リハ塾~臨床note 体幹編~頸椎・胸椎・腰椎まとめ

目次

・頸椎ってそもそもどんな関節?
・頸椎におけるゴール設定
・頸椎の治療戦略
・頸椎周囲に対する筋間リリース
・頸椎に対する関節可動域運動
・頸椎の運動療法
・胸椎ってそもそもどんな関節?
・胸椎におけるゴール設定
・胸椎の治療戦略
・胸椎周囲に対する筋間リリース
・胸椎に対する関節可動域運動
・胸椎の運動療法
・腰椎ってそもそもどんな関節?
・腰椎におけるゴール設定
・腰椎の治療戦略
・腰椎に対する筋間リリース
・腰椎に対する関節可動域運動

頸椎ってそもそもどんな関節?

私自身そうでしたが、頸椎って繊細な感じがしてなんとなく動かすのが怖かったり、難解なイメージで苦手意識がありました。

特に若手セラピストには多いのではないしょうか?

実際、頸椎と一言で言っても細かい関節や筋肉が関与しており、触るのが怖いからと言って、ただ漠然とリラクゼーションをしても中々改善してこないんですよね。

このように、苦手意識があるのも漠然とリハビリするのも、そもそも頸椎についてあまり知らないということが原因です。

・頸椎がどのような特徴を持つのか
・どんな関節が関与してどんな構造をしているのか
・どの筋肉が関与するのか

この辺が理解できれば、どのように触って動かして、どこの制限を解消して、どこをトレーニングすべきか分かってきます。

頸椎の機能的な特徴

まず、頚椎は胸椎・腰椎とは異なった構造をしています。
なぜ異なった構造をしているのか理解することが頚椎疾患のリハビリをする際にも重要になるかと思います。

頚椎の上部には頭部が位置しており、目・耳・鼻などの感覚器が存在しています。

感覚器の機能を果たすためには頚椎の十分な可動性があることが前提で、頚椎の十分な可動性によって対象を正面で捉えることができ、それによって見る・聞く・嗅ぐといった動作が遂行できます。

もし、頚椎が全く動かなかったらなにか見るためには体全体を動かす必要がありますし、とっさに後ろを振り向くなんてことできないですよね。

また、見るなどの人として必ず必要な動作を遂行するために機能する部位であるため、制限があったとしてもどうしても動かさないわけにはいきません。

そのため、痛みも出やすい部位でもあります。
頸椎に制限があることによって、胸椎や腰椎で代償することで腰背部に痛みが二次的に出現することもあります。

耳や鼻も目と連動しているところがあり、音のする方向を感知して目で対象物を捉える、匂いの方向を感知して対象物を捉えるなど、頚椎の可動性があって成り立ちます。

つまり、頚椎は頭部の位置に合わせて動けるだけの柔軟な可動性を有している必要があるのです。

 

頸椎の構造的な特徴

上位頚椎は環椎後頭関節(C0-1)と環軸関節(C1-2)とそれ以下の下位頚椎(C3-7)で構成されています。

・環椎後頭関節:環椎の内側方向への凹面と後頭顆の凸面で構成され、屈伸の動きが主。
屈曲/伸展可動域はそれぞれ15°で頚椎全体の屈伸の動きの50%を担う。

・環軸関節:軸椎の上関節面の角度が水平面に対し、約20°であり、回旋の動きが主。
回旋可動域全体の50%、40~45°を環軸関節が担っている。

・下位頚椎:上関節面が前額面に対して約45°で下位へいくほど傾斜が増加し、屈伸が大きく、側屈と回旋が続く。

上位頚椎と下位頚椎の決定的な違いとしては、下位頚椎には存在する鈎状突起と椎間板が上位頚椎には存在しないということです。

鈎状突起と上位椎体によって鈎椎関節が形成され、安定性がありながらも屈曲・伸展の動きに対して制限しないといった特徴があります。
また、鈎状突起によって椎間孔の前後径、椎間板や椎間関節は椎間孔の上下孔を確保しています。

これらによって頸神経が走行するスペースを確保しています。
つまり、椎間孔が狭くなると神経が圧迫されやすくなるため、頚部や上肢の痺れなどの症状を考えるにはこの構造を理解しておく必要があります。

また、鈎椎関節は側屈・回旋を制限する構造にもなっていますので、横突起を通過する椎骨動脈が過度に捻れないようにできています。

逆に下位頚椎にある鈎状突起と椎間板が存在していないことによるデメリットはなにかというと、上位頚椎の可動性は屈伸、回旋ともに全体の50%をも占めていると上述しました。

これだけの可動性がありながらも椎間板がないので、比較的アライメントの変化が起こりやすい部位であると言えます。

これら構造の違いから以下のことが言えます。

・頸椎回旋制限がある場合、環軸関節(C1-2)の制限を疑う
・屈伸制限がある場合、環椎後頭関節(C0-1)、または下位頸椎の制限を疑う

上位頚椎には脳幹が位置しています。

上位頚椎のアライメントの変化は少なからず脳幹にも影響を与えます。
脳幹の前庭神経核で前庭感覚、眼球運動、頚部固有感覚が統合され、小脳や大脳皮質で処理されるとともに脊髄に投射され、姿勢保持に関与しています。

ですので、上位頚椎のアライメント不良はバランス能力の低下に関与する可能性があります。

バランスが悪いからと、片脚立位練習やバランスマットでの練習などを実施しても、そもそものバランス能力の低下が筋由来のものではなく、上位頚椎由来の症状だとしたら思うように改善しないのはイメージできるかと思います。

これに限らないことですが、バランス能力が悪いからバランス練習をするというのはもってのほかです。

バランスが悪い原因はなんなのか?そもそもバランス能力ってなんなのか?
という部分を考えた上で指導するべきです。

 

頸椎におけるゴール設定

ここまでの頸椎とはそもそもどういった関節なのか理解できたら、ゴール設定を明確にしておく必要があります。

ここでいうゴールとは、頸椎の理想の状態を考えて現在の状態と比較して何が足りないのか?差を考えることで、すべき評価・アプローチもおのずと出てくると思います。

理想の頸椎の状態を明確に 

現在の頸椎の状態との比較

理想と現在の差を埋めるための評価・アプローチ

このような流れですね!

