2017/06/24

痙縮ってなに?10分で理解できる具体的なメカニズムとアプローチ

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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痙縮とは何か説明できますか?

メカニズムをわからないまま闇雲にストレッチなどしていないでしょうか?

新人の頃の私はひたすらストレッチや努力性に筋トレを指導して、変化がないのは患者さんのせいだと決めつけてしまっていました。

しかし、痙縮のメカニズムを理解できた今では根拠のないストレッチではなく、理論立ててリハビリすることができています。

本記事を読むと、痙縮のメカニズムからアプローチ法まで理解できます。

痙縮とは?

そもそも痙縮とはどういった状態を指すのか。

痙縮とは、上位運動ニューロン病変により、間欠的または持続する不随意な筋活動をきたす感覚-運動制御の障害である。
(Pandyan AD,2005)

上位運動ニューロンが何らかの原因で障害されることで、本人の意思とは関係なく筋緊張が高まってしまう状態のことを指します。

正常な状態では、脊髄の反射回路は促通性と抑制性の上位運動ニューロンで制御されており、脳卒中など上位運動ニューロンが障害されるとバランスが崩れ、促通性のものが優位に働いてしまうと考えられます。

また、筋紡錘による感度の変化も要因の一つと言われていますが、健常者と脳卒中患者を比較した研究では筋紡錘の感度に有意差はなかったと言われています。

しかし、ここに拘縮が加わると話は変わってきます。
拘縮によって筋の弾性が低下すると、筋膜・筋間中隔上に存在する筋紡錘の感度が低下し、過剰に反応することで適応しようとする結果、痙縮のような筋緊張が高まった状態が起こるというわけです。

以下に上位運動ニューロン、筋紡錘の感度変化それぞれの要因について詳しく解説します。

上位運動ニューロンによる影響

上述したように、促通性と抑制性の上位運動ニューロンによって制御される脊髄の反射回路のバランスが崩れた結果、促通性のニューロンが強く働いてしまうとお伝えしました。

上位運動ニューロンとは脊髄を制御する下降性の経路のことを指し、5つに分類されており、以下の通りになります。

・視蓋脊髄路

・赤核脊髄路

・皮質脊髄路

・網様体脊髄路

・前庭脊髄路

それぞれ、視蓋-脊髄や皮質-脊髄のように頭にくる部位から後に続く部位をつないでいると覚えておけばわかりやすいと思います。
皮質-脊髄で言えば、大脳皮質と脊髄をつなぐというように。

結論から言うと、網様体脊髄路と前庭脊髄路の二つが痙縮に関与しています。

では、それぞれについて解説します。

視蓋脊髄路と赤核脊髄路

視蓋脊髄路は中脳の上丘から始まり、眼球運動の方向付けに関与します。

赤核脊髄路は中脳の赤核から始まり、四肢遠位筋に関与します。

赤核脊髄路は脳卒中後の機能回復に貢献していると近年の研究で言われており、脳卒中によって錐体路が損傷されるとそれを補完するため、赤核では神経線維の増加が認められることがわかっています。

 しかし、本来人ではほとんど使われていない部位なので、今回のテーマである痙縮の原因とは考えにくいため、視蓋脊髄路と赤核脊髄路は痙縮との関与は薄いと言えます。

皮質脊髄路

これは皆さんよくご存じの通り、大脳の運動野から始まり、放線冠、内包後脚、大脳脚、橋、延髄を通る錐体路です。

外側皮質脊髄路が錐体で交差して反対側を下降するため、損傷半球とは反対の四肢が障害されることはよくご存じだと思います。

皮質脊髄路の役割として、末梢の運動の分離があり、外側皮質脊髄路では余計な筋収縮を起こさないように抑制性のニューロンを興奮させています。
これによって、望んだ筋収縮のみを起こすことが可能で分離運動が達成されているというわけですね。

サルを使った研究によると、運動野や皮質脊髄路を単独で損傷させると弛緩性麻痺は起こりますが、痙縮は起こらないことが分かっています。
(Lawrence DG,1968)

人によるケースでも、皮質脊髄路のみ損傷したラクナ梗塞のケースでは筋の弱化は認められましたが、痙縮は認められなかったことから、皮質脊髄路の痙縮の関与は薄いと考えられます。
(Sherman SJ,2000)

つまり、皮質脊髄路も痙縮に関与する因子からは除外されます。

網様体脊髄路

網様体脊髄路は背側網様体脊髄路と内側網様体脊髄路の二つに分けられます。

背側網様体脊髄路

延髄の網様体から始まり、四肢の筋緊張を制御しており、皮質網様体路がこれを制御しています。

サルによる研究で皮質網様体路を損傷させると、体幹や近位筋の制御が困難となり、さらに筋緊張の亢進も認められることがわかりました。
(Lawrence DG,1968)

皮質網様体路が運動前野や補足運動野から始まっていることから、サルでその部位を損傷させても同様に筋緊張の亢進が認められました。
(Gilman S,1971)

