2017/09/27

膝関節の可動域制限を考えるための関節構造の基礎知識

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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膝関節の動かし方はそれで本当に正しいと自信がありますか?

よく分からずなんとなく屈伸運動を繰り返していませんか?
 
関節にはそれぞれ特有の構造があります。
それを無視した運動は逆に関節を壊してしまいかねません。
 
今回は膝関節の構造の理解と関節可動域制限改善のポイントをご紹介します。
 

関節可動域運動の間違い

そもそも関節可動域運動自体を間違ったやり方で実施している場合があります。
まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということです。
 
よくある間違いが、筋肉など軟部組織が固まったから制限が起こっているという誤解。
これは逆で、運動パターンの異常で関節に偏ったストレスがかかった結果、骨の変形や軟部組織が変化し可動域制限が起こるという流れが自然です。
骨折による急性外傷などはまた別ですが。
 
膝関節で多いのは、変形性膝関節症で骨の変形が起こったから痛いという考え方。
変形があっても痛みがない方はいますし、間違った運動パターンが繰り返されるから骨が変形して結果的に痛くなることがあるわけで、骨の変形を手術で改善しても痛みの改善にはつながらないことがあります。
 
つまり、可動域制限や痛みを改善するために手術で骨の変形を治す、それで改善されないのは仕方がないといった考えは間違いで、骨の変形を起こしてしまった運動パターンの異常を改善するべきということです。
 
関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。
 

膝関節の構造特性

膝関節は大腿骨と脛骨から構成される大腿脛骨関節、大腿骨と膝蓋骨から構成される膝蓋大腿関節の二つの関節の総称です。
 

大腿脛骨関節

1軸性の螺旋関節であり、屈曲・伸展に伴い、転がり運動と滑り運動が起こっています。
 
関節面は大腿骨の内側顆、外側顆と脛骨の上端が接しているだけで、関節構造としては非常に弱い構造であります。
股関節や肩関節と比べると周囲の筋群の密度は少ないですので、不安定な関節を補うために靭帯が発達しています。
 
関節内靭帯
前十字靭帯、後十字靭帯、膝横靭帯、後半月大腿靭帯
 
関節外靭帯
膝蓋靭帯、内・外側側副靭帯、内・外側膝支帯、内・外側膝蓋大腿靭帯、内・外側膝蓋脛骨靭帯、腸脛靭帯、弓状膝窩靭帯、斜膝窩靭帯
 
これだけ多くの靭帯で関節の前後・内外側を強く補強しています。
 

膝蓋大腿関節

膝蓋骨の裏面には軟骨が存在しており、関節運動に伴って大腿骨の膝蓋面上を移動します。

膝蓋骨の役割としては、以下の通りです。

・大腿四頭筋の損傷を防ぐ
・膝関節伸展筋力発揮の補助
・膝関節の保護

膝関節伸展に伴う大腿四頭筋の筋出力をサポートする、膝に蓋をする骨という読んで字のごとく前面からの衝撃から膝関節を保護する役割を担っています。

膝関節の形態を考える

大腿骨内側顆>外側顆という形態をしているため、膝関節を前額面から見ると脛骨は外転しており、膝関節は外反位となります。
これを生理的外反と呼び、FTA(大腿骨長軸と脛骨長軸のなす角度)という角度を作っています。
FTAの正常角度は176°と言われており、180°を越えると膝関節は内反位、165°以下となると外反位となります。
 
ここで考えてほしいのが、大腿骨の形態から脛骨が外転位となっているということは、そのまま立位をとると直立位を保てないのではないか?とうことです。
脛骨が大腿骨に対して外転位であれば、地面に対して斜めに接地することになります。
 
 
 
 
地面に対して真っ直ぐに立つには大腿骨が内反して内転位となる必要があります。
大腿骨が内転位となることで脛骨は地面に対して直立位となることができます。
大腿骨の頚体角があるのもそのためです。
 
 

反張膝は異常なのか?

