2018/04/12

リハ塾〜臨床の教科書 上肢編〜肩・肘・手関節まとめ

目次

・肩関節ってそもそもどんな関節?
・肩関節におけるゴール設定
・肩関節の治療戦略
・肩関節周囲に対する筋間リリース
・肩関節に対する関節可動域運動
・肩関節の運動療法
・肘関節ってそもそもどんな関節?
・肘関節におけるゴール設定
・肘関節の治療戦略
・肘関節周囲に対する筋間リリース
・肘関節に対する関節可動域運動
・肘関節の運動療法
・手関節ってそもそもどんな関節?
・手関節におけるゴール設定
・手関節の治療戦略
・手関節周囲に対する筋間リリース
・手関節に対する関節可動域運動

肩関節ってそもそもどんな関節?

臨床において、腱板断裂・損傷の術後や肩関節周囲炎など肩関節疾患の方を担当する機会は少なくないはず。

私自身そうでしたが、肩関節って痛みに敏感な方が多くて動かすのが怖かったり、難解なイメージで苦手意識がありました。
特に若手セラピストには多いのではないしょうか?

実際、肩関節と一言で言っても複数の関節や筋肉が関与しており、ただ漠然とROMexやカフエクササイズを指導しても中々改善してこないんですよね。

このように、苦手意識があるのも漠然とリハビリするのも、そもそも肩関節についてあまり知らないということが原因です。

・肩関節がどのような特徴を持つのか
・いくつの関節が関与するのか
・どの筋肉が関与するのか

この辺が理解できれば、どのように触って動かして、どこの制限を解消して、どこをトレーニングすべきか分かってきます。

・後方組織の密度が高い

解剖学の教科書やアプリを開いて確認してみてください。

肩関節周囲筋群を見ると、前方を覆う筋群に比べて後方を覆う筋群が圧倒的に多いことが分かります。

<前方筋群>
・大胸筋
・三角筋前部繊維
・上腕二頭筋
・肩甲下筋

<後方筋群>
・僧帽筋
・三角筋後部繊維
・棘上筋
・棘下筋
・小円筋
・大円筋
・広背筋
・上腕三頭筋

ざっと挙げてもこれだけ大きな差があることが分かります。

これがどういうことかと言うと、後方筋群のタイトネスで上腕骨頭が前方に押し出されやすいということ。

上腕骨頭の前方に付着する筋群が少ないため、後方に比べて前方へ偏位することが圧倒的に多いです。

後方筋群の中でも特に下に挙げた腋窩に位置する筋群はタイトネスとなりやすい傾向にあります。

<タイトネスとなりやすい腋窩筋群>
・小円筋
・大円筋
・広背筋
・上腕三頭筋

肩関節をフルレンジ挙上することってそんなにないですよね?
つまり、腋窩筋群は普段から伸張される機会が少ないということ。

それによって、他の筋肉と比べてタイトネスとなりやすく、他の肩後方筋群とともに上腕骨頭を前方へ偏位させてしまう要因の一つとなっています。

・上腕骨だけが過剰に動きやすい

人は常に重力にさらされているため、基本的には屈曲方向に姿勢が変化します。

高齢者の円背や現代人のデスクワーカーのような頭が前に出て背中が丸くなっている姿勢が特徴的ですね。

<特徴的な不良アライメント>
・頭部前方偏位
・上部頸椎伸展
・下部頸椎屈曲
・胸椎後弯
・腰椎後弯
・骨盤後傾
・股関節屈曲・外転・外旋
・膝関節屈曲・内反
・足関節背屈・回内

上記のような姿勢が特徴的な姿勢ですね。

実際に担当している患者さんでもよくいらっしゃると思います。

肩関節運動には複数の要素が関与しているため、上記アライメントで制限されていると上腕骨の動き、肩甲上腕関節の動きが過剰に出てしまい、それが負担となる恐れがあります。

<肩関節運動に関与する要素>
・肩甲上腕関節
・肩甲胸郭関節
・肩鎖関節
・胸鎖関節
・胸郭
・脊柱

骨盤や下肢も関与してはいますが、主には上記の要素が含まれています。

例えば、上記姿勢で肩関節屈曲をする際、屈曲に伴う脊柱伸展、胸郭の前弯、肩甲胸郭関節下制・上方回旋・外転が制限されてしまい、結果的に肩甲上腕関節を過剰に動かして代償するパターンがよく認められます。

制限がない場合、肩甲上腕関節が50%の動きで良いとして、制限があり肩甲上腕関節で代償している場合は90%動いているとすると、本来よりも40%過剰に動いていることになるため、肩甲上腕関節にとっては負担となりうるのです。

肩関節は全身としてみると、モビリティに富んだ関節です。
以下の写真のようにモビリティとスタビリティ関節は交互に配置されているという特徴があります。

制限されやすい胸椎ですが、全身としてみるとモビリティに富んだ関節。
つまり、胸椎が制限されることで末梢にしわ寄せがきて過剰に動く関節が出てくるのです。

肩関節自体はモビリティに富んだ関節ですが、それでも過可動性は組織を痛める原因となります。

肩関節におけるゴール設定

ここまでの肩関節とはそもそもどういった関節なのか理解できたら、ゴール設定を明確にしておく必要があります。 

ここでいうゴールとは、肩関節の理想の状態を考えて現在の状態と比較して何が足りないのか?差を考えることで、すべき評価・アプローチもおのずと出てくると思います。

 理想の肩関節の状態を明確に 

現在の肩関節の状態との比較

 理想と現在の差を埋めるための評価・アプローチ 

このような流れですね! 

結論から言うと以下の3点が重要。 
・肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、脊柱にそれぞれに制限がない
・前鋸筋、広背筋に機能不全がない
・ローテーターカフが適切に機能できる状態が整っているか

・肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、脊柱にそれぞれ制限がない

理想は脊柱→肩甲胸郭関節→肩甲上腕関節へと連動して運動ができること。

上記の肩関節の特徴で挙げたように、この流れが制限されると肩甲上腕関節にとっては過剰な負担となってしまう。

連動するということをもう少し掘り下げると、関節運動に合わせてそれぞれの骨が動き、関節面の向きを変化することができなければいけません。

例えば、肩関節屈曲時に肩甲骨関節窩が上腕骨頭の動きに合わせて向きを変えることができないと、上腕骨頭は関節窩から外れてしまうため、軟部組織には偏ったストレスとなります。

上腕骨頭を制動するために、過剰に収縮する部分もあれば、過剰に伸張される部分も出てきます。
そういったストレスが繰り返されると次第に痛みや筋出力の低下へとつながります。

関節の適合性が高い状態を常に作ることができれば、偏った筋肉の使い方となることもなく、バランスが悪くなることなく、効率よく筋力を発揮できます。 

可動域制限や痛み、筋力低下は関節の適合性が悪いがために引き起こされているという視点からみると、関節の適合性を阻害している要因を探せばいいわけなので、目的が明確になります。 

<肩関節の屈曲を100%(180°)とした場合の各関節の割合>
肩甲上腕関節:40%(90°)
肩甲胸郭関節(体幹伸展):20%
肩鎖関節:10%(30°)
胸鎖関節:10%(45°)
その他:20%

肩関節運動を各要素に分けると上記のように分けることができます。
これをおおよその目安にして、各部分が動きすぎているのか、動いていないのか見て、ある程度目星をつけてから触ると良いです。

これをみると、肩甲上腕関節自体は全体の40%しか可動していないことが分かります。
如何に全身が連動して運動が出力されているかが分かりますよね。

肩関節運動における脊柱の要素

肩関節以外の要素が可動域に大きく関わってくるということですが、脊柱はどのように関わってくるのかをみていきます。 

 主に屈曲90°越えたあたりから体幹の伸展、脊柱の要素が入ってきます。

屈曲0-90°:肩甲骨が後傾してくる
屈曲90-120°:肩甲骨の後傾が減少し、体幹の伸展が増してくる
屈曲120-:骨盤の前傾も入り、体幹の伸展がさらに強まる

 

このように90°以降からは肩甲骨による動きを体幹の活動が上回り、最終域まで挙上します。 

ここで考えてほしいのが、脊柱の可動域制限、特に伸展の制限があった場合はどうなるのか? 

90°以降に脊柱の伸展が入ってくるが、伸展制限によって伸展できないとその分を他の部位で代償しなくてはいけません。 

もし肩関節で脊柱の伸展を代償すると肩関節にはとても負担がかかる気がしませんか? 

