リハ塾~臨床の教科書 股関節特化note~

目次

・股関節ってそもそもどんな関節?
・股関節の構造
・股関節の適合性の良い、悪い
・股関節における重要な機能解剖
・股関節における運動連鎖
・股関節の痛みの原因
・股関節の可動域制限の原因
・股関節周囲組織の癒着
・骨盤、腰椎の評価
・股関節と姿勢の関係
・股関節に対する徒手療法
・股関節に対する関節可動域運動
・股関節に対する運動療法
・股関節の疾患別における特徴

股関節ってそもそもどんな関節?

そもそも股関節がどういった関節なのかを理解しておかないと始まりません。

難しく考えず、シンプルに考えてみましょう。
主に以下の3つの特徴を持ちます。

・下肢と体幹を連結する関節
・前方と外側に不安定な関節
・後方筋群の密度が高い

下肢と体幹をつないでおり、自由度が高い関節だが不安定性も高い。

逆に言えば、不安定性を補おうと筋緊張が高くなりやすく、密度の高い後方筋群が特に緊張が高く固くなりやすいです。

この特徴を考えるだけでも、じゃあ不安定性を出さないためにはどうしたらいいか?
不安定性を高くしている要素は何があるか?と考えることができます。

 

下肢と体幹を連結する関節

見た通りですが、股関節は体幹と下肢を繋いでいる関節。

ここで重要なのが、下肢からの力を体幹へ伝達する、体幹からの力を下肢へ伝達するということ。

 

そのため、隣接している骨盤(仙腸関節)、腰椎との関係が深く、
股関節→骨盤・腰椎、骨盤・腰椎→股関節への双方向の影響を考慮する必要があります。
股関節を評価する上で骨盤↔腰椎↔股関節の関係性を頭に入れて考えないといけないわけです。

股関節に障害がある場合、上記のどこで関係が崩れているかを評価する必要があります。

 

歩行時、体幹と股関節がうまく連動できている場合は体幹:股関節=50:50の力が必要だとする。
対して、連動が不十分な場合、体幹:股関節=30:70と足りない分を股関節で過剰に力を発揮して代償することが考えられます。

このように、股関節が過剰に働いている状態では球関節としての自由度が高いという特徴を活かしきれていません。

 

このような状態で歩行をはじめとする下肢筋力が求められる動作において、股関節へ過剰な負担となるため、オーバーユースによる炎症や痛みが起こる可能性があります。

つまり、股関節における痛みというのは、体幹との関係性が崩れた結果、足りない筋力、可動域を代償して過剰に負担がかかっている状態と言い換えることができます。

 

股関節における障害というのは、以下のようなものと覚えましょう。
・股関節↔骨盤↔腰椎のどこかで連動が阻害されている
・どこかを代償した結果、股関節に過剰な負担がかかっている

 

前方と外側に不安定な関節

臼蓋は骨頭の2/3を覆っていて、内側、後方、上方を覆っています。

骨頭の前方、外側は臼蓋が覆っていないのでその方向は必然的に構造的に不安定となります。
関節運動でいうと、伸展と内転ですね。

その不安定さを補っているものが関節包や靭帯などの静的な安定性に関わる組織、動的な安定性に関わる筋肉です。

<静的な安定性に関わる組織>
・関節包
・関節唇
・靭帯
 関節包内靭帯:大腿骨頭靭帯、寛骨臼横靭帯、輪帯
 関節包外靭帯:腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯、坐骨大腿靭帯
*腸骨大腿靭帯、恥骨大腿靭帯が前方の安定性に関わる靭帯です。

<動的な安定性に関わる組織>
・腸骨筋
・大腰筋

腸骨筋、大腰筋の二つを合わせて腸腰筋と呼び、股関節において最重要と言ってもいいくらい重要な筋肉。

 

この構造から考えるポイントとしては以下の通り。
・伸展、内転に制限があるといって安易にストレッチすると危ないケースもある
・不安定さを補うために緊張を高めているのであって、不安定さを起こしている原因が背景にあると疑う

 

後方筋群の密度が高い

股関節周囲筋を見ると、前方の筋群に比べて後方の筋群が多く、密度が高いです。
ということは、後方筋群の柔軟性の低下により骨頭の前方偏位が助長されやすいということです。

<股関節後方筋群>
・大殿筋
・中殿筋
・大腿筋膜張筋
・小殿筋
・梨状筋
・内、外閉鎖筋
・上、下双子筋
・大腿方形筋

<股関節前方筋群>
・大腿直筋
・大腰筋
・腸骨筋

 

骨頭の前方への不安定さと後方筋群の柔軟性低下と合わさると容易に前方へ偏位してしまいます。

腸腰筋は股関節におけるインナーマッスルで機能不全をおこしている場合、アウターマッスルの緊張を高めて関節の安定性を得ようとするため、可動性は低下してしまいます。
このことから、関節構造的にも筋肉の配置的にも骨頭が前方へ偏位しやすく、それに伴って腸腰筋が緊張を高めて対応する戦略となりやすく、可動性が低下、モビリティとしての役割も失われてしまうということが考えられます。

このような股関節としての前提を理解した上で評価すると評価・アプローチもスムーズに進めることができるかと思います。

 

ここでのポイントは以下の通り。
・前方筋群の緊張の高さが後方筋群に由来している場合、前方筋群を緩めてもすぐに戻ってしまう可能性がある
・前方筋群より先に後方筋群の緊張を整えたほうが良い

 

股関節の構造

股関節を構成するのは、大腿骨と寛骨。
二つの骨の構造を理解しておくことは股関節を評価する上非常に重要なこと。

大腿骨の形態

脛体角

前額面上では、大腿骨には大腿骨長軸と頸部から成る頸体角と呼ばれる約125°の角度が存在しています。
これより角度が少ないと内反股、大きいと外反股と呼ばれます。

 