結論から言うと以下の2点が重要。 

・環椎後頭関節、環軸関節、下位頸椎それぞれに偏った制限がない
・頸椎のインナーマッスルによる動的安定性が得られている

 

環椎後頭関節、環軸関節、下位頸椎それぞれに偏った制限がない

当たり前ですが、偏った制限があるとそれぞれの部位が自由に可動することができず、どこかで代償して過剰にストレスがかかる部位が出てきます。

環椎関節なら回旋に特化した構造であるため、回旋時に動くはずですが、制限されてしまうと、環椎後頭関節や下位頸椎で代償してしまい、本来かからないはずのストレスが各部位にかかってしまいます。

偏った制限が起こってしまう要因として、姿勢によるものがあります。

頚椎の上部には頭部が位置しています。

重力の影響で頭部は前方へ垂れやすく、頭部が前方偏位することで上位頚椎の過伸展・下位頚椎の屈曲となりやすいです。

スマホ操作やデスクワークなどで特徴的な姿勢ですよね。

頚椎と頭部の位置関係上、さらに現代人の特徴からして頭部前方突出位によるアライメント不良、そこからくる屈筋と伸筋のインバランスが起きやすいです。

・過緊張となりやすい筋群:
 後頭下筋群、僧帽筋上部、肩甲挙筋、大胸筋、小胸筋
・弱化しやすい筋群:
 頚部深部屈筋群、菱形筋群、僧帽筋下部

上記のようなインバランスとなりやすいです。

頚部の症状を考えるにはこのような筋の関係性を理解しておくと、どこへアプローチしたらいいか明確になりやすいです。

また、椎間孔の構造上は下位頚椎で断面積が小さく、椎間孔による神経への影響が起きやすいのですが、上述した姿勢と頚椎の関係性から考えると、下位頚椎は屈曲方向へ偏位しやすく、その結果上位頚椎が過可動性を呈してメカニカルストレスを受けやすいと言えます。

構造上の特徴と機能的な特徴の双方から考えることは症状を捉える上で重要な視点です。

 

頸椎のインナーマッスルによる動的安定性が得られている

脳幹が姿勢制御に関わっていることは既に述べましたが、筋肉よる筋性の制御ももちろん考えなければいけません。

頸椎は頭部を支えているため安定性も必要ですが、視覚や嗅覚、聴覚を駆使するため可動性も必要。
安定性と可動性の両者を機能させるには、インナーマッスルの存在が必要不可欠です。

<頸椎の動的安定性を制御するインナーマッスル>
頸長筋・後頭下筋群・多裂筋・半棘筋・回旋筋

これらの筋群には筋紡錘が多く存在しています。

筋紡錘はインナーマッスルのような微妙で繊細な運動や重力に対する空間的保持に関わる筋に多く存在する傾向にあります。

もちろん、頚部のインナーマッスルにも筋紡錘が多く分布しており、姿勢制御に大きく関わります。

頚椎アライメントの偏位、アウターマッスルの過緊張がない状態がインナーマッスルが機能している、機能できる環境であり、インナーマッスルを機能させるには頚椎アライメントを整える、アウターマッスルを抑制すればいいわけです。

頚椎のアウターマッスルの抑制によってインナーマッスルが機能しやすい環境を整えるといった視点で考えると、以下の通り。

ex).肩甲挙筋を抑制する
1.C1~4の横突起から肩甲骨上角を走行している筋繊維を触診
2.停止部付近の筋繊維を軽く指で押圧しつつ、上角方向へ牽引するようにストレッチします。(肩甲骨下制)
よりストレッチをかけたい場合は、頚部の反対側への回旋をしてもらう

頚部の筋群は細かい筋群が多く、頚部自体、下肢や上肢のように大きな動きはできず、関節を操作してストレッチをかけるよりは、筋自体に機能的なストレッチをするほうがいいかと思います。

 

頸椎の治療戦略

今までの内容をまとめてどのように進めていけば良いのか考えてみます。

頸椎屈伸・回旋・側屈それぞれに適度な可動性があるのか評価

頸部インナーマッスルに機能不全がないか評価

各可動性、インナーマッスルの機能不全を改善

各部位を連動させた動作戦略へ

各部位の可動性を十分に引き出し、インナーマッスルが適切に機能できる環境を整えて、さらに各筋肉が使えるように徒手療法、運動療法を行っていくという流れです。

 

頸部可動性の評価

頸部は脊髄、神経、血管、自律神経に影響を与える部位であり、触るのは少し怖い…と思う方もいますよね。

そんな時はいきなり他動運動ではなく、視診や自動運動をチェックしましょう。
それだけでも十分な情報量が得られます。

まず、見るべきは環椎後頭関節と環軸関節の動き。

環椎後頭関節→頸椎全体の屈伸可動域のうち50%を担う
環軸関節→頸椎全体の回旋可動域のうち50%を担う

上位頸椎が屈伸、回旋ともに全体の可動域のうち半分以上を担っているため、まずチェックしておくべき部位です。

また、脊柱にはカップリングモーション(側屈にともなう回旋)が存在するため、これも考慮する必要がある。

カップリングモーションに関しては諸説ありますが、骨形態から考えると、以下の通り。

上位頸椎→側屈+同側回旋
下位頸椎→側屈+反対側回旋(側屈+同側回旋)
胸椎→側屈+同側回旋
腰椎→側屈+反対側回旋

上位頸椎でも環軸関節は回旋に特化した形状であるため、椎間関節の関節面が前額面に近いほうへ向いています。

反対に、腰椎では椎間関節の関節面が矢状面に近いほうへ向いています。

矢状面を向いている関節面では、一つの椎体が側屈したとすると下関節面が下の椎体の上関節面を反対側へ倒します。
このことから、腰椎では側屈と反対側へ回旋が起こりますが、上位頸椎ではこれが起こらないので同側へ回旋するということ。

ここまでの内容で上位頸椎の回旋が重要ということは分かったと思います。

ということは、本来回旋を担う上位頸椎に可動域制限があると動くべきでない下位頸椎が動く可能性があるということ。
それによって、過剰なストレスとなっている可能性があるということ。

側屈、回旋可動域を評価する際は、上位頸椎、下位頸椎のどちらが優位に動いているのかがポイントとなります。

さらに、胸椎からの影響で可動域制限が起こりやすいです。

胸椎後湾すると、下位頸椎も屈曲位となりやすく、上位頸椎を伸展させることで前方を見るしかなくなります。

この状態で屈伸時にメインで動くのは下位頸椎。
なぜなら、上位頸椎は既に伸展位で伸展できる余裕がないから。

また、胸椎、胸郭を含む上部体幹が左へ重心が偏っていたら。

カウンターで下位頸椎は右へ側屈、上位頸椎が左へ側屈。
この状態で側屈するとどうなるか?

