【脳卒中患者の姿勢・動作の理解とクリニカルリーズニング開催報告!】

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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いつもお読みいただきありがとうございます!
リハ塾の松井です。

先日、Bridge代表講師の小松洋介さんとコラボセミナーを開催しましたので、復習をかねて内容をシェアしたいと思います。

午前中は私が「良い姿勢・動きをヒトの構造特性から紐解く」というテーマでそもそも良い姿勢や動きってどういうこと?という部分を掘り下げていきました。

午後は小松さんから「脳卒中患者に対する姿勢・運動制御の評価とアプローチ」というテーマで実際の脳卒中患者さんの動画を提示していただきながら、どのように臨床推論していくのかお話していただきました。

良い姿勢・動きをヒトの構造特性から紐解く

午前中は私、松井が良い姿勢とは何か?良い動作とは何なのか?という部分を解剖学・生理学・運動学的な部分から考えていきました。

脳卒中をどう捉えるか

今回のテーマは「脳卒中」ですが、皆さんは普段脳卒中の方を担当する際、どのように捉えていますか?

大きな枠で捉えると、「脳卒中のAさん」「Aさんは脳卒中をもっている」のどちらで捉えるのか。

言い方ひとつで全く違ってきます。

 

例えば、前者では「脳卒中」というのが「Aさん」という個人より前に出ている印象があります。

評価や介入も脳卒中に偏ったものとなることが予測されます。

ブルンストロームステージはいくつなのか?痙縮があるのか?弛緩性なのか?
ボバース、PNF、川平法…etc

上記に挙げたような項目がパッと出ていくると思います。

 

一方、後者では「脳卒中」という疾患が「Aさん」にとって一つの要素という捉え方。

脳卒中以外にもAさんには複数の要素が絡んでいるかもしれないという前提があります。

骨折、呼吸器疾患、心疾患、がんなどそれらを含めてAさんという捉え方をすると、脳卒中特有の評価では不十分ですよね。

どんな既往や合併症があるのか、痛みや可動域制限、筋力低下はあるのか?あるならどこにあるのか?姿勢アライメントはどうか?それは生活習慣や職業と関連するものなのか?…etc

 

脳卒中を発症していなくても緊張が高い方もいるし、力が入りにくい部位がある可能性もあります。

脳卒中を発症したから過緊張となっていると決めつけるのではなく、発症以前からの影響がないのか?過緊張といっても脳からの影響と元々の姿勢や動作による影響が混在しているのではないか?

このように捉えると、「筋緊張が高いのは麻痺のせい。」と言って終わるのではなく、脳以外からの影響があるのであれば介入の幅はもっと広がるはず。

脳による影響とそれ以外の影響の両方を考慮してリハビリを進めていく必要があるということです。

良い姿勢・動作の条件とは?

良い姿勢・動作について皆さんの意見を聞いてシェアしました。

・すぐに動けるような姿勢

・次の動作に繋げられる姿勢や動作

・楽に立っていられる

・座っている、立っているだけで疲れたりしない

・矢状面上のランドマークにズレがない

上記のような意見が挙げられました。

 

どれも間違ってはいないと思いますが、じゃあ上記のようになるためにはどうしたらいいのか?

この辺りが皆さん漠然としていました。

 

あくまで私の意見ですが、私は以下のように良い姿勢・動作を定義しています。

・最小限の力で保つことのできる姿勢

・動作に繋げることのできる姿勢

 

これを具体的に言うと、ディープフロントライン上のインナーマッスルが適切に働ける身体環境にあり、適切な場面で機能することができる。

筋肉の視点から考える姿勢・動作

インナーマッスルが適切に働いていれば、余計な筋緊張を作ることなく、姿勢を保持できて動作にもスムーズに移行できると考えています。

余計な筋緊張を生む原因としては以下のように考えています。

余計な筋緊張を生む要因

・アウターマッスルが過緊張

・特定の筋肉を過剰に使用

・関節の可動性がない

・関節の過可動性

 

