2017/09/09

呼吸器疾患を胸郭の3つの動きから考える!

 

スポンサーリンク




この記事を書いている人 - WRITER -
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
詳しいプロフィールはこちら
呼吸器疾患の方を担当する際、どのように評価・治療を進めたらいいのかわからない。
 
こんな悩みありませんか?
 
近年、呼吸器疾患は増加傾向にあり、担当する機会は多くなってきます。
メインが呼吸器ではなくても合併していることも多くあります。
 
また、呼吸は生きている限り誰でもするもので、呼吸を見ることで読み取れる情報も有益な情報となります。
 
呼吸のそもそもの役割、呼吸を見る上でのポイントをまとめてあります。
 

呼吸の役割

 
そもそも呼吸というものがなぜ必要なのか?
 
ヒトは肝臓、腎臓、あるいは上位脳が障害されても、数日間生き延びることができるが、呼吸あるいは循環が約5分間停止すると組織の酸素欠乏のため死に至る
 
 
当たり前ですが、呼吸が止まると死んでしまうので、生命維持においてとても重要な役割を持っています。
 

換気のメカニズム

 
換気とは、肺と気道を通って空気が吸入され、呼出されることによる機械的過程とされています。
 
簡単に言えば、換気=吸気+呼気と表すことができ、これは横隔膜の収縮と胸郭の動きによって実現されます。
 
・吸気
能動的に行われる。
脳幹(延髄・橋)にある呼吸中枢からの神経インパルスが横隔膜と肋間筋を刺激することで行われる。
 
・呼気
受動的に行われる。
肺の弾性収縮力によって実現。
安静時は完全に自動で行われている。
 
この吸気と呼気のどちらに障害があるか、あるいはどちらにもあるのか。
 
これを評価しておかないと、何の障害に対して何をしているのかが曖昧になってしまいます。
 
「胸郭が硬いですね。」と言って呼吸介助する。
 
間違いではないかもしれませんが、そもそも横隔膜や肋間筋自体が機能不全を起こしている、胸郭の硬さがどこに原因があるのか特定できていない。
 
このような場合はあまり有効な手段とは言えないかもしれません。
 

吸気の捉え方

吸気に関わる筋肉は以下のように安静時と努力時に分けられます。
 
 ・安静吸気時
横隔膜(7割)+外肋間筋(3割)
 
・努力吸気時
胸鎖乳突筋、肋骨挙筋、脊柱起立筋、肩甲挙筋、僧帽筋、菱形筋、大・小胸筋、前鋸筋 
 
呼吸器になにかしら障害を持っている方は、上記の努力吸気時に関わる筋群が過緊張していることが多いです。
 
みなさんが担当されている方をイメージしてみてください。
「あ、確かに。」と思い当たる節があるのではないでしょうか?
 
また、これらの筋群が過緊張を起こしていると肩関節や腰背部痛を引き起こす原因となることもあります。
 
呼吸器疾患でこのような症状を訴える方は、努力吸気時の筋群が起因となっているかもしれませんね。
 
さて、ここで陥りやすい間違いが、
「努力吸気時の筋群が過緊張だからそこをマッサージなどで緩めればいい!」
 
一時的には有効な手段となるかもしれませんが、過緊張となった背景を考えていません。
 
なぜ過緊張となっているのか?
安静時であっても努力性となる必要があるのか?
 
このような視点で考えてみてください。
 
安静吸気時には横隔膜が7割もの割合を占めています。
 
もし、横隔膜が働いていないとその7割分を他の部分でフォローしないと満足に吸気ができません。
そこで、胸鎖乳突筋や肋骨挙筋などで無理やり空気を取り込んだ結果、慢性的に過緊張を呈している。
 
このように考えると、短絡的に過緊張している筋群を緩めても長期的には有効ではないとイメージできますよね?
 
つまり、吸気に関しては以下の視点で考えることが必要です。
 
・横隔膜が機能しているかどうか
・横隔膜の働きを阻害する筋群(努力吸気時の筋群)が過緊張となる要因があるのかどうか。(頚・胸椎・胸郭アライメント、肩関節障害の既往など)
 
*横隔膜については以下の記事で詳しくまとめています。
 
 

呼気の捉え方

呼気に関わる筋群は以下のように分けられます。
 
・安静呼気時
肺の弾性収縮のみ
 
・努力呼気時
内肋間筋、腰方形筋、下後鋸筋、腹直筋、腹斜筋群など
 
上記のように安静呼気は肺の弾性収縮に委ねられます。
 
ですので、肺の弾性収縮、肺がしぼむのを阻害している要因があるのかどうか、といった視点で考える必要があります。
 
具体的には、肺を取り囲む構成要素、胸郭に可動性があるのかどうか評価します。
 

胸郭の構成要素
後外側面
・胸椎 Th1〜12
・肋骨 左右12対
・肋間筋、肋間膜
  前方
・肋軟骨
・胸骨
・肋間筋、肋間膜
  上方
・上位肋骨
・鎖骨
・頸部筋膜
・頸部筋群
  下方
・横隔膜

胸郭を構成する関節
・胸肋関節
  ・肋椎関節(肋骨頭関節、肋横突関節)

胸郭と一言で言っても上記に挙げた構成要素のどこに制限あるか評価する必要があります。
 

胸郭の運動

呼吸時、胸郭は以下のような運動をしています。
 
・上位胸郭(第1〜6肋骨)
ポンプハンドルモーション
その名の通り、ポンプのように矢状面上で前後に動きます。
吸気時には前上方へ広がり、呼気時には元に戻る。
 
 
 
・下位胸郭(第7〜12肋骨)
バケツハンドルモーション
これもその名の通り、バケツの持ち手のように前額面上で左右に動きます。
吸気時には上側方へ広がり、呼気時には元に戻る。
 