右側屈では上位頸椎がメインに、左側屈では下位頸椎がメインに動きます。
これも先ほどと同様に、既に動く余裕のない方向へ動けないので他の部位で代償せざるをえないのです。

胸椎からの影響によって、頸椎の運動パターンが固定されている可能性があるということ。

可動性を見ることで、インナーマッスルが機能しているのか評価することもできます。

上位頸椎では後頭下筋群が細かい動きを制御していますが、もし、後頭下筋群が機能不全を起こしたら、細かい椎体の動きを制御できなくなります。

例えば、右側屈する際、頭部を正面を向いたまま側屈できるかどうか。
この時、頭部が左回旋していたりすることがあります。

指示しても修正できないとなると、インナーマッスルの機能不全があるかもしれないことが予測できます。

一度、ご自分で鏡で確認するか、誰かに確認してもらうかして試してみてください。
何も問題なければ、頭部は正面を向いたまま側屈できるはずです。

まとめると、以下の通り。

・上位頸椎と下位頸椎のどちらが動いて、どちらが動いていないかチェック
・胸椎からの影響によって、頸椎の運動パターンが固定されていないか
・頭部を正中位で固定したまま側屈できるかどうか

 

頸部インナーマッスルの評価

・頸長筋
・後頭下筋群
・多裂筋
・半棘筋
・回旋筋

頸部インナーマッスルは主に上記の5つ。

中でも重要であるのが、後頭下筋群。
頸部可動性でも説明した通り、上位頸椎の可動性を制御しているから。

後頭下筋群が機能不全を起こしているだけで、頸椎全体へ影響が波及します。

後頭下筋群の評価としては以下の通り。

・上位頸椎の屈曲ができるかどうか(チンイン)
・片頭痛を持っていないかどうか(血管や後頭下神経を圧迫している可能性あり)
・眼球運動に左右差がないかどうか(後頭下筋群と眼球運動は連動しているから)

後頭下筋群の短縮や過緊張によって、拮抗筋である頸長筋の機能不全も起こしやすい。

短絡的にチンインを指導してもこの筋肉の機能不全はおそらく改善できない。

なぜなら、そもそもチンインしにくいような身体アライメントとなっていて頸長筋が機能不全を起こしているから、上位頸椎だけでなく頸椎・胸椎も含めた全体として捉えて評価するべきです。

 

頸椎周囲に対する筋間リリース

術後や特定の筋肉ばかり過剰に使用していると筋肉同士、筋肉と各組織(靭帯、関節包など)が癒着を起こして動きにくくなっていることがしばしばあります。

要は、組織が互いに滑り合わないとスムーズに筋肉は収縮と弛緩ができない。つまり、可動域制限や筋出力の低下につながります。
私の臨床上、癒着を改善するだけでも劇的に可動域、筋力の改善が認められます。

 

僧帽筋上部-棘上筋

僧帽筋は代償運動として使われやすく、緊張が高まっていることが多いです。

僧帽筋の深層には腱板筋群の一つでもある棘上筋が位置しているため、僧帽筋が過緊張なりすぎると棘上筋の働きが弱くなってしまいますし、癒着するとより働きが弱くなりかねません。

結果的にますます肩甲帯の筋緊張が上がってしまい、代償運動として頸部や肩甲帯を固めてしまいます。

リリース手順は以下の通り。

1.僧帽筋上部-棘上筋間に指を入れ、棘上筋から僧帽筋を上方へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肩関節の回旋運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

僧帽筋-肩甲挙筋

僧帽筋とともに肩甲挙筋も肩甲帯挙上の代償として使われやすく、固まりやすい筋肉。

僧帽筋の深層に肩甲挙筋が位置しますが、ここもしっかり剥がしておくと頸部も肩甲帯もかなり楽になる

リリース手順としては以下の通り。

1.僧帽筋-肩甲挙筋間に指を入れ、肩甲挙筋から僧帽筋を上方へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま頸部の回旋、屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

胸鎖乳突筋-斜角筋

胸鎖乳突筋も斜角筋も緊張が高くなって固まったままとなりやすい筋肉。

両筋間で癒着を起こすとさらに固まって、頸部の可動性が制限されてしまいます。

リリース手順としては以下の通り。

1.胸鎖乳突筋-斜角筋間に指を入れ、斜角筋から胸鎖乳突筋を上方へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま頸部の回旋、屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

後頭下筋群のリリース

短縮してしまっていることが多いので、他の組織をリリースした後にここもリリースしておきましょう。

リリース手順としては以下の通り。

1.背臥位となってもらい、大後頭隆起とC2棘突起を触診
2.大後頭隆起とC2棘突起の間に後頭下筋群が位置するので、そこに示指と中指を当てる
3.頭の重みで自然に組織へ深く入っていくイメージ
4.軽く頭方へ牽引をかけてしばらく待つ

 

頸長筋のリリース

深部にあり触診が難しい部位ですが、ここへアプローチできるとかなり変化でます。

*頸部前面から深部を触診するため、事前にリスクがないか十分に確認した上で実施しましょう。

リリース手順は以下の通り。

1.頸部前面から胸鎖乳突筋、甲状軟骨を触診
2.甲状軟骨を内側へずらして、胸鎖乳突筋と甲状軟骨の間から深部を触れる
(*ゆっくりと優しくすること!血管の拍動を感じたらリスクが高いので一旦最初からやり直してください!)
3.深部まで触診できると、椎骨を触れる感じが分かるのでそれが分かれば頸長筋を触れることができている
(矢状面方向に指を動かすと椎間を触れる感じが分かりやすい)
4.マイルドにほぐす

 

頸椎に対する関節可動域運動

そもそも関節可動域運動自体を間違ったやり方で実施している場合があります。
まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということです。

よくある間違いが、筋肉など軟部組織が固まったから制限が起こっているという誤解。
これは逆で、運動パターンの異常で関節に偏ったストレスがかかった結果、骨の変形や軟部組織が変化し可動域制限が起こるという流れが自然です。
骨折による急性外傷などはまた別ですが。

例えば、脊柱で多いのは回旋制限。
なぜかと言うと、脊柱の側屈には必ず回旋が伴うから。(カップリングモーション)
屈曲や伸展でも左右どちらかに偏った動きをとる場合は回旋も含んでいます。

回旋が制限されていると考えて、なんとなく制限方向へストレッチすることによって柔軟性が改善したとしてもすぐに元に戻ることが考えられます。
みなさんも一度はこういった経験あるんじゃないでしょうか?

筋肉の固さ→関節の制限という考えで筋肉の固さがとれたら可動域は改善するといった安易な考えではなく、筋肉が固くなったそもそもの原因があってその結果可動域制限が出現しているので、その原因に対してアプローチしなければいけないのです。

上記の例で考えられる一つの要因としては、カップリングモーションがあるため屈伸・側屈・回旋どの方向の制限があっても回旋が制限されてしまうということ。
また、人の特徴として体の前で作業することが多いということ。
このことから、脊柱は後弯しやすく、その姿勢、その姿勢での動作がパターン化されてしまい、可動域が制限されやすいです。

上記の場合、普段の生活の中で姿勢・動作がパターン化されているので、ストレッチで一時的に可動域を改善してもすぐに元に戻ってしまうというわけです。

つまり、可動域制限や痛みを改善するために筋肉に対してストレッチするという考えが間違いで、そこに至ってしまった運動パターンの改善が必要なのです。

そのためには、関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。

 

頸椎の関節可動域運動のポイント

ポイントとしては、最初の方向付けを誘導してあげるということです。

どういうことかと言うと、空き缶に例えると分かりやすいです。
へこんでいない状態の空き缶を上から潰そうとするとけっこう力が必要になりますよね?