 
内側顆>外側顆の話はあくまで屈曲・伸展0°の場合です。
 
実は大腿骨の関節面は前面まであり、過伸展となるのは骨構造的には異常ではないのです。
しかし、過伸展位では構造的に安定しないので直立した脛骨の真上に大腿骨が位置していることが理想ですが。
 
 
関節面の前面では、内側顆>外側顆の関係が逆転しており、内側顆<外側顆となります。
ですので、過伸展位では脛骨は大腿骨に対して内転・内反するのです。
 
つまり、反張膝を防ぐには大腿骨を内旋、脛骨を外旋・外反する両骨のリズムが重要というわけです。
  
 
また、関節面の後面ではまた内側顆>外側顆の関係が逆転し、内側顆<外側顆となっています。
 
まとめると以下のようになっています。
 
前面:内側顆<外側顆
底面:内側顆>外側顆
後面:内側顆<外側顆
 
 

スクリューホームムーブメントを考える

 
大腿骨内側顆>外側顆の構造から膝関節の伸展に伴って脛骨は外旋します。
 
内側顆の方が大きく、内側顆の関節面が外側顆に向かって斜めに走行している構造的に自然に脛骨が外旋へ誘導されるようにできています。
 
 
 
さらに、靭帯をみるとACLは前顆間区から外側顆にかけて斜めに走行しており、膝関節伸展位で緊張します。
 
 
 
PCLは内旋を制動しており、LCL、MCLも伸展、外旋で緊張します。
 
 
 
靭帯の走行から見ても、膝関節伸展に伴って脛骨の外旋が誘導されるようになっています。
 
・大腿骨内側顆>外側顆、内側顆の関節面の構造
・靭帯が膝関節伸展時に緊張して外旋へ誘導されるような走行
 
以上の2点からスクリューホームムーブメントによる脛骨の外旋が起こるようにできています。
 
 
外旋が起こるようにできているということは、この関節運動から逸脱すると痛みや軟部組織へのストレスの原因となります。
 
また、老化に伴って靭帯の緊張は緩んでくると言われています。
 
靭帯が緩むと膝関節伸展時の脛骨外旋が起こらず、内旋・前方移動します。
 
このことから、靭帯が緩んでいる場合はOAの発症率が高いことがわかっています。
 
 

荷重下でのスクリューホームムーブメント

 
上述したのはOKCでの話ですが、臨床上重要となるのはCKCでのスクリューホームムーブメントです。
 
膝関節は完全伸展してはじめて構造的に安定します。
関節構造的に不安定な膝関節において、完全伸展できないと軟部組織や靭帯に大きな負担となります。
 
CKCでは、脛骨は足部と一緒に固定されて動きません。
ですので、大腿骨を脛骨に対して内旋することで脛骨を相対的に外旋位へと持っていく必要があります。
 
つまり、CKCにおいては脛骨に対して安定する位置へ大腿骨を持ってくる股関節の機能が重要となるのです。
 
 

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膝OAの特徴

 
上記の内容から、なぜ膝OAの方が膝内反変形を呈するのか考えてみます。
 
CKCでは、脛骨に対する股関節の操作機能が重要と言いました。
ということは、脛骨に対して適切な位置へ股関節を操作できない場合に障害が起きます。
 
本来、脛骨に対して大腿骨を内旋位にするところを外旋位のままだと、膝関節が伸展できずに構造的な安定が得られません。
 
伸展できないと困るため、脛骨を強制的に外旋位へ持っていき、大腿骨を相対的に内旋位とすることで適応します。
 
 
 
下腿を外旋位へ持っていくために足部を回内させて内側アーチがつぶれます。
 
ですが、脛骨の外旋が大きいため、カップリングモーションで脛骨は外側へ傾斜します。
 
股関節外旋+膝関節内反+下腿外旋・外側傾斜
 
という流れで膝関節の内反変形が起こり、OAが発症することが考えられます。
 
 
 
股関節を内旋できない原因を考えると、骨盤の後傾やもっと上部の体幹や胸郭の影響もあります。
 
このことからもOAが膝だけを見ていても中々改善されないことがわかるかと思います。
 
 

膝関節屈曲時の関節運動

 
膝関節屈曲時、脛骨内側面では滑り運動、外側面では転がり運動が起きています。
 
これは、脛骨関節面が凹、大腿骨関節面が凸の形状に由来しています。
 
大腿骨に対して脛骨が動く場合、脛骨内側が後方へ滑り、外側が後方へ転がります。
 
脛骨に対して大腿骨が動く場合、大腿骨内側が前方へ滑り、外側が後方へ転がります。
 
内側の関節面を軸にして外側面が動くことで関節運動が成り立っています。
 
 
 
この滑りと転がり運動があるので、関節面の後方で脱臼やインピンジメントが起きないようにできています。
 
 

