リハ塾~臨床の教科書 呼吸note~呼吸器疾患の病態からアプローチまで

・呼吸不全とは?
・肺炎の基本的な病態とリハビリのポイント
・COPDの基本的な病態とリハビリのポイント
・換気のメカニズム
・胸郭の構造と基本的な動き
・呼吸と嚥下の関係
・呼吸に関わる筋肉の機能解剖
・呼吸の破綻メカニズム
・呼吸症状の評価手順
・胸郭の運動パターンと触診
・胸郭へのアプローチ方法(胸椎、肋骨へのアプローチ)
・呼吸筋へのアプローチ方法
・呼吸リハビリにおける運動療法

呼吸不全とは?

呼吸器疾患の方を担当する際、呼吸不全で診断されている方も多いと思います。

そもそも、呼吸不全とはどういった状態を指すのか知っていますか?
日本呼吸器学会では、以下のように定義されています。

大気中の酸素を体に取り入れて、体内でできた炭酸ガスを体外に放出するという肺の本来の働きを果たせなくなった状態を呼吸不全と言います。

引用:一般社団法人 日本呼吸器学会

具体的には以下のように定義されています。

・動脈中の酸素が60mmHg以下となることを呼吸不全と定義
・Ⅰ型呼吸不全:二酸化炭素分圧の上昇を伴わない、45mmHg以下
・Ⅱ型呼吸不全:45mmHg以上
・上記の状態が1か月以上続く場合を慢性呼吸不全と呼ぶ
・パルスオキシメーターでは、SpO2:90%を基準にする

血中の二酸化炭素分圧が正常または低下している、Ⅰ型呼吸不全。
二酸化炭素分圧が増加しているⅡ型呼吸不全の二つに分けられます。

肺炎やCOPDも呼吸不全の中に含まれ、何らかの要因によって酸素分圧が低下した状態を呼吸不全と呼んでいます。

つまり、呼吸不全と言っても人によってどういった病態なのか異なるため、必ず確認する必要があるということです。

 

肺炎の基本的な病態

まず、肺炎を起こした原因菌によって3つに分けられます。

・細菌性肺炎
→肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色球菌などの細菌が原因。

・ウイルス性肺炎
→インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、水痘ウイルスなどのウイルスが原因。

・非定型肺炎
→マイコプラズマ、クラミジアなどの微生物が原因。

さらに、感染場所の違いでも2つの種類に分けられます。

・市中肺炎
→病院など医療機関以外で、日常生活動作を送っているうちに感染した肺炎。

・院内肺炎
→病院など医療機関へ入院してから48時間以内に発症した肺炎のことで、免疫力の低下や人工呼吸器が原因とされる。

感染した組織の違いでも2つの種類に分けられます。

・肺胞性肺炎
→肺の末端に存在する肺胞が炎症を起こすもの。早期からの治療で完治が期待できる。

・間質性肺炎
→肺胞を支える間質が炎症を起こすもの。

間質性肺炎の場合、肺胞ではなくてそれを支える間質自体の障害です。

そのため、症状が治まった後も繊維化、肥厚化することで動きが悪くなる場合があります。

その結果、肺胞には空気が入ってきても、間質を通じて周囲の毛細血管とガス交換をおこなうことができず、呼吸困難感が続く場合があります。

 

間質性肺炎の基礎知識

間質性肺炎は以下のように定義されています。

肺の間質を病変の主座としてびまん性に炎症が広がる病態をいい、しばしば肺線維症を起こす。

引用:突発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン

間質は以下のように定義されています。

肺胞腔を支える肺胞壁の間質を狭義の間質、その他の気管支周囲血管、小葉間壁隔および胸膜下などの間質を広義の間質と呼ぶ。

引用:突発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン

 

間質性肺炎の症状

%肺活量の低下により、運動耐用能が著名に低下します。
簡単に言うと、少しの動作ですぐに疲れてしまうということ。

上述しましたが、間質とは肺胞の周りを覆う壁のようなもの。
肺胞一つ一つの間に必ず間質が存在します。

ここが炎症を起こし、硬く繊維化してしまって肺が十分に膨らまなくなることが原因で呼吸困難感が生じてしまいます。

肺が膨らみにくくなるということは、吸気で酸素を十分に取り込めず、その分、全身に酸素を供給できない。

ということは、筋肉を動かすための酸素も不十分であり、酸素が多く必要な動作では疲労感が強くなるということ。

初期には無症状のことが多いですが、症状が進行すると動作時の息切れ、痰を伴わない咳が出現します。

 

