2017/09/09
ローテーターカフ(回旋筋腱板)の機能から考える腱板断裂・損傷後のリハビリ【若手療法士必見】

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腱板断裂・損傷術後のリハビリで何をしたらいいのかわからない、中々良くならないと悩んでいませんか?
肩関節疾患の方は痛みに敏感なことも多く、苦手意識のある若手療法士の方も少なくないのではないでしょうか?
私自身も初めは色々試しても思うように結果が出ないこともありましたが、ローテーターカフがそもそもどんなものなのかを理解できると、自然と結果が伴うようになってきました。
本記事を読み進めていただいて、ローテーターカフの基本的な構造と役割の理解、腱板断裂・損傷後のリハビリをどのように展開していけばよいのか、参考になれば幸いです。
目次
ローテーターカフ(回旋筋腱板)の役割と特徴
ローテーターカフ(回旋筋腱板)は4つの筋群の総称です。
棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つが上腕骨頭を囲むように位置しており、その下層にある関節包靭帯複合体とともに協調的に機能することで上腕骨頭を求心位に保持することができます。
役割としては、以下の通りです。
・動的安定性の調整器
・関節包内運動の制御装置
肩関節は可動性に富んだ関節でありますが、骨性の支持が少なく、靭帯や筋肉などの軟部組織によって安定性が作られています。
大きな可動性とその動きに伴って安定性を作り出しているのがローテーターカフというわけです。
これだけでもローテーターカフが重要だということはなんとなくわかりますよね。
動的安定性の調整器
構造的に不安定な肩関節はローテーターカフによる安定性があることが前提であり、それによって各方向への広範囲な動きが可能となります。
この広範囲な可動域を実現するために、周囲を取り囲んでいる関節包には運動を制限するような太い靭帯がない構造になっています。
構造的に安定性よりも可動性を優先する構造となっており、この安定性の欠落をフォローするものがローテーターカフというわけです。
右肩関節の外旋運動時を下の写真で表しています。
外旋時、棘下筋が収縮すると上腕骨頭は後方回旋し、それに伴って肩甲下筋は伸張されることで緊張が高まります。
この2つの筋の相互作用によって上腕骨頭は後方へ転がり、前方へ滑り、関節窩から逸脱することなく運動することが可能です。
つまり、腱板による収縮力は上腕骨を動かすだけでなく、上腕骨頭を関節窩の中心に向けて安定させる働きを持つということ。
外旋に限らず、どの方向に対してもこの機能が働いており、この機能が不十分な場合に痛みや腱板断裂・損傷が起こります。
関節包内運動の制御装置
ローテーターカフによる安定性が得られないと、三角筋や大胸筋などが優位に働き、骨頭は関節窩から逸脱する方向へ動きます。
どういうことかというと、肩関節外転時において棘上筋は骨頭を関節窩に対して圧迫力を生じさせ、抑え込むような働きをします。
もしもこの機能が働かない場合、三角筋の収縮によって骨頭は上方へ逸脱し、肩峰にぶつかってしまいますよね。
この時、棘上筋だけでなくその他の腱板筋も働いており、三角筋による上方へ生じる力と相殺するように下方へ骨頭を引いています。
以下に示した各腱板の機能が相互的に発揮されることで関節包内の運動を制御することが可能となります。
・棘上筋:上腕骨頭を関節窩へ直接圧迫する
・肩甲下筋、棘下筋、小円筋:上腕骨頭を下方へ引く
・棘下筋、小円筋:上腕骨を外旋する
ローテーターカフを構成する筋群
回旋筋腱板を構成する4つの筋群についてもう少し詳しく見ていきましょう。
・棘上筋
起始:肩甲骨棘上窩
停止:上腕骨の大結節上部、肩関節包
作用:肩関節の外転、外旋
特徴:肩関節外転0~90°において強い収縮力を発揮
上腕骨頭を関節窩に引き付けることで肩甲上腕関節が安定する
・棘下筋
起始:肩甲骨棘下窩
停止:上腕骨大結節中部、肩関節包
作用:肩関節の外旋、外転(上部繊維)、内転(下部繊維)
特徴:肩関節外転時における、上腕骨頭の下方滑りを促す
投球動作のフォールスルー期において大きな伸張ストレスがかかる
・小円筋
起始:肩甲骨外側縁
停止:上腕骨大結節下部、肩関節包
作用:肩関節の外旋
特徴:肩関節外転時における、上腕骨頭の下方滑りを促す
・肩甲下筋
起始:肩甲骨前面の内側縁
停止:上腕骨の小結節、小結節稜の上部
作用:肩関節の内旋、水平内転
特徴:回旋筋腱板唯一の内旋筋
また、アナトミートレインのアームラインで見ると、回旋筋腱板4つのうち、棘上筋、棘下筋、小円筋の3つがディープバックアームライン(DBAL)に含まれています。
肩甲下筋も肩甲骨前面の内側縁に付着しているため、間接的にはこのライン上に連結していると考えられます。
回旋筋腱板の機能を考える上で筋単体ではなく、このような機能的な繋がりも考慮して、小指から尺側、肘の後面から回旋筋腱板を含む肩甲帯後面の筋群を賦活する、また、それらの働きを抑制しているものはないか?