 脊柱の伸展制限が原因で肩関節に負担がかかっていた場合、肩関節だけのリラクセーションやROM exでは改善しません。 
脊柱は肩関節にかかる負担を減らす、安全に肩関節を動かせるための要素としてとても重要だと言えます。

肩関節運動における肩甲骨の要素

肩甲骨は胸郭上を挙上・下制、前傾・後傾、内転・外転、上方回旋・下方回旋のあらゆる方向へ動くことができます。
他動的に各方向へ制限なく動けることが理想です。 

各運動方向に関与する筋としては以下に挙げています。

挙上:僧帽筋上部、肩甲挙筋
下制:僧帽筋下部、小胸筋、広背筋
内転:僧帽筋中部、大・小菱形筋
外転:前鋸筋、小胸筋
上方回旋:僧帽筋上・中・下部、前鋸筋
下方回旋:肩甲挙筋、大・小菱形筋、小胸筋

*赤字は制限となりやすい筋

各方向へ動かしてみて、制限方向へ拮抗する筋肉を触診しながら抵抗感を感じたり、徒手的に短縮させてみて変化はあるかなど、一つ一つの筋肉を確認していくことで制限因子を絞ることができます。

例えば、上述した特徴的な不良アライメントでは小胸筋は短縮、僧帽筋、菱形筋群は伸張位で固まりやすい傾向です。
それに伴い肩甲骨運動も制限されますので、肩甲上腕関節に合わせて関節窩の向きを変えることは難しくなります。

前鋸筋、広背筋に機能不全がない

上腕骨頭に合わせて肩甲骨関節窩の向きを変えることが関節を守るために重要とお伝えしてきましたが、それには前鋸筋と広背筋の役割が重要です。

ここで肩関節障害がある方の肩関節挙上をイメージしてほしいのですが、肩甲帯を挙上する代償運動が特徴的ですよね。
この際、働いている筋肉としては三角筋、僧帽筋、菱形筋群。
肩甲骨の挙上、内転、下方回旋に作用します。

肩関節屈曲時の肩甲骨運動としては真逆です。
肩甲骨運動としては、下制、外転、上方回旋が必要で、前鋸筋、広背筋の働きが必要となります。

さらに、私はここで上腕骨頭に対して肩甲骨関節窩の向きを変えるには前額面上の動きだけでは不十分で、水平面上の動きを重要視しています。

具体的には肩甲骨内側縁が浮き上がり、外側に回旋するような形となります。
僧帽筋、菱形筋群は伸張されて、前鋸筋が働いています。

前鋸筋の機能不全の徴候である翼状肩甲と誤解されてしまうこともありますが、それとは違い機能的に内側縁を浮かしている状態です。

上腕骨頭は平面ではなく半球体であるため、そんな上腕骨頭にあわせて肩甲骨関節窩の向きを変えるには、前額面と水平面のこの動きが必要なのです。

三角筋、僧帽筋、菱形筋群の作用と拮抗する働きをもつのが前鋸筋と広背筋なので、相反神経抑制の観点からみてもこの二つの筋の役割は重要と言えます。

まとめると、肩関節屈曲時には肩甲骨下制、外転、上方回旋、内側縁の外側への回旋が必要ということ。

ローテーターカフが適切に機能できる状態が整っているか

そもそも、ローテーターカフ(回旋筋腱板)というのは4つの筋群の総称です。
棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つが上腕骨頭を囲むように位置しており、その下層にある関節包靭帯複合体とともに協調的に機能することで上腕骨頭を求心位に保持することができます。 

<ローテーターカフの役割>
・動的安定性の調整器
・関節包内運動の制御装置 

肩関節は可動性に富んだ関節でありますが、骨性の支持が少なく、靭帯や筋肉などの軟部組織によって安定性が作られています。

大きな可動性とその動きに伴って安定性を作り出しているのがローテーターカフというわけです。
これだけでもローテーターカフが重要だということはなんとなくわかりますよね。

動的安定性の調整器

構造的に不安定な肩関節はローテーターカフによる安定性があることが前提であり、それによって各方向への広範囲な動きが可能となります。

この広範囲な可動域を実現するために、周囲を取り囲んでいる関節包には運動を制限するような太い靭帯がない構造になっています。
構造的に安定性よりも可動性を優先する構造となっており、この安定性の欠落をフォローするものがローテーターカフというわけ。 

関節包内運動の制御装置

ローテーターカフによる安定性が得られないと、三角筋や大胸筋などが優位に働き、骨頭は関節窩から逸脱する方向へ動きます。 

具体的には、肩関節外転時において棘上筋は骨頭を関節窩に対して圧迫力を生じさせ、抑え込むような働きをします。
もしもこの機能が働かない場合、三角筋の収縮によって骨頭は上方へ逸脱し、肩峰にぶつかってしまいますよね。
この時、棘上筋だけでなくその他の腱板筋も働いており、三角筋による上方へ生じる力と相殺するように下方へ骨頭を引いています。 

以下に示した各腱板の機能が相互的に発揮されることで関節包内の運動を制御することが可能となります。

・棘上筋:上腕骨頭を関節窩へ直接圧迫する
・肩甲下筋、棘下筋、小円筋:上腕骨頭を下方へ引く
・棘下筋、小円筋:上腕骨を外旋する

 

肩関節の治療戦略

今までの内容をまとめてどのように進めていけば良いのか考えてみます。

肩甲上腕関節・肩甲胸郭関節・脊柱それぞれに適度な可動性があるのか評価

前鋸筋、広背筋の機能不全がないか評価

ローテーターカフが十分に機能できる状態かどうか評価

各可動性、前鋸筋、広背筋の機能不全を改善

各部位を連動させた動作戦略へ 

各部位の可動性を十分に引き出し、前鋸筋、広背筋、ローテーターカフが適切に機能できる環境を整えて、さらに各筋肉が使えるように徒手療法、運動療法を行っていくという流れです。

ローテーターカフの評価

静的な評価、動的な評価の二つの視点から評価して、それらを統合して評価します。

静的な評価

肩関節の各ポジションでそれぞれ軟部組織の伸張性を評価して、どこに制限があるのか評価。

【1stポジション】
外旋:肩甲下筋上部線維、棘上筋前部線維
内旋:棘上筋後部線維、棘下筋上部線維
【2ndポジション】
外旋:肩甲下筋下部線維
内旋:棘下筋下部線維
【3rdポジション】
外旋:大円筋
内旋:小円筋

動的な評価

肩甲骨面(肩甲棘と上腕骨長軸が直線、肩峰-烏口突起と内側上顆-外側上顆が平行)を基準として筋力を評価します。

肩甲骨面では関節包の張力が均一となると言われているので、その位置から前方へ動かすと前方の関節包は緩み、後方へ動かすと後方の関節包は緩むことになります。
その位置で上肢を保持するには緩んだ関節包側を腱板で押さえ込めないと緩んだ側へ骨頭が飛び出してしまいますよね?
もし筋力低下がある場合、上肢を保持するのも難しい、または、抵抗に対してその位置を保持できないことが考えられます。

以下の位置と対応した筋の弱化を疑う。
・肩甲骨面より前方:肩甲下筋
・肩甲骨面より後方:棘下筋
・肩甲骨面より上方:棘上筋

静的、動的な評価両方から考え、どこが制限となっている、どの筋肉が弱い、可動域とエンドフィールと辻褄が合うか、ということはどこをアプローチするのが適切か。

このように考えていきます。

 

肩関節周囲に対する筋間リリース

術後や特定の筋肉ばかり過剰に使用していると筋肉同士、筋肉と各組織(靭帯、関節包など)が癒着を起こして動きにくくなっていることがしばしばあります。 

要は、組織が互いに滑り合わないとスムーズに筋肉は収縮と弛緩ができない。つまり、可動域制限や筋出力の低下につながります。
私の臨床上、癒着を改善するだけでも劇的に可動域、筋力の改善が認められます。

三角筋-棘下筋

三角筋は代償運動で優位に働きやすい筋肉。
そのため、使いすぎで過緊張になっているパターンが多いです。

三角筋後部繊維の下を棘下筋が走行していますが、三角筋と棘下筋の繊維はほぼ直角に重なっており、筋肉が収縮する方向が違います。
つまり、互いに違う方向へ動くので滑り合う必要があるのです。

癒着が起こると当然、筋間の滑りは悪くなり可動域制限、筋出力低下、三角筋の緊張を助長してしまう可能性があります。

リリース手順は以下の通り。

1.三角筋-棘下筋間に指を入れ、棘下筋から三角筋を外側へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肩関節の回旋運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

三角筋-大胸筋

大胸筋も代償運動で優位に働きやすい筋肉。

人間の特性上、体の前で作業することがほとんど。
そのため、三角筋、大胸筋は特に優位に働きやすい。

両者の要因から三角筋-大胸筋間の癒着が非常に起こりやすいです。

リリース手順は以下の通り。

1.三角筋-大胸筋間に指を入れ、大胸筋から三角筋を外側へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肩関節の回旋運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

三角筋-上腕二頭筋

これもまた代償運動で優位に働きやすい部分。
三角筋周囲の癒着がとれないと代償運動も改善しにくい印象があります。

リリース手順は以下の通り。

1.三角筋-上腕二頭筋間に指を入れ、上腕二頭筋から三角筋を上方へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肘関節の屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

三角筋-上腕三頭筋

上腕二頭筋が優位に使われやすいため、上腕三頭筋は働きにくくなる傾向にあります。
上腕三頭筋、棘下筋、小円筋などが弱化しやすいので、この部位の癒着も剥がしておくと、上腕三頭筋が機能しやすい環境となり、筋連結をもつ棘下筋、小円筋の機能改善にもつながります。

リリース手順は以下の通り。

1.三角筋-上腕三頭筋間に指を入れ、上腕三頭筋から三角筋を上方へ剥がすように押す 
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肘関節の屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