間質性肺炎の身体所見

胸郭の変形

・高度な肺気腫では洋樽変形(Barrel chest)が認められる
・漏斗胸(胸骨が陥没した状態)、鳩胸(胸骨が突出した状態)の有無

ばち指

・詰めの付け根が膨隆(側面から見て180°以上、通常はやや陥没して160°程度)

チアノーゼ

・口唇、口腔粘膜、鼻尖、指先、爪床で認められやすい
・必ずしも低酸素血症に特異な症状ではないが、認められた場合は低酸素血症の疑いがある

呼吸運動の胸郭運動パターン

・上部胸郭による代償が大きく、下部胸郭があまり動かない
・吸気時に腹部が膨らまず、陥没する(横隔膜機能の低下)
・呼吸が浅く早い(肺の膨らみが不十分なため)

打診、聴診、触診

・打診では濁音が認められる(響かない濁ったような音)
・聴診では吸気時に捻髪音(バリバリ、メリメリ)が認められる
・触診では呼吸補助筋(胸鎖乳突筋、斜角筋、僧帽筋、大胸筋、小胸筋、腹直筋など)に過緊張、圧痛が認められる

 

COPDの基本的な病態

COPDとは、有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を呈する疾患とされています。

間質性肺炎は拘束性の肺疾患ですが、COPDは名前の通り、閉塞性の肺疾患です。

閉塞性ということは、呼気が障害されることが特徴となります。

呼気の障害なのか、吸気の障害なのかを知っておくことは非常に重要なポイントの一つですので、必ずおさえておきましょう。

 

COPDの症状

症状としては、気流閉塞が呼吸機能において重要な症状です。

主に肺胞の障害によって、閉塞性換気障害が起こります。
気道が呼気時に狭小することで、気道抵抗が増加して呼気の速度が低下します。

運動時にはさらに気流制限が増加し、換気効率が悪化する傾向にあります。

その結果、運動時には呼吸数や換気量が増加するが、十分に呼気できず、空気が肺に貯留、機能的残気量(FRC)の増加と最大吸気量(IC)の減少します。

それによって、動的過膨張が生じ、ますますFRCは増加しICが減少、異常な換気パターンへと繋がります。

 

COPDの身体所見

胸郭の変形

・胸水、胸膜肥厚、脊椎側弯症、漏斗胸、樽状胸郭

チアノーゼ

・唇、爪、耳たぶなど毛細血管が外から観察される部位で認められる
・発生時は酸素飽和度が75%以下であることが疑われる

ばち指

・爪の付け根が隆起して側方から見て180度以上になっている

呼吸時の胸郭運動パターン

・Hoover’s sign
・呼気時間の延長
・FRCの増加による横隔膜の平坦化

打診、聴診、触診

・気腫肺優位の場合は、鼓音が聴取できる
・聴診では、呼吸音が全体的に低下
・痰が貯留している場合は、水泡音、捻髪音、軋音が聴取できる
・触診では呼吸補助筋(胸鎖乳突筋、斜角筋、僧帽筋、大胸筋、小胸筋、腹直筋など)に過緊張、圧痛が認められる

 

換気のメカニズム

そもそも換気とは、肺と気道を通って空気が吸入され、呼出されることによる機械的過程とされています。

簡単に言えば、換気=吸気+呼気と表すことができ、これは横隔膜の収縮と胸郭の動きによって実現されます。

吸気は能動的におこなわれ、脳幹(延髄・橋)にある呼吸中枢からの神経インパルスが横隔膜と肋間筋を刺激することでおこなわれる。

呼気は受動的におこなわれ、肺の弾性収縮力によって実現し、安静時は完全に自動でおこなわれている。

つまり、間質性肺炎では間質が線維化して硬くなり弾性力が失われているため、そもそも、吸気によって肺が膨らまない。

COPDでは気流制限によって、自動的な呼気がおこなわれないため、呼吸補助筋による努力性の呼吸となってしまう。

吸気と呼気どちらに障害があるのか、どちらにもあるのか。

ここを理解しておくことが必要です。

 

吸気の捉え方

吸気に関わる筋肉は以下の通り、安静時と努力時に分けられます。

・安静吸気時
横隔膜(7割)+肋間筋(3割)

・努力吸気時
胸鎖乳突筋、肋骨挙筋、脊柱起立筋、肩甲挙筋、僧帽筋、菱形筋群、大・小胸筋、前鋸筋

呼吸困難感を訴える方には、上記で挙げた努力吸気時の関わる筋群のどこかしらに筋緊張の高い部位、または圧痛所見があったりします。

ここで陥りやすい間違いとして、筋緊張が高いからその筋をマッサージしてほぐしたらいい、ということ。

100%間違いというわけではありませんが、緊張を高くする要因があるからそうなっているわけで、

そこを解決しないとすぐに緊張は高くなってしまいます。

なぜ過緊張となってしまうのか?
安静時にも努力性となる必要があるのか?