前捻角

水平面上では、大腿骨頸部が大腿骨内外側顆を通る内外軸に対して10~15°前方に捻れている前捻角と呼ばれる角度が存在しています。
この前捻角が15°より大きくなると過度前捻と呼ばれ、少なくなると後捻と呼ばれます。

 

寛骨の形態

CE角

前額面上で臼蓋の大腿骨頭を覆う程度を表しているCE角と呼ばれるものがあります。

これは、前額面上で骨頭中心に対する垂線と骨頭中心と臼蓋上縁を結んだ線とのなす角度のことを指し、正常では約35°です。
この角度が少なくなる、より垂直に近づくと骨頭に対する臼蓋の被覆率は低くなり、脱臼のリスクが高まると言えます。

骨盤の動きで言うと、前傾することで前額面上では坐骨結節が開くように動くため臼蓋上縁は内側へ動き、CE角は減少します。

 

寛骨臼前傾角

水平面で臼蓋が骨頭を囲む角度である寛骨臼前傾角と呼ばれるものが存在しています。

骨頭の前後を結ぶ線と寛骨臼の後縁と前縁を結んだ線からなる角度で、これは20°が正常であり、骨頭の前方は臼蓋で覆われてはいません。
ですので、構造上骨頭は前方に脱臼しやすく、後方は安定性が高い構造となっています。

骨盤が固定した状態で大腿骨を動かす場合、内旋すると骨頭は後方へ向くため関節適合性が高まると言えます。

 

股関節構造から考える股関節の適合性

上記の大腿骨、寛骨の形態から股関節をどのように捉えるか。

どうしたら不安定になるのか、どうしたら安定性が高くなるのか。
必ずしもそうとは言い切れませんが、構造が分かればどう動かすべきか、どう誘導すべきかある程度理解できます。

 

大腿骨形状から考える股関節の安定性

125°の脛体角と15°の前捻角から屈伸・回旋0°であれば、骨頭は前上方内側に向いていることになります。
大腿骨がこのポジションで固定されている場合、臼蓋を後下方へ向けると骨頭にうまくはまります。

つまり、大腿骨に対して骨盤前傾位が骨頭を臼蓋が覆う被覆率が高まり、安定性が高いポジション。
反対に骨盤後傾であると、臼蓋は前方へ向くため前方の被覆率はより低下してしまい、不安定なポジションとなる。

・骨盤前傾→股関節安定性↑
・骨盤後傾→股関節安定性↓

このように覚えましょう。

 

変形性股関節症や臼蓋形成不全などの症例では、元々臼蓋が浅く骨性支持が得られにくかったり、筋による制御も不十分であるため、骨盤を前傾位で固定して被覆率を高めたポジションで歩行や動作を行う場面をよく見かけます。

これは、不安定な関節をどうしたら安定できるか?となった結果として骨盤前傾という対応をしています。

ですので、前傾が強すぎる!と安易に後傾方向へ誘導したり、前傾へ引っ張っている筋を緩めたりすると、不安定感から痛みを増強させたりうまく歩行できないといったことになる可能性があります。

 

重要なのは、なぜ骨盤前傾という戦略をとる必要があるのか?という視点。

 

例えば、腸腰筋が機能していれば骨頭は求心位に保持でき、過度な骨盤の前傾による股関節の安定化を図る必要ない。

という仮説を立てると、腸腰筋は機能しているのか?腸腰筋が機能するにはどうするべきか?と考察することができます。

腸腰筋が関与する関節や拮抗筋との関係性など、様々な要因がありますがそれを一つ一つ検証していくのです。

 

寛骨形状から考える股関節の安定性

35°のCE角と20°の寛骨臼前傾角から前後傾・回旋・側方傾斜が0°であれば、臼蓋は前下方へ向いていることになります。
寛骨がこのポジションで固定されている場合、大腿骨は屈曲・外転・外旋または伸展・外転・内旋すると臼蓋に向けて骨頭を動かすことができます。

 

以下のように覚えましょう。

・大腿骨屈曲・外転・外旋または伸展・外転・内旋→安定性↑
・大腿骨屈曲・内転・内旋または伸展・内転・外旋→安定性↓

あくまでも、骨盤が動かず大腿骨が動く場合ですが。

 

股関節運動構成要素

股関節屈曲時、純粋な大腿骨のみによる運動では90°程度しか動きません。

それ以上動かすと関節窩から大腿骨頭が外れてしまうので脱臼してしまいます。

それ以上は骨盤と腰椎の動きを含んでいます。

股関節運動=大腿骨+骨盤+腰椎

このように表すことができ、この内どこかに制限があっても股関節運動は制限されるわけです。

例えば、股関節屈曲時に腰椎がほとんど可動性がなかったとしたら。
その動かない分を代償して股関節または骨盤に過剰に負担がかかってしまいます。
その結果、それが痛みを作ってしまったり、軟部組織のタイトネスを作り出してしまいます。

 

大腿骨盤リズム

上記のメカニズムを理解するには大腿骨盤リズムを理解しましょう。

・股関節屈曲10°まで骨盤の前傾運動
・10~90°に至るまで骨盤後傾運動1°に対して股関節屈曲6°の割り合いで変化(骨盤:大腿骨=1:6で変化)

このように、大腿骨の動きには骨盤が必ずセットで動いています。
さらに、骨盤の動きには腰椎が追随する。

これを考えると、股関節の可動域や筋力を考える上で骨盤に対する大腿骨運動だけを見るのは不十分だと分かります。

 

股関節における重要な機能解剖

私が考える股関節周囲の重要な解剖についてまとめてあります。

大腰筋

起始:浅頭-Th12~L4椎体および肋骨突起
   深頭-全ての腰椎の肋骨突起
停止:小転子
作用:股関節屈曲・外旋
   腰椎前彎・側屈(片側のみの収縮)
   脊柱の安定化
髄節レベル:L2~L4
支配神経:腰神経叢および大腿神経

腰椎から小転子にかけて走行しており、股関節における最重要と言っても過言ではないくらい重要なインナーマッスルです。

大腰筋の機能が低下すると、腰椎にも股関節にも影響を与えるため担う役割としては大きいものがあります。

 