大円筋-上腕三頭筋

肩関節に制限が起こると、腋窩筋群はますます伸張される機会を失い、短縮傾向になりがちです。
肩甲骨の動きも制限されると肩甲骨外側縁から小結節に停止をもつ大円筋はより伸張されにくくなってしまい、上腕三頭筋間と癒着を起こしやすいです。

この部位の癒着を丁寧に剥がしておくと挙上がかなりスムーズになります。

リリース手順は以下の通り。

1.大円筋-上腕三頭筋間に指を入れ、上腕三頭筋から大円筋を内側へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肘関節の屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

大円筋-小円筋

隣接している筋肉同士ですが、互いに反対の作用をもつ筋肉。
そのため、筋間で癒着が起こると互いに動きを邪魔し合って制限となりえます。

リリース手順は以下の通り。

1.大円筋-小円筋間に指を入れ、小円筋から大円筋を下方へ剥がすように押す 
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肩関節の回旋運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

前鋸筋-広背筋

これが私的には最も重要なポイント。

肩関節の代償運動として肩甲帯挙上を僧帽筋、三角筋でしやすいというのはお伝えしましたね。
その反対の作用を担うのが前鋸筋と広背筋。

さらに、肩甲上腕関節に負担がかからないためには肩甲胸郭関節の動きが必須。
肩甲骨の動きにも前鋸筋は大きく関わります。

両筋間で癒着が起こると、肩甲帯下制の動きも肩甲骨の動きも不十分となってしまいます。

リリース手順は以下の通り。

1.前鋸筋-広背筋間に指を入れ、前鋸筋から広背筋を後方へ剥がすように押す 
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肩関節の回旋運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

前鋸筋-肩甲下筋

肩甲下筋は腱板筋群で唯一の内旋作用を持つ筋肉。

肩甲骨内側面に付着しているため、触診できるのは肩甲骨外側縁から内側面を触れる方法と小結節に付着する停止付近のみ。
この停止付近で前鋸筋と癒着していることがあります。

肩甲下筋は上腕骨の動きにも作用しますが、肩甲骨の動きにも作用するため、前鋸筋と癒着して動きを邪魔し合うと肩甲上腕関節に負担となります。

リリース手順は以下の通り。

1.前鋸筋-肩甲下筋間に指を入れ、前鋸筋から肩甲下筋を外側へ剥がすように押す 
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肩関節の回旋運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

僧帽筋上部-棘上筋

僧帽筋は代償運動として使われやすく、緊張が高まっていることが多いです。

僧帽筋の深層には腱板筋群の一つでもある棘上筋が位置しているため、僧帽筋が過緊張なりすぎると棘上筋の働きが弱くなってしまいますし、癒着するとより働きが弱くなりかねません。

リリース手順は以下の通り。

1.僧帽筋上部-棘上筋間に指を入れ、棘上筋から僧帽筋を上方へ剥がすように押す 
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肩関節の回旋運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

肩関節に対する関節可動域運動

そもそも関節可動域運動自体を間違ったやり方で実施している場合があります。 

まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということ。 

よくある間違いが、筋肉など軟部組織が固まったから、腱板が断裂・損傷したから制限が起こっているという誤解。
これは逆で、運動パターンの異常で関節に偏ったストレスがかかった結果、骨の変形や軟部組織が変化し可動域制限が起こるという流れが自然です。 

何か起因となることがあった場合は別ですが、腱板の障害もそもそも断裂・損傷するような負担がかかっていた結果起きたと考えるべき。 

例えば、肩関節の屈曲制限。
大円筋や広背筋が固いから屈曲がいかないと考えて、ストレッチなどによって柔軟性が改善したとしてもすぐに元に戻ることが考えられます。
みなさんも一度はこういった経験あるんじゃないでしょうか? 

筋肉の固さ→関節の制限という考えで筋肉の固さがとれたら可動域は改善するといった安易な考えではなく、筋肉が固くなったそもそもの原因があって、その結果可動域制限が出現しているので、その原因に対してアプローチしなければいけないのです。 

上記の例で考えると、例えば、肩甲胸郭関節の下制制限や胸椎の後弯が強いと、それらの制限を代償して肩甲上腕関節が過剰に可動することが予測されます。

過剰に可動すると関節にとって負担となり、それ以上負担をかけないために可動性を抑制した結果、上記で挙げた筋群が緊張を高めて屈曲制限を起こしている可能性があります。 

この場合、安易にストレッチなどすると肩関節にとっては負担となるので、痛みを作ってしまったり、次の日には元に戻っていることがあります。
アライメント異常による運動パターンへの影響の結果として屈曲制限が起きているため、単純にストレッチという考え方では中々改善してきません。 

つまり、可動域制限や痛みを改善するために筋肉に対してストレッチするという考えが間違いで、そこに至ってしまった運動パターンの改善が必要なのです。 

そのためには、関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。

肩関節の構造理解

関節構造に合ったハンドリングをするには、そもそもの肩関節の構造について理解しておく必要があります。

まず、肩関節というのは狭義の意味では肩甲上腕関節を指し、広義の意味では肩甲上腕関節に加えて、複数の関節を含んでおり「肩複合体」とも呼ばれます。

<肩複合体の構成要素>
・肩甲上腕関節
・肩甲胸郭関節
・胸鎖関節
・肩鎖関節

狭義の肩関節、肩甲上腕関節は上腕骨頭と肩甲骨の関節窩から構成され、3軸性の球関節です。 
3軸性ということで、屈曲/伸展、外転/内転、外旋/内旋の3つの軸の動きを持っており、可動性に富んだ構造をしています。 

この大きな可動性を実現するためには、肩甲上腕関節だけでは不可能であり、肩複合体がそれぞれ十分に可動性を持ち、かつ、協調的に動く必要があります。

上腕骨の形態

上腕骨頭は完全な球のほぼ半分の形をしており、関節窩に対して凸の要素を持っています。 

骨頭は上内側へ向いており、上腕骨長軸に対して約135°の角度を作っています。
また、上腕骨内側顆-外側顆を結んだ線に対して骨頭は約30°後捻しています。 

もし、骨頭がこのような形態ではなく、水平面に対して直角であったら関節窩から完全に脱臼して肋骨に突き刺さってしまいますよね?ですので、この解剖頚と後捻角もしっかりとおさえておきましょう。

肩甲骨の形態

肩甲骨の関節窩はやや凹状の形をしており、関節窩の内側縁に対して約5°上方を向いています。
また、前額面に対して約35°前方に関節窩を向けています。 

この肩甲骨の向きが肩甲骨面(scapular plane)と呼ばれ、この面から逸脱しないように肩甲骨と上腕骨が動くことで関節が守られます。

<肩甲骨面について>
・ざっくり言うと、肩関節が安定するポジション
・下垂位から屈曲・外転45°
・肩甲棘と上腕骨の長軸が直線上に位置する
・周囲の関節包が均一な緊張となるポジション

鎖骨の形態

鎖骨は前面を基準にすると、外側は凹、内側は凸と湾曲しています。
水平面から見ると、前額面に対して後方へ約20°傾いています。 

鎖骨の外側、肩峰端は肩峰上面の楕円状の関節面と鎖骨肩峰端下面の関節面とで肩鎖関節を形成しています。
また、鎖骨の内側、胸骨端の下面の肋骨関節面で第1肋骨と胸骨柄の関節面とそれぞれ関節を形成しています。

 

肩複合体から考える肩関節の安定性

ここで言う安定性とは、肩甲骨面に対して上腕骨頭が向きを変えることができる、上腕骨頭に対して肩甲骨が向きを変えできること。 

両者が相互に関係し合いながら動くことで関節面から逸脱しない、安定していると言えます。 

肩関節疾患における可動域制限や痛みの原因の多くは、この関節面のズレ、適合性の不良。 

静的な状態では上腕骨頭の135°の解剖頚と30°の後捻、肩甲骨関節窩の5°の上方への傾きと35°の前捻から互いに向きを合わせることで関節の適合性を高めています。 
この関節面の適合性を保ったまま関節運動を行うには、どちらかだけが動くのではいけません。

例えば、肩関節屈曲時には骨頭は下方へ移動しますが、この時肩甲骨が固定されていると骨頭はそのまま下方へ逸脱してしまいます。
肩甲骨が骨頭の動きに合わせて上方回旋、つまり、骨頭を下から支えるように関節窩が上方を向くことで関節の適合性を保ったまま関節運動が可能となります。 

また、肩甲胸郭関節は実際には関節ではなく、胸郭と肩甲骨の接触を意味しているものです。胸鎖関節と肩鎖関節の動きによる結果として肩甲骨の動きが可能となっています。
つまり、肩甲骨の動きが大事!と言って肩甲骨ばかり着目してもいけず、胸鎖関節と肩鎖関節の動きは出ているのか?という視点でも考える必要があるわけです。

もっと言うと、肩甲骨も胸郭の形状が丸みをおびているからスムーズに滑ることができ、平らになると滑ることができません。
胸郭の形状も胸椎の可動性に左右されますし、胸椎も腰椎や頸椎の影響を受けますので、全身との関係性を考えることも必要になるのです。

