パーキンソン病のリハビリ【特徴を理解すると対応の仕方もよく分かる】

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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いつもお読みいただきありがとうございます!
リハ塾の松井です。

パーキンソン病と言えば、無動、固縮、振戦、姿勢反射障害を四大徴候とした特徴がある疾患として有名ですね。

これらを基盤にすくみ足や小刻み歩行などが問題となりやすいです。

これを知っておくことはもちろんですが、どのような戦略が有効なのか、予後を考えてどのような対応をとるべきなのか。

本記事では、パーキンソン病の基本的な病態、有効な戦略や関わり方についてまとめてあります。

パーキンソン病のリハビリにおいて必要なこと

そもそもパーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)とは、以下のように定義されています。

パーキンソン病は黒質のドパミン神経細胞の変性を主体とする進行性変性疾患である。

4大症状として(1)安静時振戦、(2)筋強剛(筋固縮)、(3)無動、寡動、(4)姿勢反射障害を特徴とする。

引用:難病医学研究財団/難病情報センター

 

これら4大症状を基盤として、4大症状の中でもどの症状が出現していて、どの症状が出現していないのか。

4大症状以外のすくみ足や小刻み歩行は出現しているのか。

上記引用部分にもあるように、進行性の疾患であるため、どのレベルまで進行しており

どのような予後をたどっていくのかを予測して関わっていく必要があります。

 

パーキンソン病は薬剤で症状を抑えることは可能であっても、完治することはできません。

それを分かった上でセラピストとして何を目的にリハビリの中で関わっていくのか。

私が考えるものは以下の通りです。

 

<パーキンソン病のリハビリの目的>

・現在の状態から考える実現可能な目標設定をし、目標を明確にする

・特徴的な症状を把握した上でなるべく症状が出現しないような体の使い方を指導する

・現在の状態だけでなく、予後を予測した上で今後どのようなことが必要になるか考え、指導する

 

上述したように、パーキンソン病は進行性の疾患です。

骨折などの外傷と違い、創部が治癒したら完治ということはありません。

そのため、例えば病院でリハビリの担当となったら退院までの間だけ無難に関わればいいというわけではなく、

長期的な視点で見て、身体機能、能力、生活環境、家族などを総合的に判断して今何が必要なのか、今後何が必要になってくるのか?

これを考えて関わる必要があります。

 

その方にとって考えうる最悪のシナリオは何か?

そうならないためにはどんな要素が必要なのか?

これを徹底的に明確化しておくことが求められます。

 

パーキンソン病の概要

パーキンソン病は中脳黒質緻密層、青斑核などの脳幹部のメラニン含有神経細胞の変性・脱落を病変とする進行性変性疾患です。

好発年齢としては、50~60歳以降に発症することが多く、

有病率は人口10万に対して100~150人程度とされています。

神経難病の中では有病率が高く、高齢化が進んでいる中患者数は増加傾向にあります。

 

大脳基底核と神経伝達

主要な病変部位は大脳基底核の黒質であり、そこから放出されるドーパミンの枯渇による運動障害を伴う神経疾患とされています。

神経伝達の流れとしては、大脳基底核からドーパミンが放出され、

視床を介して大脳皮質の運動関連の部位(一次運動野、運動前野、補足運動野)へと伝達されます。

 

大脳基底核の病変でなぜパーキンソン病に認められる特有の症状が出現するのか。

大脳皮質の運動関連領域は脊髄への投射とは別に、

大脳基底核と小脳ともそれぞれ機能的なループを形成していることが要因とされています。

 

それぞれのループについては以下の通りです。

<大脳皮質と大脳基底核・小脳の機能的ループ>

・大脳基底核ループ(視床と大脳基底核、大脳皮質をつなぐ)

→運動スピードの保持、スムーズな動きの保障、運動順序の制御、新しい学習の獲得に関連

・小脳ループ(小脳と視床、大脳皮質をつなぐ)

→学習の保持や表現、運動のタイミングに関与

 

ドーパミンが大脳基底核を介して、大脳皮質の運動関連領域、大脳辺縁系、脳幹にそれぞれ作用しているため、

ドーパミンが不足すると各々が司る機能が低下してしまうということ。

 

それぞれの機能については以下の通り。

・大脳皮質運動関連領域:運動プログラム、運動の準備、運動の遂行

・大脳辺縁系:認知情報の評価、情報/感情の表出、意欲

・脳幹:眼球運動、歩行、姿勢反射、筋緊張

 

黒質が正常に働いている場合、興奮性と抑制性の作用を脳の各部位へもたらしています。

パーキンソン病の場合、ドーパミンが不足するため、それぞれの作用が減弱し、

結果的に抑制性に優位に働きます。

このことから、パーキンソン病に特有の症状を始めとする運動障害が起こります。

 

