2017/09/12

肘関節の可動域制限を改善して上肢機能を劇的に高める方法

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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肘関節の制限なんてそんなに生活に支障ない。
制限があるのを見てもそれほど気にしたことがない。

こんな方いませんか?

直接肘関節の外傷などでリハオーダーが出ることはそこまで多くはないですが、肘関節に制限があると整容、清拭、食事などあらゆる場面で意外と支障がでますよ!

さらに、肩関節へ二次的に障害が出やすいですし、肩関節の障害が実は肘関節の影響によるものだったということもあります。
上肢機能において、軽視されがちですが必ず見ておくべき関節です。

本記事では、肘関節の解剖学、運動学から可動域制限改善のポイントをわかりやすくまとめてありますので、明日からでも実践できます!

肘関節の関節可動域運動の間違い

そもそも関節可動域運動自体を間違ったやり方で実施している場合があります。
まず、考えてほしいことがなぜ関節可動域制限が起こっているのかということです。
 
よくある間違いが、筋肉など軟部組織が固まったから、腱板が断裂・損傷したから制限が起こっているという誤解。
これは逆で、運動パターンの異常で関節に偏ったストレスがかかった結果、骨の変形や軟部組織が変化し可動域制限が起こるという流れが自然です。
何か起因となることがあった場合は別ですが、靭帯損傷などはもそもそも損傷するような負担がかかっていた結果起きたと考えるべき。
 
例えば、肘関節の伸展制限。
上腕二頭筋が硬いから伸展制限があると考えて、ストレッチなどによって柔軟性が改善したとしてもすぐに元に戻ることが考えられます。
みなさんも一度はこういった経験あるんじゃないでしょうか?
 
筋肉の固さ→関節の制限という考えで筋肉の固さがとれたら可動域は改善するといった安易な考えではなく、筋肉が固くなったそもそもの原因があって、その結果可動域制限が出現しているので、その原因に対してアプローチしなければすぐに戻ってしまうのです。
 
上記の例で考えると、例えば、肩関節屈曲の代償運動として上腕二頭筋を過用していたとしたら。
こう考えると、肩の問題をなんとかしないと肘の伸展も改善しないということはイメージできますよね。
 
また、過剰に可動すると関節にとって負担となっている場合、それ以上負担をかけないために上腕二頭筋を硬めて可動性を抑制しているとしたら。
 この場合、安易にストレッチなどすると肘関節にとっては負担となるので、痛みを作ってしまったり、次の日には元に戻っていることがあります。
 
アライメント異常による運動パターンへの影響の結果として伸展制限が起きているため、単純にストレッチという考え方では中々改善してきません。
 
つまり、可動域制限や痛みを改善するために筋肉に対してストレッチするという考えが間違いで、そこに至ってしまった運動パターンの改善が必要なのです。
 
そのためには、関節の構造に合った運動パターンを再学習、関節の構造に逆らわないハンドリングが重要となります。
 

肘関節の可動域制限があるとどうなるのか?

そもそも、可動域制限があるとどうなのか?
 
肘関節は螺旋関節で屈曲・伸展といった1軸上の動きしかありません。
単純な動きかもしれませんが、ヒトは手を使って作業するので肘の曲げ伸ばしができないとかなり不便ですよね。
 
試しに肘関節は動かさずに肩と手関節の動きだけで何か物を取ってみてください。
ものすごく難しいと思います。
 
普段注目することが少ない肘関節かもしれませんが、重要な役割を担っていることがよくわかります。
 
また、二関節筋である上腕二頭筋、上腕三頭筋は肘と肩にまたがって付着しているので、当然肩にも影響があり、肘由来の肩の制限もよく認められます。
この場合、肩の制限を改善したかったら肘をなんとかしないといけませんよね?
 
手と肘にまたがっている前腕筋群でも同じことが言えます。
 

肘関節の構造特性

肘関節は3つの骨と3つの関節から構成されています。

肘を構成する骨
・上腕骨
・尺骨
・橈骨

肘を構成する関節
・腕尺関節
・腕橈関節
・近位橈尺関節

肘関節の屈曲/伸展に加えて、橈尺関節によって回内/回外の動きが実現されるため、肩関節の動きと独立して回内外することができます。

 これによって、直接、腕尺関節・腕橈関節が捻じれて回旋の動きをつくるわけではないですが、屈曲/伸展、回内/回外といった2軸の動きが可能になっています。
 

肘関節の運搬角

肘関節には約18°の外反角が存在し、上腕骨に対して前腕が外側へ偏位しています。
これを、「運搬角」と呼び、完全伸展時の運搬角は15°とされ、それより角度が大きいものを外反肘、少ないものを内反肘と呼んでいます。