肩関節の適合性を考えた関節運動

上記の内容から、肩複合体を構成するそれぞれの骨に特徴があって、形状に合った関節の適合性が高まるポジションで動かす、あるいは動かしてもらうことが重要です。 

可動域制限や痛みなどの症状が出現するのは、何らかの原因で肩関節の適合性が崩れている、適合性が低いポジションへ動いてしまうような運動パターンとなっていると言えます。 

よくあるのが肩甲骨関節窩に対して真っ直ぐ屈伸するという誤解。
上記で挙げたような形態を考えると構造的に不安定な肩関節は真っ直ぐ屈伸すると骨頭が関節窩から外れる方向へ動くため、脱臼・インピンジメントしてしまいます。 

こうならないためには、関節窩に対してはまるように骨頭の向きを調整できる能力が必要というわけです。

屈曲時

上腕骨の135°の解剖頚と30°の後捻角、肩甲骨の5°の上方への傾きと35°の前捻角を考慮すると、頚部軸を支点に円錐をえがくように動かすべきです。 
屈曲・外転・外旋↔伸展・外転・内旋というふうに。

屈曲に伴って骨頭は後方へ、外転に伴って骨頭は内方へ移動します。
このままだと骨頭は後上方へ逸脱してしまうので外旋することで骨頭を下方へ向け、肩甲骨関節窩に対して逸脱しないように動くことができます。 

これと同時に肩甲骨が外転・上方回旋・下制することで関節窩を前上内方へ向け、見かけ上真っ直ぐ屈曲することができるというわけです。 

つまり、高い可動性が要求される肩関節をあらゆる肢位で使うためには、上腕骨の屈曲・外転・外旋、肩甲骨の外転・上方回旋・下制が必要なのです。

背臥位で肩甲骨に対して上腕骨を動かす際は、真っ直ぐではなく、上外側に向けて斜めに動かすことで関節窩から逸脱することなく動かすことができます。 

【屈曲時の関節可動域運動のコツ】

屈曲時では、まずは関節窩が上前方を覆っていないという特徴をふまえて、少し屈曲方向へ動かすと骨頭は下方へ移動して被覆率が高まりますので、ここから解剖頚を意識した対角線上に動かすと良いです。

①.やや屈曲位へ上腕骨を誘導
②.屈曲位からやや外転・外旋位へ誘導
③.②のポジションから解剖頚の軸回旋を意識して上外側へ誘導する(この時、屈曲・外転・外旋の複合運動しながら)

 

伸展時

伸展も屈曲時と同様に上腕骨と肩甲骨の形態を考慮すると、伸展・外転・内旋方向へ動かすことで関節の適合性が保たれます。 

伸展に伴って骨頭は前方へ、外転に伴って骨頭は内方へ移動します。
このままだと骨頭は前下方へ逸脱してしまうので内旋することで骨頭を後方へ向け、肩甲骨関節窩に対して逸脱しないように動くことができます。 

屈曲時の動きと合わせると、肩甲上腕関節を支点に円錐状の動きをすることになります。 

これと同時に肩甲骨が内転・下方回旋・挙上することで関節窩を後下方へ向け、見かけ上真っ直ぐに伸展することができるというわけです。 

つまり、高い可動性が要求される肩関節をあらゆる肢位で使うためには、上腕骨の伸展・外転・内旋、肩甲骨の内転・下方回旋・挙上が必要なのです。 

背臥位において、肩甲骨に対して上腕骨を動かす際は、真っ直ぐ伸展ではなく、下外側に向けて斜めに動かすことで関節窩から逸脱することなく動かすことができます。
場合によっては側臥位のほうが動かしやすいかもしれませんね。

【伸展時の関節可動域運動のコツ】

伸展時では、まずは屈曲時と同様に関節窩の前方が覆われていないことをふまえて、内旋方向へ動かすと骨頭が後方へ移動して被覆率が高まりますので、ここから解剖頚を意識して動かすと良いです。 

①.やや内旋位へ上腕骨を誘導
②.内旋位から伸展・外転位へ誘導
③.②のポジションから解剖頚の軸回旋を意識して下外側へ誘導する(この時、伸展・外転・内旋の複合運動しながら)

まとめると、以下のようになります。

肩関節屈曲=上腕骨屈曲・外転・外旋+肩甲骨外転・上方回旋・下制
肩関節伸展=上腕骨伸展・外転・内旋+肩甲骨内転・下方回旋・挙上

 

屈曲、伸展に共通するポイントとしては、上腕骨の解剖頚をイメージして真っ直ぐではなく、円錐状に動かすことがポイントです。

 

肩関節に対する運動療法

さて、可動域を阻害する組織をリリースして関節可動域運動で可動域も十分に引き出したらそれで終いではありません。 

獲得した可動域を十分に活かせるように運動療法を取り入れることが重要です。 

可動域が拡大したら満足してしまいがちですが、ここが一番重要なポイント。骨折などの外傷以外はその方の動作パターンによってなるべくしてなった制限や筋出力低下、痛みなどの症状です。 

動作まで変えて再び症状が出ないようにしなければいけません。

上腕骨に対する肩甲骨の運動療法

1.四つ這いとなる
2.前腕回内・肘伸展・上腕骨外旋位とする
3.2の肢位を保ちつつ、床を押すようする 

<ポイント>
・肩甲帯が挙上しない、上腕骨が内旋しない、肘が屈曲しないように注意
・肩が前方へ出ないように真っ直ぐ下に押す
・上腕骨が固定されているため、上腕骨に対して肩甲骨を動かすことができる

 

ローテーターカフに対する運動療法

【直接的な方法】

基本的には、深部にあるのでマッサージなど直接的に緩めるというよりは、反復収縮によって緩める方法が効果的です。 

回旋筋腱板は強い筋出力を持っていないので、わずかに力を入れてもらう程度で十分働きます。 
逆に強度が強すぎると三角筋や大胸筋が優位に働いてしまい、何のための運動療法か分からなくなります。

大胸筋や三角筋などアウターマッスルを触診しつつ、収縮が入らない程度に収縮してもらうことがポイントになります。
上述した1st、2nd、3rdのポジション毎に働きやすい、伸張されやすい筋が違うので参考にしていただければと思います。

【間接的な方法】

間接的というのは、周囲のアライメントや筋肉を調整してローテーターカフが働きやすい身体環境とした結果、ローテーターカフがうまく機能してくれることを目指します。 

見落としがちなのが、上腕骨の動きばかり気にしてしまい肩甲骨の動きを忘れてしまうこと。

肩甲骨に対して上腕骨ばかり動くのではなく、上腕骨に対して肩甲骨も動いて上腕骨頭に対して適切な位置を保っています。 
上腕骨を動かすことはイメージしやすいと思いますが、肩甲骨を動かすのはイメージしにくいため、多くの方は上腕骨ばかり過剰に動きがち。

つまり、肩甲骨を動かして上腕骨頭に合わせるトレーニングをすると良いです。

 

肘関節ってそもそもどんな関節?

肘関節は螺旋関節で屈曲・伸展といった1軸上の動きしかありません。
単純な動きかもしれませんが、ヒトは手を使って作業するので肘の曲げ伸ばしができないとかなり不便ですよね。

試しに肘関節は動かさずに肩と手関節の動きだけで何か物を取ってみてください。
ものすごく難しいと思います。 

普段注目することが少ない肘関節かもしれませんが、重要な役割を担っていることがよくわかります。 

また、二関節筋である上腕二頭筋、上腕三頭筋は肘と肩にまたがって付着しているので、当然肩にも影響があり、肘由来の肩の制限もよく認められます。この場合、肩の制限を改善したかったら肘をなんとかしないといけませんよね? 手と肘にまたがっている前腕筋群でも同じことが言えます。

3つの関節が関与する

<肘関節を構成する3つの関節>
・腕尺関節
・腕橈関節
・近位橈尺関節

肘関節の屈曲/伸展に加えて、橈尺関節によって回内/回外の動きが実現されるため、肩関節の動きと独立して回内外することができます。 

これによって、直接、腕尺関節・腕橈関節が捻じれて回旋の動きをつくるわけではないですが、屈曲/伸展、回内/回外といった2軸の動きが可能になっています。

肘関節には約18°の外反角が存在し、上腕骨に対して前腕が外側へ偏位しています。
これを、「運搬角」と呼び、完全伸展時の運搬角は15°とされ、それより角度が大きいものを外反肘、少ないものを内反肘と呼んでいます。 

肘関節の屈曲/伸展は上腕骨の滑車と小頭を結んだ線を軸にして動きます。
水平面で下から見るとわかりますが、滑車-小頭は内側から外側にかけて外上方に向かっているため、それに適合するために前腕は外反してついているということになります。 

肘関節は真っ直ぐ屈伸すると誤解している方もいるかと思いますが、実は真っ直ぐには動きません。 

運搬角を考慮すると、前腕が外側に傾斜しているため、肘関節屈伸において上腕骨に対して前腕は真っ直ぐは動けないのです。真っ直ぐではなく、上腕骨の内側に向かって屈曲、外側に向かって伸展しています。 