股関節屈曲角度における作用の違い

0~15°:大腿骨頭の圧迫
     股関節の安定化
15~45°:脊柱の直立
45~90°:股関節屈曲

0~15°では、臼蓋に対して大腿骨頭を求心位に保ち、股関節の安定性に働いています。
15~45°では、腰椎を前湾させて脊柱を構造的に安定させるように働いています。

 

大腰筋は上部では横隔膜と連結していますので、腰椎の前湾に伴って横隔膜は下方へ牽引されて張力が増します。

さらに、骨盤は前傾方向へ傾き、骨盤底筋群の張力も増します。
これによって、体幹は構造的にも機能的にも安定化します。

 

45°からようやく股関節の屈曲に働きます。
0~45°までは遠心性の収縮による作用であり、45°以上が求心性の作用となります。

このことから、求心性の大腰筋の機能を高めるのならば、股関節屈曲45°以上で運動療法を実施しなければあまり効果は期待できないということが言えます。

歩行など日常生活上において股関節45°以上を要求される動作はほとんどないと思います。

 

歩行に関して言えば、立脚中期〜後期の股関節伸展によって大腰筋が伸張されてその張力によって遊脚期へと移行します。

つまり、遠心性収縮を伴った股関節伸展運動が重要。

 

また、大腰筋を構成する筋繊維は白筋繊維:赤筋繊維(%)=50:50となっています。

赤筋繊維(遅筋)は酸素をより効率的に使用し、長期的な筋収縮のためのエネルギーを作り出すことに優れています。

短距離走など瞬発力が要求される運動よりは、マラソンなど持久力が要求される運動で使われますね。

脊柱や股関節を安定させる抗重力筋としての機能を鍛えるには、早くて高負荷の運動よりは遅く低負荷の運動の方が適していると言えます。

 

ハムストリングス

<大腿二頭筋>
起始:長頭-坐骨結節
   短頭-大腿骨粗面の外側唇の中部1/3
      外側筋間中隔
停止:腓骨頭
作用:股関節伸展・内転
   膝関節屈曲
   下腿外旋
髄節レベル:L5~S1
支配神経:長頭-脛骨神経
     短頭-総腓骨神経

<半膜様筋>
起始:坐骨結節
停止:脛骨の内側顆
   顆間線および外側上顆
   斜膝窩靭帯
作用:膝関節屈曲
   股関節伸展
   下腿内旋
髄節レベル:L5~S2
支配神経:脛骨神経

<半腱様筋>
起始:坐骨結節
停止:脛骨粗面の内側
作用:膝関節屈曲
   股関節伸展
   下腿内旋
髄節レベル:L5~S2
支配神経:脛骨神経

ハムストリングスは膝関節屈筋というイメージが強いですが、股関節伸展にも作用します。
さらに、寛骨を介して大腰筋と拮抗する関係にあるため、ハムストリングスの機能が大腰筋に影響を与えますし、逆もまた然り。

股関節伸展時、大内転筋が最も大きいモーメントアームを有し、大腿二頭筋、半膜様筋・半腱様筋が次いで大きなモーメントアームを発揮します。

特に半膜様筋は股関節伸展筋の中でも大殿筋とともに最大の横断面積を持ちます。

ハムストリングスの股関節伸展に対する役割は大きく、中でも内側ハムストリングスの働きは重要となります。

 

内転筋群

<大内転筋>
起始:前側-坐骨枝の前面及び坐骨結節
   後側-恥骨下枝
停止:前側-大腿骨内側上顆(内転筋結節)
   後側-大腿骨粗面の内側唇
作用:股関節内旋・内転・伸展
髄節レベル:L2~S1
支配神経:前側-閉鎖神経
     後側-脛骨神経
<長内転筋>
起始:腸骨上枝(恥骨結節の下方)
停止:大腿骨粗線の内側唇中部の1/3の範囲
作用:股関節内転・屈曲
   股関節外転位での内旋
   (股関節屈曲90°で股関節伸展作用へ変化)
髄節レベル:L2~L4
支配神経:閉鎖神経の前枝

内転筋群の力線は多くの異なる方向から股関節に向かっているため、全ての運動方向においてトルクを生じます。

大内転筋後頭はハムストリングスと同様に股関節伸筋として強力に働き、残りの内転筋は股関節の肢位次第では屈筋にも伸筋にもなりえます。

股関節屈曲約60°を境にそれ以下では長内転筋は屈曲へ、それ以上では伸展へ働きます。

股関節内旋に働く主動作筋は存在しないが、股関節90°屈曲を境に内旋のモーメントアームは何倍にも増加する。
これは梨状筋が股関節90°屈曲位で内旋作用へ変わることからもいえることです。

 

臀筋群(中臀筋、大臀筋、大腿筋膜張筋)

<中殿筋>
起始:腸骨翼の殿筋面
   腸骨稜の外唇
   殿筋腱膜
停止:大腿骨の大転子の尖端と外側面
作用:股関節外転・内旋・屈曲(前部繊維)
         外旋・伸展(後部繊維)
髄節レベル:L4~S1
支配神経:上殿神経

<大殿筋>
起始:浅部-腸骨稜
      上前腸骨棘
      仙骨
      尾骨
   深部-腸骨翼の殿筋面
      仙結節靭帯
停止:上部-大腿筋膜の外側部で腸脛靭帯に移行
   下部-大腿骨の殿筋粗面
作用:股関節の伸展・外旋・外転(上方筋束)
             内転(下方筋束)
髄節レベル:L5~S2
支配神経:下殿神経

<大腿筋膜張筋>
起始:腸骨稜外唇の前部
   上前腸骨棘
   大腿筋膜の深面
停止:腸脛靭帯を介して脛骨外側顆の下方
作用:股関節の屈曲・内旋・外転
髄節レベル:L4~L5
支配神経:上殿神経