このような視点で考える必要があります。

安静吸気時の筋群をみると、横隔膜が7割も占めています。

つまり、横隔膜が働かないと努力吸気時の筋群で代償せざるを得ず、

その結果、筋緊張が高い、圧痛があるといった症状が出現するのです。

間質性肺炎では、吸気障害のため横隔膜の機能が特に重要となります。

間質による吸気障害に加えて、横隔膜も機能していなかったら、吸気はかなり障害されてしまうことが予測できます。

COPDでも横隔膜が平坦化しているため、吸気にも障害が起こります。

そもそも、呼気が不十分なので吸気できる余裕もないのですが、やはり横隔膜の機能は重要です。

臨床では以下の視点で考えてみてください。

<臨床で考えるべき視点>
・横隔膜が機能しているかどうか
・横隔膜の機能を阻害する筋群(努力吸気時の筋群)が過緊張となる要因が他にあるか
→頚・胸椎、胸郭アライメント、肩関節疾患の既往など

 

呼気の捉え方

・安静呼気時
肺の弾性収縮のみ

・努力呼気時
内肋間筋、腰方形筋、下後鋸筋、腹直筋、腹斜筋群など

呼気は肺が膨らんだ弾性収縮力によって、取り込んだ空気が吐き出されます。

肺が十分に膨らまないと呼気もできないし、どうしても努力性の呼気になってしまい、頸部や肩甲帯の筋群が過緊張してしまいます。

そこで、考えるべきは呼気ではなく、吸気。

吸気によって、横隔膜が十分に下制、胸郭が拡張、肺に空気が取り入れられて膨張できれば、自然に呼気がおこなわれます。

そもそも、吸えていなくて、吐けないものを無理に吐き出そうとしても無理ですし、緊張が高くなってしまうだけです。

ここでもポイントとなるのは、横隔膜の機能。

吸気にも呼気にも深く関わっている筋肉であることを認識しておきましょう。

また、肺の弾性収縮、肺がしぼむのを阻害している要因があるのかどうか、といった視点でも考える必要があります。

具体的には、肺を取り囲む構成要素、胸郭に可動性があるのかどうか評価します。

胸郭の構成要素
<後外側面>
・胸椎 Th1〜12
・肋骨 左右12対
・肋間筋、肋間膜
<前方>
・肋軟骨
・胸骨
・肋間筋、肋間膜
<上方>
・上位肋骨
・鎖骨
・頸部筋膜
・頸部筋群
<下方>
・横隔膜
胸郭を構成する関節
・胸肋関節
・肋椎関節(肋骨頭関節、肋横突関節)

 

胸郭の構造と基本的な動き

呼吸リハビリと言えば呼吸介助ということで、何となく胸郭を触って何となく呼吸に合わせて動かせば良いと思っていませんか?

私も以前はそうでしたが、それではあまり効果は出ません。

胸郭といっても、いくつもの関節からできているので、関節に対して評価、アプローチするべきです。

股関節や膝関節では、しっかり関節として認識して評価するのに、胸郭となると途端に苦手意識を持って考えることをやめてませんか?

ですが、人それぞれ胸郭の中でも制限となる部位も違えば、軟部組織の状態も違うので、当然一つ一つ評価する必要があるのです。

基本的な胸郭の動きから解説していきます。

 

胸郭の運動

呼吸時、胸郭は以下のような運動をしています。

<上位胸郭(第1〜6肋骨)>
ポンプハンドルモーション
その名の通り、ポンプのように矢状面上で前後に動きます。
吸気時には前上方へ広がり、呼気時には元に戻る。

<下位胸郭(第7〜12肋骨)>
バケツハンドルモーション
これもその名の通り、バケツの持ち手のように前額面上で左右に動きます。
吸気時には上側方へ広がり、呼気時には元に戻る。

