2017/09/09

【肩関節に苦手意識のあるあなたへ】肩関節の可動域制限に対するポイント

 

スポンサーリンク




この記事を書いている人 - WRITER -
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
詳しいプロフィールはこちら
肩関節疾患の方に対して苦手意識を持っていませんか?
もうすぐ新人療法士も入職するのにこれでいいのだろうか?先輩として教えられるか心配…と不安になっていませんか?
 
肩関節は複数の関節や多くの筋群が関節運動に関与しており、複雑で確かに難しいイメージがあるかもしれません。
しかし、不安の原因はそもそもなにを評価していいかわからない、どのように動かしていいかわからないというふうに、知らないからです。
 
どのように動かせば良いのか、どんな動かし方がだめなのか理解しておくことで、自信を持ってリハビリを進めることができます。
 
肩関節の構造から可動域制限に対してどのように動かしたらいいのかを以下にまとめてあります。
 

肩関節の関節可動域運動の間違い

そもそも関節可動域運動自体を間違ったやり方で実施している場合があります。
まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということです。
 
よくある間違いが、筋肉など軟部組織が固まったから、腱板が断裂・損傷したから制限が起こっているという誤解。
これは逆で、運動パターンの異常で関節に偏ったストレスがかかった結果、骨の変形や軟部組織が変化し可動域制限が起こるという流れが自然です。
何か起因となることがあった場合は別ですが、腱板の障害もそもそも断裂・損傷するような負担がかかっていた結果起きたと考えるべき。
 
例えば、肩関節の屈曲制限。
大円筋や広背筋が固いから屈曲がいかないと考えて、ストレッチなどによって柔軟性が改善したとしてもすぐに元に戻ることが考えられます。
みなさんも一度はこういった経験あるんじゃないでしょうか?
 
筋肉の固さ→関節の制限という考えで筋肉の固さがとれたら可動域は改善するといった安易な考えではなく、筋肉が固くなったそもそもの原因があって、その結果可動域制限が出現しているので、その原因に対してアプローチしなければいけないのです。
 
上記の例で考えると、例えば、肩甲胸郭関節の下制制限や胸椎の後弯が強いと、それらの制限を代償して肩甲上腕関節が過剰に可動することが予測されます。
 
過剰に可動すると関節にとって負担となり、それ以上負担をかけないために可動性を抑制した結果、上記で挙げた筋群が緊張を高めて屈曲制限を起こしている可能性があります。
 
この場合、安易にストレッチなどすると肩関節にとっては負担となるので、痛みを作ってしまったり、次の日には元に戻っていることがあります。
 
アライメント異常による運動パターンへの影響の結果として屈曲制限が起きているため、単純にストレッチという考え方では中々改善してきません。
 
つまり、可動域制限や痛みを改善するために筋肉に対してストレッチするという考えが間違いで、そこに至ってしまった運動パターンの改善が必要なのです。
 
そのためには、関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。
 

肩関節の可動域制限があるとどうなるのか?

 
そもそも、可動域制限があるとどうなのか?
 
肩関節は球関節ですので、3平面上に動くことができて自由度が高い関節です。
ヒトは手を使って作業するために大きな可動制が必要であり、肩関節は身体の中でもモビリティの役割を担う関節なのです。
 
肩関節運動に関与する関節を見てみると、肩甲上腕関節、肩甲胸郭関節、胸鎖関節、肩鎖関節、胸椎、腰椎など複数の関節が関与しています。
肩甲上腕関節以外はどれも可動性が大きいとは言えない構造となっています。
 
肩甲上腕関節に制限ができると、隣接関節で制限を補おうとして過剰にその他の関節に負担がかかることが考えられます。
 
「肩甲骨の内側が痛い。」、「脇腹が痛い。」など訴える方よくいませんか?
一概には言えませんが、可動性に富んだ構造ではないのに肩甲胸郭関節や胸椎で代償した結果、負担がかかって痛みを起こしていると捉えることもできます。
 
肩関節に関しては、やはり他の関節の可動性が少ないため、結局肩甲上腕関節で無理やり可動性を作り出すしかなく、腱板断裂・損傷や変形性肩関節症などの障害を発症するケースが多いように感じます。
 
では、肩関節の構造の理解から実際どのように動くのか考えていきましょう。
 

肩関節の構造特性

 
まず、肩関節というのは狭義の意味では肩甲上腕関節を指し、広義の意味では肩甲上腕関節に加えて、複数の関節を含んでおり「肩複合体」とも呼ばれます。
 
肩複合体の構成要素
・肩甲上腕関節
・肩甲胸郭関節
・胸鎖関節
・肩鎖関節
 
 
狭義の肩関節、肩甲上腕関節は上腕骨頭と肩甲骨の関節窩から構成され、3軸性の球関節です。
3軸性ということで、屈曲/伸展、外転/内転、外旋/内旋の3つの軸の動きを持っており、可動性に富んだ構造をしています。
 
この大きな可動性を実現するためには、肩甲上腕関節だけでは不可能であり、肩複合体がそれぞれ十分に可動性を持ち、かつ、協調的に動く必要があります。
 
各関節の構成要素がどういった形態をしているのか順番に見ていきましょう!
 

