2018/02/21

腰痛のリハビリ【評価もせずにいきなりマッサージしていませんか?】

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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いつもお読みいただきありがとうございます!
リハ塾の松井です。

特に神経学的な所見など診断されていないにもかかわらず、腰痛を訴える方いらっしゃいますよね。

日本人の90%が一度は腰痛を経験し、腰痛持ちの人口は約2800万人とも言われています。

それほど多くの有病率を誇り、国民病とも言われる腰痛ですが、外傷以外は発症するに至った原因が必ず存在します。

本記事では、ガイドラインを基に腰痛の基本的な病態、評価、アプローチについてまとめてあります。

腰痛に対するリハビリテーションの目的

背部痛 Back Painとは、上背部ならびに腰背部の疼痛を主訴とするもののうち、原因が明らかでなく、神経学的な変化がみられず、さらに画像所見において明らかな器質的変化を認めないものの総称である。

引用:背部痛 理学療法診療ガイドライン

 

理学療法ガイドラインでは、上記のように背部痛は定義されており、その中でも腰痛は以下のように定義されています。

腰背部の痛みを呈し、腰部に起因するが下肢に神経根や馬尾由来の症状を含まないものについては「非特異的腰痛 non-specific low back pain」と称される。

引用:背部痛 理学療法診療ガイドライン

要するに、はっきりとした原因は認められないが腰背部に痛みを感じている状態を指している。

腰痛に限ったことではないが、骨折などの外傷ではないので患部に慢性的にストレスが加わった結果、痛みが出現していると考えるのが自然。

つまり、腰痛に対するリハビリテーションの目的としては痛みを取り除くことはもちろんだが、なぜ痛みが出現したのか、どこにどのようなストレスが加わって痛みが出現しているのか、特定の動作で痛みが出現するのか、それとも特定の姿勢が起因となっているのか、それ以外の要素があるのか。

これらを明らかにして、原因に対してアプローチすることが求められる。

 

腰痛の概要

疫学

腰痛の有病率は、先進工業国では7割以上にものぼり、厚生労働相が発表している調査では平成13、16、19年度ともに腰痛と肩こりが男女でそれぞれ1位、2位を占めています。

腰痛は遭遇する頻度が高いだけでなく、痛みを主症状に運動機能障害、日常生活活動の制限、精神・心理・社会・経済的な問題、生活の質の問題など患者さん本人に対する影響も大きいですが、社会全体に及ぼす影響も大きいものがあります。

 

痛みに関しては、約85%の方で病理学的または神経学的な侵害刺激に起因するものではないとされています。

つまり、8割の方の腰痛ははっきりとした原因が分からないということです。

 

約4%が圧迫骨折、約1%が腫瘍、約1~3%が椎間板ヘルニアを持っているとされています。

 

リスクファクター

これまでは、重労働、体幹の屈曲・回旋、挙上、引っ張り動作、押し込み動作、反復動作、静的な姿勢、身体的負荷に関するものでした。

最近では、長時間の座位・立位および歩行は腰痛とは関係がないこと、

重労働、体幹の屈曲・回旋位での作業などと腰痛は一致した見解が得られていません。

 

近年では、腰痛と心理社会的要因の関連が注目され、職場での社会的サポート不足、職場での人間関係のストレス、抑うつ、不安などが要因として挙げられています。

 

理学療法士が知っておくべき評価のポイント

レッドフラッグ

レッドフラッグは特異的に必ずしも関連していないが、詳細な検査を必要とする重篤な基礎疾患の存在する可能性が高いことを示しています。

レッドフラッグを示さない場合、X線検査によって重篤な脊椎病変が発見された例は2500例のうち、1例のみであったと報告されているため、

レッドフラッグに当てはまらない場合、重篤な脊椎病変が存在しないという信頼性は99%となります。

つまり、重篤な脊椎病変を見逃さないためにも、レッドフラッグの徴候を確認することは重要な要素であると言えます。

 

腰痛のレッドフラッグとして、腰痛以外に認められる徴候はないか確認します。

具体的には以下の通りです。

<腰痛のレッドフラッグ>
・20歳未満、または55歳を超えて症状が出現
・最近の激しい外傷歴
・一定で進行性の非機械的疼痛(安静時でも軽減しない)
・胸部痛
・悪性腫瘍の既往
・ステロイド剤の長期使用
・薬物乱用
・免疫抑制
・ヒト免疫不全ウイルス
・全身的な体調不良
・原因不明の体重減少
・広範な神経学的症状(馬尾神経症状を含む)
・構造的変形
・発熱

 

初回評価時の詳細な問診、既往歴、症状の確認が重要になってくるということですね。

 

イエローフラッグ

リスクファクターでも述べましたが、イエローフラッグは心理社会的なリスクファクターと言え、腰痛の慢性化、職場復帰の遅延、再発率を高めるとされています。

イエローフラッグの例としては以下の通りです。

<腰痛のイエローフラッグ>
・腰痛に対して不適切な態度、考え方(腰痛は有害である、重度の機能障害を招く可能性がある、積極的な治療参加が有効という考えではなく、受動的治療への過剰な期待など)
・不適切な疼痛行動(活動性の低下、恐怖回避行動など)
・仕事関連の問題または保障問題(仕事の満足度など)
・情動的問題(抑うつ、不安、ストレス、社会的交流からの離脱など)

