2018/11/04

体幹の可動域制限は胸椎・腰椎の構造がわかれば難しくない!

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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体幹の可動域制限を軽く考えていませんか?
考えてはいてもなんとなくで動かしていませんか?

下肢、上肢どちらの疾患においても体幹はとても重要な役割を持っています。

下肢にアプローチしても中々良くならなくても体幹にアプローチすることで劇的に改善することはよくあります。

アプローチするにしてもなんとなくではなく、しっかりと構造を理解した上でしないと効果は出にくいですよ。

本記事では、胸椎・腰椎それぞれの構造的違いと動きの違いから考える可動域制限に対する考え方をまとめてあります。

関節可動域運動の間違い

そもそも関節可動域運動自体を間違ったやり方で実施している場合があります。
まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということです。
 
よくある間違いが、筋肉など軟部組織が固まったから制限が起こっているという誤解。
これは逆で、運動パターンの異常で関節に偏ったストレスがかかった結果、骨の変形や軟部組織が変化し可動域制限が起こるという流れが自然です。
骨折による急性外傷などはまた別ですが。
 
例えば、体幹で多いのは回旋制限。
なぜかと言うと、体幹の側屈には必ず回旋が伴うから。(カップリングモーション)
屈曲や伸展でも左右どちらかに偏った動きをとる場合は回旋も含んでいます。
 
回旋が制限されていると考えて、なんとなく制限方向へストレッチすることによって柔軟性が改善したとしてもすぐに元に戻ることが考えられます。
みなさんも一度はこういった経験あるんじゃないでしょうか?
 
筋肉の固さ→関節の制限という考えで筋肉の固さがとれたら可動域は改善するといった安易な考えではなく、筋肉が固くなったそもそもの原因があってその結果可動域制限が出現しているので、その原因に対してアプローチしなければいけないのです。
 
上記の例で考えられる一つの要因としては、カップリングモーションがあるため屈伸・側屈・回旋どの方向の制限があっても回旋が制限されてしまうということ。
また、人の特徴として体の前で作業することが多いということ。
このことから、脊柱は後弯しやすく、その姿勢、その姿勢での動作がパターン化されてしまい、可動域が制限されやすいです。
 
上記の場合、普段の生活の中で姿勢・動作がパターン化されているので、ストレッチで一時的に可動域を改善してもすぐに元に戻ってしまうというわけです。
 
つまり、可動域制限や痛みを改善するために筋肉に対してストレッチするという考えが間違いで、そこに至ってしまった運動パターンの改善が必要なのです。
 
そのためには、関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。
 

体幹可動域制限があるとどうなるのか?

 
そもそも、可動域制限があるとどうなのか?
 
体幹、脊柱は椎間関節と椎体間関節の二つに分けられます。
脊柱は屈伸・側屈・回旋と3方向に動くことができて自由度が高い関節と思っている方が多いかと思いますが、実は純粋な側屈は不可能。
本当に側屈といった動きをしてしまうと簡単に脊髄損傷になってしまいます。
 
そんな自由度が低い脊柱ですが、一つ一つでは可動性が少なくても全部で33個もの椎体で構成されていますので、それらの動きが合わさると見かけ上大きな動きとなって見えるわけです。
純粋に屈伸や側屈しているように見えるのもこういったわけ。
 
椎体ごとに特性はありますが、基本的に問題となりやすいのは回旋制限。
椎間関節の関節面はわずかに軸がずれた平面関節となっているため、回旋すると結果的に屈曲や側屈という動きになっています。
 
この回旋が制限された状態で屈伸や側屈をおこなうと、周囲の神経や軟部組織に負担をかけて痺れや痛み、また、他関節が過剰に動く必要が出てしまって負担がかかりすぎるということにつながります。
 
中でも胸椎は回旋に特化した形状をしており、身体の関節の中ではモビリティの役割を持ち、ここが制限されると脊柱全体の可動性が制限されやすく、他関節への負担が大きくなりやすいです。
 
脊柱一つ一つの動きはわずか数度の動きですが、それが四肢の末梢になるととても大きな動きとなって現れます。
つまり、体幹が適度な可動性と安定性を持っていることで四肢への負担が軽減でき、エコな身体の使い方ができます。
 
実際の臨床の場ですと、
四肢に比べると体幹を後回しにしがちな傾向が認められますが、四肢以上に体幹は重要な役割を担っていると考えられます。
 
以下に体幹を胸椎と腰椎の二つに分けてそれぞれ解説していきます。
 
 