しかし、少しへこんだ状態ではどうでしょう。
上から潰すと先ほどよりかなり簡単に潰すことができませんか?

これはあらかじめ方向付けがされていたからです。

脊柱でも無理やり力づくでハンドリングするのではなく、誘導したい方向へ少しだけ方向付けしてあげるのです。

ここで重要となるのが、散々言ってきましたが回旋の動きです。

例えば、屈曲制限があるとすると、回旋の制限も必ず左右差があると思います。
左右で制限があるほうへ回旋を誘導してから同側へ屈曲するように誘導します。
こうして可動域運動をおこなったほうが、普通に屈曲制限あるから屈曲方向への動きを反復するよりも効果が得られやすいです。

 

具体的には以下の通りです。

1.制限がある運動方向を特定する(自動、他動運動にて)
2.その動きの中でどのレベルの脊柱が問題となっているか特定する
(視診で動きが少ない部位を決めて、その周囲の棘突起を触診しつつ動きをみて、どの椎体の動きが出ていないのか特定)
3.動きが出ていない椎体の棘突起を徒手的に誘導
(右側屈が制限だとしたら、上位頸椎レベルなら右回旋、下位頸椎レベルなら左回旋へ棘突起を徒手的に誘導)
4.徒手誘導したまま、脊柱を回旋誘導
(上位頚椎レベルなら同側へ、下位頚椎レベルなら対側へ誘導)
5.改善したい制限方向へ脊柱を誘導
(自動運動または他動運動)
6.可能ならば、もう片方の手で上位あるいは下位椎体の棘突起を対側へ誘導する
(対側へ誘導することでターゲットとなる椎体は相対的に反対側へ回旋することになるので、ターゲットの椎体を徒手誘導するのと合わせておこなうと効果的)

 

頚椎に対する運動療法

さて、可動域を阻害する組織をリリースして関節可動域運動で可動域も十分に引き出したらそれで終いではありません。

獲得した可動域を十分に活かせるように運動療法を取り入れることが重要です。

可動域が拡大したら満足してしまいがちですが、ここが一番重要なポイント。

骨折などの外傷以外はその方の動作パターンによってなるべくしてなった制限や筋出力低下、痛みなどの症状です。
動作まで変えて再び症状が出ないようにしなければいけません。

頸部インナーマッスルを促通する運動

1.端座位または臥位にて頸部の付け根をおさえる
(僧帽筋上部繊維の起始あたり)
2.おさえながら頸部屈伸・回旋運動

<ポイント>
・素早く行わずにゆっくりと行う
・複数の筋肉が交わるポイントのため、同時に複数の筋肉に刺激を入れつつ運動できる

胸椎ってそもそもどんな関節?

胸椎ってどうアプローチしていいかわからず、あんまり触らないって方いませんか?
私も昔はそうでした。

分からないというのもそもそも胸椎についてあんまり理解がなかったということが大きく、そのせいでなんとなく苦手意識を持っていました。

しかし、構造や機能について理解したらどうアプローチしたらいいのかもおのずと分かってきますし、ここが問題となっている方って意外と多くいるので、効果も高いです。

・胸椎がどのような特徴を持つのか
・どんな関節が関与してどんな構造をしているのか
・どの筋肉が関与するのか

この辺が理解できれば、どのように触って動かして、どこの制限を解消して、どこをトレーニングすべきか分かってきます。

 

胸椎の機能的な特徴

一つは、胸椎は肋骨、胸骨、肩甲骨とともに胸郭を形成しており、臓器保護が主な役割となっています。

肺、心臓、肝臓、胆嚢、胃、脾臓など胸腔内臓器を保護しており、胸郭を構成する肋骨、鎖骨、肩甲骨、胸椎の可動性が低下すると、胸腔内臓器の動きも少なからず制限されてしまいます。

わかりやすいところで言うと、肺は胸腔内では最も容積が大きく、影響を受けやすいです。

呼吸リハビリにおいても胸郭の可動性は必ずチェックしますよね?

胸郭の可動性が低いと肺自体の拡張も制限されますので呼吸にも影響が出てしまいます。
このように、肺と同じく胸郭の可動性によって他の臓器も制限を受ける可能性があるということです。

しかし、臓器保護を役割としているだけあり、胸椎は脊柱の中で最も可動性が低い部位でもあり、それだけ硬くなりやすい部位でもあります。

構造的な部分でもう少し詳しくお話ししますが、胸椎のモビリティがあることが前提で腰椎によるスタビライズが可能で、胸椎のモビリティが低いと腰椎で代償して、スタビライズできないばかりか過剰なモビリティを起こしてしまいます。

これが腰痛の原因の一つでもあります。

 

二つ目は、胸椎は自律神経と深い関わりがあります。

自律神経は、生命維持に関わる循環、呼吸、消化、排泄、分泌および生殖などの生態の諸機能を無意識的、反射的に調節するものです。

交感神経系、副交感神経系、壁内腸神経系に分けられ、交感神経系の大部分が胸椎より節前繊維を発しており、交感神経幹を介して内臓へ至ります。

人は基本的に日中活動している際は、交感神経が優位に働いており、夜眠っている際に副交感神経にスイッチが切り替わり、体を休めることができます。

しかし、自律神経系のバランスが崩れると、常に交感神経が優位で緊張した状態となり、慢性痛や不定愁訴の原因となります。
逆に副交感神経が優位となる場合もあります。

先ほど、胸郭の可動性低下によって内臓機能が制限されると言いましたが、神経系からの影響でも内臓機能が制限される可能性があり、胸椎は内臓に対して直接的にも間接的にも影響を与えうる部位なのです。

逆に言えば、内科系の疾患によっても胸椎の可動性に影響を与える可能性も考えられます。
このように多角的な視点を持っていると臨床の幅が広がり、応用が効きます。

 

胸椎の構造的な特徴

胸椎を上・中・下に分けてみたときの解剖学的な特徴としては、以下の通り。

・上位胸椎:椎体の前後径が大きく、棘突起は後方水平に突出しており、下位頚椎の形状と似ている
・中位胸椎:棘突起の尾側への傾斜が強く、屈伸の可動性は少なく、回旋が大きくなる
・下位頚椎:腰椎に近づくにつれ、椎体は横径が大きくなり、棘突起は水平化していき、腰椎の形状に近づく