肘関節の屈曲/伸展は上腕骨の滑車と小頭を結んだ線を軸にして動きます。
水平面で下から見るとわかりますが、滑車-小頭は内側から外側にかけて外上方に向かっているため、それに適合するために前腕は外反してついているということになります。

肘関節は真っ直ぐ屈伸すると誤解している方もいるかと思いますが、実は真っ直ぐには動きません。
運搬角を考慮すると、前腕が外側に傾斜しているため、肘関節屈伸において上腕骨に対して前腕は真っ直ぐは動けないのです。

真っ直ぐではなく、上腕骨の内側に向かって屈曲、外側に向かって伸展しています。
もし、真っ直ぐ動くようであれば、関節から逸脱した動きになっているため、どこかに過剰な負担となっているはずですし構造的に破綻しているということになります。

どの関節においても共通することですが、関節の適合性、つまり、関節から逸脱した動きをしないかということは関節を保護する上で最も重要な考え方です。
関節の構造からどのように動くのか、どのように動いていると異常なのか。

この視点で考えることが非常に重要であると考えます。
以下に実際にどのように関節内が動くのかまとめてあります。

肘関節の関節運動

肘関節は上述したように、腕尺関節腕橈関節、回内外運動を含むと近位橈尺関節の3つから成り立ちます。
それぞれ以下にまとめてあります。
 

腕尺関節の関節運動

腕尺関節は凸状の上腕骨の滑車と尺骨の凹状の滑車切痕から構成されています。
 
形状からわかるように、屈曲時は滑車切痕が滑車の上を前上方へ転がり・滑りの複合運動をおこない、尺骨の鉤状突起が上腕骨の鉤突窩にはまるように動きます。
伸展時も同様に滑車切痕が滑車の上を後上方へ転がり・滑りの複合運動をおこない、肘頭の先端部分が上腕骨の肘頭窩にはまります。
 
凹凸の法則から、凹面が動くので転がりと滑りは同方向へ動くことになります。
 
 
 
屈曲、伸展それぞれの全可動域をスムーズに可動するには、筋肉、皮膚、関節包、靭帯がそれぞれ十分な伸張性、また、弛緩するだけの余裕をもっている必要があります。
それぞれに対応する組織は以下の通りです。
 
 

屈曲時
伸張する組織
・後方関節包
・肘伸筋
・内側側副靭帯の後部線維
・肘後方の皮膚・筋膜
弛緩する組織
・肘屈筋
・前方関節包
・肘前方の皮膚・筋膜 

伸展時
屈曲時と反対

 
 
これら組織の内、どこに制限があるのか関節運動時のendfeelと押圧しながら関節運動することで組織を同定していきます。
押圧する深さによって対象となる組織は違ってきますね。
 
ざっくり言うと、皮膚→筋肉→靭帯→関節包の順に深部の組織になるので、それに合わせて押圧する深さを変化させていきます。
 

腕橈関節の関節運動

腕橈関節は球状の形をした上腕骨小頭と凹状の橈骨頭窩から構成されています。
 
こちらも両骨の形状から、屈曲時は小頭の上を橈骨頭窩が前上方へ転がり・滑りの複合運動をおこないます。
伸展時は後上方へ転がり・滑りの複合運動をおこないますが、完全伸展時には関節面での両骨の接触はほとんどなく、屈曲時に筋収縮によって橈骨頭窩が小頭へ引き寄せられるという動きが起こっています。
 
関節構造としては腕尺関節に比べて必要最低限の安定性のみの構造ですが、肘外反時には腕橈関節による骨性の抵抗が重要な要素の一つとなっています。
 
 
 
屈曲・伸展に対応する組織は以下の通りです。
 
 

屈曲時
伸張する組織
・後方関節包
・肘伸筋
・外側側副靭帯
・肘後方の皮膚・筋膜
弛緩する組織
・前方関節包
・肘屈筋
・肘前方の皮膚・筋膜 
伸展時
屈曲時と反対

 
 
こちらも腕尺関節と同様にどの組織が制限因子となっているか同定していきます。
 

近位橈尺関節の関節運動

近位橈尺関節は橈骨頭の内側部分と尺骨の橈骨切痕から構成されており、周囲を輪状靭帯で覆われています。
また、橈骨頭は繊維骨性輪によって橈骨切痕にしっかりと固定されており、関節としては強く可動性は少ない構造になっています。
内側からも外側からも橈骨頭は橈骨切痕へ固定されているということですね。
 
橈骨頭と尺骨頭を結ぶ線を軸に橈骨切痕上を橈骨頭が前方へ転がり、後方へ滑る動きによって回内外がおこなわれています。
つまり、橈骨が主体となって回内外はおこなわれているということ。
 