殿筋群をはじめとする、股関節後方の筋群は前方に比べて密度が高い。

股関節の構造上、後方の筋群がタイトネスとなると骨頭が前方へ押し出されてしまう。
その結果、大腰筋の機能も低下してしまう。

特に大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋の3つがタイトネスとなりやすく、それぞれの筋間で癒着が起こりやすいです。

股関節の可動域制限、拮抗筋の股関節前面の筋群の出力低下、膝・腰部痛の要因にもなりえます。

 

股関節における運動連鎖

運動連鎖は上行性と下降性に分けられる。
さらに、それを水平面、矢状面、前額面に分けて表すことができます。

ざっくりと以下のような流れになります。

●水平面での運動連鎖
<上行性運動連鎖>
・足関節回内→脛骨内旋→大腿骨外旋→骨盤前傾→腰椎反対側回旋→胸椎・頸椎同側回旋
・足関節回外→脛骨外旋→大腿骨内旋→骨盤後傾→腰椎同側回旋→胸椎・頸椎反対側回旋

<下降性運動連鎖>
・胸椎・頸椎同側回旋→腰椎反対側回旋→骨盤前傾→大腿骨外旋→脛骨内旋→足関節回内
・胸椎・頸椎反対側回旋→腰椎同側回旋→骨盤後傾→大腿骨内旋→脛骨外旋→足関節回外

●矢状面での運動連鎖
<上行性運動連鎖>
・足関節背屈→脛骨前傾→大腿骨後傾→骨盤後傾→腰椎後彎(体幹前屈)→頸椎伸展
・足関節底屈→脛骨後傾→大腿骨前傾→骨盤前傾→腰椎前彎(体幹後屈)→頸椎屈曲

<下降性運動連鎖>
・頸椎伸展→腰椎後彎(体幹前屈)→骨盤後傾→大腿骨後傾→脛骨前傾→足関節背屈
・頸椎屈曲→腰椎前彎(体幹後屈)→骨盤前傾→大腿骨前傾→脛骨後傾→足関節底屈

●前額面での運動連鎖
<上行性運動連鎖>
・足関節回内→脛骨内側傾斜→大腿骨外側傾斜→骨盤内側傾斜→腰椎同側側屈→胸椎・頸椎反対側屈
・足関節回外→脛骨外側傾斜→大腿骨内側傾斜→骨盤外側傾斜→腰椎反対側側屈→胸椎・頸椎同側側屈

<下降性運動連鎖>
・胸椎・頸椎反対側側屈→腰椎同側側屈→骨盤内側傾斜→大腿骨外側傾斜→脛骨内側傾斜→足関節回内
・胸椎・頸椎同側側屈→腰椎反対側側屈→骨盤外側傾斜→大腿骨内側傾斜→脛骨外側傾斜→足関節回外

基本的には、一つの部位が動いたら上下の部位は反対に動いて相殺します。

例えば、脛骨が外旋、大腿骨も外旋すると膝OAのように膝関節は内反してしまいますが、脛骨外旋に対して大腿骨が内旋すると内反することなく制動することができます。

つまり、上記の運動連鎖の流れから逸脱した動きがあれば、その部位に何かしら問題があってエラーが起こっている。

また、エラーがある部位には少なからず組織にストレスをかけているので、それが原因で痛みを誘発していたりします。

股関節において特に評価しておくべきは、大腿骨と骨盤の関係。

股関節の機能障害の多くは大腿骨と骨盤の位置関係のエラーが問題。

大腿骨頭に対して骨盤が向きを変えることができないと周囲組織にストレスをかけますし、逆もまた然り。

両骨それぞれが向きを合わせることで関節の適合性が守られるので、大腿骨と骨盤の動きはまず評価しておくべきです。

OKC、CKCではまた運動連鎖の関係が変化するため、両方で評価することが必要です。

 

<運動連鎖における評価のポイント>
・CKCで上記運動連鎖の流れから逸脱した動きがないか
・OKCで上記運動連鎖の流れで動くことができる余裕があるか
(ex.他動的に脛骨外旋に対して大腿骨内旋できる可動性の余裕があるかどうか)
・隣接する骨が同方向へ動いていないか

 

股関節の痛みの原因

股関節の痛みについて大まかに。

まず、変形性股関節症などによって軟骨がすり減っているから痛いというのは間違い。

関節軟骨には神経が通っていませんし、軟骨下骨にも同様に神経は通っていません。

つまり、痛みの原因は他にあるということ。
股関節痛について考えられる要因を以下に挙げています。

<股関節周囲の痛みの原因>
・軟骨周囲の摩擦による関節包への刺激
・軟骨下骨の骨髄内小脈のうっ血
・変形、拘縮による筋腱付着部の炎症
・筋膜の高密度化

痛みの原因は大きく分けて上記の4つ。

では、痛みの部位別に分けて考えるとどうなるか。
以下にまとめてあります。

 

・股関節前方の痛み
→関節前方でのインピンジメント(後方筋群タイトネスによる骨頭の前方偏
 位)
 前方組織の伸張時痛(大腰筋、大腿直筋)
 前方筋群タイトネスによる筋膜の高密度化

・股関節後方の痛み
→後方筋群タイトネスによる関節包内運動の変化での関節包への刺激
 後方組織の伸張時痛(大殿筋、梨状筋)
 後方筋群タイトネスによる筋膜の高密度化
 仙腸関節障害

・股関節外側の痛み
→外側筋群タイトネスによる筋膜の高密度化
 外側組織の伸張時痛(中殿筋、大腿筋膜張筋)

・股関節内側の痛み
→内側筋群タイトネスによる筋膜の高密度化
 内側組織の伸張時痛(大内転筋、長内転筋、恥骨筋)

いずれも軟部組織のタイトネスによって関節包、筋腱付着部、筋膜などに過剰な負担がかかった結果としての痛み。

骨盤や腰椎などの動きも総合的に評価して、どこに負担がかかっているのか、何で負担がかかってしまうのか、どのように修正すべきなのかを考えるべき。

マッサージして終わりではその場では良くても高確率で元に戻ってしまう。

 

