

鵞足での癒着

縫工筋、半腱様筋、半膜様筋からなる鵞足はこれら3つの筋肉が重なり合っているため、癒着を起こしやすく制限因子となります。

また、縫工筋は大腿前面を走行し股関節と膝関節にまたがる二関節筋であるため、膝関節屈曲制限因子となります。

 

膝窩筋の機能不全

膝窩筋は膝関節におけるインナーマッスルですので、膝関節の安定性に関与します。
膝窩筋が正常に機能しているからこそ、大腿四頭筋やハムストリングスといった動きを作り出すアスターマッスルによって膝関節の屈伸運動を行うことが可能となります。

膝窩筋が機能不全を起こすと、本来動きを作り出すはずのアウターマッスルによって膝関節の安定化を図るため、可動域制限へとつながります。

膝窩筋はアナトミートレインのディープフロントラインに含まれており、このラインが機能不全を起こすと、アウターマッスルによって身体の安定、姿勢制御を行うので、カクカクとぎこちない動きになります。

 

膝関節に限局してみると、下腿は外旋、膝関節は内反し、腸脛靭帯や大腿二頭筋、外側広筋で制動するため、膝窩筋は伸張されますので、より筋出力を発揮しにくいアライメントとなってしまいます。

膝窩筋は腓腹筋外側頭の深部、腓骨頭の内側で触れることができます。

腓腹筋が腓骨と癒着することで腓腹筋が内側へと移動できないと膝窩筋を触れることが困難となりますので、腓腹筋を腓骨からはがすように内側へ押圧し、癒着を取った上で膝窩筋を直接触診、繊維を横断するようにマッサージします。

緩んでから下腿の内旋運動を反復し、膝窩筋の機能を活性化しましょう。

うまく膝窩筋の筋出力が回復すると、結果的にアウターマッスルの緊張も緩和し、可動域の増加も認められると思います。

 

骨の要素

膝蓋骨の可動性

膝蓋骨は肩甲骨と同様に直接他の骨と関節を形成しているわけではなく、周囲の筋肉、靭帯によって可動性を左右されます。

膝蓋骨を左右から指で挟み、どちらに動きにくいか。
上下から挟み、どちらに動きにくいか。
膝関節の屈曲、伸展に伴って上方、下方に移動することができるか。

どの方向に動きにくいか評価することで制限因子を絞ることができます。

 

大腿脛骨関節の可動性

大腿骨に対する脛骨の可動性を評価します。

大腿骨を把持して固定し、脛骨を左右から挟み、どちらに動きにくいか。
脛骨を前後から挟み、どちらに動きにくいか。
脛骨を左右から挟み、水平面上でどちらに回旋しにくいか。

どの方向に動きにくいか評価することで制限因子を絞ることができます。

 

腓骨の可動性

膝関節の屈曲において腓骨は直接関与しているわけではないですが、膝関節の動きの中では若干の可動性は必要です。

詳しくは今回は割愛しますが、柔軟性が低下しやすい大腿二頭筋、外側広筋、腸脛靭帯などの影響で腓骨の可動性は低下しやすいです。

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軟部組織の要素

膝蓋上嚢の柔軟性低下

膝蓋上嚢は大腿四頭筋腱の深層に位置し、滑走による緩衝作用の役割を持っています。

臨床上、ハムストリングスより大腿四頭筋のほうが優位に働きやすく、膝関節の安定性が低下している場合、周囲の筋群をより緊張させて安定性を得ています。

ですので、大腿四頭筋腱周囲は慢性的にかなり緊張が高い状態を保持している場合が多いと言えます。
そうなると、深層に位置する膝蓋上嚢と癒着が生じ、膝蓋上嚢自体の柔軟性も低下してしまい、屈曲時には伸張されるはずのが屈曲に対して制限因子となってしまいます。

膝蓋骨直上を両手の示指と母指で両側から挟み、上下、左右によく可動性を引き出してあげましょう。

 

膝蓋下脂肪体の柔軟性低下

これも膝蓋上嚢と同様に膝関節の安定性を得るために周囲筋群を緊張させた結果として浅層にある膝蓋腱と癒着してしまう場合が多いです。

同様に指ではさんで上下、左右によく可動性を引き出しましょう。

 

伸展可動域の制限因子

筋肉の要素

ハムストリングスの柔軟性低下

上述したように筋出力の低下が起こりやすいですが、柔軟性の低下が同時に起こりやすいです。
特に外側広筋、腸脛靭帯、腓腹筋間で癒着が生じやすいので、各骨の制限方向を評価した上で、筋間をはがすようにアプローチしてみてください。

内側でも半腱・半膜様筋と腓腹筋内側頭、大内転筋間でもそれぞれ癒着が生じやすいポイントがあります。
外側部もそうですが、膝関節の後面であるこれらの部分が癒着して滑走性が低下すると、伸展に対して直接的に制限となります。

 

腓腹筋の柔軟性低下

上述したように半腱・半膜様筋、大腿二頭筋間で癒着が生じやすいです。

 

膝窩筋の機能不全

屈曲時と同様に膝窩筋の機能不全によってアウターマッスルが過剰に働いてしまうため、それによって関節運動が制限されてしまいます。

膝窩筋の作用は脛骨の内旋。

膝関節伸展には脛骨の外旋を伴うため、膝窩筋が短縮、過緊張を起こすと脛骨の外旋が制限されてしまい、膝関節伸展を直接制限する因子ともなります。

 

骨の要素

屈曲時と同様です。

 

軟部組織の要素

これも屈曲時と同様です。

 

評価のポイント

・膝蓋大腿関節、大腿脛骨関節のどちらに制限があるか

・大腿四頭筋とハムストリングスのバランス、筋緊張

上記の2点をまずは考えて評価してみてください。

 

おわりに

一つ一つ整理して評価していき、最終的に制限因子として挙がった部分から共通する部分を探すようにしてみてください。

それが各制限因子に対して影響を与えているということになりますので、そこを捉えることができると根本からの改善につながります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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