さらに、屈伸に加えて回内外も起こることで関節に負担をかけることなく動くことができます。
つまり、3つの関節がそれぞれ協調して動くことが必要ということ。

もし、真っ直ぐ動くようであれば、関節から逸脱した動きになっているため、どこかに過剰な負担となっているはずですし構造的に破綻しているということになります。
どの関節においても共通することですが、関節の適合性、つまり、関節から逸脱した動きをしないかということは関節を保護する上で最も重要な考え方です。
関節の構造からどのように動くのか、どのように動いていると異常なのか。この視点で考えることが非常に重要であると考えます。

 

腕尺関節

腕尺関節は凸状の上腕骨の滑車と尺骨の凹状の滑車切痕から構成されています。 

形状からわかるように、屈曲時は滑車切痕が滑車の上を前上方へ転がり・滑りの複合運動をおこない、尺骨の鉤状突起が上腕骨の鉤突窩にはまるように動きます。 

伸展時も同様に滑車切痕が滑車の上を後上方へ転がり・滑りの複合運動をおこない、肘頭の先端部分が上腕骨の肘頭窩にはまります。 

凹凸の法則から、凹面が動くので転がりと滑りは同方向へ動くことになります。
屈曲、伸展それぞれの全可動域をスムーズに可動するには、筋肉、皮膚、関節包、靭帯がそれぞれ十分な伸張性、また、弛緩するだけの余裕をもっている必要があります。

<腕尺関節の動き>
屈曲=滑車切痕が滑車上を前上方へ転がり・滑り
伸展=滑車切痕が滑車上を後上方へ転がり・滑り

<屈曲時> 
●伸張する組織
・後方関節包・肘伸筋
・内側側副靭帯の後部線維
・肘後方の皮膚・筋膜

●弛緩する組織
・肘屈筋
・前方関節包
・肘前方の皮膚
・筋膜

<伸展時>
屈曲時と反対

 

腕橈関節

腕橈関節は球状の形をした上腕骨小頭と凹状の橈骨頭窩から構成されています。 

こちらも両骨の形状から、屈曲時は小頭の上を橈骨頭窩が前上方へ転がり・滑りの複合運動をおこないます。

伸展時は後上方へ転がり・滑りの複合運動をおこないますが、完全伸展時には関節面での両骨の接触はほとんどなく、屈曲時に筋収縮によって橈骨頭窩が小頭へ引き寄せられるという動きが起こっています。

関節構造としては腕尺関節に比べて必要最低限の安定性のみの構造ですが、肘外反時には腕橈関節による骨性の抵抗が重要な要素の一つとなっています。

<腕橈関節の動き>
屈曲=橈骨頭窩が小頭上を前上方へ転がり・滑り
伸展=橈骨頭窩が小頭上を後上方へ転がり・滑り

<屈曲時>
●伸張する組織
・後方関節包
・肘伸筋
・外側側副靭帯
・肘後方の皮膚
・筋膜

●弛緩する組織
・前方関節包
・肘屈筋
・肘前方の皮膚
・筋膜

<伸展時>
屈曲時と反対

 

近位橈尺関節

近位橈尺関節は橈骨頭の内側部分と尺骨の橈骨切痕から構成されており、周囲を輪状靭帯で覆われています。 
また、橈骨頭は繊維骨性輪によって橈骨切痕にしっかりと固定されており、関節としては強く可動性は少ない構造になっています。
内側からも外側からも橈骨頭は橈骨切痕へ固定されているということですね。

橈骨頭と尺骨頭を結ぶ線を軸に橈骨切痕上を橈骨頭が前方へ転がり、後方へ滑る動きによって回内外がおこなわれています。 

つまり、橈骨が主体となって回内外はおこなわれているということ。 

 試しに橈骨を把持した状態、尺骨を把持した状態の両方で回内外をしてみてください。
橈骨を把持した場合では可動性が制限されることが分かると思います。 

注目すべきなのは、遠位では橈骨と手根骨は関節を作っていますが、尺骨とは作っていないということ。 

これによって、回内外の橈骨の動きが手部へ伝達され、遠位尺骨に邪魔されることなく動くことができます。
これが制限されると、回内外時に肩関節の内外旋を伴う必要があるので、肩関節に対しては必要以上に負担となってしまう可能性があります。

上腕骨と分離して回内外ができるということが橈尺関節の特徴と言えますね。

<近位橈尺関節の動き>
回内=橈骨頭が橈骨切痕上を前方へ転がり
回外=橈骨頭が橈骨切痕上を後方へ滑り

<回内時> 
●伸張する組織
・上腕二頭筋、回外筋
・遠位橈尺関節の背側関節包靭帯

●弛緩する組織
・円回内筋、方形回内筋
・遠位橈尺関節の掌側関節包靭帯

<回外時>
回内時と反対

 

上腕骨と分離して回内外ができる

回内外運動は尺骨上を橈骨が動くことで、上腕骨から独立した動きが可能になっています。

尺骨は動かないので、回内外制限がある場合はまず橈骨の可動性を疑ったほうがいいです。

近位橈尺関節では、橈骨頭が橈骨切痕上を転がり・滑る動き
Spin movement
遠位橈尺関節では、橈骨が尺骨を乗り越えて対側へ移動する動き
Wiper movement

この二つの動きが特徴です。

回外から回内位へなる際、橈骨は外側へ約2mm移動すると言われており、橈骨外側の周囲の靭帯が硬くなると橈骨の動きが制限され、回内外制限を引き起こすことが考えられます。

現代人の特徴の一つである、スマホやパソコンの普及による使用率、使用時間の増加による影響から、遠位橈尺関節のWiper movementが制限され、それによる近位橈尺関節の制限も多いです。

スマホなら回内位、パソコンなら回外位でその肢位で長時間使用すると、次第に組織が固まる傾向にあり、制限を引き起こすというわけ。

遠位が制限されると近位にも直接影響があるというのが橈尺関節の特徴の一つでもあるので覚えておきましょう。

 

肘関節におけるゴール設定

ここまでの肘関節とはそもそもどういった関節なのか理解できたら、ゴール設定を明確にしておく必要があります。  

ここでいうゴールとは、肘関節の理想の状態を考えて現在の状態と比較して何が足りないのか?差を考えることで、すべき評価・アプローチもおのずと出てくると思います。

理想の肘関節の状態を明確に 
↓ 
現在の肘関節の状態との比較 

理想と現在の差を埋めるための評価・アプローチ 

このような流れですね! 

結論から言うと以下の2点が重要。 
・橈骨の動きに制限がないか 
・肘関節屈筋群に過緊張がないか

 

橈骨の動きに制限がないか

上述しましたが、上腕骨と独立して回内外できるのが大きな特徴。

回内外は橈骨がメインで動くため、橈骨の制限がないことが重要。

さらに、橈骨は手根骨とも連結を持つが、尺骨は手根骨とは連結していない。
このことから考えると、橈骨の動きによる回内外が手部へ伝わることで人特有の細かい作業が可能となります。

もし、橈骨に制限があると、回内外が制限され手部へも動きが伝わらない。
その結果、肩関節で代償して回旋ストレスが強くかかってしまいます。

日常で手を使わない日はないくらい手は重要な役割を持つ部位。
それが常に代償運動によるストレスが肩関節へかかっているとどうなるか?

肩関節に痛みや制限を作ってしまうことは容易に考えられますよね。

 

肘関節屈筋群に過緊張はないか

人は手を使って作業することが特徴だとお伝えしましたが、その作業のほとんどが体の前方で作業している。

ということは、どうしても屈筋が優位に働いてしまう。

偏った体の使い方はどうしても関節アライメントや筋バランスに影響を及ぼし、結果的に痛みや運動機能障害を引き起こします。

肘関節でみると上腕二頭筋が二関節筋で大きな筋肉で肩関節とも連結しているため優位に使われやすい傾向にあります。

上腕二頭筋の緊張が筋膜の側副伝達によって腕橈骨筋へ緊張が伝わり、アウターマッスルが緊張していると深層にある上腕筋の機能が働きにくくなる。

その結果、肘屈筋群全体の緊張が高まり可動域制限を引き起こしてしまいます。
橈骨にも付着しているので、橈骨の制限にもつながるのでますます肘関節の機能が働きにくい環境になってしまいます。

 

肘関節の治療戦略

今までの内容をまとめてどのように進めていけば良いのか考えてみます。 

橈骨に適度な可動性があるのか評価 

肘関節屈筋群に過緊張がないか評価
↓ 
上腕三頭筋が十分に機能できる状態かどうか評価

各可動性、肘屈筋群の緊張緩和、上腕三頭筋の機能不全を改善 
↓ 
各部位を連動させた動作戦略へ 

 

肘関節周囲に対する筋間リリース

術後や特定の筋肉ばかり過剰に使用していると筋肉同士、筋肉と各組織(靭帯、関節包など)が癒着を起こして動きにくくなっていることがしばしばあります。  

要は、組織が互いに滑り合わないとスムーズに筋肉は収縮と弛緩ができない。 つまり、可動域制限や筋出力の低下につながります。 

私の臨床上、癒着を改善するだけでも劇的に可動域、筋力の改善が認められます。

 

上腕二頭筋-腕橈骨筋

上腕二頭筋の緊張により、隣接する腕橈骨筋に側副伝達で緊張が伝わりやすい。
同じ肘屈筋であるため、同時に使われやすく、さらに緊張を高めてしまって両筋間で癒着することが多いです。