上位から中位にかけて棘突起が次第に尾側へ傾斜を強めていき、回旋に特化した形状へ近づいていき、中位から下位にかけては再び棘突起が水平化し、屈伸の要素が強くなります。

胸椎では基本的に回旋の動きが主で、これは椎間関節が前額面に対して平行で回旋・側屈を許容する形態をしているからです。
椎間関節の形状から、屈伸の動きをしようと思っても骨性の制限により屈伸は制限されます。

回旋が主なのですが、胸腰椎移行部の下位胸椎あたりで腰椎へと形状を近づけているので椎間関節も腰椎と同じく、矢状化し回旋を制限する形状となります。

このような構造的な特徴から、胸椎の可動域制限を改善したい場合、屈伸の動きを強要するのではなく、回旋の動きを誘導するほうが関節面の形状にあった動きであるため、動きも誘導しやすいですし、変化も出やすいかと思います。

 

胸椎におけるゴール設定

ここまでの胸椎とはそもそもどういった関節なのか理解できたら、ゴール設定を明確にしておく必要があります。

ここでいうゴールとは、胸椎の理想の状態を考えて現在の状態と比較して何が足りないのか?差を考えることで、すべき評価・アプローチもおのずと出てくると思います。

理想の胸椎の状態を明確に 

現在の胸椎の状態との比較

理想と現在の差を埋めるための評価・アプローチ

このような流れですね!

結論から言うと以下の2点が重要。 
・回旋制限がない
・腹筋群に過緊張がないか

 

回旋制限がない

胸椎で重要なのが何と言っても回旋の動き。
何度も言っているのでもう分かりますね。

表を見ていただくと分かるように、上位胸椎~中位胸椎までが最も回旋角度が大きく、それ以降は徐々に腰椎の形状に近づいていくため、回旋角度は減少、屈伸角度のほうが大きくなります。

中位胸椎では、おおむね前額面を向いた二つの関節面(前額面に対して約20°、水平面に対して約60°)を持ち、棘突起の尾側への傾斜の強さも合わさって屈伸の可動性が少なく、回旋の可動性が大きい形状となっています。

脊柱の運動において純粋な屈伸・側屈・回旋というものは存在しません。

椎体による形状の違いで差はありますが、回旋+側屈、回旋+屈伸(+側屈)という回旋を伴った動きとなっています。

これは、椎間関節の関節面が垂直面に対して平行になっているわけではなく、わずかに傾斜しており、軸がずれた平面関節となっていることから考えられます。

前額面に対して約20°の角度がついていますので、関節面から外れないように動くと上位椎体が側屈するに伴って上関節面が後方へ滑る、つまり同側へ回旋します。

また、水平面に対して約60°角度がついていることも関係します。
例えば、完全に垂直ならばクルクル回旋するだけですが、角度があると写真のような円錐上の軌道で動くことになります。
このことから、屈伸や側屈に伴って回旋が必ず起こる構造になっていることがわかります。

一部分の椎体ではわずかな動きですが、脊柱全体となるとこの円錐がさらに伸びることになるのでかなり大きな動きになることはイメージできるでしょうか?

つまり、椎間関節一つ一つのわずかな回旋の動きがあることで、脊柱全体として大きな動きを作り出すことができているのです。

回旋制限は要チェックです。

 

腹筋群に過緊張がないか

多くのアライメントの崩れとして、
上位頚椎伸展、下位頚椎屈曲、胸椎屈曲、腰椎屈曲、骨盤後傾というパターンがあります。

理由としては以下の通り。

・常に重力にさらされているため、鉛直方向に力が加わり全体的につぶれてしまう
・身体の前方へ手を使って作業することがほとんどのため、全体的に屈曲傾向が強くなる

このパターンの結果、大胸筋、腹直筋、大腿直筋など身体の前面の筋群が短縮、過緊張の傾向が強くなります。

そのせいでますます上記アライメントが助長されてしまう。

脊柱の動きは出にくくなる、脊柱の動きを使わないような運動パターンで固定されてしまい、胸椎の動きも制限されてしまいます。

脊柱の動きを制限している要素として強いのが腹直筋をはじめとする腹筋群。

 

脊柱のインナーマッスルとして挙げられるのが、主に以下の2つ。

・多裂筋
・大腰筋

多裂筋の作用としては、脊柱の伸展・回旋・側屈。
大腰筋の作用としては、下位胸椎・腰椎の伸展(脊柱の直立化)。

屈曲以外の作用を担っていることがわかります。

要するに、腹筋群が優位に働きすぎると、上記のインナーマッスルは働きにくくなる。

特に多裂筋がわずかな回旋の動きを作り出すことで脊柱の全体としての動きの方向づけをしているため、脊柱の動きが出にくくなってしまうのです。
(上述した空き缶つぶしの理論)

腹筋群が優位に働くと脊柱の大きな屈曲が先に入ってしまうため、初動の小さな回旋が出ない。

そのため、腹筋群の緊張が邪魔になってしまい脊柱の制限となってしまうパターンが多い。

 

胸椎の治療戦略

今までの内容をまとめてどのように進めていけば良いのか考えてみます。

回旋制限がないか評価

腹筋群の過緊張、短縮がないか評価

回旋制限、腹筋群の過緊張、短縮を改善

各部位を連動させた動作戦略へ

回旋の可動性を十分に引き出し、腹筋群を抑制して多裂筋、大腰筋が適切に機能できる環境を整えて、さらに各筋肉が使えるように徒手療法、運動療法を行っていくという流れです。

 

胸椎の可動性評価

胸椎は頚椎、腰椎に挟まれて位置しているため、両者からの影響を非常に受けやすいです。

上述したように、胸椎は脊柱の中でも可動性が低い部位ですので、それを代償して頚椎、腰椎がハイパーモビリティとなりやすいです。

多い例ですと、頭部が前方へ偏位した姿勢だと、胸椎は後弯、下位頚椎屈曲、上位頚椎伸展位となりますので、代償で上位頚椎がハイパーモビリティとなりやすく、神経症状などを引き起こす可能性があります。

腰椎の例で考えると、胸椎が後弯して上半身質量中心が後方へ偏位すると、腰椎の過伸展で代償したり、胸椎の回旋作用を腰椎で代償して腰痛や坐骨神経痛のような症状を起こす場合もあります。

胸椎が起因となって姿勢アライメントの変化を引き起こしている場合も多いので、必ず姿勢と胸椎との関係性を評価しておくべきかと思います。

 