体幹(胸椎)の構造特性

 
胸椎は主に3つに分けることができ、それぞれの特徴は以下の通りです。
 
・上位胸椎:椎体の前後径が大きく、棘突起は後方水平に突出しており、下位頚椎の形状と似て
      いる
・中位胸椎:棘突起の尾側への傾斜が強く、屈伸の可動性は少なく、回旋が大きくなる
・下位頚椎:腰椎に近づくにつれ、椎体は横径が大きくなり、棘突起は水平化していき、腰椎の
      形状に近づく
 
(単位:度)
 
 
屈曲/伸展
側屈
回旋
C7-T1
9
4
8
T1-T2
4
6
9
T2-T3
4
6
8
T3-T4
4
6
8
T4-T5
4
6
8
T5-T6
4
6
8
T6-T7
5
6
8
T7-T8
6
6
8
T8-T9
6
6
7
T9-T10
6
6
4
T10-T11
9
7
2
T11-T12
12
7
2
 
中位胸椎では、おおむね前額面を向いた二つの関節面(前額面に対して約20°、水平面に対して約60°)を持ち、棘突起の尾側への傾斜の強さも合わさって屈伸の可動性が少なく、回旋の可動性が大きい形状となっています。
表からもわかるように、回旋の角度が大きく、腰椎に近づくにつれて形状も腰椎に近いものへと変化するため、回旋の角度が少なく屈伸の角度が大きくなっています。
 
 
 
また、椎間関節が胸椎の可動性に関与していることは間違いないですが、肋椎関節と肋横突関節にも左右されるため、呼吸機能を含めた胸郭の評価も重要な要素の一つと言えます。
 
胸郭の評価については以下の記事で詳しくまとめてあります。
 
 
胸郭による影響もあって安定性が高いという特徴を持っているだけに、椎間板ヘルニアや神経根の障害などを胸椎レベルで起こすことは稀です。
稀ですが、胸椎が制限された結果、頚椎・腰椎への負担が増えてヘルニアなどの障害を起こす場合はあるということを覚えておきましょう。
 
以下の記事に胸椎についてさらに詳しくまとめてあります。
 
 

胸椎のカップリングモーション

 
上述しましたが、脊柱の運動において純粋な屈伸・側屈・回旋というものは存在しません。
椎体による形状の違いで差はありますが、回旋+側屈、回旋+屈伸(+側屈)という回旋を伴った動きとなっています。
 
これは、椎間関節の関節面が垂直面に対して平行になっているわけではなく、わずかに傾斜しており、軸がずれた平面関節となっていることから考えられます。
 
上述したように、前額面に対して約20°の角度がついていますので、関節面から外れないように動くと上位椎体が側屈するに伴って上関節面が後方へ滑る、つまり同側へ回旋します。
 
 
また、水平面に対して約60°角度がついていることも関係します。
例えば、完全に垂直ならばクルクル回旋するだけですが、角度があると写真のような円錐上の軌道で動くことになります。
このことから、屈伸や側屈に伴って回旋が必ず起こる構造になっていることがわかります。
 
一部分の椎体ではわずかな動きですが、脊柱全体となるとこの円錐がさらに伸びることになるのでかなり大きな動きになることはイメージできるでしょうか?
 
 

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体幹(腰椎)の構造特性

 
腰椎は胸椎と比べ、肋骨による支持性がない分可動性は大きくなっています。
 
しかし、椎間関節の関節面が胸椎では前額面を向いていたのに対して、腰椎レベルでは矢状面を向いていますので、屈伸の可動域が大きく回旋の可動域が小さくなっています。
 
詳しくは以下の表にまとめてあります。
 
(単位:度) 
 
屈曲/伸展
側屈
回旋
T12-L1
12
8
2
L1-L2
12
6
2
L2-L3
14
6
2
L3-L4
15
8
2
L4-L5
17
6
2
L5-S1
20
3
3
 
上に載せた胸椎の表と比べるとわかると思いますが、屈伸と回旋の可動性が倍以上違いますよね。
このように、同じ脊柱という枠組みの中でも胸椎と腰椎ではこれだけ可動性に違いがあるので分けて考えるべきです。
 
椎間関節の構造も当然胸椎と違っており、前額面に対して約45°、水平面に対して約90°の角度がついています。
 
 
 
この関節面が胸椎から腰椎にかけて徐々に前額面から矢状面へと向きを変えるようにはなっていますが、胸腰椎移行部(特にTh10~Th12間)において急に角度が変化するため、負担がかかりやすく何らかの障害が発生しやすい構造であると言えます。
Th10~Th12間の角度の変化を見ても分かるかと思います。
 