上腕骨の形態

上腕骨頭は完全な球のほぼ半分の形をしており、関節窩に対して凸の要素を持っています。
骨頭は上内側へ向いており、上腕骨長軸に対して約135°の角度を作っています。
 
また、上腕骨内側顆-外側顆を結んだ線に対して骨頭は約30°後捻しています。
 
もし、骨頭がこのような形態ではなく、水平面に対して直角であったら関節窩から完全に脱臼して肋骨に突き刺さってしまいますよね?
ですので、この解剖頚と後捻角もしっかりとおさえておきましょう。
  

肩甲骨の形態

肩甲骨の関節窩はやや凹状の形をしており、関節窩の内側縁に対して約5°上方を向いています。
 
また、前額面に対して約35°前方に関節窩を向けています。
この肩甲骨の向きが肩甲面(scapular plane)と呼ばれ、この面から逸脱しないように肩甲骨と上腕骨が動くことで関節が守られます。
 
ざっくり言うと、肩関節が安定するポジション
・下垂位から屈曲・外転45°
・肩甲棘と上腕骨の長軸が一致
・肩関節内外旋中間位
周囲の関節包の緊張が均一になると言われており、ここから上下左右へポジションを変化させて時の反応を評価に使うこともできる
 
 

鎖骨の形態

鎖骨は前面を基準にすると、外側は凹、内側は凸と湾曲しています。
水平面から見ると、前額面に対して後方へ約20°傾いています。
 
鎖骨の外側、肩峰端は肩峰上面の楕円状の関節面と鎖骨肩峰端下面の関節面とで肩鎖関節を形成しています。
 
また、鎖骨の内側、胸骨端の下面の肋骨関節面で第1肋骨と胸骨柄の関節面とそれぞれ関節を形成しています。
 
 

スポンサーリンク

肩複合体から考える肩関節の安定性

ここで言う安定性とは、肩甲骨面に対して上腕骨頭が向きを変えることができる、上腕骨頭に対して肩甲骨が向きを変えできること。
両者が相互に関係し合いながら動くことで関節面から逸脱しない、安定していると言えます。
 
肩関節疾患における可動域制限や痛みの原因の多くは、この関節面のズレ、適合性の不良。
 
静的な状態では上腕骨頭の135°の解剖頚と30°の後捻、肩甲骨関節窩の5°の上方への傾きと35°の前捻から互いに向きを合わせることで関節の適合性を高めています。
 
この関節面の適合性を保ったまま関節運動を行うには、どちらかだけが動くのではいけません。
 
例えば、肩関節屈曲時には骨頭は下方へ移動しますが、この時肩甲骨が固定されていると骨頭はそのまま下方へ逸脱してしまいます。
 
肩甲骨が骨頭の動きに合わせて上方回旋、つまり、骨頭を下から支えるように関節窩が上方を向くことで関節の適合性を保ったまま関節運動が可能となります。
 
また、肩甲胸郭関節は実際には関節ではなく、胸郭と肩甲骨の接触を意味しているものです。
胸鎖関節と肩鎖関節の動きによる結果として肩甲骨の動きが可能となっています。
 
つまり、肩甲骨の動きが大事!と言って肩甲骨ばかり着目してもいけず、胸鎖関節と肩鎖関節の動きは出ているのか?という視点でも考える必要があるわけです。
 
肩甲骨と他の関節との関連は以下の記事に詳しく記載してあります。
 
肩複合体を構成する関節のどこに異常が生じても、肩関節の動きとして何かしらの制限を起こしてしまう可能性があるのです。
 
では、実際の関節運動を想定して考えてみましょう。
 

肩関節の適合性を考えた関節運動

上記の内容から、肩複合体を構成するそれぞれの骨に特徴があって、形状に合った関節の適合性が高まるポジションで動かす、あるいは動かしてもらうことが重要です。

可動域制限や痛みなどの症状が出現するのは、何らかの原因で肩関節の適合性が崩れている、適合性が低いポジションへ動いてしまうような運動パターンとなっていると言えます。 

よくあるのが肩甲骨関節窩に対して真っ直ぐ屈伸するという誤解。

上記で挙げたような形態を考えると構造的に不安定な肩関節は真っ直ぐ屈伸すると骨頭が関節窩から外れる方向へ動くため、脱臼・インピンジメントしてしまいます。 こうならないためには、関節窩に対してはまるように骨頭の向きを調整しなければいけません。

肩関節屈曲

上腕骨の135°の解剖頚と30°の後捻角、肩甲骨の5°の上方への傾きと35°の前捻角を考慮すると、頚部の長軸に沿って対角線上に動かすべきです。
屈曲・外転方向ですね。
 
屈曲に伴って骨頭は後方へ、外転に伴って骨頭は内方へ移動します。
このままだと骨頭は後上方へ逸脱してしまうので外旋することで骨頭を下方へ向け、肩甲骨関節窩に対して逸脱しないように動くことができます。
 