試しに橈骨を把持した状態、尺骨を把持した状態の両方で回内外をしてみてください。
橈骨を把持した場合では可動性が制限されることが分かると思います。
 
 
 
注目すべきなのは、遠位では橈骨と手根骨は関節を作っていますが、尺骨とは作っていないということ。
これによって、回内外の橈骨の動きが手部へ伝達され、遠位尺骨に邪魔されることなく動くことができます。
 
これが制限されると、回内外時に肩関節の内外旋を伴う必要があるので、肩関節に対しては必要以上に負担となってしまう可能性があります。
 
上腕骨と分離して回内外ができるということが橈尺関節の特徴と言えますね。
 
回内・回外に対応する組織は以下の通りです。
 
 

回内時
伸張する組織
・上腕二頭筋、回外筋
・遠位橈尺関節の背側関節包靭帯
弛緩する組織
・円回内筋、方形回内筋
・遠位橈尺関節の掌側関節包靭帯 

回外時
回内時と反対 

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肘関節可動域運動のポイント

 
上記の関節動きから実際にどのように関節可動域運動をおこなうべきなのか以下にまとめてあります。
 

屈曲時のポイント

肘関節屈曲は、腕尺関節の上腕骨滑車に対して尺骨滑車切痕が前上方へ転がり・滑り。
腕橈関節の上腕骨小頭に対して橈骨頭窩が前上方へ転がり・滑り。
この二つの関節の動きが関わっているとお伝えしました。
 
さらに自然な関節の動きを出すには、上腕骨と前腕の相対的な位置関係を考慮して動かすことが重要です。
 
具体的には肩関節の伸展と前腕の外転を組み合わせます。
 
肩関節伸展時、上腕骨は近位が前方へ、遠位が後方へ動きます。
上腕骨遠位が後方へ動くということは、相対的に尺骨と橈骨は前上方へ転がりと滑りを起こすことになりますよね。
 
このように、どちらか一方の骨だけを動かすのではなく、両方を動かすことで一部分に負担をかけるようなことなく、関節を守りながら関節可動域運動をおこなうことができます。
 
さらに、運搬角を考えると前腕を外転位へもっていくことで関節軸に合った運動が可能となります。
 
まとめると
 
肘関節屈曲=尺骨・橈骨の前上方への転がり・滑り+前腕外転+肩関節伸展
 
 

伸展時のポイント

肘関節伸展は、腕尺関節の上腕骨滑車に対して尺骨滑車切痕が後上方へ転がり・滑り。
腕橈関節の上腕骨小頭に対して橈骨頭窩が後上方へ転がり・滑り。
この二つの関節が関わっています。
 
肘関節伸展時も屈曲時と同様に上腕骨との関係を考え、肩関節の屈曲と前腕外転を組み合わせます。
 
肩関節屈曲時、上腕骨は近位が後方へ、遠位が前方へ動きます。
上腕骨遠位が前方へ動くということは、相対的に尺骨と橈骨は後上方へ転がりと滑りを起こすことになりますね。
 
まとめると以下の通りです。
 
肘関節伸展=尺骨・橈骨の後上方への転がり・滑り+前腕外転+肩関節屈曲
 
 

回内時のポイント

前腕回内は、近位橈尺関節の尺骨橈骨切痕に対して橈骨頭が前方へ転がり、後方へ滑ります。
 
これも上腕骨との相対的な位置関係を考え、回内に対しては肩関節の外旋を組み合わせます。
 
肩関節外旋時、上腕骨は外後方へ動き、相対的に橈骨頭は前方へ動きます。
 
まとめると以下の通りです。
 
前腕回内=橈骨頭の前方への転がり・後方への滑り+肩関節の外旋
 
 

回外時のポイント

前腕回外は、近位橈尺関節の尺骨橈骨切痕に対して橈骨頭が後方へ転がり、前方へ滑ります。
 
これも同様に上腕骨との相対的な位置関係を考えると、回外に対しては肩関節の内旋を組み合わせます。
 
肩関節内旋時、上腕骨は内前方へ動き、相対的に橈骨頭は後方へ動きます。
 
まとめると以下の通りです。
 
前腕回外=橈骨頭の後方への転がり・前方への滑り+肩関節の内旋
 
 

まとめ

・肘関節には腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節の3つの関節が関わっている
・運搬角があるため運動軸が斜めになっている
・近位橈尺関節は上腕と独立した動きが可能
・関節運動時は骨の相対的な位置関係を考える
 

おわりに

いかがでしたか?

肘の運動は細かくわかりにくい部分もあるかと思いますが、上肢の運動において必ず関与する重要な部位です。

ぜひ、明日からの臨床では本記事をご参考にしていただいて、肘関節を見てみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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