パーキンソン病の症状

大きく分けて運動症状と非運動症状の二つに分けられます。

 

<運動症状>

●運動系障害

・振戦
安静時振戦、丸薬丸め運動
・筋固縮
鉛管現象、歯車現象
・無動、寡動
・姿勢保持障害
体幹前傾、前屈、四肢屈曲肢位、MP関節屈曲、立ち直り反射障害、突進現象、加速歩行

<非運動障害>

●精神系障害

・抑うつ
・認知機能障害
・幻覚、妄想
・レム睡眠行動障害

●自律神経障害

・便秘
・起立性低血圧
・排尿障害
・脂漏
・性機能障害
・嚥下障害

●睡眠障害

・不眠
・悪夢
・覚醒リズム障害

●感覚障害

・痛み
・嗅覚障害

 

パーキンソン病における歩行の特徴

代表的な歩行の特徴は、すくみ足ですね。

上述した通り、黒質よりドーパミンが放出され、それが脳の各部位へ伝達されていますが、

パーキンソン病によって、ドーパミンの放出が不足すると脳の各部位に対して抑制性に働いてしまうことが原因です。

 

すくみ足に焦点を当てると、補足運動野への抑制性の働きによって機能低下を起こし、

内的な手がかり刺激での運動が抑制されていると言われています。

 

どういうことかと言うと、本来私たちが歩いたり何か動作をおこなう際、

動作に先行して予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustment:APA)という機構が働いています。

これは四肢が動くのに対して、体幹筋が活動が先行して起こることで四肢を安定して動かすための準備をしています。

パーキンソン病では、このAPAの機能が低下しているため、

歩行時の下肢を降り出す際に不安定となり、うまく一歩目が出せずにすくみ足となっているのです。

つまり、すくみ足は足が出ないのではなく、動作遂行と姿勢調節の協調的な働きが障害されていることが原因であり、

下肢ではなく、どちらかと言うと体幹、体幹と下肢の連動性した動きができないことが原因ということになります。

 

パーキンソン病の歩行障害に対して、聴覚刺激や視覚刺激が有効というのは皆さんご存知ですよね。

この聴覚刺激や視覚刺激などの外的キュー(cue)を与えることですくみ足が改善する現象のことを、Paradoxical gait(逆説歩行)といいます。

これは、聴覚野と視覚野が大脳基底核を通らないルートにあるからとされています。

要するに、ドーパミン不足の影響を受けないということ。

 

これによって、歩行時に聴覚刺激、視覚刺激を取り入れることで歩容が改善すると示唆されていますが、

何も歩行時だけに限らず、他の場面でも積極的に取り入れていくべきだと考えます。

 

例えば、筋力運動や運動療法などをおこなう際も

体のどの部位をどのように動かすのか、分かりやすく明確に指示することや

本人にもそれを目で見て視覚的に確認してもらうということで、自身の体の内観力も養われると考えます。

上述した、補足運動野の障害による内的手がかり刺激が運動が抑制されているなら、

尚更自身の体に目を向けてもらうべきです。

 

これはパーキンソン病の方だけに限りませんが、

セラピストが運動の指示を出して実行してもらっても目的とする筋肉に収縮が入っていない、動かし方をあまり理解していないということはよくある話です。

ですので、やり方だけ教えて形だけうまくできていれば終わりではなく、目的とする運動になっているのかという部分にまで目を向けるべきです。

 

パーキンソン病のリハビリテーション

パーキンソン病のリハビリについて、ポイントをしぼってご紹介します。

パーキンソン病特有の姿勢へのアプローチ

パーキンソン病では以下のような特徴的な姿勢となりやすいです。

<パーキンソン病の特徴的な姿勢>
・上位頸椎伸展位
・下位頸椎屈曲位
・胸椎後湾(円背)
・腰椎後湾
・骨盤後傾
・股関節屈曲位
・膝関節屈曲位
・足関節背屈位
・足趾屈曲位

 

これを筋肉に置き換えると、以下のようになります。

<パーキンソン病の姿勢から見えるマッスルインバランス>
・上位頸椎伸展位→後頭下筋群短縮
         頸長筋伸張位
・下位頸椎屈曲位→胸鎖乳突筋・斜角筋短縮位
・胸椎後湾→胸筋群・肩甲下筋・前鋸筋・広背筋短縮位
      僧帽筋・菱形筋群伸張位
・腰椎後湾→腹筋群短縮位
      脊柱起立筋伸張位
・骨盤後傾→殿筋群・ハムストリングス・大内転筋短縮位
      腰方形筋伸張位
・股関節屈曲位→腸腰筋・大腿直筋短縮位
        ハムストリングス・殿筋群伸張位
・膝関節屈曲位→ハムストリングス・腓腹筋短縮位
        大腿四頭筋伸張位
・足関節背屈位→前脛骨筋・足趾伸筋群短縮位
        下腿三頭筋・足趾屈筋群・後脛骨筋伸張位
・足趾屈曲位→足内在筋屈筋群短縮

