2017/09/09

胸椎のリハビリテーション展開を3つの特徴から考える

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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円背姿勢など胸郭、胸椎が固まってしまって可動性が低い状態では、呼吸状態は悪くなりますし、運動パフォーマンスも低下します。

本来、胸椎に適度なモビリティがあることが前提で腰椎がスタビリティを発揮して動くように構造されていますが、この関係が崩れている方が多いように感じます。

今回は胸椎からみた呼吸機能や運動機能を考えていきますので、胸椎からみた評価、アプローチ法の一助になれば幸いです。

機能的な特徴

機能的な特徴としては大きく2つあります。

臓器保護の役割

一つは、胸椎は肋骨、胸骨、肩甲骨とともに胸郭を形成しており、臓器保護が主な役割となっています。

肺、心臓、肝臓、胆嚢、胃、脾臓など胸腔内臓器を保護しており、胸郭を構成する肋骨、鎖骨、肩甲骨、胸椎の可動性が低下すると、胸腔内臓器の動きも少なからず制限されてしまいます。

 

わかりやすいところで言うと、肺は胸腔内では最も容積が大きく、影響を受けやすいです。
呼吸リハビリにおいても胸郭の可動性は必ずチェックしますよね?
胸郭の可動性が低いと肺自体の拡張も制限されますので呼吸にも影響が出てしまいます。
このように、肺と同じく胸郭の可動性によって他の臓器も制限を受ける可能性があるということです。

しかし、臓器保護を役割としているだけあり、胸椎は脊柱の中で最も可動性が低い部位でもあり、それだけ硬くなりやすい部位でもあります。

構造的な部分でもう少し詳しくお話ししますが、胸椎のモビリティがあることが前提で腰椎によるスタビライズが可能で、胸椎のモビリティが低いと腰椎で代償して、スタビライズできないばかりか過剰なモビリティを起こしてしまいます。

これが腰痛の原因の一つでもあります。

自律神経系との関わり

二つ目は、胸椎は自律神経と深い関わりがあります。

自律神経は、生命維持に関わる循環、呼吸、消化、排泄、分泌および生殖などの生態の諸機能を無意識的、反射的に調節するものです。
交感神経系、副交感神経系、壁内腸神経系に分けられ、交感神経系の大部分が胸椎より節前繊維を発しており、交感神経幹を介して内臓へ至ります。

人は基本的に日中活動している際は、交感神経が優位に働いており、夜眠っている際に副交感神経にスイッチが切り替わり、体を休めることができます。

しかし、自律神経系のバランスが崩れると、常に交感神経が優位で緊張した状態となり、慢性痛や不定愁訴の原因となります。
逆に副交感神経が優位となる場合もあります。

先ほど、胸郭の可動性低下によって内臓機能が制限されると言いましたが、神経系からの影響でも内臓機能が制限される可能性があり、胸椎は内臓に対して直接的にも間接的にも影響を与えうる部位なのです。

逆に言えば、内科系の疾患によっても胸椎の可動性に影響を与える可能性も考えられます。
このように多角的な視点を持っていると臨床の幅が広がり、応用が効きます。

構造的な特徴

胸椎を上・中・下に分けてみたときの解剖学的な特徴としては、

・上位胸椎:椎体の前後径が大きく、棘突起は後方水平に突出しており、下位頚椎の形状と似て
      いる
・中位胸椎:棘突起の尾側への傾斜が強く、屈伸の可動性は少なく、回旋が大きくなる
・下位頚椎:腰椎に近づくにつれ、椎体は横径が大きくなり、棘突起は水平化していき、腰椎の形状に近づく

 

上位から中位にかけて棘突起が次第に尾側へ傾斜を強めていき、回旋に特化した形状へ近づいていき、中位から下位にかけては再び棘突起が水平化し、屈伸の要素が強くなります。

胸椎では基本的に回旋の動きが主で、これは椎間関節が前額面に対して平行で回旋・側屈を許容する形態をしているからです。
椎間関節の形状から、屈伸の動きをしようと思っても骨性の制限により屈伸は制限されます。

回旋が主なのですが、胸腰椎移行部の下位胸椎あたりで腰椎へと形状を近づけているので椎間関節も腰椎と同じく、矢状化し回旋を制限する形状となります。

このような構造的な特徴から、胸椎の可動域制限を改善したい場合、屈伸の動きを強要するのではなく、回旋の動きを誘導するほうが関節面の形状にあった動きであるため、動きも誘導しやすいですし、変化も出やすいかと思います。

胸椎と頚椎・腰椎の関係性

胸椎は頚椎、腰椎に挟まれて位置しているため、両者からの影響を非常に受けやすいです。

上述したように、胸椎は脊柱の中でも可動性が低い部位ですので、それを代償して頚椎、腰椎がハイパーモビリティとなりやすいです。

多い例ですと、頭部が前方へ偏位した姿勢だと、胸椎は後弯、下位頚椎屈曲、上位頚椎伸展位となりますので、代償で上位頚椎がハイパーモビリティとなりやすく、神経症状などを引き起こす可能性があります。

*頚椎については下記をご参照ください。

頚椎の理解で痺れや痛みに対応する

腰椎の例で考えると、胸椎が後弯して上半身質量中心が後方へ偏位すると、腰椎の過伸展で代償したり、胸椎の回旋作用を腰椎で代償して腰痛や坐骨神経痛のような症状を起こす場合もあります。

胸椎が起因となって姿勢アライメントの変化を引き起こしている場合も多いので、必ず姿勢と胸椎との関係性を評価しておくべきかと思います。

一般的に胸椎の可動性低下による筋のインバランスは以下のようなものが挙げられます。

過緊張となりやすい筋群:大胸筋、小胸筋、腹直筋、横隔膜、大腰筋
弱化しやすい筋群:脊柱起立筋、僧帽筋、広背筋、菱形筋群

上記の筋群をポイントとして拮抗筋と主動作筋の関係を評価してみると姿勢アライメント評価や全体像としても捉えやすいと思います。

胸椎の治療ポイント

上述したように回旋に特化した形状であるため、屈伸の動きより、まずは回旋の動きを誘導すると動きを引き出しやすいです。

回旋の作用を持つ多裂筋、上後鋸筋、下後鋸筋を促通すると回旋動作も引き出しやすく、結果的に屈伸の動きも改善しやすいです。

これらは回旋作用を担うとともに、胸椎におけるインナーマッスルでもありますので、上記に挙げたようなインバランスを引き起こす筋群のバランスも整いやすく、促通した後でまだバランスが悪い部分があればそこを選択的にアプローチすると良いかと思います。

多裂筋、下後鋸筋へのエクササイズ

①.四つ這いの肢位をとる

②.四つ這いの肢位のまま、脊柱の伸展を十分に引き出す

③.その肢位を保ちつつ、胸椎の回旋と片側上肢を挙上する

 

 

対側の多裂筋と同側の下後鋸筋を選択的に使うことができます。

この運動をする前に、十分な可動性がない、もしくは痛みが強い、そもそもこの肢位がとれないなどの場合は、単純に胸椎の回旋を無理のない範囲で誘導してあげることから始め、上記の過緊張筋のリラクセーションやストレッチ、弱化筋の促通などで動きやすい環境を整えてあげることも必要です。
側臥位あるいは端座位でも可能です。

おわりに

胸椎は身体の中心にあり、頚部、上肢、下肢にも影響を与えますし、呼吸機能にも深く関わっています。

全身に深く関わっているということは、それだけ影響力の大きい部位ですので評価する意義はあると思います。

胸椎の特徴を捉えて評価し、臨床に生かしていただけると幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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