これと同時に肩甲骨が外転・上方回旋・下制することで関節窩を前上内方へ向け、見かけ上真っ直ぐ屈曲することができるというわけです。
 
つまり、高い可動性が要求される肩関節をあらゆる肢位で使うためには、上腕骨の屈曲・外転・外旋、肩甲骨の外転・上方回旋・下制が必要なのです。
背臥位で肩甲骨に対して上腕骨を動かす際は、真っ直ぐではなく、上外側に向けて斜めに動かすことで関節窩から逸脱することなく動かすことができます。
 
青矢印が屈曲・外転・外旋を複合した運動方向です。
 
 

肩関節伸展

伸展も屈曲時と同様に上腕骨と肩甲骨の形態を考慮すると、伸展・外転・内旋方向へ動かすことで関節の適合性が保たれます。
 
伸展に伴って骨頭は前方へ、外転に伴って骨頭は内方へ移動します。
このままだと骨頭は前下方へ逸脱してしまうので内旋することで骨頭を後方へ向け、肩甲骨関節窩に対して逸脱しないように動くことができます。
 
屈曲時の動きと合わせると、肩甲上腕関節を支点に円錐状の動きをすることになります。
 
これと同時に肩甲骨が内転・下方回旋・挙上することで関節窩を後下方へ向け、見かけ上真っ直ぐに伸展することができるというわけです。
 
つまり、高い可動性が要求される肩関節をあらゆる肢位で使うためには、上腕骨の伸展・外転・内旋、肩甲骨の内転・下方回旋・挙上が必要なのです。
背臥位において、肩甲骨に対して上腕骨を動かす際は、真っ直ぐ伸展ではなく、下外側に向けて斜めに動かすことで関節窩から逸脱することなく動かすことができます。
場合によっては側臥位のほうが動かしやすいかもしれませんね。
 
青矢印が伸展・外転・内旋を複合した運動方向です。
 
 

関節可動域運動のコツ

 
ここまでの内容から、まとめると以下のような関節運動をする必要があります。
 
肩関節屈曲=上腕骨屈曲・外転・外旋+肩甲骨外転・上方回旋・下制
肩関節伸展=上腕骨伸展・外転・内旋+肩甲骨内転・下方回旋・挙上
 
屈曲、伸展に共通するポイントとしては、上腕骨の解剖頚をイメージして真っ直ぐではなく、円錐状に動かすことがポイントです。
 
真っ直ぐの屈伸というのは、肩甲骨や胸椎、胸郭が動いて見かけ上真っ直ぐに見えているだけです。
実際は、解剖頚を軸として円錐のような動きを屈伸の全域で行われています。

屈曲可動域運動のポイント

屈曲時では、まずは関節窩が上前方を覆っていないという特徴をふまえて、少し屈曲方向へ動かすと骨頭は下方へ移動して被覆率が高まりますので、ここから解剖頚を意識した対角線上に動かすと良いです。
 
①.やや屈曲位へ上腕骨を誘導
②.屈曲位からやや外転・外旋位へ誘導
③.②のポジションから解剖頚の軸回旋を意識して上外側へ誘導する
(この時、屈曲・外転・外旋の複合運動しながら)

伸展可動域運動のポイント

伸展時では、まずは屈曲時と同様に関節窩の前方が覆われていないことをふまえて、内旋方向へ動かすと骨頭が後方へ移動して被覆率が高まりますので、ここから解剖頚を意識して動かすと良いです。
 
①.やや内旋位へ上腕骨を誘導
②.内旋位から伸展・外転位へ誘導
③.②のポジションから解剖頚の軸回旋を意識して下外側へ誘導する
(この時、伸展・外転・内旋の複合運動しながら)

肩関節に対する運動療法

運動療法としては、ROMexで可動域を引き出してから動作へつなげるための練習という流れで考えます。
 
ですので、上腕骨に対する肩甲骨の操作を指導すると良いですね。

上腕骨に対する肩甲骨の運動療法

①.四つ這いとなる
②.前腕回内・肘伸展・上腕骨外旋位とする
③.②の肢位を保ちつつ、床を押すようする
 
ポイント
・肩甲帯が挙上しない、上腕骨が内旋しない、肘が屈曲しないように注意
・肩が前方へ出ないように真っ直ぐ下に押す
・上腕骨が固定されているため、上腕骨に対して肩甲骨を動かすことができる
 
 

まとめ

・常に関節窩と上腕骨頭との適合性を考える

・上腕骨と肩甲骨の相対的な位置関係を考慮

・どちらも協調的に動くことで関節の適合性が守られる

おわりに

いかがでしたか?

当たり前のように実施しているROMexですが、ポイントを守らないと関節を壊しかねない危険な運動となります。

関節の構造さえ理解しておけば、有効な運動となりますので、ぜひ本記事を参考にされてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

オススメの書籍

The following two tabs change content below.
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
この記事を書いている人 - WRITER -
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
詳しいプロフィールはこちら
 

  関連記事 - Related Posts -

 

  最新記事 - New Posts -

 

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です