リリース手順は以下の通り。

1.上腕二頭筋-腕橈骨筋間へ指を入れ、上腕二頭筋から腕橈骨筋を外側へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肘関節の屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

上腕二頭筋-上腕筋

これもまた上腕二頭筋の緊張により影響を受けやすい部位。
上腕筋は肘関節におけるインナーマッスルであるため、上腕筋の機能不全があると肘関節機能が低下、肩関節や手関節にも影響が波及しやすいです。

リリース手順は以下の通り。

1.上腕二頭筋-上腕筋間へ指を入れ、上腕筋から上腕二頭筋を上方へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肘関節の屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

上腕二頭筋-上腕三頭筋

両筋は互いに拮抗する作用を持つ筋肉ですが、上腕骨外側で筋膜で連結しています。
そのため、上腕二頭筋が緊張を高めると上腕三頭筋もその影響を受けて緊張を高めやすい。

両者は反対の作用を持つのでここで癒着が起こると、互いに働きを邪魔し合ってスムーズな運動ができません。

リリース手順は以下の通り。

1.上腕二頭筋-上腕三頭筋間へ指を入れ、上腕二頭筋から上腕三頭筋を下方へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま肘関節の屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

肘関節に対する関節可動域運動

これも肩関節と同様に、そもそも関節可動域運動自体を間違ったやり方で実施している場合があります。 

例えば、肘関節の伸展制限。
上腕二頭筋が硬いから伸展制限があると考えて、ストレッチなどによって柔軟性が改善したとしてもすぐに元に戻ることが考えられます。 

みなさんも一度はこういった経験あるんじゃないでしょうか? 

筋肉の固さ→関節の制限という考えで筋肉の固さがとれたら可動域は改善するといった安易な考えではなく、筋肉が固くなったそもそもの原因があって、その結果可動域制限が出現しているので、その原因に対してアプローチしなければすぐに戻ってしまうのです。 

上記の例で考えると、例えば、肩関節屈曲の代償運動として上腕二頭筋を過用していたとしたら。 
こう考えると、肩の問題をなんとかしないと肘の伸展も改善しないということはイメージできますよね。

また、過剰に可動すると関節にとって負担となっている場合、それ以上負担をかけないために上腕二頭筋を硬めて可動性を抑制しているとしたら。 

この場合、安易にストレッチなどすると肘関節にとっては負担となるので、痛みを作ってしまったり、次の日には元に戻っていることがあります。 

アライメント異常による運動パターンへの影響の結果として伸展制限が起きているため、単純にストレッチという考え方では中々改善してきません。

つまり、可動域制限や痛みを改善するために筋肉に対してストレッチするという考えが間違いで、そこに至ってしまった運動パターンの改善が必要なのです。
そのためには、関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。

 

肘関節の適合性を考えた関節運動

【屈曲時の関節可動域運動のコツ】

肘関節屈曲
=腕尺関節の上腕骨滑車に対して尺骨滑車切痕が前上方へ転がり・滑り+腕橈関節の上腕骨小頭に対して橈骨頭窩が前上方へ転がり・滑り

この二つの関節の動きが関わっているとお伝えしました。
さらに自然な関節の動きを出すには、上腕骨と前腕の相対的な位置関係を考慮して動かすことが重要です。

具体的には肩関節の伸展と前腕の外転を組み合わせます。 

肩関節伸展時、上腕骨は近位が前方へ、遠位が後方へ動きます。
上腕骨遠位が後方へ動くということは、相対的に尺骨と橈骨は前上方へ転がりと滑りを起こすことになりますよね。 

このように、どちらか一方の骨だけを動かすのではなく、両方を動かすことで一部分に負担をかけるようなことなく、関節を守りながら関節可動域運動をおこなうことができます。 

さらに、運搬角を考えると前腕を外転位へもっていくことで関節軸に合った運動が可能となります。 

肘関節屈曲
=尺骨・橈骨の前上方への転がり・滑り+前腕外転+肩関節伸展

 

【伸展時の関節可動域運動のコツ】

肘関節伸展
=腕尺関節の上腕骨滑車に対して尺骨滑車切痕が後上方へ転がり・滑り+ 腕橈関節の上腕骨小頭に対して橈骨頭窩が後上方へ転がり・滑り

この二つの関節が関わっています。 

肘関節伸展時も屈曲時と同様に上腕骨との関係を考え、肩関節の屈曲と前腕外転を組み合わせます。 

肩関節屈曲時、上腕骨は近位が後方へ、遠位が前方へ動きます。
上腕骨遠位が前方へ動くということは、相対的に尺骨と橈骨は後上方へ転がりと滑りを起こすことになりますね。 

肘関節伸展
=尺骨・橈骨の後上方への転がり・滑り+前腕外転+肩関節屈曲

 

【回内時の関節可動域運動のコツ】

前腕回内
=近位橈尺関節の尺骨橈骨切痕に対して橈骨頭が前方へ転がり・後方への滑り

これも上腕骨との相対的な位置関係を考え、回内に対しては肩関節の外旋を組み合わせます。 

肩関節外旋時、上腕骨は外後方へ動き、相対的に橈骨頭は前方へ動きます。

前腕回内=橈骨頭の前方への転がり・後方への滑り+肩関節の外旋

 

 

【回外時の関節可動域運動のコツ】

前腕回外
=近位橈尺関節の尺骨橈骨切痕に対して橈骨頭が後方へ転がり、前方への滑り

これも同様に上腕骨との相対的な位置関係を考えると、回外に対しては肩関節の内旋を組み合わせます。 

肩関節内旋時、上腕骨は内前方へ動き、相対的に橈骨頭は後方へ動きます。

前腕回外=橈骨頭の後方への転がり・前方への滑り+肩関節の内旋

 

肘関節に対する運動療法

上述した通り、肘関節は屈筋群が優位に働きやすい傾向にあります。

そのため、問題となりやすいのは伸展制限や肘伸展位で上肢を使えない、橈骨の制限による回内外の制限。

上記の点に対して指導していきます。

 

肘関節伸展に対する運動療法

1.端座位で肩外旋位、肘伸展位で屈曲90°の位置まで腕を伸ばす
2.その肢位を保持したまま、手関節・手指伸展、屈曲を繰り返す

<ポイント>
・肘屈曲位、肩内旋位とならないように
・手部を動かす際、肩の水平外転で代償しないように

 

手関節ってそもそもどんな関節?

そもそも、可動域制限があるとどうなのか? 

例えば、背屈が制限されていると起き上がり時に手をついて起き上がることが難しくなりますよね。
制限があるのに無理に手をついていると痛みも出しかねませんし。 

手関節を構成する手根骨。手根骨が手関節の動きに合わせて微妙に動くことで前腕から付着している手外在筋の筋長や緊張度合をコントロールしています。 
そのため、指の機能とも手関節は密接に関係していることが言えます。 

また、手関節に制限がある状態で手を過用することによって、手根管症候群やいわゆる腱鞘炎といった症状も発症しかねません。 

手は何か触る、握る、つかむ、つまむといった基本的な動きから、道具を作ったり、操作したりと様々な場面で活用します。食事や整容動作など日常生活においても必ず使用するはずです。

 

3つの関節から構成されている

<手関節を構成する3つの関節>
・遠位橈尺関節
・橈骨手根関節
・手根中央関節

手関節の運動は基本的に、背屈/掌屈、橈屈/尺屈の2軸の運動の組み合わせでおこなわれます。 

これに加えて近位橈尺関節での回内/回外によって橈骨を介して、手根部へその動きが伝わります。
ドアノブを回すなどといった動きは手関節が回旋しているわけではなく、前腕の動きと連動した結果と言えます。

つまり、肘関節とセットで考えないといけないということ。

背側には腱が通るいくつかの溝があり、手の外在筋の方向付けに関与しています。 

背側結節(リスター結節)には、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、長母指伸筋が通り、尺骨の溝には尺側手根伸筋が通っており、各腱を触知するためにも溝がどこに位置するか、何筋の腱が通っているかを把握しておくことは大事になります。 

舟状骨、三角骨と橈骨で構成される遠位橈骨関節面の特徴的な構造として、橈骨関節面は尺骨側に約25°傾斜しています。
さらに、手掌方向に約10°傾斜しています。 

このことから、橈屈より尺屈方向に、背屈より掌屈方向に大きな可動域を有しているということになります。 

この角度があることで、手関節は真っ直ぐに屈伸するわけではなく、尺骨の25°の傾斜が軸となり、その軸上で動くことが本来の動きとなります。やや尺屈した状態で掌背屈するということです。 

ただ、橈骨掌側の10°の傾斜に関しては、単純に考えると掌屈位が関節の適合性が高いと思われますが、やや背屈位で関節面の接触率が最も高くなるため適合性も高いと言えます。 

この軸に沿って関節運動することで、関節面から逸脱することなく運動ができます。 

これのメリットとしては、関節面から外れて運動するとどこかに局所的な負担がかかることになるため、組織を傷める原因となります。
関節の適合性を守って運動することは、不必要に負担をかけることがないため、組織を損傷させるリスクが減りますし、関節可動域運動としても効果的に進めることができます。 

反対に言えば、もし真っ直ぐ動く場合、構造的に破綻した動きとなっているため、どこかしらで負担がかかっています。関節の構造を理解しておくと、どうのように動くと異常なのかということが理解しやすくなりますね!