人においても先ほどのケーススタディのように、下降性経路の役割を調査した結果、運動前野、皮質脊髄路の損傷によって痙縮が生じることが分かっています。
(Fries W,1993)

これらの結果から、四肢の筋緊張を抑制する背側網様体路は延髄網様体を制御する皮質網様体路によって制御されていることが分かりました。

運動前野や補足運動野が損傷されることで、皮質網様体による延髄網様体の制御ができなくなり、背側網様体脊髄路による脊髄反射回路の興奮性を抑制することができなくなる結果、筋緊張の亢進という現象が起こっているのです。

内側網様体脊髄路

橋の網様体から始まり、体幹・近位筋の筋緊張を制御しています。

橋の網様体は内側網様体脊髄路を通じて、脊髄の反射回路の興奮性を促通する働きを持っています。

急に大きな音を聞いたり、後ろから急に声をかけられたりしてびっくりすると、伸筋が反応して身体全体がピンっと伸びるような反応が起きます。
これは、驚愕反応と呼ばれて人は皆このような反応を有しています。

この反射中枢が橋網様体に存在しており、筋緊張の亢進に関与していると言われています。

前庭脊髄路

橋から延髄に存在する外側前庭核から始まり、前庭で感知される重力情報によって頸部、体幹、下肢の筋緊張に関与しています。

前庭が重力方向の変化を感知→前庭が興奮→脊髄反射回路の興奮性を促通

このような流れになっており、前庭が頭部位置のわずかな変化を感知し、前庭脊髄路を通じて抗重力筋の興奮性を促通、重心を支持基底面から外れないように制御してくれているのです。

このように、頸部、体幹、下肢の筋緊張を促通する役割を持つ前庭脊髄路が障害されると脊髄反射回路の興奮性を制御できずに痙縮となってしまうというわけですね。

つまり、背側網様体脊髄路による抑制性の作用と内側網様体脊髄路、前庭脊髄路による興奮性の作用のバランスが崩れることで痙縮が起きるというメカニズムになっています。

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筋紡錘による影響

痙縮とは、腱反射の増加を伴う速度依存性の伸張反射の増加である。
(Lance LW,1980)

このように定義されています。

伸張反射によって、私たちは急激に筋肉に伸張されるような動きが加わっても伸ばされすぎることなく、筋収縮をおこなうことができます。

これは、筋紡錘が急に筋肉が伸張された際の筋の長さを感知し、Ⅰa繊維を通して脊髄へ情報を送り、α運動ニューロンによって筋肉の収縮が起こるという流れになっています。

このように、筋紡錘はその時の筋肉の長さの状態を感知してフィードバックしてくれる装置ということです。

γ運動ニューロンが錘内筋繊維の筋紡錘へつながっており、γ運動ニューロンによって筋紡錘の張力を常に一定に保つように調整されています。
では、この張力を常に一定に保つ機能が失われているとどうなるのか?

例えば、α運動ニューロンによって錘外筋繊維の肘屈筋が収縮するように働きかけると、肘屈筋は収縮します。
ここで、γ運動ニューロンによる調整が筋紡錘へうまく伝わっていなかったら。

筋紡錘の張力を一定に保つことはできないので、錘外筋繊維の収縮に伴って筋紡錘は緩んでたわんでしまいます。

このように、緩んだ状態では筋長の変化を感知しにくい状態であるため、急激な筋長の変化に対応できないので、急激な筋肉の伸張が起こるとそのまま伸張されて筋肉が損傷してしまうことが考えられます。

脳卒中では、この筋紡錘が過剰に反応しすぎていることが痙縮の原因なのです。

そもそも、筋紡錘を調整しているγ運動ニューロンは上位運動ニューロンにより、興奮を抑制されるように制御されています。
そのため、通常は過剰に興奮するようなことは起こりえないのです。

上位運動ニューロンの障害によって、γ運動ニューロンの抑制ができない状態が脳卒中の痙縮の状態なのです。

適度な筋紡錘の張力ではなく、抑制が効かないことで張力を高めすぎており、わずかな筋長の変化でも過剰に反応してしまって筋緊張を高めてしまう。
腱反射の亢進などはこういったメカニズムです。

拘縮による影響

筋紡錘の感度変化に伴い、拘縮が加わることも痙縮の一つの要因とされています。

冒頭で述べましたが、筋膜、筋間中隔上に筋紡錘が多く配置されています。

拘縮が起きると、各筋肉の動きは少なくなり、筋肉間の滑走も悪くなります。

不動による筋肉の弾性の低下が筋紡錘の感度を増大させることがわかっています。
(Gioux M,1993)

不動となると、筋肉の動きがなく、筋紡錘にも刺激が入らないため、少しでも多く刺激を取り入れようと適応した結果が感度を増大させるということですね。

痙縮へのアプローチ

今までの内容をまとめると、以下のポイントに絞ることができます。

・背側網様体脊髄路の脊髄反射回路の抑制が効かなくなる
 (大脳皮質レベルで損傷されると、延髄網様体へつながる皮質網様体路が障害されるため)

・筋肉の不動による筋紡錘の感度増大

網様体脊髄路の障害によって、体幹や四肢近位筋のコントロールが困難となる。
さらに、拘縮による筋紡錘の感度変化で二次的に痙縮を増悪させている可能性があるということが考えられます。

このことから考える痙縮に対するアプローチは以下の通りです。

・一次的な症状と二次的な症状を区別する

・近位筋(インナーマッスル)が働きやすい身体環境を考える

一次的な症状と二次的な症状を区別する

脳卒中ではない健常者であっても筋緊張が高い方っていますよね?