股関節の可動域制限の原因

股関節の可動域制限の主な原因について。

屈曲制限

<後方筋群の短縮、癒着>
・大殿筋
・中殿筋
・ハムストリングス
・大内転筋
・梨状筋
・大腿方形筋

<前方組織のつまり、癒着>
・大腰筋
・腸骨筋
・大腿直筋
・大内転筋
・恥骨筋
・縫工筋
・大腿筋膜張筋

<腰椎、骨盤の後傾制限>
・広背筋
・腰方形筋
・脊柱起立筋

 

主な要因としてはざっくりと挙げると上記のようになる。

制限因子の鑑別は以下の流れ。

前方組織のつまり感、インピンジメント→股関節前方組織
股関節屈曲・内転・内旋制限→大殿筋、中殿筋
股関節屈曲位での内旋制限→梨状筋、大腿方形筋など外旋筋群
骨盤後傾制限→広背筋、脊柱起立筋

このようにある程度原因組織を特定した上で、各組織の癒着をはがす、ストレッチという流れ。

 

伸展制限

<前方筋群の短縮、癒着>
・大腰筋
・腸骨筋
・大腿直筋
・大内転筋
・恥骨筋
・縫工筋
・大腿筋膜張筋

<後方筋群のつまり、癒着>
・大殿筋
・中殿筋
・ハムストリングス
・大内転筋
・梨状筋
・大腿方形筋

<腰椎、骨盤の前傾制限>
・腹直筋
・広背筋
・腰方形筋
・脊柱起立筋

制限因子の鑑別は以下の通り。

・大腰筋、腸骨筋→膝関節伸展位での伸展制限
・大腿直筋→膝関節屈曲位での伸展制限
・大腿筋膜張筋→股関節内転、外旋位での伸展制限
・縫工筋→股関節内転、内旋位での伸展制限
・腹直筋→骨盤、腰椎の制限

 

外転制限

<内側筋群の短縮、癒着>
・大内転筋
・長内転筋
・恥骨筋
・薄筋

<外側筋群のつまり、癒着>
・中殿筋
・大臀筋
・大腿筋膜張筋

<腰椎、骨盤の制限>
・腰方形筋
・大腰筋
・脊柱起立筋

制限因子の鑑別は以下の通り。

・長内転筋→股関節屈曲位で外転
・大内転筋→より屈曲位で外転
・恥骨筋→股関節伸展位で外転
・薄筋→膝関節伸展位で外転

 

内転制限

<外側筋群の短縮、癒着>
・中臀筋
・大臀筋
・大腿筋膜張筋

<内側筋群の短縮、癒着>
・大内転筋
・長内転筋
・恥骨筋
・薄筋

<腰椎、骨盤の制限>
・腰方形筋
・大腰筋
・脊柱起立筋

制限因子の鑑別は以下の通り。

・大臀筋→股関節屈曲位での内転
・中臀筋→より股関節屈曲位での内転
・大腿筋膜張筋→股関節伸展、外旋位での内転

 

内旋制限

<外側筋群の短縮、癒着>
・梨状筋
・大腿方形筋
・内、外閉鎖筋
・上、下双子筋
・中臀筋
・大臀筋
・縫工筋

<内側筋群のつまり、癒着>
・恥骨筋
・大内転筋
・長内転筋

<腰椎、骨盤の制限>
・腰方形筋
・脊柱起立筋

制限因子の鑑別は以下の通り。

・股関節屈曲位→外旋六筋、中臀筋、大臀筋
・股関節伸展位→恥骨筋、縫工筋

 

外旋制限

<内側筋群の短縮、癒着>
・大内転筋
・長内転筋
・恥骨筋

<外側筋群のつまり、癒着>
・中臀筋
・大臀筋
・梨状筋
・大腿方形筋

<腰椎、骨盤の制限>
・腰方形筋
・脊柱起立筋

制限因子の鑑別は以下の通り。

・大内転筋→股関節屈曲位での内旋
・長内転筋→より屈曲位での内旋
・恥骨筋→股関節外転位での内旋
・中臀筋→股関節屈曲、内転位での内旋

 

股関節周囲組織の癒着

制限組織を特定しても単純なストレッチでは改善されないことが多い。

組織間で癒着していると、単一の組織を狙って伸張させることは難しいから。

要するに、癒着をはがしてから伸張すべき部位を伸張する必要があるということ。

 

後方組織の癒着

・中臀筋-大臀筋


・中臀筋-大腿筋膜張筋


・大臀筋-ハムストリングス


・大臀筋-外側広筋

 

前方組織の癒着

・大腰筋-腸骨筋


・外側広筋-大腿筋膜張筋
・鼠径靭帯-縫工筋

 

内側組織の癒着

・内側広筋-縫工筋
・縫工筋-長内転筋
・長内転筋-大内転筋
・大内転筋-内側ハムストリングス

 

外側組織の癒着

・腸頸靭帯-外側ハムストリングス
・腸頸靭帯-外側広筋

 

癒着がある部位を丁寧にはがしてあげることで、その時点でかなり可動域や筋出力は改善することが多い。

その上で短縮している組織に対してストレッチすることが良いでしょう。

 

骨盤・腰椎の評価

すでに説明していますが、股関節運動は大腿骨+骨盤+腰椎の複合運動。

つまり、股関節の評価に加えて、骨盤と腰椎の評価もおこなって複合的に考える必要がある。

以下に簡単なチェック方法をまとめてあります。

 

PSISとASISの関係

矢状面でASISに比べてPSISが1~2横指高いのが正常。

骨盤は前傾することで骨頭被覆率が高まり、股関節が安定します。

つまり、ASISが高くなっていると骨頭被覆率が低い、股関節が不安定な状態と言えます。

骨盤の位置関係が問題で股関節の筋出力が出しにくい、痛みが出ているということも考えられます。

 