胸椎が肋骨によって安定性が高い構造であるため、胸椎レベルの柔軟性が低下するとその分の動きを補うために胸腰椎移行部に負担がかかってしまいます。
構造的にただでさえもろいのですが、胸椎の代償として動きやすい部位でもあり、双方の要素が合わさると負担はかなり大きいと言えます。
 
この点が腰椎の障害であっても胸椎の可動性を評価しておかないといけない理由にもなりますね。
 
以下の記事に腰椎についてさらに詳しくまとめてあります。
 
 

腰椎のカップリングモーション

 
腰椎のカップリングモーションは以下のようになります。
 
側屈+対側回旋
 
胸椎では同側へ回旋していましたよね。
なぜ、腰椎では対側へ回旋するのか以下に解説します。
 
胸椎では椎間関節面がおおむね前額面に向いているのに対して、腰椎では矢状面に近い角度になっています。
このことから考えると、上位椎体が側屈すると対側の関節面では関節面同士が近づき、同側の関節面では関節面同士が離開する方向へ力が加わります。
 
例えば、右側屈すると胸椎レベルでは同側へ、右回旋を伴います。
関節面が前額面に近いので回旋に対して邪魔になりませんので、そのまま同側に回旋できますよね。
 
それに対して腰椎レベルでは、Th12の椎体が右側屈+右回旋すると、腰椎の関節面は矢状面を向いているので、Th12の下関節面がL1の上関節面にぶつかります。
ぶつかるとテコの原理でL1の上関節面が左方向へ傾斜するように動きます。
左へ傾斜しつつ関節面から外れないように動くと、Th12の右側屈+右回旋に対してL1は左側屈+左回旋といった動きとなるのです。
 
関節面の構造から自動的にそうなるようにできているということですね。
 
 
 

体幹の関節可動域運動のポイント

 
ポイントとしては、最初の方向付けを誘導してあげるということです。
 
どういうことかと言うと、空き缶に例えると分かりやすいです。
へこんでいない状態の空き缶を上から潰そうとするとけっこう力が必要になりますよね?
 
しかし、少しへこんだ状態ではどうでしょう。
上から潰すと先ほどよりかなり簡単に潰すことができませんか?
 
これはあらかじめ方向付けがされていたからです。
 
体幹でも無理やり力づくでハンドリングするのではなく、誘導したい方向へ少しだけ方向付けしてあげるのです。
 
ここで重要となるのが、散々言ってきましたが回旋の動きです。
 
例えば、屈曲制限があるとすると、回旋の制限も必ず左右差があると思います。
左右で制限があるほうへ回旋を誘導してから同側へ屈曲するように誘導します。
こうして可動域運動をおこなったほうが、普通に屈曲制限あるから屈曲方向への動きを反復するよりも効果が得られやすいです。
 
具体的には以下の通りです。
 
①制限がある運動方向を特定する(自動、他動運動にて)
②その動きの中でどのレベルの脊柱が問題となっているか特定する
 →視診で動きが少ない部位を決めて、その周囲の棘突起を触診しつつ動きをみて、どの椎体の動きが出ていないのか特定
③動きが出ていない椎体の棘突起を徒手的に誘導(もちろん動きが悪い椎体は一つとは限りません)
 →右側屈が制限だとしたら、胸椎レベルなら右回旋、腰椎レベルなら左回旋へ棘突起を徒手的に誘導
④徒手誘導したまま、体幹を回旋誘導
 →胸椎レベルなら同側へ、腰椎レベルなら対側へ誘導
⑤改善したい制限方向へ体幹を誘導
 →自動運動または他動運動
⑥可能ならば、もう片方の手で上位あるいは下位椎体の棘突起を対側へ誘導する
 →対側へ誘導することでターゲットとなる椎体は相対的に反対側へ回旋することになるので、ターゲットの椎体を徒手誘導するの
  と合わせておこなうと効果的  
 

まとめ

・可動域を改善することが目的になってはいけない
・体幹の可動性が十分であれば、四肢のパフォーマンスが向上する
・胸椎と腰椎では構造が異なる
・構造にあった動かし方をする必要がある
 

おわりに

いかがでしたか?

胸椎と腰椎では構造がそもそも違うので、動きも違えばハンドリングの仕方も変えなければいけません。

なんとなく「体幹」と一塊に捉えるのでなく、しっかり分けて考えて臨床に活かしましょう!

最後までお読みいただきありがとうございました!

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