脳卒中の方であってもこれは例外ではなく、疾患由来の緊張の高さと元々の緊張の高さが混同していることが考えられます。

疾患由来でない緊張の高さとして考えられる要因は以下の通りです。

・アライメント不良

・マッスルインバランス(拮抗筋-主動筋、深層筋-表層筋)

・疼痛による防御収縮

・不良な運動パターン

これらが発症以前に存在していると、疾患由来の筋緊張の高さに加えて緊張を助長させている可能性があります。

近位筋が働きやすい身体環境

これも上記の内容とリンクしており、マッスルインバランスなどによってインナーマッスルは働きにくくなります。

例えば、股関節のインナーマッスルである大腰筋ですが、アウターマッスルの大腿四頭筋や中殿筋が過剰に働いていると大腰筋の働きは弱くなります。

脳卒中によって近位筋のコントロールがただでさえ難しくなっているので、近位筋の障害によって余計にインナーマッスルを働かせることは難しくなり、筋緊張を高めてしまいそうですよね。

筋骨格由来の二次的な症状が限りなく少ない状態であれば、二次的な症状を強く受けている状態よりもインナーマッスルの働きは良いと考えられます。

また、痙縮による特徴的なウェルニッケマン肢位をイメージしてみてください。
筋緊張の高さによって関節を固めて動きにくい状態となっていますよね。

つまり、関節が固定されているということ。
関節を固定しているのは二関節筋であるアウターマッスルが主であるため、やはりポイントは本来関節の安定化に働く、インナーマッスルを如何に働かせられるか、ということです。

インナーマッスルを働かせるためのアプローチ

上記から、筋骨格系のリアライメント→インナーマッスルが働きやすい身体環境を整える→動作の中でインナーマッスルを優位に使いつつ日常生活へつなげる。

このような流れになるでしょうか。

インナーマッスルの中でも脊柱と股関節にまたがって走行している「大腰筋」、上肢において肩甲骨の動きに関わる「前鋸筋」
この二つの筋肉がポイントです。

大腰筋

大腰筋が働く前提として、腰部・腹部の柔軟性、股関節の柔軟性をチェックしてください。

それらを十分引き出した上で運動療法につなげます。

詳しくは以下の記事をご参照ください。

前鋸筋

肩甲骨の柔軟性が十分にあり、かつ、上腕骨に対して関節窩の向きを変えることができる能力があると、上肢のどこかへ過剰な負担をかけることなくエコに操作できます。

肩甲骨周囲筋の柔軟性を引き出した上で運動療法につなげます。

詳しくは以下の記事をご参照ください。

まとめ

・痙縮には背側網様体路、内側網様体路、前庭脊髄路が関与

・筋紡錘は拘縮によって感度が増大してしまう

・インナーマッスルを如何に働かせられるかがポイント

おわりに

いかがでしたか?

痙縮のメカニズムを知っているのと知らないのとでは、アプローチの仕方も変わってきますよね。

ただ闇雲にストレッチで伸ばそうとしても痛みを作ってしまいかねません。

是非、本記事の内容を参考に痙縮のリハビリに取り組んでみてください!

最後までお読みいただきありがとうございました。

出典・参考文献

1)Gioux M, et al. Effects of immobilizing the cat peroneus longus muscle on the activity of its own spindles. J Appl Physiol (1985). 1993 Dec;75(6):2629-35.

2)Pandyan AD, et al. Spasticity: clinical perceptions, neurological realities and meaningful measurement. Disabil Rehabil. 2005 Jan 7-21;27(1-2):2-6.

3)Lawrence DG, Kuypers HG. The functional organization of the motor system in the monkey. II. The effects of lesions of the descending brain-stem pathways. Brain. 1968 Mar;91(1):15-36.

4)Sherman SJ, et al. Hyper-reflexia without spasticity after unilateral infarct of the medullary pyramid. J Neurol Sci. 2000 Apr 15;175(2):145-55.

5)Gilman S, et al. Experimental hypertonia in the monkey: interruption of pyramidal or pyramidal-extrapyramidal cortical projections. Trans Am Neurol Assoc. 1971;96:162-8.

6)Fries W, et al. Motor recovery following capsular stroke. Role of descending pathways from multiple motor areas. Brain. 1993 Apr;116 ( Pt 2):369-82.

7)Lance JW (1980) Spasticity: disordered motor control. Symposium synopsis. 485–494.

8)原寛美:脳卒中後のニューロリハビリテーションの理論と実際.脳神経外科速報 25(2):188-195,2015

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