難しいことは考えずにシンプルに考えます。

短縮している筋肉は伸ばし、伸張されている筋肉には収縮を促す。

シンプルだけどこれを丁寧にするとしっかり効果が出ます。

 

パーキンソン病に限らず、このような姿勢アライメントの方は多いと思います。

そんな方には以下のような運動療法がオススメです。

 

脊柱の運動療法

・脊柱の運動療法①

1.背臥位にて肘を床に対して垂直に立てる

2.肘で垂直に床を押し、胸骨を上方へ持ち上げるように胸椎を伸展させる

<ポイント>
・肘は垂直に
・あくまでも胸椎の伸展を促す
・顎は引いておく
・肩をすくめないように注意

 

・脊柱の運動療法②

1.パピーポジションとなる

2.肩外旋位で肩甲骨を下制

3.腹部は床面につけて、胸椎〜頚椎を持ち上げる

4.そのまま5秒キープ

5.1~4を繰り返す

<ポイント>
・肩がすくまないように注意
・腹部と両肘の3点で支える

 

股関節の運動療法

・股関節の運動療法①

1.背臥位で膝を立てる

2.尾骨-腰椎-みぞおち-Th2の順に床から持ち上げる

3.Th2-みぞおち-腰椎-尾骨の順に降ろす

4.1~3を繰り返す

<ポイント>
・膝は床面となるべく垂直に
・鼠蹊部が上方から吊り上げられるようなイメージ
・膝-鼠蹊部-体幹は一直線になるように

 

股関節の運動療法②

1.立位で肩幅に足を開く

2.鼠蹊部を触れる

3.鼠蹊部を支点に臀部を後方へ突き出しながら体幹を前傾させる

4.鼠蹊部を支点に立位へ戻る

5.1~4を繰り返す

<ポイント>
・遠くの椅子に座るようなイメージで臀部を突き出す
・突き出した時、膝は曲がりすぎず伸びすぎず、足首より前に出ない程度
・立位に戻る時、腰椎や肩で代償しないように注意

 

パーキンソン病に対する聴覚、視覚刺激の利用

上述した通り、聴覚野、視覚野はドーパミン不足による影響を受けない経路であるため、

これらを積極的に利用していくべきです。

 

メジャーな方法としては、「1、2。1、2。」とカウントでリズムをとる、手拍子でリズムをとる、

ハシゴ状の目印を床に設置してそれを頼りに足を出してもらうなどがあります。

 

実際に自宅でトイレをしてもらう場合などでは、トイレ内にどこに足を着いたらいいか足型を設置し、

そこに足を出しながら動作をしてもらう。

行きと帰りで足型の色を変えたりして分かりやすくするなどの工夫も有効です。

事前の評価でその方に合った歩幅で設置する必要があり、この辺はADL能力を上げるために理学療法士としてどんどん関わっていける部分です。

 

また、すくみ足や突進現象などで前方へ倒れるリスクが圧倒的に高いですが、

それに対しては後方へ重心を戻すというよりは上方へ体を伸ばすことのできる機能が重要だと考えています。

 

具体的には先ほどのような運動療法で大腰筋や内転筋をはじめとする、体の中心部に位置する筋群をうまく機能させることが必要です。

体の中心部が機能して上方へ体を伸ばすことができた結果、体の前面、後面の筋群がそれぞれバランスをとることができ、

重心を制御する機能も高まります。

 

さらに、その時は普段の前傾姿勢の場合と目線の高さが変わるはずなので、

見える物も変化するはずですので、目線が上がった位置に何か目印を置くなど、

「あ、今はしっかり体が伸ばせているな。」と本人に認識させることも有効だと考えます。

 

まとめ

・その場限りの関わり方ではなく、予後を予測して何が必要か、今後何が必要になりそうかを考える

・大脳皮質の運動関連領域は大脳基底核と小脳ともそれぞれ機能的なループを形成している

・視覚野、聴覚野はドーパミンの影響を受けない経路であるので有効とされる

・パーキンソン病の特徴的な姿勢から、短縮している部分は伸ばし、伸張している部分は収縮を促す

おわりに

いかがでしたか?

パーキンソン病のメカニズムを理解すると、なんで聴覚・視覚刺激が有効なのか分かりましたよね。

進行性の疾患であるだけに、進行を予測しながら環境設定や身体機能面などを工夫しながら関わっていくことが理想かと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考・引用文献

1.難病医学研究財団/難病情報センター

2.パーキンソン病治療ガイドライン2011

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