この動きは、肋骨頭関節と肋横突関節を結んだ線が運動軸となっており、吸気時には肋骨が後方回旋します。
つまり、両関節に制限があると呼吸に伴う胸郭の動きも制限されてしまいます。

 

胸郭の構成要素

胸郭の運動パターンは知っているけど、胸郭を構成している要素について細かく知らないという方も少なくありません。

評価して、実際にアプローチするためには必ず知っておくべきことなので、きっちりおさえておきましょう。

問題点を把握するには、これらの構成要素のうち、どこに問題があるのかを精査していく必要があります。

上位胸郭、下位胸郭という分け方ではなく、上位の中でも特にどの部分なのかということです。

<胸郭を構成する骨>
・胸椎(12椎)
・肋骨(肋軟骨):左右12対
・胸骨:胸骨柄、胸骨体
<胸郭を構成する関節>
・胸肋関節
・肋椎関節(肋横突関節、肋骨頭関節)

 

肋骨の運動

肋骨の運動は、肋横突関節と肋骨頭関節からおこなわれます。

上位肋骨ではポンプハンドルモーション、下位肋骨ではバケツハンドルモーションの動きが起こります。

この動きの違いを起こしているのが、関節面の向きの違い。
関節面の向きが違えば、関節軸も変わるため、それに伴って動きも変化します。

ちなみに、肋骨の動きによって以下の関係があります。

<肋骨の後方回旋>
関節適合性↑
胸郭前後径↑

<肋骨の前方回旋>
関節適合性↓
胸郭前後径↓

 

胸椎と肋骨の動き

関節を形成しているため、胸椎の動きによって肋骨の動きが規定されます。

反対に、肋骨の動きによって胸椎の動きも規定されます。

・片側肋骨前方回旋+反対側肋骨後方回旋
・肋骨後方回旋側へ胸椎棘突起の回旋

 

呼吸と嚥下の関係

肺炎で死亡される方のうち、95%が65歳以上の高齢者であり、原因には誤嚥性肺炎が深く関わっています。

このことを考えると、PTだろうとOTだとうと嚥下についての知識を持っていることは必須と言えます。
STだけが嚥下を診るのではなく、STと連携してできることがあるはず。

嚥下も基本的に筋収縮によって行われます。

つまり、普段PTやOTがやっているような、筋肉へのアプローチで嚥下機能に変化を出すことも可能なわけです。

嚥下をもう少し細かく診ると以下のようになります。

嚥下=舌骨、咽頭の挙上

舌骨上筋群の収縮+舌骨下筋群の柔軟性

 

 

舌骨が挙上しないと嚥下ができないため、そのためには舌骨上筋群の収縮、舌骨下筋群の柔軟性が必要となります。

舌骨上筋群、舌骨下筋群ともに、アナトミートレインのディープフロントライン(DFL)でライン上の筋群と繋がっています。

いわゆる、インナーマッスルと呼ばれる筋群のラインであり、それらを機能的にすることで、舌骨筋群も収縮しやすい、柔軟性が保たれやすくなり、嚥下機能にも影響を与えます。

<舌骨筋群に関わるDFL>

舌骨上筋群

舌骨下筋群

椎前筋、頸長筋、頭長筋

斜角筋

縦隔、胸横筋、胸内筋膜

横隔膜

大腰筋、腰方形筋

骨盤底筋群

股関節内転筋群

膝窩筋

後脛骨筋

DFLについてはこちらの記事で解説しています。

 

呼吸に関わる筋肉の機能解剖

横隔膜

起始:胸骨部 剣状突起の内面
   肋骨部 第7~12肋骨の内面
   腰椎部 外側脚と第1~4腰椎にかけての内側脚
停止:腱中心
支配神経:横隔神経、副横隔神経
髄節レベル:C3~5
作用:吸気の主力呼吸筋

吸気においてメインに働くのが横隔膜。

横隔膜が収縮すると、胸郭が拡張し、胸腔内圧が下がり空気が肺へ入り込みます。
反対に、腹部は腹腔内圧が高まり、排泄時に関与します。

起座呼吸で呼吸症状が緩和する現象ですが、臥位では横隔膜の位置が高くなっているのに対し、立位あるいは座位では、重力によって横隔膜が下方へ下がっています。

横隔膜の位置が高いということは、それだけ呼吸時に大きく横隔膜が動く必要があり、呼吸にエネルギーを使うことになります。
横隔膜の位置が下がっていれば、高い位置に比べて少しの力で呼吸することができるため、楽に呼吸がおこなえるというわけです。