関節可動域運動のコツ

 
ここからがやっと本題です。笑
ここまでの内容をまとめて、膝関節を動かすにはどのように動かしたら良いか考えてみます。
 
膝関節伸展=大腿骨内旋+下腿外旋・外転
膝関節屈曲=大腿骨外旋+下腿内旋・外転
 
大腿骨内側顆>外側顆なので、大腿脛骨関節の関節面は軸がずれた平面関節です。
 
軸が前額面上に平行ではなく、斜めにずれているのがポイントととなります。
 
 
ずれているので、まずは関節面を適合させるために下腿を外転位へ誘導してから屈曲・伸展する必要があります。
 
外転位へ誘導せずに真っ直ぐに屈曲した場合、下腿は内転位となったままなので、大腿骨内側顆と脛骨内側の関節面はぶつかってしまいます。
 
OAの方は内反変形の場合が多いので、下腿は外旋・内転位であり、この傾向がより顕著に起こっていると考えられます。
 
ただでさえ、内反変形によって内側裂隙部で関節面同士がぶつかっているのに、関節構造を無視して真っ直ぐに屈曲する関節可動域運動を行うことは膝関節にとっては危険な運動なのです。
 
 
また、屈曲最終域付近では、内側顆<外側顆になるため脛骨の外側面とぶつかります。
 
屈曲初期から最終域の手前までは内側、最終域では外側で骨同士がぶつかるため、それぞれその部位で痛みが出やすいです。
 
 

屈曲可動域運動のポイント

 
膝関節屈曲=大腿骨外旋+下腿内旋・外転ですので、屈曲へ誘導する際もこれを考えて動かせばいいわけです。
 
 
大事なのは相対的な骨の位置関係を考慮すること。
 
 
上記の複合運動に加えて、脛骨は近位が前方、大腿骨は遠位が前方に動きます。
ということは、脛骨の遠位は後方へ、大腿骨の近位は後方へ動く必要があります。
 
①.脛骨をやや外転位にして膝関節を外反位にする
②.脛骨を内旋位、大腿骨を外旋位へ誘導
③.脛骨を長軸方向へ押しつつ、膝関節を屈曲方向へ誘導(踵が大転子へ向けて屈曲する)
④.上記の流れに股関節屈曲方向への誘導を加えるとより良い(徒手的orクッションなどで対応)
 
 
 
 
 
股関節は屈曲位、足関節は背屈位となることで、相対的に膝関節は屈曲位へと誘導されます。
 
 

伸展可動域運動のポイント

 
膝関節伸展=大腿骨内旋+下腿外旋・外転ですので、これを考慮して動かします。
 
上記の複合運動に加えて、脛骨は近位が後方、大腿骨は遠位が後方に動きます。
ということは、脛骨の遠位は前方へ、大腿骨の近位は前方へ動く必要があります。
 
①.大腿骨遠位、脛骨近位の内外側をそれぞれ把持する
②.脛骨をやや外転位にして膝関節を外反位にする
③.大腿骨は内旋方向、脛骨は外旋方向へ誘導
④.それぞれの方向へ誘導しつつ、両骨を膝関節の後方へ押し込むように動かす
 
 
上記のようにどちらかの骨だけ動かすのではなく、両方の骨が関節面から逸脱しないように動かすことが、関節の形状を考えた関節可動域運動です。
 
股関節は伸展位、足関節は底屈位となることで、膝関節は相対的に伸展位へと誘導されます。
 
 

膝関節に対する運動療法

 
OKCでの関節可動域運動も必要なのですが、動作につなげることを考えるとCKCも必要になります。
 
脛骨に対する大腿骨の操作を練習します。
 

脛骨に対する大腿骨の外旋

 
①.肩幅くらいに足を開いて立ち、つま先を内側を向き下腿内旋位とし、鼠径部を触れる
②.臀部を後上方へ突き出すように、股関節屈曲位、体幹前傾位とする(膝関節は軽度屈曲位)
③.脛骨は動かさず、大腿骨を外旋する
 
 

脛骨に対する大腿骨の内旋

①.肩幅くらいに足を開いて立ち、つま先は真っ直ぐ前方へ向く、鼠蹊部を触れる
②.臀部を後方へ突き出すように、股関節屈曲、体幹を前傾方向へ動かす
③.体幹を前傾する際に股関節を内旋する

 
 
 

まとめ

 
・膝関節は関節軸がずれた平面関節
・真っ直ぐに屈曲・伸展することは骨同士がぶつかって関節を壊す
・全可動域において脛骨に対して股関節を適合する位置に動かせる能力が重要
・大腿骨と脛骨の相対的な位置関係を考慮する
 

おわりに

 
いかがでしたか?
何も考えずに真っ直ぐ関節を屈曲・伸展することは実は危険な運動なのです。
 
関節の形状を考えて立体的に動かすべきです。
臨床でも立体的に関節を捉える癖をつけましょう!
 
最後までお読みいただきありがとうございました。
 

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