2017/09/09

股関節の痛みを4つの特性から捉える

 

スポンサーリンク




この記事を書いている人 - WRITER -
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
詳しいプロフィールはこちら

中々改善しない股関節の痛み、臀部の痛みに悩まされていませんか?

変形性股関節症や大腿骨頸部骨折の術後など、術後の疼痛は仕方ないにしても何週間も何か月も経過しているのに痛みが続くと訴える方もいらっしゃいます。

特に頸部骨折は臨床でも診る機会が多く、股関節についての知識を深めておくことはセラピストとして必須となります。

今回はそんな股関節の痛みにフォーカスして股関節障害をどのようにして考えると良いのかまとめました。

股関節の痛みを考えるための前提条件

股関節の痛みについて考える際、そもそも股関節がどのような関節かを知っておかないとどんなふうに臨床展開していけばよいのかわからなくなります。

ですので、「股関節とはどんな特性、役割を持つ関節なのか?」という部分を理解しておくことはとても重要になります。

以下に解説していきます。

 

下肢と体幹を連結する関節

見てわかる通りですが、体幹と下肢を繋いでいる関節になります。

そのため、隣接している骨盤(仙腸関節)、腰椎との関係が深く、股関節から骨盤・腰椎への影響が考えられますし、反対に骨盤・腰椎から股関節への影響も考慮する必要があります。

 

股関節を評価する上で骨盤↔腰椎↔股関節の関係性を頭に入れて考えないといけないわけです。

 

この関係性がどこかで崩れている場合、体幹からの力がうまく股関節から下肢全体へ伝わりません。

例えば、歩行時においても体幹と股関節がうまく連動できている場合は体幹:股関節=50:50の力で歩行に必要なだけの力を発揮できるとします。

体幹と股関節の連動が不十分な場合、体幹の力が不十分になるため体幹:股関節=30:70と足りない分を股関節で過剰に力を発揮して代償することが考えられます。

このような状態で歩行をはじめとする下肢筋力が求められる動作において、毎回股関節へ過剰な負担となるため、オーバーユースによる炎症や痛みが起こる可能性があります。

 

つまり、股関節における痛みというのは、体幹との関係性が崩れた結果足りない筋力、可動域を代償して過剰に負担がかかっている、二次的に起きている可能性があるということです。

この場合は、そもそも股関節に負担がかかる原因が体幹にあるのでなんで体幹との連結がうまくいかないのか評価する必要があります。

 

股関節の構造的な特性

股関節は寛骨の関節窩と大腿骨頭から形成される球関節で3軸性の関節です。

3軸性なので屈曲/伸展、外転/内転、外旋/内旋と比較的自由な可動性を有しています。

しかし、大きな可動性を持っている反面、構造的に不安定な面もあります。

適切な場面に応じて可動性を発揮したり、安定性に関与したりと柔軟性と剛性の幅があって使い分けられることが理想です。

ですが、可動性が低下して周囲筋群の緊張も高くなっている場合が多い印象です。

上の写真のように関節はそれぞれ交互にモビリティとスタビリティの関節が位置している関係にあります。

股関節はモビリティの役割を持っているので十分な可動性があって本来の役割を発揮できますが、上述したように可動性が低下している印象が強いです。

それは、この写真のようなモビリティ-スタビリティの関係性が崩れているからです。

 

股関節を基準に見ると、上下の腰椎・膝関節はスタビリティの役割を持っています。

この関係性が崩れ、スタビリティとモビリティの関係が逆転していることが度々見受けられます。

 

後述しますが、骨頭が関節窩に対して求心位を適切に保つことができるからモビリティとして働くことができます。

求心位を保つことができないと安定性を求めてより骨頭の被覆率が高い骨盤前傾位へ肢位を変えたり、筋肉で固めたりしてより適合性が高くなるようにします。

その結果、股関節がスタビリティとして働くようになり、そこに本来のモビリティとしての働きが求められると痛みの原因としてなることがあるのです。

硬いからほぐすという考え方ではなく、まずはなんでそうなるの?と疑問をもって考えてみると良いと思います。

身体の反応は理由があってそうなっているので。

 

また、腰椎・膝関節がモビリティとして働くことで腰椎・膝関節にも負担がかかって痛みを誘発することにもなりかねませんし、ますます股関節のモビリティが失われていきます。

股関節自体が起点となって痛みを引き起こしているのか、腰椎・膝関節が起点となって股関節に痛みを引き起こしているのかはそれぞれ違うので、実際に評価する必要があります。

少しややこしいかもしれませんね。笑

 