これらを統合して考えると、要するにインナーマッスルが重要。

インナーが機能していればアウターが過剰に働く必要もない。

ディーフロントライン全体としてインナーが機能してれば特定の部位ばかりを過剰に使う必要もない

アウターによる過緊張や過使用がなければ関節可動域制限や過可動性もないはず。

 

症状から辿っていくと、インナーマッスルさえ機能していれば上記の症状はほとんどの場合起こらないという答えにいきつきます。

骨の視点から考える姿勢・動作

全身として関節をみると、可動性に富んだモビリティ関節と安定性に富んだスタビリティ関節が交互に配置されていることがわかります。

痛みや可動域制限が起こるということは、この関係がどこかで崩れ、特定の部位に過剰動きが要求されたりする結果です。

引用:ヒューマン・アナトミー・アトラス

 

筋肉の時に挙げたように、インナーが効いていれば局所に負担がかかることはないし、可動域制限が起こることもない。

各部位のインナーマッスル、つまりディープフロントライン上のインナーマッスルが機能していれば局所に負担をかけることなく、全身が連動して動きに繋げることができるということ。

ディープフロントライン(DFL)

ディープフロントラインはアナトミートレインの中の一つのラインで頸部から足部までの筋膜のつながりを指します。

筋膜を介して隣接する筋肉とつながっていたり、骨を介して機能的につながりを持っていたりするラインが全身にいくつも存在しており、ライン上の筋肉が連動して動くことで全身に影響を与えています。

この概念を知っているだけでも、動作分析や姿勢分析に非常に役立ちますので、知っておいて損はありません。

午後からの小松さんの講義でもアナトミートレインを用いた考え方をお話しいただけました。

 

このディープフロントラインを機能させることを目的に評価・アプローチしました。

今回は問題となりやすい部位をピックアップしておこないましたが、臨床ではそこが問題となるとは限らないので応用をきかせる必要はあります。

ディープフロントライン

頸長筋/斜角筋

胸内筋膜/心膜

横隔膜

大腰筋/腸骨筋

大内転筋/長内転筋

膝窩筋

後脛骨筋

 

引用:ヒューマン・アナトミー・アトラス

 

詳しくはこちら

脳卒中患者に対する姿勢・運動制御の評価とアプローチ

上記のテーマで小松さんに講義していただきました。

実際に小松さんが担当していらっしゃる患者さんの動画を見ながら、皆さんで意見を出しながら症例の方について考えていきました。

 

脳卒中患者への臨床展開が難しい理由

 

脳卒中の方への臨床展開が難しい3つの理由

・目に見えない脳内ネットワークの障害

・二次的な筋緊張のアンバランスと廃用

・未知数の潜在能力

 

目に見えない脳内ネットワークの障害

脳卒中患者は情報の入力・出力・処理のいずれか、または全てにエラーが生じている状態であり、私たちはどこにエラーが起こっているかを直接判断することはできません。

脳画像によってある程度の予測はできるものの、同じような部位の損傷の方であっても姿勢・動作のパターンは人それぞれ違います。

これがあるから「脳画像から考えるとこうなるはずなのにおかしい。」というふうに私たちを悩ませる要因の一つとなるのです。

私の講義でも挙げたこととも共通しますが、脳卒中という疾患を含めてその人自身を評価することが必要だということですね。

二次的な筋緊張のアンバランスと廃用

あなたが大腿骨頸部骨折の患者さんを担当することになったら、まずどこを評価しますか?

大腿骨の骨折ですから、もちろん股関節は必ず評価しますよね?

 

運動器疾患であれば、損傷した部位から筋や関節などの関係性は比較的イメージしやすいと感じる方が多いのではないでしょうか?

それを前提に問題はどこにあるか仮説検証をすることができます。

 

しかし、脳卒中の場合は中々そのようにはいきませんよね。

麻痺側の上下肢と体幹の関係が複雑に関係し合い、二次的な筋緊張のアンバランスさを強調します。

それに加えて、病前のようにADLを遂行することもできず、廃用も進みます。

麻痺による二次的な筋緊張のアンバランスと廃用の進行によって病前とは全く異なる姿勢や運動パターンとなります。

 

この姿勢や運動パターンの変化も人によって異なりますし、その異常が脳内ネットワークにも影響を与え、間違った学習を引き起こす可能性があるのです。

未知数の潜在能力

脳卒中では発症から3か月や6か月でプラトーだとよく言いますが、本当にそれ以上は機能・能力改善が見込めないのでしょうか?