 

【遠位橈尺関節】

遠位橈尺関節は、橈骨の尺骨切痕・関節円板の近位面で形成される凹面と凸状の尺骨頭で構成されています。 

この関節円板はその形状から三角繊維軟骨と呼ばれ、その名の通り三角形のような形状をしています。 

関節円板の両縁を掌側・背側橈尺関節包靭帯で囲まれ、この部分で尺骨頭を下から支え、橈骨切痕に尺骨頭を保持することができています。 

回内・回外時は近位・遠位ともに橈骨が主体となって動くことは変わりませんが、遠位橈尺関節の場合、凹面である橈骨切痕が凸面の尺骨頭上を動くことになります。 

<遠位橈尺関節の動き> 
回内時:掌側方向に転がり、滑り
回外時:背側方向に転がり、滑り

 

凹凸の法則から、上記のように転がりと滑りが同方向に起こることとなりますね。
また、橈骨と手根骨が橈骨手根関節を構成しているので、回内外に伴って橈骨に動きと一緒に手根骨も動くことになります。 

つまり、手関節(橈骨手根関節)の可動域を改善しようと思うと、橈尺関節の制限も考えないといけないこともあるということ。 

回内・回外それぞれの全可動域をスムーズに可動するには、筋肉、皮膚、関節包、靭帯がそれぞれ十分な伸張性、また、弛緩するだけの余裕をもっている必要があります。

<回内時>
●伸張する組織
・背側関節包靭帯
・前腕回外筋(上腕二頭筋、回外筋)
・肘後方、前腕背側の皮膚・筋膜

●弛緩する組織 
・前腕回内筋群(円回内筋、方形回内筋)
・骨間膜
・方形靭帯 
・掌側関節包靭帯
・肘前方、前腕掌側の皮膚
・筋膜

 <回外時>
 回内時と反対

 

【橈骨手根関節】

橈骨手根関節は、橈骨の凹面、関節円板と舟状骨および月状骨の凸面から構成されています。 

関節運動時は、凸面である舟状骨および月状骨が動くため、以下のように動きます。 

背屈時:舟状骨・月状骨が背側へ転がり、掌側へ滑り
掌屈時:舟状骨・月状骨が掌側へ転がり、背側へ滑り

 

尺屈・橈屈時も同様に凸面である舟状骨および月状骨が動くため、以下のように動きます。 

尺屈時:舟状骨・月状骨が尺側へ転がり、橈側へ滑る
橈屈時:舟状骨・月状骨が橈側へ転がり、尺側へ滑る

 

橈骨の尺側への25°の傾斜から、構造的に橈屈は尺屈より制限されています。

そのため、一定の角度橈屈すると橈骨手根関節では制限され、それ以降は手根中央関節で主に動いています。  

尺屈・橈屈に関しては、靭帯による運動の方向付けが重要であり、二重Vシステムとされています。
これは、有頭骨から三角骨・舟状骨へ伸びる掌側手根間靭帯と掌側尺骨手根靭帯・掌側橈骨手根靭帯がそれぞれ逆さにしたV字をしていることからそう呼ばれています。
有頭骨から舟状骨への掌側手根間靭帯を外側脚、有頭骨から三角骨への掌側手根間靭帯を内側脚としています。 

これら二つのV字をした靭帯は対角線上でそれぞれ緊張して手根骨の運動方向を誘導しています。
尺屈時、月状骨が橈側へ滑ることで掌側尺骨手根靭帯が緊張して橈骨遠位関節面へ引き寄せるように作用します。
その引き寄せる作用と対角線上の掌側手根間靭帯の外側脚が緊張して舟状骨の橈側を上方へ引き上げるように作用します。 

つまり、月状骨側が近位へ、舟状骨側が遠位へ移動し、テコのような動きをするわけですね。 

反対に橈屈時は、舟状骨が尺側へ滑ることで掌側橈骨手根間靭帯が緊張して橈骨遠位関節面へ引き寄せるように作用します。 

また、対角線上の掌側手根間靭帯の内側脚が緊張して月状骨の尺側を上方へ引き上げるように作用します。 

つまり、舟状骨側が近位へ、月状骨側が遠位へテコのように動きます。  

尺屈時:舟状骨・月状骨が尺側へ転がり、橈側へ滑る+舟状骨が遠位へ、月状骨が近位へテコのように動く
橈屈時:舟状骨・月状骨が橈側へ転がり、尺側へ滑る+月状骨が遠位へ、舟状骨が近位へテコのように動く

 

靭帯によって細かい運動の方向付けがされることで筋肉による動きをよりスムーズに遂行できるようフォローしているというわけですね。

 

【手根中央関節】

手根中央関節は、手根骨の近位列(舟状骨、月状骨)と遠位列(有鈎骨、有頭骨、大菱形骨、小菱形骨)によって構成されています。 

この関節はさらに内側コンパートメント、外側コンパートメントの二つに分けられています。 

内側コンパートメント:有頭骨の凸面、有鈎骨の尖端と舟状骨、三角骨の凹面
外側コンパートメント:舟状骨の遠位凸面と大菱形骨、小菱形骨の凹面 

動きとしては、内側コンパートメントがほとんど担っています。 

有頭骨の底面が軸となっているため、動きとしてはその軸を基準に有頭骨の凸面が三角骨の凹面を動くことになります。 

<手根中央関節の動き>
背屈時:有頭骨が背側へ転がり、掌側へ滑り
掌屈時:有頭骨が掌側へ転がり、背側へ滑り
尺屈時:有頭骨が尺側へ転がり、橈側へ滑り
掌側時:有頭骨が橈側へ転がり、尺側へ滑り

 

手関節におけるゴール設定

ここまでの手関節とはそもそもどういった関節なのか理解できたら、ゴール設定を明確にしておく必要があります。 

ここでいうゴールとは、手関節の理想の状態を考えて現在の状態と比較して何が足りないのか?差を考えることで、すべき評価・アプローチもおのずと出てくると思います。 

理想の手関節の状態を明確に 
↓ 
現在の手関節の状態との比較 
↓ 
理想と現在の差を埋めるための評価・アプローチ 

このような流れですね! 

結論から言うと以下の2点が重要。 
・各関節の動きに制限がないか 
・手内在筋が機能しているか

各関節の動きに制限がないか

上述してきた、遠位橈尺関節、橈骨手根関節、手根中央関節の3つがそれぞれ十分な可動性があるからこそ、制限なく痛みなく指を動かしたり手を使った作業ができるわけです。

例えば、近位橈尺関節と遠位橈尺関節の回内外によって橈骨手根関節によって橈骨と手根骨は連結しているため、回内外の動きが手根骨へ伝わります。

もし、回内外に制限があった場合。
肩関節の過剰な回旋によって代償する、橈骨手根関節、手根中央関節によって回旋を代償して局所にストレスがかかることが予測されます。

また、可動域が制限された状態で力を発揮しようとすると、当然筋肉には負担となります。

手の場合は腱鞘炎がその例ですね。
本来なら橈尺関節、橈骨手根関節、手根中央関節のそれぞれが可動性を有しているので負担もそれぞれで分散することができます。

しかし、例えば橈骨手根関節に制限が出現すると、それを補って他の二つの関節で代償します。
すると、筋肉にも本来とは違った部位に負担が蓄積していき、やがて痛みを発生させてしまうということにつながるのです。

 

手内在筋が機能しているか

筋肉には以下のような特性があります。

<筋肉の特性>
・インナーマッスル-アウターマッスル
・中枢-末梢
・主動作筋-拮抗筋

上記に挙げたものは互いに影響し合う関係にあります。

手内在筋の例で言うと、手には内在筋と外在筋が存在することはご存知ですね。
上記の関係で考えると、手内在筋が廃用を起こして硬くなったり、緊張を高めたりして機能不全があると、外在筋が優位に働いてしまいます。

肩関節の例で考えると分かりやすいかもしれません。
肩はローテーターカフによって骨頭の細かい動きを制御して安定性を高めてくれるおかげで、三角筋などのアウターマッスルによって関節運動を起こすことができます。

しかし、ローテーターカフが機能不全を起こすとアウターマッスル優位となり、三角筋に痛みを起こしたりすることがしばしばあります。

手関節においても、手内在筋が機能しない結果、外在筋が優位に働いて上述したような腱鞘炎などの症状を引き起こす可能性があります。

手内在筋は手部のインナーマッスルの役割を担っており、インナーマッスルは関節の安定性に関与している。
つまり、手内在が働かないと関節の安定性を外在筋の緊張を高めることで代償、それと同時に関節の動きも外在筋で担うとなると相当な負担になることは想像できますよね。

さらに、アウターマッスルが過剰に働くとそれと拮抗する筋肉にも影響を与えます。
手屈筋群なら手伸筋群が拮抗筋となり、手屈筋群が過剰に働くと手伸筋群の働きは弱くなります。