前方・外側に不安定な構造

 
高い自由度を持つ分、構造的に不安定な面もあるといいましが、具体的には臼蓋が骨頭の2/3を覆っていて、内側、後方、上方を覆っています。
 
骨頭の前方、外側は臼蓋が覆っていないのでその方向には構造的に不安定となります。
関節運動でいうと、伸展と内転ですね。
 
その不安定さを補っているものが関節包や靭帯などの静的な安定性に関わる組織、動的な安定性に関わる筋肉です。
 
 
静的な安定性に関わる組織
 
・関節包
・関節唇
・靭帯
 関節包内靭帯:大腿骨頭靭帯、寛骨臼横靭帯、輪帯
 関節包外靭帯:腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、坐骨大腿靭帯
 
 
赤字で書いてあるのが、前方の安定性に関わる靭帯です。
 
動的な安定性に関わる組織
 
・腸骨筋
・大腰筋
 
 
  
この二つを合わせた「腸腰筋」が前方の動的な安定性に関わっています。
 
腸腰筋は骨頭を臼蓋に対して求心位に保つ働きをしており、股関節においては最重要と言ってもいいくらい大事な筋肉です!
 
 

後方の筋群の密度が高い

 
股関節周囲筋を見ると、前方の筋群に比べて後方の筋群が多く、密度が高いです。
ということは、後方筋群の柔軟性の低下により骨頭の前方偏位が助長されやすいということです。
 
 
 
上述した通り、骨頭は前方へ不安定な構造なため、後方筋群の柔軟性低下と合わさると容易に前方へ偏位してしまいます。
 
前方に偏位するのを防ぐために前方の安定性に関わる腸腰筋が緊張高めている場合が多く認められる印象があります。
 
腸腰筋は股関節におけるインナーマッスルで機能不全をおこしている場合、アウターマッスルの緊張を高めて関節の安定性を得ようとするため、可動性は低下してしまいます。
 
このことから、関節構造的にも筋肉の配置的にも骨頭が前方へ偏位しやすく、それに伴って腸腰筋が緊張を高めて対応する戦略となりやすく、可動性が低下、モビリティとしての役割も失われてしまうということが考えられます。
 
このような股関節としての前提を理解した上で評価すると評価・アプローチもスムーズに進めることができるかと思います。
 
 

スポンサーリンク

股関節の痛みにおけるゴール設定

 
ここまでの股関節とはそもそもどういった関節なのか理解できたら、ゴール設定を明確にしておく必要があります。
 
ここでいうゴールとは、股関節の理想の状態を考えて現在の状態と比較して何が足りないのか?差を考えることで、すべき評価・アプローチもおのずと出てくると思います。
 
理想の股関節の状態を明確に
現在の股関節の状態との比較
差を埋めるための評価・アプローチ
 
このような流れですね!
 
以下にどのような状態が股関節にとって良い状態なのか挙げていきます。
 
 

股関節・骨盤・腰椎がそれぞれ制限がないこと

 
上述しましたが、股関節・骨盤・腰椎がそれぞれ連動して動けることで効率よく筋力が発揮できるということでしたね。
 
連動するということをもう少し掘り下げると、関節運動に合わせて関節面の向きを変化することができなければいけません。
 
どういうことかと言うと、歩行時の立脚後期では股関節は伸展し骨頭は前方へ動きますが、この時に寛骨が前傾することで骨頭に対して関節面が適合する方向へ向きを変えることができます。
 
 
 
関節の適合性が高い状態を常に作ることができれば筋肉のバランスが悪くなることもなく、効率よく筋力を発揮できます。
 
腸腰筋が過緊張して骨頭を抑え込む必要もないのです。
 
さらに、寛骨の前傾に合わせて腰椎も伸展することで下肢-体幹の力の伝達がスムーズにいきます。
 
 
単純に股関節だけで純粋に屈曲をすると、70°しかありません。
股関節の参考可動域は125°であるため、骨盤と腰椎の可動性も必ず評価しないといけないのです。
 
基本的には以下のように連動します。
 
股関節屈曲+骨盤後傾+腰椎後弯
股関節伸展+骨盤前傾+腰椎前弯
 
この3つのどこかで可動性が低い部分があると、同じ角度、筋力を再現するためにはどこかに過剰に負担がかかることになります。
 
 

腸腰筋に機能不全がない

 
何回も登場しています、「腸腰筋」
何回も出てくるということはそれだけ重要な筋肉だと思ってください。
 
腸腰筋は腰椎から大腿骨に付着しており、唯一体幹と下肢にまたがっています。
腰椎・骨盤・股関節の連動が重要だと言いましたが、それをコントロールする上で腸腰筋は重要です。
 
腸腰筋の機能としては、骨頭を求心位に保つ、脊柱を直立位に保つ、股関節の屈曲が主な機能です。
 
 
※詳しくは以下の記事に記載してあります。
 
 
 