 

発症直後の急性期では自然治癒による要素が大きいため、改善率はほとんどの方が高いです。

しかし、それ以降は自然治癒による回復が大きくは見込めないため、改善率がほぼフラットになるのは当たり前。

プラトーの時期だからもう良くはならないとあきらめてしまうのではなく、セラピストがその方の可能性を如何に多く引き出せるかどうか、解決策を提示してそこへ導いてあげることがセラピストの役割だとおっしゃっていました。

 

私たち人間は学習しますので、体の使い方やうまく使えていない部分を開発することで現状より機能・能力を高めることは可能です。

そのために、どこがうまく使えていないのかをセラピストが見つけ、どのように解決するのかを提示、患者さん自身がそれに納得、理解して改善へ向かうようにアシストしてげることが我々の仕事です。

 

片脚立位ができないからといって、バランス練習と称してひたすら片脚立位の練習をすることが本当に良い策なのでしょうか?

そもそも、片脚立位がどのように成り立っているのか、その要素が何かを理解しておく必要があります。

その挙げた要素とその患者さんの間に足りていない要素は何か?

それは個別に評価しないとわかりません。股関節かもしれませんし、足関節かもしれません。

脳卒中患者の姿勢と動作の解釈に必要な知識

姿勢・運動制御の問題は客観的・主観的な要素から考え、検証していくこと。

これが重要です。

脳・身体・患者心理と姿勢・運動制御のつながり

多くの患者さんは非対称で不安定な姿勢、非対称で努力的な運動パターンで日常生活を遂行します。

しかし、視覚的に非対称に見える部分を徒手的に修正して、視覚的には左右対称、整った姿勢となったとしても正常な姿勢、運動パターンの獲得につながることはあり得ません。

皆さんも徒手的に姿勢を修正するけど、それがそのままその後の姿勢や動作の改善につながるということは少ないのではないでしょうか?

 

姿勢や動作はあくまでも結果として現れます。

それが発現するまでに多くの要素が関係し合ってそこに至っているということを認識しておきましょう。

 

脳の障害による、感覚障害による入力の問題、運動麻痺による出力の問題、高次脳機能障害による情報処理の問題。

身体の障害による、筋緊張を変化させて適応することが困難、限られた筋収縮パターンや筋膜ラインに依存した姿勢保持、運動パターン。

心理面の障害による、思い通りに動かない麻痺側への不安、不信感、それに伴う日常生活での失敗の繰り返しによる回復の諦め。

 

これらが相互に関係し合いながら姿勢や動作に現れます。

脳による運動麻痺の影響は皆さん考慮していると思いますが、筋緊張の変化やそれに伴う入力の問題、感覚障害による入力の問題、心理面の影響まで考慮している方は少ないのではないでしょうか?

私たちも何か嫌なことがあれば体が重くなったりしますよね?そのように、心理面の影響が身体へ及ぼす影響があるということを知っておきましょう。

肩が挙がらないのは本当に肩の問題?

実際に小松さんの担当している方の動画を提示していただきました。

 

肩関節の挙上が十分にできない症例。

この症例は手関節・手指の伸展を促すだけで肩関節挙上角度の増加、代償運動の減少が認められました。

総指伸筋は上腕外側筋間中隔-三角筋-僧帽筋と筋膜で繋がっており、手関節が掌屈すると総指伸筋は遠位へ引かれ、繋がりを持つ筋群も遠位に引かれることとなります。

肩関節運動は求心性の運動のため、遠位に引かれて過剰な努力が要求されていたということ。

 

これはアナトミートレインで言うところのバックアームラインの繋がりを考えています。

 

セラピストの仕事はどこが問題となっているか気づかせてあげること。

それありきで自主練習の指導をするとやってもらいやすいですよね。

 

ゴールに対して何ができて、何ができないのか。

何が足りていないから、何をする必要があるのか。

膝折れする方に対して股関節の強化をしてくださいと言っても患者さんからしたら膝の問題だと思っているのになんで?となってしまう。

まず、股関節を支えることで膝が折れないという体験を通して患者さんと共有することが大事。

 

アライメントを見て書き起こせますか?