骨盤の前方・後方偏位

これも矢状面の評価ですが、前傾・後傾とは違うことを認識しておきましょう。

骨盤の上下と比較すると分かりやすいです。

腰椎と比較してどうなのか、股関節と比較してどうなのか。

 

骨盤の側方偏位

矢状面に加えて前額面の評価も加えるとより評価精度が高まります。

例えば、右腰方形筋が短縮すると骨盤の右が挙上、左が下制。
全体としてみると左へ偏位します。

間違えやすいのが、腰椎・骨盤・股関節のどれの制限なのか。

腰椎が右へ側屈しても骨盤は左へ偏位しますし、左股関節が外旋しても骨盤は左へ偏位します。

骨盤がどちらへ偏位しているのかと、それが本当に骨盤由来のアライメントなのかもきっちり評価しましょう。

 

腰椎の彎曲

視診に加えて触診するとよりイメージがつきやすい。

視診で右に側弯していると評価して、触診でどの部位から湾曲がはじまり、どの部位が湾曲の頂点なのかを評価できると、より立体的にイメージがつき他の部位との関連を考えやすいです。

また、腰椎が左側弯しているとすると、頸椎は右側弯などバランスをとって代償的なアライメントを呈していることが多いです。
その代償的なアライメントも頸椎由来なのか、腰椎由来なのかまで評価できるとベストですね。

 

股関節と姿勢の関係

股関節運動を分解した際に、股関節運動=腰椎+骨盤+大腿骨の動きとなるため、大腿骨の動きだけでなく、腰椎と骨盤を含めて股関節運動を考える必要があることは説明しました。

それも重要ですが、歩行時など立位下での動作では股関節に対する体幹の位置関係が非常に重要となります。

足関節の上に脛骨が乗り、その上に大腿骨が乗り、その上に骨盤、さらに体幹が乗ることで骨性の安定を得ることができるため、無駄な筋肉の緊張がなく体を支えることができます。

多くの場合、このように安定した姿勢をとることができないため、軟部組織の張力に依存する、または、必要以上に緊張させて姿勢を保持する戦略となっています。

股関節が屈曲すると、運動連鎖で膝関節は屈曲、骨盤後傾、腰椎後彎となります。

この際、膝関節前面では大腿四頭筋、股関節後面では殿筋群の遠心性収縮、あるいは張力によって姿勢を保持しています。

姿勢を安定するためには、脛骨に対して大腿骨を前傾させる、大腿骨に対して骨盤を前方、体幹を伸展させる能力が求められます。

筋肉で言うと、ハムストリングスと大腰筋が作用することが必要。

立位下で両筋が協調的に働くことで脛骨-大腿骨-骨盤-体幹が直線上に位置することができ、安定します。

要するに、いくら臥位で筋トレをしてもそれが立位や歩行時に活きてくるかというと別の話。

立位でも作用できるような戦略が必要なのです。

 

股関節に対する徒手療法

股関節の筋力低下があるから筋トレをしたらいいかというとそんなに簡単にはいきません。

そもそも筋力低下なのか、筋力が発揮しにくい状態なのか理解すること、筋力を発揮しやすい状態に整えてあげることが重要。

上述しましたが、筋肉同士の癒着を丁寧にはがすことで筋出力、関節可動域も改善されることが多いです。
もちろん、それだけで全てが改善されるわけではありませんが。

 

<股関節機能を改善させるための手順>
1.軟部組織間の癒着を改善
2.短縮している組織をストレッチ
3.弱化している組織の収縮を促す
4.全身を連動させて動作につなげるための運動療法

上記のような流れで展開すると、スムーズにリハビリを進めることができる場合が多いです。

方法としては、以下の通り。

<筋間リリースの方法>
1.筋肉と筋肉の間、重なるポイントを触診
2.深層にある組織に対して浅層にある組織を剥がすように押し出す
3.癒着していると思われるポイント全てに実施

 

股関節に対する関節可動域制限

大腿骨と寛骨はそれぞれ形状の特徴があって、形状に合った関節の適合性が高まるポジションがあります。

そう考えると、可動域制限や痛みなどの症状が出現するのは、大腿骨と臼蓋との適合性が崩れている、適合性が低いポジションへ動いてしまうような運動パターンとなっていると言えます。

よくある誤解が体幹に対して真っ直ぐ屈伸するという認識。

骨形態を考えると真っ直ぐ屈伸すると骨頭が臼蓋から外れる方向へ動くため、脱臼・インピンジメントしてしまいます。

こうならないためには、臼蓋に対してはまるように骨頭の向きを調整しなければいけません。

大腿骨頸部がなければ真っ直ぐ屈伸することもあるかもしれませんが、125°の角度をもった頸部がついていることを考慮すると、頸部の軸に合わせた関節運動をすることが自然。

頸部の運動軸に沿った関節運動に対して抵抗する組織があると骨頭が関節窩からズレてしまいますので、関節面からズレない自然な関節の動きの理解が必要なのです。

 

股関節関節運動は以下のようになります。

・股関節屈曲=大腿骨屈曲・外転・外旋+寛骨後傾
・股関節伸展=大腿骨伸展・内転・内旋+寛骨前傾

 

屈曲時の関節運動

屈曲時の場合で考えると、脛体角があるので真っ直ぐではなく、頸部の長軸にそって軸回旋するように外側に向けて屈曲する必要があります。

屈曲に伴って骨頭は後方へ移動、外側へ屈曲する(外転方向)と骨頭は下方へ移動します。
このままだと、下後方へ脱臼してしまうので外旋して骨頭を前方へ向けます。

臼蓋は寛骨臼前傾角もあり、前方に比べ後方の方が深くなっているため、後方へ向くようにすると適合性が得られます。

つまり、骨頭が臼蓋から逸脱しないように屈曲するには、屈曲・外転・外旋の複合運動が必要なのです。

セラピストによるROMexにおいてもこの複合的な動きを意識して動かすべきです。

また、立位では先ほどと反対に骨頭に対して臼蓋の向きを変えなければいけません。
体幹、骨盤の抗重力位での操作能力が求められます。

屈曲時の骨頭向きは、前内方へ向くため臼蓋は後外方へ向きを変える必要があります。
言い換えると、骨盤後傾です。

屈曲時では、まずは臼蓋が前方を覆っていないという特徴をふまえて、少し屈曲方向へ動かすと骨頭は下方へ移動して被覆率が高まりますので、ここから脛体角を意識した対角線上に動かすと良いです。