一般的に胸椎の可動性低下による筋のインバランスは以下のようなものが挙げられます。

過緊張となりやすい筋群:大胸筋、小胸筋、腹直筋、横隔膜、大腰筋
弱化しやすい筋群:脊柱起立筋、僧帽筋、広背筋、菱形筋群

上記の筋群をポイントとして拮抗筋と主動作筋の関係を評価してみると姿勢アライメント評価や全体像としても捉えやすいと思います。

チェックすべきは、胸椎の伸展・回旋。

四つ這いから肘を天井に向けるように、または、側臥位にて肘を後方に向けるようにして評価すると良いです。

肘が上記方向へしっかり向けば可動性は十分です。

 

腹筋群の評価

単純にMMTに加えて詳細な評価をしてあげるとより良いです。

柔軟性を身体を前後左右に分けて評価します。

身体前面の柔軟性

1.立位または端座位にて体幹伸展
2.脊柱で伸展できているかチェック

<ポイント>
・骨盤の前方移動の代償がないか
・肩甲骨の内転で代償がないか

 

身体後面の柔軟性

1.立位または端座位にて体幹屈曲
2.脊柱で屈曲できているかチェック

<ポイント>
・骨盤の後方移動の代償がないか
・膝の屈曲の代償がないか
・大転子が後方へ移動する代償がないか

 

身体側面の柔軟性

1.立位または端座位にて体幹側屈
2.脊柱で側屈できているかチェック

<ポイント>
・腰椎で過剰に側屈していないか
・胸椎で側屈できているか
・骨盤の側方移動で代償していないか

 

骨盤をニュートラルに保てるかも評価として使えます。

両膝を立てた背臥位での評価

1.骨盤をできる限り後傾
2.骨盤をできる限り前傾
3.後傾と前傾の間で骨盤を保持
4.保持した状態で両手を天井に向かって突き出し、両下肢挙上
5.その状態で両手足がぶれないか、骨盤の位置がぶれないかチェック

<ポイント>
・骨盤を中間位、ASISと第10肋骨が水平に保てているかどうか
・腹筋が弱いと第10肋骨が前方へ移動してしまう
・評価だけでなく、そのまま運動療法として使える

 

胸椎周囲に対する筋間リリース

腹直筋-外腹斜筋

意外と多いのがこの部分。

ここを丁寧に剥がしておくと、腹部が解放されて脊柱の動きが出やすい。

1.腹直筋-外腹斜筋間に指を入れ、外腹斜筋から腹直筋を内側へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま深呼吸、呼吸に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

 

胸郭上の皮膚リリース

胸郭も胸椎をはじめ、脊柱へ与える影響は大きい。

肋間筋へのアプローチは難しいし、痛みも出やすい。

しかし、皮膚へのアプローチは比較的簡単ですぐできるので是非試してみてください。

1.呼吸にて胸郭の特に動いていない部分を評価
2.動いていない部分の肋骨上の皮膚を母指と示指でつまむ
3.つまんだままその部分へ空気を入れるように意識してもらい、深呼吸を繰り返す

 

 

横隔膜リリース

横隔膜が硬くなった結果、腹筋群が固まっている場合も多い。

横隔膜の柔軟性が改善されると、腹筋群の緊張もとれるし、胸郭も解放されて呼吸運動も改善、胸椎の動きの改善につながる。

1.第10肋骨下縁を触診、硬い部分を探す
2.深呼吸をして呼気に合わせてゆっくり肋骨の内側をえぐるように押す

 

胸椎に対する関節可動域運動

これも頚椎と同様に、最初の方向づけをしてあげることが重要。

臨床では、関節可動域運動によって可動域を改善するというよりは運動療法によって脊柱の動かし方を覚えていった結果として、可動域が改善するというパターンが多いですね。

 

胸椎に対する運動療法

重要なのは、伸展・回旋の動き。
これを丁寧に丁寧に実施していきます。

背臥位での胸椎伸展運動

1.背臥位にて肘を床に押し付ける
2.そのまま胸骨を後傾させるように胸椎を伸展

<ポイント>
・肩甲帯が挙上しないように
・腰椎の伸展で代償しないように
・吸気に合わせておこなう

側臥位での胸椎伸展・回旋運動

1.下側の下肢は伸展位、上側の下肢は股・膝関節屈曲位で床へつけ、腰椎伸展位とする
2.上側の手を頭部へもっていき、後方を振り向くように胸椎を回旋

<ポイント>
・腰椎の回旋が出ないように伸展位で固定
・吸気に合わせて回旋

 

四つ這いでの胸椎伸展・回旋運動

1.四つ這いとなる
2.片方の手を頭部へ持っていき、肘を天井に向けるように伸展・回旋

<ポイント>
・腰椎の回旋が出ないように腰部は脱力して伸展位へ
・吸気に合わせて回旋
・肘が天井を向けば可動域は十分

 

 

腰椎ってそもそもどんな関節?

腰椎も大事なのはわかるけど、評価やアプローチ法がよくわからない…。

よく分からないから、とりあえず屈伸の可動域をみたり腹筋運動をしてみたり。

特に若手セラピストには多いのではないしょうか?

実際、腰椎と一言で言ってもL1~5まで5つの椎体から構成されており、それぞれで椎間関節を構成しています。

さらに、腰椎には腰椎の特徴があり、頸椎や胸椎とは違うということを理解しておかなくてはいけません。

・腰椎がどのような特徴を持つのか
・どんな関節が関与してどんな構造をしているのか
・どの筋肉が関与するのか

この辺が理解できれば、どのように触って動かして、どこの制限を解消して、どこをトレーニングすべきか分かってきます。

 

腰椎の機能的な特徴

一つは、上半身からかかる荷重を受け止め、身体に広く分散し吸収して身体にかかる衝撃をやわらげるという役割を持ちます。

普段私たちは何気なく生活していますが、衝撃の吸収ができないということは、動作の一つ一つによって自分自身で身体を痛めつけているようなものなので、とても重要な役割です。

荷重を受け止める役割を持つため、他の椎体に比べて椎体自体が大きくできています。

 

さらに、衝撃の分散・吸収において重要なのが、腰椎の生理的前彎です。

脊柱は彎曲を作ることによって、真っ直ぐな場合に比べて約10倍もの強度があるとされています。

ですので、この彎曲が保たれないと脊柱の強度は減少し、椎体自体の障害や代償による他の部位の痛みなどにつながります。

過度に前彎していても後彎していても過剰にストレスがかかってしまうので、可動域制限がなく適度な可動性を有しており、前彎にも後彎にも機能的に変化できる状態が理想と言えます。

 

臨床では屈伸どちらかに著名に制限がある場合、どちらの方向にも制限がある場合、色々な場合が存在しますが、共通して言えることは偏りがあると一部分にストレスがかかりやすいということ。

どの方向にも制限がなく、動けることが理想です。

 

もう一つは、腰椎はスタビリティとしての役割を持つ関節です。

以下の図をみると、身体の関節はスタビリティとモビリティが交互になるように分布しています。

腰椎がスタビリティを担うことで下部にある股関節はモビリティとしての役割を果たすことができますし、上部にある胸椎も同様にモビリティとしての役割を果たすことができます。