 
 
これの動きは、肋骨頭関節と肋横突関節を結んだ線が運動軸となっており、吸気時には肋骨が後方回旋します。
つまり、両関節に制限があると呼吸に伴う胸郭の動きも制限されてしまいます。
 

スポンサーリンク

胸郭の運動パターン

胸郭の運動パターンは以下の3つに分けられます。
どれが良い悪いではなく、それぞれに合わせて臨床展開していく必要があります。
 

上位と下位の関係

両側の上位胸郭と下位胸郭がそれぞれ相反した動きをとるというもの。
 
吸気時の胸骨の動きを元に3つパターンに分類されます。
 

①胸骨前傾パターン

胸骨:前傾
上位肋骨:後方回旋
下位肋骨:前方回旋
 
胸骨の前傾に伴い、上位肋骨の前後径は拡大するため肋骨は後方回旋します。
それとは反対に、下位肋骨の前後径は縮小するため肋骨は前方回旋します。
 
 

②胸骨後傾パターン

胸骨:後傾
上位肋骨:前方回旋
下位肋骨:後方回旋
 
胸骨の後傾に伴い、上位肋骨の前後径は縮小するため肋骨は前方回旋します。
それとは反対に、下位肋骨の前後径は拡大するため肋骨は後方回旋します。
 
 

③ニュートラル

吸気に伴い胸骨の前後傾がないもの。
 
 

左側と右側の関係

片側の上位・下位胸郭が同方向へ回旋、対側の上位・下位胸郭が相反した動きをとるというもの。
 
体幹回旋時の肋骨の動きを評価します。
 
体幹右回旋:右肋骨後方回旋、左肋骨前方回旋
体幹左回旋:右肋骨前方回旋、左肋骨後方回旋
 
 

対角線上の関係

片側の上位胸郭と対側の下位胸郭が対角線上に回旋、もう一方の対角線上の上位・下位胸郭が相反した動きとるというもの。
 
前額面前面から胸骨を見て、胸骨の傾斜から対角線で肋骨がどのように動くのか評価します。
 
胸骨右傾斜
右上位肋骨・左下位肋骨:前方回旋
右下位肋骨・左上位肋骨:後方回旋
 
胸骨左傾斜
右上位肋骨・左下位肋骨:後方回旋
右下位肋骨・左上位肋骨:前方回旋
 
 
 
胸骨が傾斜している側の肋骨は、肋骨が胸骨によって圧縮され、それに押し出されて前方へ回旋する。
傾斜していない側の肋骨は、逆に胸郭が拡大できるスペースができるため肋骨は後方へ回旋します。
 
胸郭が拡大するか、縮小するかという視点で見ると肋骨がどちらへ回旋するのかイメージしやすいです。
 
胸郭拡大時:肋骨後方回旋
胸郭縮小時:肋骨前方回旋
 
このように覚えておきましょう!
 
 

胸郭の評価の進め方

 
上記の3つの胸郭の運動パターンを元にどこに制限があるのか特定していく作業をすることになります。
例を挙げますので一緒に考えてみましょう!
 
症例①
 
1.吸気時の胸骨を確認
 
吸気時に胸骨が後傾。
このことから、胸骨後傾パターンに当てはめて上位肋骨は前方回旋、下位肋骨は後方回旋が優位と考える。
 
2.体幹の回旋を確認
 
右回旋に制限が認められる。
このことから、左回旋のパターンが優位で右肋骨は前方回旋、左肋骨は後方回旋が優位と考える。
 
3.胸骨の傾斜を確認
 
前額面で胸骨は右傾斜。
このことから、右上位肋骨・左下位肋骨は前方回旋、右下位肋骨・左上位肋骨は後方回旋が優位と考える。
 
4.1〜3を統合する
 
1〜3の評価で共通する要素は何か?という視点で考える。
 
本症例の場合は、右上位肋骨の前方回旋が共通している。
このことから、その胸郭運動パターンが呼吸へ何らかの影響を与えているかもしてないと仮説を立て、右上位肋骨前方回旋というパターンと呼吸症状との関連を評価していく作業を進めることになります。
 
呼吸症状と関連がありそうであれば、右上位肋骨の前方回旋を起こしている要素は何か?と考えます。
この場合で考えると、胸郭前面に付着する大・小胸筋や肋間筋が可能性として挙げられます。
これら筋群を調整して胸郭運動パターンの是正とともに呼吸症状も改善されるのであれば、これら筋群が優位に働きすぎないように運動療法など指導すると良いかもと考えることができますよね。
 
胸郭の上位と下位の関係から、下位肋骨の後方回旋が優位にあって結果的に上位肋骨が前方回旋しているのかも?
左右の関係から、左肋骨の後方回旋が優位になりすぎているのかも?
右上位肋骨の後方組織が硬すぎて後方回旋できる余裕がないのかも?
 
などなど、仮説をいくつも立ててそれをどんどん検証していけば良いのです。
 

まとめ

・換気=横隔膜の収縮+胸郭の動き

・呼気は肺の弾性収縮に委ねられ、胸郭の柔軟性に依存している

・胸郭の運動パターンで共通する部分を探す

おわりに

いかがでしたか?

胸郭の運動パターンはいくつもあって分けが分からなくなるかもしれませんが、考えながら臨床していると自然と身につくものです。

呼吸器だけではなく、運動器や脳血管障害の方においても胸郭あるいは呼吸の評価は必要となる場合も少なくありません。

自分なりに臨床で応用してみてくださいね!

最後までお読みいただきありがとうございました。

オススメの書籍

The following two tabs change content below.
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
この記事を書いている人 - WRITER -
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
詳しいプロフィールはこちら