言うまでもなく、呼吸に必須の筋肉ですが、ただ腹式呼吸を指導したら横隔膜が働くかというとそうではありません。

今までできていたものができなくなって、呼吸症状を呈している、腹式ではなくて胸式優位な呼吸になっているわけなので、それをもたらしている要因を考える必要があります。

例えば、腹直筋の短縮によって胸郭下部の拡張が制限されている、肩甲帯上部の僧帽筋や肩甲挙筋が過緊張していることで胸郭下部の動きが抑制されているなど。

そういった各種要因を除外した上で、腹式呼吸を指導するなら効果は望めるかと思います。

 

肋下筋

起始:下位肋骨の上縁
停止:2~3個上の肋骨の下縁
支配神経:下位の肋間神経
髄節レベル:Th1~Th12
作用:呼気時に肋骨下制御

あまり聞きなれないマイナーな筋肉ですが、確かに呼吸に関わる筋肉として存在しています。

肋骨の表層では内・外肋間筋があるのに対して、深層では肋下筋が存在しています。

走行としては、外側から内側に向かって走行しており、下位の肋骨から2~3個上の肋骨の下縁を下方へ引く、つまり、呼気に関わります。

上位では鋭角に走行していますが、下位にいくにつれて鈍角に走行します。

これは、肋椎関節、肋横突関節の関節面形状が上位と下位で異なることに由来します。

 

上後鋸筋、下後鋸筋

<上後鋸筋>
起始:C6~Th2の棘突起および項靭帯
停止:第2~5肋骨の肋骨角の外側
支配神経:肋間神経
髄節レベル:Th1~4
作用:吸気時に第2~5肋骨を挙上

<下後鋸筋>
起始:Th11~L2の棘突起および項靭帯
停止:第9~12肋骨の肋骨角の外側
支配神経:肋間神経
髄節レベル:Th9~12
作用:呼気時に第9~12肋骨を内下方へ引く

呼吸に関わるとされてはいますが、諸説あるようです。

「上後鋸筋は肋骨を挙上させ、強制吸気に関与する」
「下後鋸筋の作用は、呼気に関わる」

引用:Gray’s anatomy American version

「上後鋸筋の作用は、不明である」
「下後鋸筋は下位の肋骨を下制させるが、呼吸には関与しない」

引用:Gray’s anatomy British version

同じグレイの解剖書でもAmerican versionとBritish versionでは書いてあることが違うのです。

筋電図の研究では、呼吸に関する作用は否定されているようで、固有受容性の作用に関与することが言われています。

上後鋸筋は下位頚椎〜上位胸椎、下後鋸筋は下位胸椎〜上位腰椎の動きを感知し、姿勢を保持するように作用します。

これが作用しないと、胸椎は後弯してしまい、結果的に呼吸に悪影響を与えてしまうことになります。

また、両筋ともに個体差があり、上後鋸筋ではC2~Th4、下後鋸筋ではTh10~L2の範囲で付着しています。
上後鋸筋は頚椎-胸椎間では必ず存在しており、下後鋸筋は胸椎-腰椎間で必ず存在しています。
それより上下に範囲が広がると、存在している方もいれば存在しない方もいるということを頭に入れておきましょう。

 

内・外肋間筋

<内肋間筋>
起始:下位肋骨の上縁
停止:上位肋骨の下縁
支配神経:肋間神経
髄節レベル:Th1~11
作用:前部 努力性吸気
   横部 努力性呼気
   後部 努力性呼気

<外肋間筋>
起始:上位肋骨の下縁
停止:下位肋骨の上縁
支配神経:肋間神経
髄節レベル:Th1~11
作用:吸気に作用

内肋間筋は停止が上位肋骨の下縁、外肋間筋は停止が下位肋骨の上縁に付着しているため、内肋間筋は肋骨を下制させて呼気に作用、外肋間筋は肋骨を挙上させて吸気に作用します。

ただ、内肋間筋の前部繊維だけは走行から、胸郭を横へ広げるように作用するため、吸気に働きます。

肋間にあるため、触りにくい場所ではありますが、ここが硬くなると胸郭の可動制に直に影響しますので、必ずチェックしておくべき部位でもあります。

 