腸腰筋に機能不全があると、骨頭を求心位に保つことができず、大腿四頭筋や臀筋群などアウターマッスルの緊張を高めて安定性を得ようとします。
 
腰椎にも付着しているので当然腰部にも影響があり、脊柱起立筋の緊張を高めて腰部の安定性を高めようとします。
 
こうなると、腰椎-骨盤-股関節の分節性が失われ、一塊のような動きしかできなくなります。
 
アウターマッスルで固定と動作の両方を担う傾向になってしまうため、無駄に筋肉が肥大しますし、筋力も発揮しずらくなり、ますます動きにくく悪循環に陥ってしまいます。
 
 
臨床では股関節の筋力強化として中臀筋のトレーニングなどするかもしれませんが、その前に本当に筋力強化が必要なのか?なんで筋力低下しているのか考えて欲しいのです。
 
 

股関節の痛みの治療戦略

 
今までの内容をまとめてどのように進めていけば良いのか考えてみます。
 
腰椎・骨盤・股関節それぞれに適度な可動性があるのか評価
腸腰筋の機能不全がないか評価
各可動性、腸腰筋の機能不全を改善
股関節優位の動作戦略へ
 
各部位の可動性を十分に引き出し、腸腰筋が適切に機能できる環境を整えて、さらに腸腰筋自体を使えるように徒手療法、運動療法を行っていくという流れです。
 
 

股関節の痛みに対する徒手療法

 
股関節への徒手療法としては、腸腰筋の働きを阻害している部分を中心にアプローチを進めると結果が得られやすいです。
 
制限となりやすい部分を以下にピックアップしています。
 
 

中臀筋-大臀筋

 
臀筋群の癒着は骨頭の前方偏位を助長してしまいますのでしっかり剥がしておきましょう。
 
①.中臀筋-大臀筋間に指を入れ、中臀筋から大臀筋を剥がすように内側へ押し出す
②.指を入れたまま自動運動or他動運動を行う
  

大臀筋-ハムストリングス

 
ハムストリングスは寛骨を介して大腰筋と拮抗関係にあるのでハムストリングスの機能が適切であることも腸腰筋の機能に関わってきます。
 
①.大臀筋-ハムストリングス間に指を入れ、ハムストリングスから大臀筋を剥がすように上方へ押し出す。
②.指を入れたまま自動運動or他動運動を行う
  

腸骨筋-大腰筋

 
腸腰筋は腸骨筋と大腰筋の二つから成る筋肉ですが、両者は微妙に作用が違ってきますので両筋間に癒着がないことで腸腰筋の機能が最大限に発揮できます。
深部にあり触診は難しいですが、ここへアプローチする意義は十分にあります。
 
①.腹直筋の外側から脊椎を触れるつもりでゆっくりと押圧する
②.深部で大腰筋の筋腹を触れることができるので、そこから寛骨の方へたどっていくと腸骨筋との筋間があるので間を裂くようにする
③.指を入れたまま自動運動or他動運動を行う
  
 

股関節の痛みに対する運動療法

 
改善した可動域、筋力を運動療法によって動きの中で股関節機能を使えるようにすることが目的です。
 
 

運動療法①

①.端座位で鼠蹊部を触れる

②.触れたまま体幹を前傾する

③.10回程度繰り返す

 

ポイントとしては、

・坐骨結節の真上に体幹が位置するようにし、直立位を保持したまま実施する

・骨盤が過度に後傾しない

 

 

運動療法②

①.背臥位にて片膝を立て、反対側の下腿を膝の上に乗せる

②.乗せた下腿を膝の上で滑らせるように股関節の屈伸を行う

③.左右10〜20回程度繰り返す

 

ポイントとしては、

・ゆっくりと行う

 

 

運動療法③

①.立位で肩幅に足を開く

②.鼠蹊部を触れつつ体幹を前傾する

③.10回程度繰り返す

 

ポイントとしては、

・つま先は真っ直ぐ前方へ向ける

・膝が足部より前方へ出ない程度に膝を軽く屈曲しておく

・ハムストリングスの起始部が緊張するように臀部を後上方へ突き出す

 

 

まとめ

・下肢と体幹を連結している関節

・身体全体として捉えるとモビリティ関節としての役割を持つ

・構造的に前方・外側へ不安定

・腸腰筋の機能が重要

 

おわりに

いかがでしたか?

股関節疾患の方は非常に臨床で見る機会が多く、股関節についての知識を常に要求されると思います。

ぜひ、今回の記事を参考にされてみてください!

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

オススメの書籍

The following two tabs change content below.
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
この記事を書いている人 - WRITER -
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
詳しいプロフィールはこちら
 

  関連記事 - Related Posts -

 

  最新記事 - New Posts -

 

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です