 

イエローフラッグを確認したら、適切な認知および行動管理へと導く必要があります。

なんでもかんでも筋トレやROMexなど身体機能面へのアプローチで改善するわけではなく、思考や行動によって疼痛を起こしている可能性も考慮するべきです。

 

実際、私が担当した方でも身体機能面では特別問題はなさそうなのに痛みが慢性化しているという方がいました。

お話を傾聴しつつ細かく問診していくと、生活の中で不安やストレスを感じている場面がありました。

そこに対して、親身にお話を傾聴し具体的にどうしたらいいのか、改善案を出していく。

これを繰り返していくと、ほぼ身体機能へは介入していないにもかかわらず、痛みはほとんどなくなったということがありました。

 

誰に対してもいきなりベッドに寝かせて始めるのではなく、まずは問診を細かくすると具体的な方向性が見えてきやすいですよ。

 

腰痛の診断的トリアージ

国際的に承認されている簡単で実践的な分類として、腰痛は以下の3つに大きく分類されます。

<腰痛の3つのカテゴリー>
・重篤な脊椎病変の可能性(腫瘍、感染症、炎症性疾患、骨折、馬尾症候群など)
・神経根性疼痛
・非特異的腰痛

 

これらは優先順位があり、上から順に優先順位が高いです。

1.問題が筋骨格系に由来していることを確認し、非脊椎病変を除外

2.重篤な脊椎病変の除外

3.神経根性疼痛の確認

4.上記のどれにも当てはまらない場合、非特異的腰痛とされ、イエローフラッグを確認する

 

腰痛のリハビリテーション

理学療法評価

疼痛が誘発される姿勢や動作の確認

これは非常に大事ですが、意外と確認せずにいきなり痛い部位をマッサージしている場合も多いです。

ポイントは以下の通り。

・偏った姿勢アライメントとなっていないか(脊柱、下肢、上肢)
 また、徒手的にアライメントを修正すると痛みに変化はあるのか
 (ex.骨盤の前傾を促すと痛みが軽減する)

・痛みが誘発される動作はあるのか
 一か所だけではなく、複数の部位で共通する部分があるとより精度は高くなる
 (ex.腰椎の屈曲、股関節の屈曲で痛みが誘発される場合→ハムストリングスの伸張が原因?)

・痛みが誘発される動作が複数ある場合、共通する動きはあるのか

 

疼痛を起こしている原因組織の特定

姿勢や動作である程度痛みを起こす部位が限局できたら、どの組織が原因となっているのか特定します。

例えば、腰椎の右側屈で痛みが軽減する場合。

右腰方形筋が緩むことで痛みが軽減したと仮説を立てると、徒手的にマッサージ、持続圧迫、ストレッチなどの手段を用いて腰方形筋の緊張を落とすと痛みに変化があるのかどうか。

もし、痛みが軽減するのなら腰方形筋が痛みに関わっていたことになります。

まだ痛みが残っている場合は、同じ要領で他の問題となっている組織を評価、アプローチする作業を繰り返していくだけ。

 

Hyper mobilityとHypo mobility

簡単に言うと、可動性が低い部位と過可動性の部位を探すということ。

股関節や肩関節など本来可動性に富んだ関節であるはずの関節が可動性低下している場合、必ず代償して隣接関節が過剰に可動する傾向にあります。

例えば、回旋可動域に富んだ胸椎が制限されている場合、本来回旋可動域には乏しい腰椎によって代償すると腰椎に過剰な回旋ストレスがかかります。

その結果、筋肉や靭帯に過剰なストレスとなり、痛みを起こしてしまう可能性が予測できます。

 

整形外科テスト

重要なのは、一つのテストで陽性だからといって必ずしも問題があるとは限らないということ。

複数のテストの結果を総合的に判断して評価することで、より信頼性が高くなります。

SLRテスト

<目的>

坐骨神経を伸張させることで、神経根の圧迫の有無を評価。

<方法>

背臥位から膝伸展位で下肢挙上。
股関節屈曲70°未満で大腿後面に疼痛があれば陽性。

<ポイント>

・ハムストリングスの伸張痛との鑑別をする必要あり
・坐骨神経領域に疼痛が走る場合を陽性とする
・陽性の場合、L4/5、L5/S1のヘルニア、すべり症、脊柱管狭窄症を疑う

 

ボンネットテスト(Bonnet test)

<目的>

原因が梨状筋由来かどうかの鑑別に用いる

<方法>

SLR陽性の反応が出た位置から少し戻し、股関節内転・内旋させて痛みが出るかどうか評価

<ポイント>

・内旋で痛みが出現、外旋で痛みが消失したら梨状筋由来の痛みを疑う

 