呼吸の破綻メカニズム

まず、呼吸がスムーズにおこなわれるためには、以下のポイントが必要になります。

・肺が拡張できるための胸郭の可動制(肋椎関節、肋横突関節、胸肋関節、胸椎椎間関節)
・横隔膜が下制、挙上をスムーズにできる(姿勢アライメント、周囲組織との癒着、周囲組織の筋緊張増加や短縮、胸郭の可動制)

要は、胸郭が過不足なく拡張、縮小できて、横隔膜も同様に収縮、弛緩できる状態が必要ということで、その状態から外れていると呼吸苦などの症状が出現してしまう可能性があるということです。

上記を基準に、評価の一連の流れを解説していきます。

 

呼吸に関わる組織、関節の評価手順

視診

安静時では、横隔膜の収縮がメイン。
それ以外に過剰に収縮する部位があれば、そこが問題点となります。

吸気時に横隔膜が収縮すると、腹部が膨らむはずですが、呼吸補助筋で代償すると、肩甲帯上部が挙上、胸式呼吸しかできないパターンが多いです。

視診では以下の3つのポイントをチェックしてみてください。

・腹式呼吸ができるのか、できないのか
・指示すると腹式呼吸ができるのか、指示してもできないのか
・呼吸補助筋の過収縮がないか
・胸郭のどの部位が動いているか、動いていないか(吸気、呼気ともに)

 

聴診

聴診では以下の5つのポイントをチェックします。

・安静呼吸、強制呼吸で聴診
・痰貯留の有無
・無気肺の有無
・疾患特有の複雑音の有無(捻髪音、水泡音など)
・含気状態の把握

 

 

上葉前面:右→肺尖から第4肋骨まで
     左→肺尖から第6肋間まで
上葉後面:第4胸椎から腋窩に向かって引いた線より上

中葉:第4肋間から第6肋間まで

下葉前面:右→第6肋間より下
     左→第6肋間より下
下葉後面:第10胸椎まで

 

<異常呼吸音の聴診>
・笛声音:wheezes(ウィーズ)
→気道が大きく閉塞した場合に聴取できる
 窓から風が入るような音

・いびき音:rhonchi(ローンカイ)
→気道が部分的に閉塞した場合に聴取できる
 いびきのような音

・捻髪音:fine crackles(ファインクラックル)
→肺胞が開き始めた場合に聴取できる
 風船の空気が抜けるような音

・水泡音:coarse crackles(コースクラックル)
→水様性の分泌物が存在する場合に聴取できる
 ストローで吸うような音

上記の肺野を基準にどの部位で、どんな時に、どんな音が聴取できるのかを評価します。

 

胸郭の運動パターンと触診

胸郭の運動パターンは以下の3つに分けられます。
どれが良い悪いではなく、それぞれに合わせて臨床展開していく必要があります。

 

<上位と下位の関係>

両側の上位胸郭と下位胸郭がそれぞれ相反した動きをとるというもの。
吸気時の胸骨の動きを元に3つパターンに分類されます。

①胸骨前傾パターン
胸骨:前傾
上位肋骨:後方回旋
下位肋骨:前方回旋

胸骨の前傾に伴い、上位肋骨の前後径は拡大するため肋骨は後方回旋します。
それとは反対に、下位肋骨の前後径は縮小するため肋骨は前方回旋します。

②胸骨後傾パターン
胸骨:後傾
上位肋骨:前方回旋
下位肋骨:後方回旋

胸骨の後傾に伴い、上位肋骨の前後径は縮小するため肋骨は前方回旋します。
それとは反対に、下位肋骨の前後径は拡大するため肋骨は後方回旋します。

③ニュートラル
吸気に伴い胸骨の前後傾がないもの。

 

<左右の関係>

片側の上位・下位胸郭が同方向へ回旋、対側の上位・下位胸郭が相反した動きをとるというもの。

体幹回旋時の肋骨の動きを評価します。

体幹右回旋:右肋骨後方回旋、左肋骨前方回旋
体幹左回旋:右肋骨前方回旋、左肋骨後方回旋

 

<対角線上の関係>

片側の上位胸郭と対側の下位胸郭が対角線上に回旋、もう一方の対角線上の上位・下位胸郭が相反した動きとるというもの。

前額面前面から胸骨を見て、胸骨の傾斜から対角線で肋骨がどのように動くのか評価します。

<胸骨右傾斜>
右上位肋骨・左下位肋骨:前方回旋
右下位肋骨・左上位肋骨:後方回旋

<胸骨左傾斜>
右上位肋骨・左下位肋骨:後方回旋
右下位肋骨・左上位肋骨:前方回旋

胸骨が傾斜している側の肋骨は、肋骨が胸骨によって圧縮され、それに押し出されて前方へ回旋する。
傾斜していない側の肋骨は、逆に胸郭が拡大できるスペースができるため肋骨は後方へ回旋します。