<股関節屈曲運動の方法>
1.やや屈曲位へ大腿骨を誘導
2.屈曲位からやや外転・外旋位へ誘導
3.2のポジションから脛体角の軸回旋を意識して上外側へ誘導する
(この時、屈曲・外転・外旋の複合運動しながら)

 

伸展時の関節運動

伸展時の場合も同様に脛体角を考慮して、頸部の長軸にそって軸回転するように動く必要があります。

屈曲時は外側に向けてでしたので、真っ直ぐではなくそのライン上に合わせて内側へ向けて伸展します。
伸展位から屈曲位へは内側から外側へ斜めに動くことになりますね。

伸展時は骨頭が前方へ向くため、内旋・内転によって骨頭を後上方へ向けると臼蓋の適合性が高まることになります。

つまり、骨頭が臼蓋から逸脱しないように伸展するには、伸展・内転・内旋の複合運動が必要なのです。

ROMexにおいてもこのような複合的な動きを意識するべきです。

また、立位では骨頭に対して臼蓋の向きを変えなければいけず、伸展時の骨頭は後内方へ向くため臼蓋は前外方へ向きを変える必要があります。
言い換えると、骨盤前傾です。

伸展時では、まずは屈曲時と同様に臼蓋の前方が覆われていないことをふまえて、内旋方向へ動かすと骨頭が後方へ移動して被覆率が高まりますので、ここから脛体角を意識して対角線上に動かすと良いです。

<股関節伸展運動の方法>
1.やや内旋位へ大腿骨を誘導
2.内旋位から伸展・内転位へ誘導
3.2のポジションから脛体角の軸回旋を意識して下内側へ誘導する
(この時、伸展・内転・内旋の複合運動しながら)

 

股関節に対する運動療法

シンプルに考えて、短縮している組織は伸張させて弱化している組織は収縮させることでアライメントは良い方向へ向かうはず。

しかし、股関節単体で見てアライメントを整えても動作レベルで改善しないことにはあまり意味がなく、セラピストの自己満足に終わってしまう。

弱化している筋肉単体に対しては、セラピストによる徒手抵抗運動によって収縮を促しても良いが、その後動作レベルまでつなげることが最も重要。

 

大腰筋に対する運動療法①

大腰筋に対する運動療法②

大腰筋に対する運動療法③

大腰筋に対する運動療法④

ハムストリングスの運動療法

臀筋群の運動療法

コアユニットの運動療法

 

股関節の疾患別における特徴

ここまでの股関節の解剖学、運動学、痛みの生理学、それらから考える関節運動、徒手療法、運動療法を疾患別で考えると、どのようにリハビリを進めるのが良いのか。

股関節疾患の中でも担当するであろう機会が多い、大腿骨頸部骨折、変形性股関節症の二つに絞ってまとめてあります。

 

大腿骨頸部骨折のリハビリテーション

急性期(骨折後1~2週間)

この時期はまだ術後まもなく、手術で侵襲を受けた筋群が炎症を起こしている時期です。

ですので、過度な痛みを伴う運動や可動域を拡大しようと無理な関節可動域運動は炎症反応を助長する恐れがあるので注意が必要です。

多くは後方アプローチで殿筋群を切開していますので、侵襲による筋緊張の増加と股関節後方安定性を高めようと適応した結果としての筋緊張の増加が考えられます。

これによって、殿筋群は筋緊張が高く、痛みを訴える場合も多々あるかと思います。

しかし、ここで緊張を緩和しようとして安易にストレッチやマッサージを選択してはいけません。

まず、ストレッチによって切開した傷口が広がるようなことがあれば、当然痛いですしさらに緊張を高める、治癒が遅れるといったことが予測できます。

そもそも、股関節後方の安定性を高めようとした結果の殿筋群の筋緊張増加なので、緊張が緩和されたとしても股関節が不安定になってしまう、それによって痛みが出現することも予測できます。

この際に重要な考え方が、間接的に殿筋群を緩めるということ。

 

関節可動域運動

この時期は痛みが強い場合も多く、中々可動範囲を動かすことができないこともあります。

この時期に私がよく用いる手段としては、大腿骨遠位から骨頭に向けての反復押圧刺激です。

動かせる範囲だけ動かしてもいいのですが、やはり術後すぐに下肢を無造作に触られたり、動かされることには抵抗があるはず。

当然、変に力も入ってしまいますよね。

そんな時はクッションやセラピスト自身の足などを膝下や下腿の下に入れてリラックスできるポジショニングをしてあげること。

その上で、骨頭に向かって反復して軽く押圧刺激を加えます。

押圧刺激の反復でも関節内には動きが入るので、痛みを我慢してもらってまで無理に動かす必要はありません。

もちろん、痛みのない範囲で可動範囲を動かすことも必要ではありますよ。
私は両方をその方の状態を見つつ実施しています。

 

筋力トレーニング

上述した間接的に臀筋群を緩めるというのは、インナーマッスルの機能を高めるということ。

股関節のインナーマッスルは大腰筋があります。

大腰筋は骨頭を求心位に保つ作用があるので、股関節の安定性を高めることにつながります。

つまり、大腰筋によって股関節の安定性が得られたら、臀筋群の緊張を高めて安定性を得る必要がなくなるので、余計な力は抜けやすいということになります。

 

回復期(2~6週間)

2週間もしたら炎症反応も落ち着いてきますので、痛みも術後まもなくよりは落ち着いているはず。

痛みに合わせて積極的に関節可動域運動、筋力トレーニング、歩行練習など進めていきます。

 