レッグレイズ

<目的>

仙腸関節か腰椎のどちらに問題がありそうか鑑別するために用いる

<方法>

両膝屈曲位で股関節を深屈曲で痛みが出れば陽性

<ポイント>

・初期で痛みが出る場合は仙腸関節由来の痛みを疑う
・最終域で痛みが出る場合は腰椎由来の痛みを疑う

 

大腿神経伸張テスト

<目的>

大腿神経を伸張させることで、神経根の圧迫の有無を評価

<方法>

腹臥位にて膝関節屈曲位で股関節伸展させ、痛みが出る場合を陽性

<ポイント>

・骨盤の代償が出ないように骨盤をおさえる
・陽性の場合、L2-4の神経根圧迫を疑う

 

ケンプテスト(Kemp test)

<目的>

椎間関節障害、腰椎神経根圧迫の有無を鑑別

<方法>

座位、または立位にて体幹側屈、同側へ伸展・後方回旋で痛みが出現する場合を陽性

<ポイント>

・坐骨神経領域に痛みが出現する場合、腰椎神経根の圧迫を疑う
・椎間関節部分に痛みが出現する場合、脊柱管狭窄症など関節由来の病変を疑う
・骨盤の代償が出ないように骨盤の固定をする

 

ゲンスレンテスト

<目的>

仙腸関節障害の有無の鑑別

<方法>

背臥位にて片側股関節屈曲、反対側下肢をベッド下へ降ろし股関節伸展位に、痛みが出現する場合を陽性

<ポイント>

・股関節屈曲により寛骨後傾、股関節伸展により寛骨前傾、仙腸関節に捻りのストレスがかかるため、陽性の場合痛みが出現する

 

骨盤不安定テスト

<目的>

圧縮ストレスによる仙腸関節障害の有無の鑑別

<方法>

側臥位にて腸骨稜から仙腸関節面に対して垂直に圧縮し、痛みが出現する場合を陽性

<ポイント>

・仙腸関節面をしっかりとイメージして押す
・垂直方向からずれないように押す

 

ニュートンテスト(Newton test)

<目的>

仙腸関節の前方、後方の靭帯による障害を鑑別

<方法>

背臥位にて腸骨稜から圧迫、離開のそれぞれで評価

圧迫:左右の腸骨稜から関節面へ向けて圧迫ストレスをかけ、痛みが出現する場合を陽性

離開:左右の腸骨稜を関節面から遠ざけるように離開ストレスをかけ、痛みが出現する場合を陽性

<ポイント>

・圧迫、離開ともに関節面をしっかりとイメージした上で実施

 

腰痛に対するアプローチ

軟部組織へのアプローチ

評価にて問題となっていると予測された組織に対してアプローチします。

評価がしっかりできていれば手段はなんでもよいです。

参考までに私がよく用いる手段を挙げておきます。

 

組織間リリース

筋肉と筋肉の間を狙って癒着を剥がす。
徒手的に剥がすように押圧してもよし、筋間に指を入れたまま関節運動してもらってもよい。
問題となりやすい部位としては、以下の通り。

・ハムストリングス-大殿筋
・大殿筋-中殿筋
・中殿筋-大腿筋膜張筋
・大内転筋-内側ハムストリングス
・外側広筋-外側ハムストリングス
・脊柱起立筋-腰方形筋
・大腰筋-腸骨筋
・鼠径靭帯-大腿直筋

 

持続圧迫

組織を持続的に30秒程度押圧して緩むのを待ちます。

繰り返していると、組織が緩んでくるのが触診で確認できます。

 

運動療法

問題となる組織をリリースしても体の使い方が変わっていなければ、再発するリスクがあります。

流れとしては、評価→原因組織をリリース→運動療法で動作レベルで変える

 

オススメの運動療法をいくつかピックアップして挙げておきます。

大腰筋トレーニング(背臥位)

 

胸椎の伸展エクササイズ(背臥位)

 

コアユニットのトレーニング(背臥位)

 

多裂筋トレーニング(側臥位)

 

大腰筋トレーニング(座位)

 

大腰筋、ハムストリングスのトレーニング(立位)

 

まとめ

・腰痛に対するリハビリは、痛みをとることではなく、なぜ痛みが出現しているのか原因を追究することが重要

・腰痛の約8割ははっきりとした原因がわかっていない

・身体機能面だけではなく、心理面の影響も考慮する必要がある

・どこが、どのようにすると、どのように痛いのか。評価を細かくして原因組織を特定する作業が重要

・筋肉に対してアプローチして痛みが取れた終わりではなく、そのような状態にならないための指導までするべき

 

おわりに

いかがでしたか?

腰痛の約8割ははっきりとした原因がわかっていません。

画像上は問題となる所見がないのに、腰痛を訴える方は臨床でも非常に多いはず。

そういった方々に対して重要なのは、とにかく評価を細かくすること。

評価もろくにせず、いきなりベッドに寝かせてマッサージしていては良くなるもの良くなりません。

腰痛のリハビリでお悩みの方の参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

参考・引用文献

1.背部痛 理学療法診療ガイドライン

オススメの書籍

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