これもまた、小松さんの担当されている患者さんの中から動画を提示していただきました。

 

脳卒中片麻痺の方、座位と立位で共通するアライメントは何か?

受講生の皆さんに紙にざっくりとアライメントをそれぞれ書いてもらいました。

まず、紙に書けないと臨床で頭の中でイメージしてっていう流れは難しいと。自分の頭の中のイメージを書き起こす作業をいつもしてもらっているそうです。

意外と皆さん苦戦していましたね。

 

逆にアライメントがしっかり書ける、イメージできればどこの組織が短縮している、伸張している、ここの筋力が弱そう、過剰な努力はここの筋力が弱いからかな?など仮説をいくつも立てることができます。

それができればあとは検証するだけ。

検証して、仮説が正しそうであれば、あとはその問題を解決するためにその方に合った方法をデザインしてあげたらいい。

その方ができるようにセラピストがアイディアを何パターンも提案してあげたらいい。

 

座位と立位それぞれに共通する要素がある場合、その方にとって共通する要素が姿勢や動作に影響を与えている可能性が高いです。

私もこのように各肢位で共通する要素、痛む箇所は違うけど共通する部分はないか?などといった視点で考えることが多いです。

筋紡錘が運動を制御する

私たちは筋肉内の筋紡錘が運動を知覚してくれるから関節がどんな状態なのかわかります。

筋紡錘が感知してくれるから、膝が曲がる、肘が曲がるなどがわかる。

 

つまり、脳卒中の方においても筋紡錘で知覚できる状態になる必要があります。

逆に、脳卒中の方は知覚できないがために努力性の運動や姿勢制御になってしまっているとも考えることができる。

 

筋紡錘が知覚するためには、その筋肉が関節運動時にどのように形を変えるのか。

それを徒手的に誘導して、視覚情報と合わせて「筋肉が収縮している感じ」というのを自覚してもらう必要があります。

その上で練習を反復しないとわけのわからないまま、なんとなく運動するということになってしまい、結果にも結び付きにくいです。

 

ただタッピングなどするのではなく、筋肉がどんな形しているのかを立体的にとらえ、収縮したときの形を徒手的に作り出してあげるべきです。

まとめ

・同じ脳卒中患者でも捉え方一つで診方が全く変わる

・良い姿勢、動作を具体的に定義する(良い姿勢ってその関節がどうなって、どの筋がどうなっている?)

・姿勢、動作に関わる共通因子としてインナーマッスルがある

・姿勢、運動制御の問題は主観的、客観的な観点から考えていくべき

・脳、身体、心理面が相互に関わって姿勢、運動を制御するため、それぞれの関係性を考慮すべき

・ゴールに対して何ができないのか問題点の抽出、それに対してどうするべきかデザインすることがセラピストの役割

・セラピストのエゴを押し付けるのではなく、患者さんと共有しながら進める

・筋紡錘が知覚するためには、筋肉の形を立体的に捉えることと収縮した後の形もイメージできなくてはいけない

おわりに

いかがでしたか?

仮説検証せずに教科書通りの型にはまった臨床は楽だと思います。

しかし、それが全ての方に当てはまるかというとありえない。

であれば、その方の問題は何なのかセラピストが考えて関わる必要があります。

仮説を立てるには私の講義でお伝えしたような基本的な解剖・生理・運動学的な側面から体を考える力、午後からの小松さんの講義で仮説を立てて検証していくということを今回のセミナーを通して学ぶことができたと思います。

実際セミナーを受けてみないとわからない部分もあるかと思いますが、臨床の参考になれば幸いです。

機会があれば、私が所属するリハビリテーション臨床校フィットや小松さんの所属するBridgeのセミナーにも参加してみてはいかがですか?

最後までお読みいただきありがとうございました!

 

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リハビリテーション臨床校フィット

 

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