関節可動域運動

ADLの獲得に向けて可動域の獲得は必須ですが、背臥位で下肢を操作すると急性期と同様に痛みや防御性収縮によって思うように動かせない場合もあります。

このような場合は、急性期の時の反復押圧に加えて端座位での運動をオススメします。

手で鼠径部を触れてもらいつつ、体幹の前屈をします。
体幹の前屈でも相対的に股関節は屈曲位になります。

臥位で緊張が高まってしまう方でも座位で自動運動ならそれほど緊張なくできる場合が多いです。

 

筋力トレーニング

急性期と同様に大腰筋のトレーニングをしつつ、臀筋群のトレーニングも加えていきます。

何と言っても弱りやすいのが股関節の伸筋。

伸展筋が十分にあり、歩行時の適切なタイミングで出力できることで歩行中の推進力が得られます。

詳しくは運動療法の部分を参照ください。

 

歩行練習

徐々に離床を進め、病棟ADLの拡大を図る必要があるので歩行練習も必須ですよね。

跛行で多いのが、骨盤前傾位での歩行。

これは、股関節の安定性が不十分なために骨盤を前傾位とすることで骨頭被覆率を高めて安定性を作り出した結果。

つまり、まずは股関節の安定性を改善するべき。

股関節の安定性を無視したまま、「もっと体起こして。」、「胸を張って歩いて。」など言ったり徒手的に誘導しても一時的には良いかもしれませんが、すぐに元に戻ることが予測できます。

このためにも、重要なのが筋力トレーニングでもお伝えした大腰筋の働き。

大腰筋の働きがあるからこそ、股関節が安定して動くことができるし、可動性を出すこともできる。

これは必ず頭に入れておきましょう。

 

回復期〜退院(6~8週間)

この時期は退院後の生活を想定してADL練習を積極的に実施します。

人工骨頭置換術を施行されている場合は、脱臼肢位について十分に本人、またはご家族に説明しておき、リハビリでの練習でも注意して取り組みましょう。

以下のポイントに注意しましょう。
もちろん、この時期だけではなく急性期からの指導も必要ですよ!

 

<ADL上の注意点>
・前方、後方どこからの侵入の手術か
・横座り時の肢位
・靴下、靴を履く祭の肢位
・ベッド上や畳などいざりして移動する場合の肢位や体の向き
・過屈曲となることはないか(低い座椅子に座ることがある、玄関で座って靴を履く際の上がり框の高さなど)

 

変形性股関節症のリハビリテーション

変形性股関節症では、手術によって骨アライメントが整って脱臼リスクや痛みが出現する可能性は減ったとはいえ、治ったわけではありません。

痛みは関節軟骨がすり減って起こっているわけではなく、関節包や周囲の軟部組織が機械的な刺激を受けることで発生しています。
軟部組織へのストレスは減るでしょうけど、本人の体の使い方が変わらなければ再び痛みや可動域制限を引き起こす可能性が十分に考えられます。

この考え方は保存療法では特に重要です。
手術と違って骨アライメントは悪いままですので、根本的な体の使い方を変えていくよう指導するべきなのです。

この考え方をすると、痛い部位のマッサージなんかでは良くならないのはイメージできますよね。

 

股関節の安定性

股関節の痛みを出さないために重要なのは一つだけ。

「関節の適合した状態を保つ」これだけです。

 

要は、大腿骨頭が臼蓋から外れる方向に動くと骨棘の形成や軟部組織の炎症の原因となるわけです。
つまり、大腿骨頭を臼蓋におさめたまま姿勢を保つ、動作をおこなうことができればいいわけ。

 

ここで重要な役割を果たしてくれるのが、インナーマッスルである「腸腰筋」

臀筋群や大腿四頭筋が優位に活動すると、骨頭の細かい動きを制御することは難しく、すぐに骨頭が逸脱する方向へ動いてしまいます。

それを抑制してくれるのが腸腰筋。
骨頭を臼蓋に対して押さえ込んでくれる作用を持つため、これがあるおかげで臀筋群や大腿四頭筋などアウターマッスルが十分に動きに関与できるわけです。

 

さらに関節の適合性を保つために大事な考え方が、「関節を構成する両骨が相対的に動くこと」

どういうことかと言うと、関節運動時にはどちらか片方の骨だけでなく両方の骨が動き、相対的に位置を変えることで関節の適合性を守ることができるということ。

 

具体的には、歩行時立脚後期で股関節が伸展する場面。
股関節伸展時、大腿骨頭は前方へ偏位、それに合わせて寛骨が前傾する。
この寛骨の動きがないと骨頭だけが前方へ偏位してしまい、脱臼することになります。

要するに、股関節疾患と言えども、下肢だけを見るのではなく、骨盤から腰椎までを含めて股関節と考えるべきです。

 

実際、股関節の参考可動域は大腿骨・骨盤・腰椎の全ての動きが合わさって出ていますからね。
純粋な大腿骨だけの動きではそれほど可動域は大きくないのです。

 

ということで、ここでも重要となるのが「腸腰筋」。

腸腰筋は大腰筋と腸骨筋に分かれており、腸骨筋は腸骨、大腰筋は腰椎に付着しています。
それぞれが収縮すると骨盤は前傾、腰椎は伸展。

大腿骨に対して上記の動きが出せることが大事なのです。

 

腸腰筋は大腿骨に対して腰椎、骨盤を近づけることができる作用を持つ筋肉。

一般的には、股関節のROMexや筋力exとして腿上げなどしますよね?

これも大事な要素の一つには変わりありませんが、大腿骨を動かすことばかりに焦点がいっていることが問題なのです。

骨盤が前傾しても相対的に股関節は屈曲位になりますよね?
腿上げをしなくても。

実際の生活場面で腿上げをすることってそうそうないと思いますが、お辞儀をしたり靴を履く際に体をかがめたり骨盤を前傾位にさせることは割と多いです。

足を動かすことばかりに視点をやるのではなくて、体の方を動かすという視点も持っておくべき大事な要素ということを覚えておいてください。

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。

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