胸郭が拡大するか、縮小するかという視点で見ると肋骨がどちらへ回旋するのかイメージしやすいです。

胸郭拡大時:肋骨後方回旋
胸郭縮小時:肋骨前方回旋

上下、左右、対角線での胸骨、肋骨、胸椎の動きから胸郭全体としての動きを捉えます。

これらの動きを基準として、患者さんの胸郭運動パターンは3つのパターン基準に見ると、どのような特徴をもつ動きになっているのかを評価します。

 

症例を通しての胸郭の評価の進め方

ここで症例を通しての評価例を参考までに挙げておきます。

上記の3つの胸郭の運動パターンを元にどこに制限があるのか特定していく作業をすることになります。

何が良いか悪いかではなく、運動パターンがどのように偏っているのかを見るとわかりやすいかもしれません。
是非、一緒に考えてみてください!

症例①

1.吸気時の胸骨を確認

吸気時に胸骨が後傾。
このことから、胸骨後傾パターンに当てはめて、上位肋骨は前方回旋、下位肋骨は後方回旋が優位と考える。

2.体幹の回旋を確認

右回旋に制限が認められる。
このことから、左回旋のパターンが優位で右肋骨は前方回旋、左肋骨は後方回旋が優位と考える。

3.胸骨の傾斜を確認

前額面で胸骨は右傾斜。
このことから、右上位肋骨・左下位肋骨は前方回旋、右下位肋骨・左上位肋骨は後方回旋が優位と考える。

4.1〜3を統合する

上記3つの評価を統合して考察し、実際の動きと当てはめて考える。
1〜3の評価で共通する要素は何か?という視点で考える。

 

本症例の場合は、右上位肋骨の前方回旋が共通している。
このことから、その胸郭運動パターンが呼吸へ何らかの影響を与えているかもしてないと仮説を立てられます。

ですので、右上位肋骨前方回旋というパターンと呼吸症状との関連を評価していく作業を進めることになります。
呼吸症状をもたらしている基礎疾患の特徴や痰の貯留部位、SpO2などを合わせて考えてということですね。

呼吸症状と関連がありそうであれば、右上位肋骨の前方回旋を起こしている要素は何か?と考えます。

この場合で考えると、胸郭前面に付着する大・小胸筋や肋間筋が可能性として挙げられます。
これら筋群を調整して胸郭運動パターンの是正とともに呼吸症状も改善されるのであれば、これら筋群が優位に働きすぎないように運動療法など指導すると良いのでは?と考えることができますよね。

胸郭の上位と下位の関係から、下位肋骨の後方回旋が優位にあって結果的に上位肋骨が前方回旋しているのかも?
左右の関係から、左肋骨の後方回旋が優位になりすぎているのかも?
右上位肋骨の後方組織が硬すぎて後方回旋できる余裕がないのかも?

などなど、仮説をいくつも立ててそれを一つ一つ検証していけば良いのです。

 

胸郭へのアプローチ方法

胸郭のアプローチをおこなうには、胸郭を構成する関節の動きを評価できる必要があります。

そのために、各関節の動きについて少し触れていきます。

 

椎間関節

まず、椎体と椎体で構成される椎間関節。

上位椎体の下関節突起と下位椎体の上関節突起から構成され、上関節突起が下関節突起の前面に位置します。

各運動時、椎間関節は以下のように動きます。

屈曲:椎間関節離開
伸展:椎間関節圧縮
側屈:反対側椎間関節離開、同側椎間関節圧縮

 

肋横突関節

実際には、肋横突関節と肋骨頭関節の二つが肋骨と椎体で構成されますが、肋骨頭関節は肋横突関節より腹側にあり、触診するのは難しいため、実際にアプローチしていくのは肋横突関節になります。

第1~5肋骨:吸気に伴い椎体に対して、肋骨が下方回旋(バケツハンドルモーション)
第6~12肋骨:吸気に伴い椎体に対して、肋骨が下方へ転がり、滑り運動(ポンプハンドルモーション)

 