しかし、腰椎はスタビリティとしての役割を持ちながらも頚椎に次いで大きな運動性と可動性を有しています。

つまり、動的にも静的にも安定していないと腰椎本来の機能を発揮できないのです。

 

動的な制御のためには筋組織による働きが必要で、そのためにインナーユニットの働きが重要となります。

ここまでで説明してきた、大腰筋や多裂筋などのインナーマッスルですね。

インナーマッスルによる安定性が得られることで動きが伴います。
動きが出ないからといって、闇雲にROMexをおこなうことは逆効果になりかねない。

重要なことなので、頭に入れておいてくださいね。

 

腰椎の構造的な特徴

一つは、腰椎は他の椎体と比べ、大きな運動性と可動性を持っています。

頚椎・胸椎と違い、胸郭や肋骨による支持性が得られないため、その分大きな可動性を有しています。

どのくらいの可動性を有しているかというと、以下の表をご参照ください。

胸椎と比較してみると回旋の動きに乏しく、屈伸の動きが大きいことがわかると思います。

そして、下位腰椎にいくほど屈伸の動きが大きくなることも特徴的です。

これには、椎間関節の構造が関係しています。

 

椎間関節の関節面の向きが胸椎では前額面へ、つまり前後に向いており、回旋を制限しにくい構造になっています。

腰椎では矢状面へ、つまり横に向いており、屈伸を制限しにくい構造になっています。

さらに、関節面が矢状面と平行なので前方転位に対する抵抗力が弱く、前方滑り発生の原因となります。

この構造から腰椎は回旋の動きにはあまり強くないことが言えますので、腰椎を主体とした過度な回旋ストレスが障害を引き起こす可能性があります。

胸椎は回旋、腰椎は屈伸といったそれぞれの椎体の構造に合った自然な動きを引き出すことが可動域の改善、椎体周囲筋群の筋発揮力の増加につながります。

 

もう一つは他の椎体レベルと比較して前縦靭帯・後縦靭帯が発達しており、後屈・前屈を制限しています。

上述した通り、腰椎レベルでは屈伸の可動性が大きい構造となっています。

そのため、椎間板にかかるストレスが大きくなり、過剰なストレスがかからないように靭帯によって制動していると言えます。

上述しましたが、椎間関節が矢状面に平行なため、前方転位に対する抵抗力が弱いのでそれを制動するための靭帯も重要となります。

椎間関節周囲では、黄色靭帯、棘間靭帯、棘上靭帯が関与しています。

屈伸による各組織への影響は以下をご参照ください。

もう一つは、腰椎には剪断力が加わりやすいということ。

脊柱全体でみると緩くS字のカーブを描いており、頚椎は前彎、胸椎は後彎、腰椎は前彎しています。

腰椎の前彎に伴い、L5-S1で構成される腰仙関節では約35°の傾斜角度がついており、立位下では常に前下方へのすべり落ちようとする力、剪断力が加わっていることになります。

この剪断力は平均的に体重の約1/2程度の負荷量がかかっているとされています。

 

前縦靭帯、腸腰靭帯が剪断力に対して制動していますが、「インナーユニット」の働きも重要となります。

インナーユニットは、腹横筋、横隔膜、多裂筋、骨盤底筋群の4つから構成されます。

<インナーユニットが働くことによるメリット>
・仙腸関節の安定
・腹圧の向上
・予測的姿勢制御

インナーユニットが働くと上記のような効果があり、結果的に腰椎の安定性にも関与しています。

 

個人的には、これら4つ筋肉で囲まれた中心に位置する大腰筋を効かせることで、結果的により効果的にインナーユニットを機能させることができると考えています。

結果的にというのがポイントで、そもそもインナーマッスルは意識的に働くものではないので、働きやすい環境を整えて無意識的に機能するのが理想です。

<骨盤と仙骨の関係>
骨盤が後傾する際、仙骨はうなずき(伸展)、腸骨に対してL5は屈曲方向に動く
骨盤が前傾する際、仙骨は起き上がり(屈曲)、腸骨に対してL5は伸展方向に動く

仙腸関節の可動性が保たれていることで上記のような関係が成り立ちますが、可動性が制限されていると腰仙関節に対してその分動きが要求されるため、ストレスが大きくなります。

ですので、仙腸関節との関係性を考慮することも必要になります。

 

腰椎におけるゴール設定

ここまでの腰椎とはそもそもどういった関節なのか理解できたら、ゴール設定を明確にしておく必要があります。

ここでいうゴールとは、胸椎の理想の状態を考えて現在の状態と比較して何が足りないのか?差を考えることで、すべき評価・アプローチもおのずと出てくると思います。

理想の腰椎の状態を明確に 

現在の腰椎の状態との比較

理想と現在の差を埋めるための評価・アプローチ

このような流れですね!

結論から言うと以下の2点が重要。 
・代償して過剰に可動性が要求されていないか
・大腰筋が機能しているか

 

代償して過剰に可動性が要求されていないか

圧迫骨折や椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などの腰椎の障害を担当する際は、これまで挙げた腰椎の特性を活かして臨床展開していく必要があります。

大事になるのは、外傷による骨折などは例外ですが、どの疾患も局所に過剰なストレスがかかっているから二次的に発症しています。

腰部にストレスがかかる要因がないのに、外傷以外で腰部疾患を発症することはありえないですよね。

なぜ発症したのか、ストレスがかかっているのかを評価していく必要があります。

 

多いのは、スタビリティとしての役割がモビリティとして働いてしまっているために過剰なストレスとなっています。

ですので、上下の胸椎・股関節の可動性を十分に引き出してから腰椎の安定性を高めるようにアプローチすると良いと思います。

具体的には、上述した通り、身体全体として腰椎を捉えるとスタビリティとしての役割を腰椎は持っています。

スタビリティとしての役割を持っているのに、モビリティ、つまり可動性が過剰に要求されるとその役割を十分に発揮することができない。

それどころか、本来そんなに動く構造になっていないため、ヘルニアなどの疾患を発症する要因になってしまうのです。

 

そのために、胸椎と股関節を評価すると良いということですが、胸椎に関しては既にまとめてありますので上記を参照していただければと思います。

股関節に関しては、別に下肢についてまとめたnoteがありますので詳しくそちらを参照ください。

後述する大腰筋に関しての内容が股関節に通じる部分があるので、そちらも合わせて参照してください。

 

大腰筋が機能しているか

起始:浅頭-Th12〜L4の椎体および肋骨突起
   深頭-全ての腰椎の肋骨突起
停止:小転子
作用:股関節屈曲・外旋
   腰椎前弯
   脊柱の安定化
髄節レベル:L2〜L4
神経支配:腰神経叢および大腿神経