もっと言うと、末梢の働きが過剰になりすぎると中枢の働きが弱くなってしまいます。
手部で言うと、肘や肩関節、体幹などが中枢にあたります。

APA(先行随伴性姿勢制御)
来るべき運動に伴って生じるであろう身体動揺・外乱を見越して、それらを最小限に抑える運動に先行する姿勢調節のための筋活動

APAは四肢の運動に先行して体幹筋活動が高まるというものですが、手に対しての肘や肩というように、体幹だけに当てはまるわけではありません。

手の運動に先行して肘や肩が安定性を作っているからこそ手の巧緻的な運動が可能なのです。

<手内在筋の機能不全による弊害>
・外在筋の過緊張(それに伴う可動域制限、疼痛)
・拮抗筋の過緊張(手屈筋群-手伸筋群)
・肘関節、肩関節の機能低下(末梢にあたる手部の過緊張による中枢機能の低下)

 

手関節の治療戦略

今までの内容をまとめてどのように進めていけば良いのか考えてみます。 

各関節それぞれに適度な可動性があるのか評価

手内在筋の機能不全がないか評価

各可動性、手内在筋の機能不全を改善 
↓ 
各部位を連動させた動作戦略へ  

 

手関節に対する筋間リリース

特定の筋肉ばかり過剰に使用していると筋肉同士、筋肉と各組織(靭帯、関節包など)が癒着を起こして動きにくくなっていることがしばしばあります。

要は、組織が互いに滑り合わないとスムーズに筋肉は収縮と弛緩ができない。 つまり、可動域制限や筋出力の低下につながります。 

私の臨床上、癒着を改善するだけでも劇的に可動域、筋力の改善が認められます。

 

屈筋支帯-橈側手根屈筋、長母指屈筋、浅指屈筋、深指屈筋

支帯の下を各腱が通過しているので、ここで癒着が起きると手関節の動きはかなり制限されてしまう。

その状態で手を酷使することで腱鞘炎の原因ともなってしまうのでしっかり剥がしておきましょう。

リリース手順は以下の通り。

1.屈筋支帯-各腱間へ指を入れ、各腱から屈筋支帯を上方へ剥がすように押す
2.十分に剥がした後、指を入れたまま手関節 or 手指の屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

伸筋支帯-尺側手根伸筋、小指伸筋、指伸筋、橈側手根伸筋、長母指外転筋、長母指伸筋

これも屈筋支帯の場合と同様に剥がしおきます。

リリース手順は以下の通り。

1.伸筋支帯-各腱間へ指を入れ、各腱から伸筋支帯を上方へ剥がすように押す 2.十分に剥がした後、指を入れたまま手関節 or 手指の屈伸運動、自動運動or他動運動に合わせて指を深く組織間へ入れていく

 

手関節に対する関節可動域運動

まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということです。

例えば、手関節の背屈制限。前腕の屈筋が硬いから背屈制限があると考えて、ストレッチなどによって柔軟性が改善したとしてもすぐに元に戻ることが考えられます。 

上記の例で考えると、例えば、肩関節屈曲の代償運動として上腕二頭筋を過用していたとしたら。
その影響で肘と手関節に関与する二関節筋である、長掌筋や尺側手根屈筋も上腕二頭筋と一緒に過用してしまう可能性があります。 

こう考えると、肩の問題、そこから二次的に発生している肘の問題をなんとかしないと手の背屈も改善しないということはイメージできますよね。 

また、過剰に可動すると関節にとって負担となっている場合、それ以上負担をかけないために前腕の屈筋群を硬めて可動性を抑制しているとしたら。
この場合、安易にストレッチなどすると手関節にとっては負担となるので、痛みを作ってしまう要因にもなりますし、次の日には元に戻っていることがあります。 

アライメント異常による運動パターンへの影響の結果として背屈制限が起きているため、単純にストレッチという考え方では中々改善してきません。 

つまり、可動域制限や痛みを改善するために筋肉に対してストレッチするという考えが間違いで、そこに至ってしまった運動パターンの改善が必要なのです。
そのためには、関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。

 

手関節の適合性を考えた関節運動

【背屈時の関節可動域運動のコツ】

手関節(橈骨手根関節+手根中央関節)背屈
=橈骨凹面に対して舟状骨・月状骨が背側へ転がり、掌側へ滑り+舟状骨・月状骨に対して有頭骨が背側へ転がり、掌側へ滑り

この二つの関節の動きが関わっているとお伝えしました。 

二つの関節が関わっているため、まず、橈骨手根関節と手根中央関節のどちらで制限が起こっているかを評価すべき。 

背屈に合わせて、舟状骨・月状骨、有頭骨を掌側へそれぞれ押してみてどちらの制限が強いか評価します。 

制限を特定した上で、さらに自然な関節の動きを出すには、関節を構成するそれぞれの骨の相対的な位置関係を考慮すること。 

具体的には、以下のようにします。 

<手関節背屈を構成する骨の位置関係を考慮した動かし方>
橈骨手根関節:肘関節伸展+舟状骨・月状骨伸展
手根中央関節:肘関節伸展+舟状骨・月状骨伸展+有頭骨伸展 

橈骨手根関節の例で言うと、肘伸展に合わせて舟状骨・月状骨を掌側へ押し込むように操作します。 
これに橈骨の25°の傾斜を考慮して、やや尺屈位で操作するとなお良いです。

関節運動はどちらかの骨だけが動くということはなく、関節を構成する両方の骨がそれぞれ動くことで成り立っていますので、それぞれの動きを考慮することで自然な関節の動きに近づけることができます。

*赤矢印:橈骨手根関節の動き、青矢印:手根中央関節の動き

 

【掌屈時の関節可動域運動のコツ】

手関節掌屈
=橈骨凹面に対して舟状骨・月状骨が掌側へ転がり、背側へ滑り+舟状骨・月状骨に対して有頭骨が掌側へ転がり、背側へ滑り

背屈時と同様に、橈骨手根関節と手根中央関節のどちらでより制限が強いか評価した上で、それぞれの骨の相対的な位置関係を考慮します。 

具体的には以下の通りです。 

<手関節掌屈を構成する骨の位置関係を考慮した動かし方>
橈骨手根関節:肘関節屈曲+舟状骨・月状骨屈曲
手根中央関節:肘関節屈曲+舟状骨・月状骨屈曲+有頭骨屈曲

 

こちらは、舟状骨・月状骨および有頭骨を背側へ押し込むように操作します。これも橈骨の25°の傾斜を考慮して、やや尺屈位で操作すると良いですね。

 

【尺屈時の関節可動域運動のコツ】

手関節尺屈
=橈骨凹面に対して舟状骨・月状骨が尺側へ転がり、橈側へ滑り+ 舟状骨・月状骨に対して有頭骨が尺側へ転がり、橈側へ滑り

これも同様に、どちらの関節でより制限が強いのか評価、骨の相対的な位置関係を考慮します。 

具体的には以下の通りです。 

<手関節尺屈を構成する骨の位置関係を考慮した動かし方>
橈骨手根関節:前腕外転+舟状骨・月状骨内転 
手根中央関節:舟状骨・月状骨外転+有頭骨内転

 

前腕外転位では相対的に舟状骨・月状骨は内転位、つまり尺屈しているので、より効果的に関節運動をおこなうことができます。
さらに、舟状骨・月状骨外転位でも有頭骨は相対的に内転位となるため、どちらの関節を狙うかで骨の操作も変化してきます。

 

【橈屈時の関節可動域運動のコツ】

手関節橈屈
=橈骨凹面に対して舟状骨・月状骨が橈側へ転がり、尺側へ滑り+舟状骨・月状骨に対して有頭骨が橈側へ転がり、尺側へ滑り

これも同様に、どちらの関節でより制限が強いのか評価、骨の相対的な位置関係を考慮します。 

具体的には以下の通りです。 

<手関節橈屈を構成する骨の位置関係を考慮した動かし方>
橈骨手根関節:前腕内転+舟状骨・月状骨外転
手根中央関節:舟状骨・月状骨内転+有頭骨外転

前腕内転位では相対的に舟状骨・月状骨は外転位、つまり橈屈しているので、より効果的に関節運動をおこうなうことができます。 
さらに、舟状骨・月状骨内転位でも有頭骨は相対的に外転位となるため、どちらの関節を狙うかで骨の操作も変化してきます。

 

手関節に対する運動療法

手部も肘や肩関節と同様、手を使った作業では屈筋群が優位になるので、屈筋群の緊張が高い傾向にあります。

それに伴い、手内在筋の機能不全が加わるとより屈筋群の緊張が高まってしまいます。

 

手内在筋に対する運動療法

1.PIP、DIP関節伸展位でMP関節を屈曲

<ポイント>
・PIP、DIP関節の屈曲は外在筋が主に作用するため、それを抑制しながら手内在筋を作用させる

 

手伸筋群に対する運動療法

1.肩屈曲90°で外旋位、肘伸展位、前腕回内外中間位を保持
2.保持したまま、手関節・手指を伸展

<ポイント>
・手-肘-肩-体幹へと続く筋連結を連動させることを目的としている
・肘が屈曲しないように
・肩が内旋、水平内転・外転で代償しないように

 

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。