胸肋関節

肋横突関節と同じように考えてもらえば良いです。

第1~5肋骨:吸気に伴い胸骨に対して、肋骨が上方回旋(バケツハンドルモーション)
第6~12肋骨:吸気に伴い胸骨に対して、肋骨が下方へ転がり、滑り運動(ポンプハンドルモーション)

 

胸椎椎間関節の評価

視診から静的、動的アライメントを評価して、問題部位を絞っていきます。

自動運動

対象者に動いてもらって、胸椎の中でもどこに制限があるのか問題点を絞ります。

他動運動

自動運動でおおよその問題点を絞ったら、さらに細かくどこの分節で制限があるのかを評価します。

椎間関節へのアプローチ

問題となる関節を特定し、そこに対してピンポイントにアプローチしていきます。

 

肋骨(肋横突関節)の評価

肋骨の評価では、まず、吸気と呼気のどちらに問題があるのかを評価し、それに基づいた評価を進めていく流れになります。

その中でも重要な視点が、どの部位の肋骨が起点となって呼吸に制限が起こっているのか。

肋骨は、吸気では挙上、呼気では下制します。
挙上では、一番上の肋骨から順に、下制では一番下の肋骨から順に可動します。
途中の肋骨から急に動くということはないのです。

つまり、吸気では制限のある最も上位の肋骨、呼気では制限のある最も下位の肋骨からアプローチする必要があります。

これを無視してなんとなく制限があるからとアプローチしても、それより上位または下位の制限が解消されていなければ、全体の動きとしても変わらないということになります。

 

第1肋骨の評価

後方から第1肋骨を触診して評価します。
検査側へ頸部回旋、肋骨が後方回旋した状態で肋骨の可動制を評価。

上位肋骨(第2~5肋骨)と下位肋骨(第6~12肋骨)の評価

・上位肋骨
→上肢挙上位、胸椎伸展で肋骨が最大に吸気方向へ動いた状態で吸気をして肋骨の動きを評価

・下位肋骨
→上肢挙上、胸椎伸展、検査側と反対へ側屈、検査側へ回旋で最大に吸気方向へ動いた状態で吸気をして肋骨の動きを評価

第1肋骨へのアプローチ

頸部を治療側へ回旋、第1肋骨の同側回旋を触知。
最大限に回旋した状態で、肋横突関節の腹側、尾側へ押し込む。
関節の前方への動きを改善することが目的。

呼気障害に対する上位肋骨と下位肋骨へのアプローチ

呼気障害では、肋骨が胸骨に対して下制しないことが問題、それを改善することが目的となります。

優先すべきは、より下位にある問題となっている肋骨。

吸気障害に対する上位肋骨と下位肋骨へのアプローチ

吸気障害では、胸肋関節が挙上、肋横突関節が下制しないことが問題、それを改善することが目的。

優先すべきは、より上位にある問題となっている肋骨。

肋横突関節が下制するために、前面の肋骨を挙上させることで下制の誘導をおこなうこともできます。

各肋骨に対応する筋肉に対して、等尺性収縮をおこない、それと合わせて肋横突関節の下制を誘導することで、下制への動きを誘導することができます。

第1肋骨:前・中斜角筋(頸部側屈、屈曲)
第2肋骨:後斜角筋(頸部伸展、側屈、同側回旋)
第3~5肋骨:小胸筋(肩甲骨前傾→肩屈曲、内転で収縮促す)
第6~9肋骨:前鋸筋(肩甲骨外転)

 

呼吸筋へのアプローチ方法

流れとしては、組織間の滑走性を出した上で、胸郭の可動性を引き出し、呼吸練習という流れ。

まずは、滑走性が低下している部位に対してアプローチします。

 

腹直筋-腹斜筋

胸鎖乳突筋-斜角筋

僧帽筋上部繊維-肩甲挙筋

僧帽筋上部繊維-棘上筋

腰方形筋-大腰筋

横隔膜

肋間筋

 

参考・引用文献

1).突発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン
2).一般社団法人 日本呼吸器学会
3).慢性閉塞性肺疾患(COPD) 理学療法診療ガイドライン 第1版
4).Rabe KF,Hurd S,Anzueto A,et al:Global strategy for the diagnosis,management,and prevention of chronic obstructive pulmonary disease:GOLD executive summary .Am J Respir Crit Care Med 176:532-555,2007.
5).高橋 仁美:COPD患者の呼吸リハビリテーションにおける運動処方の実際:日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 第18巻 第1号

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。

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