上記のように、体幹と下肢をつなぐ唯一の筋肉。

腰椎だけでなく、股関節の動きにも関与しています。

浅頭では肋骨突起からより前方の椎体に付着しているため、矢状面の運動に関与、深頭ではより外側の肋骨突起に付着しているため前額面・水平面の運動に関与していると予測できます。

つまり、全ての面での動きに大腰筋が関与しているということ。

腰椎の動きに大腰筋が欠かせないことがわかりますね。

 

<股関節の屈曲角度における大腰筋の作用>
0〜15°:大腿骨頭の圧迫
       股関節安定化
15~45° :脊柱の直立
45~90° :股関節屈曲

上記のように股関節の屈曲角度によって大腰筋の作用が変化します。

 

ここで注目してほしいのが、0〜45°の角度。

大腿骨頭の圧迫、股関節の安定化、脊柱の直立に作用しますが、この角度は立位で活動するときに当てはまりますよね?

要するに、立位で活動時に大腰筋が働くことで、腰椎も股関節も安定して動くことができるということ。

かなり重要な作用ですよね。

 

評価としては、長座位が取れる方は長座位での評価がかなり使えます。

長座位で骨盤前傾、脊柱を直立化して保持するだけで大腰筋の力をかなり使うので、大腰筋が機能していないとこの姿勢を保つことは難しいです。

直接触診する方法もシンプルにわかりやすい。

・腹部からの触診
・スカルパ三角からの触診

この二つの部位で触れることができます。

 

腹部からの触診

大腰筋は椎体に付着しているくらいですから腹部からだとかなり深部にありますが、ゆっくりと深く指を進めることで筋繊維を触れることができます。

1.背臥位、股関節屈曲・外転約45°で腹筋群を緩めた状態にする
2.腹直筋の側面から椎体を触れるイメージで斜め下方へ押圧していく

腹部はデリケートな部位なので、ゆっくりと痛みが出ないように慎重に押圧していきます。

みぞおちから鼠蹊靭帯の辺りまで固い部位を触診しつつ探します。

固い部分があればそのまま持続的に押圧したり筋繊維に対して横方向へ横断マッサージしてみてください。

 

スカルパ三角からの触診

スカルパ三角は鼠蹊靭帯、長内転筋、縫工筋で囲まれる三角形の部分を指します。

大腿動脈の外側で停止部を触れることができます。

*血流の拍動を感じたらおそらく大腿動脈を触れているので強く触れないように注意してください!

大腰筋の外側では大腿直筋と隣り合っており、互いにくっつき癒着を起こしてしまいやすい部位であるので大腰筋から大腿直筋をはがすように押圧してみてください。

 

腰椎の治療戦略

今までの内容をまとめてどのように進めていけば良いのか考えてみます。

腰椎の可動性が過度に要求されていないか評価(胸椎、股関節の制限がないか)

大腰筋が機能しているか、機能できる状態か評価

各可動性、大腰筋の機能不全を改善

各部位を連動させた動作戦略へ

各部位の可動性を十分に引き出し、大腰筋が適切に機能できる環境を整えて、さらに各筋肉が使えるように徒手療法、運動療法を行っていくという流れです。

 

腰椎に対する筋間リリース

大腰筋-腸骨筋

腸腰筋として一括りにされがちですが、両筋の作用は全然違うし別々に働いてこそ機能します。

そして、両筋間は癒着を起こしやすい部位でもあるため、癒着を剥がしておきましょう。

リリース手順は以下のとおり。

1.大腰筋-腸骨筋間に指を入れ、腸骨筋から大腰筋を内側へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま股関節の回旋運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

胸椎のところで紹介した、腹筋群のリリースで既にかなり腰部も制限が解放されているはずです。

腹部のリリースを丁寧におこないましょう。

腰椎に対する関節可動域運動

頚椎、胸椎と同様に、最初の方向づけをしてあげることが重要。

臨床では、関節可動域運動によって可動域を改善するというよりは運動療法によって脊柱の動かし方を覚えていった結果として、可動域が改善するというパターンが多いですね。

 

腰椎に対する運動療法

大腰筋に対して主にアプローチしていきます。

大腰筋は遅筋線維であるため、ゆっくりとした速度で低負荷、さらに0〜45°の作用は遠心性の作用のため、股関節伸展を伴うような遠心性の運動が大腰筋には適しているということになります。

それをふまえていくつか私も実際に臨床で指導している運動療法をご紹介します。

背臥位での運動療法

1.背臥位で両膝を立て、片側の下腿を膝の上に乗せる
2.乗せた下腿を膝の上で滑らせるように股関節の屈曲・伸展を繰り返す

<ポイント>
・股関節屈曲45°以上で行う
・ゆっくりとした速度で過負荷にならないよう注意する
・骨盤、腰椎による代償動作が入らないように注意する

腹臥位での運動療法

1.腹臥位で股関節内旋位、膝関節伸展位とする
2.膝伸展位を保持したまま股関節を伸展させる

<ポイント>
・脊柱起立筋による代償が入らないように注意する(アウターマッスルである脊柱起立筋が優位に働くとインナーマッスルである大腰筋は抑制されます)
・大殿筋が優位に働かないように注意し、ハムストリングスが優位に収縮するように促す(仙腸関節を挟んで大腰筋とハムストリングスは拮抗関係にあるのでハムストリングスを優位に働かせることが重要)
・股関節内旋位とすることで大内転筋が優位に働く(坐骨結節でハムストリングスと長内転筋を介して腸腰筋との筋連結があるので、大内転筋を優位に働かせることで腸腰筋が優位に働きやすくなります)

 

立位での運動療法

1.立位で肩幅程度に足を開く
2.つま先は前方へまっすぐ、外側に向かないようにする
3.膝が足部より前方へ出ないように注意しつつ、臀部を後上方へ、体幹を前屈方向へ倒す
4.ハムストリングスの起始部の伸張感が感じられたら元の位置へ戻る

<ポイント>
・膝が足部より前方へ出ないように注意する(膝が前方へ出すぎると大腿四頭筋が優位に働き、大腰筋は抑制されてしまいます)
・大腿四頭筋を抑制して運動を実施することで大腰筋が優位に働く
・股関節、仙腸関節、腰椎の連動した動きを高めることができる

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございます!

文章におこすと長く感じるかもしれませんが、頭で理解できればそれほど難しくはありません。

本noteに書いてある内容を読んで実践する。これを臨床でひたすら繰り返すことで、考えて動くのではなく、自然と評価・アプローチが次々に展開できるようになってきます。

私自身がそうだったから。

内容は日々ブラッシュアップして更新していきますので、その都度確認していただければと思います!

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。