といった視点で考えることも必要です。
ちなみに、DBALを抑制するものとしてはスーパーフィシャルバックアームライン(SBAL)、スーパーフィシャルフロントアームライン(SFAL)が考えられます。
腱板断裂・損傷の原因
そもそも腱板断裂・損傷を起こすことにも直接的な外傷ではない限り原因があります。
というのも、上述したような腱板の機能が適切に働いていれば断裂するようなことはないはず。
では、逆にどうなれば断裂するのか?という視点で考えるとわかりやすい。
上腕骨頭が関節窩から逸脱する、とどめておけない場合に腱板はストレスを受けます。
つまり、関節窩から逸脱してしまうような運動パターンの背景を探らなければいけないということです。
多いのは、僧帽筋や菱形筋群などの肩甲骨を挙上させる筋肉、上述したSBAL、SFALといったラインを優位に使うような運動パターンとなっていることが問題です。
筋肉の主動筋-拮抗筋、表層筋-深層筋の関係性でみると、これらの筋肉やラインが優位に使われるとローテーターカフは抑制されてしまいます。
ということは、抑制するべき筋群は抑制し、優位に働くべき筋群を促通または働きやすいアライメントとすることで腱板断裂・損傷するようなストレスは受けないということになります。
腱板断裂・損傷後のリハビリテーション
ここまでの内容をふまえ、どのようにリハビリを進めていけば良いかまとめてあります。
静的な評価、動的な評価、両者をふまえた結果と実際の肩関節を使う動作を評価して共通する部分を探すことがコツです。
静的な評価
肩関節のポジションごとに伸張性を評価して、どこに制限があるか見ていきます。
1stポジション
外旋:肩甲下筋上部線維、棘上筋前部線維
内旋:棘上筋後部線維、棘下筋上部線維
2ndポジション
外旋:肩甲下筋下部線維
内旋:棘下筋下部線維
3rdポジション
外旋:大円筋
内旋:小円筋
各ポジションによって伸張されやすい筋、線維が異なるので簡便に回旋筋腱板の中でも制限となっている可能性のある部位を評価できます。
動的な評価
肩甲骨面(肩甲棘と上腕骨長軸が直線、肩峰-烏口突起と内側上顆-外側上顆が平行)を基準として筋力を評価します。
肩甲骨面では関節包の張力が均一となると言われているので、その位置から前方へ動かすと前方の関節包は緩み、後方へ動かすと後方の関節包は緩むことになります。
その位置で上肢を保持するには緩んだ関節包側を腱板で押さえ込めないと緩んだ側へ骨頭が飛び出してしまいますよね?
そのような場合、上肢を保持するのも難しい、または、抵抗に対してその位置を保持できないことが考えられます。
具体的には以下の位置と対応した筋の弱化を疑います。
・肩甲骨面より前方:肩甲下筋
・肩甲骨面より後方:棘下筋
・肩甲骨面より上方:棘上筋
ローテーターカフに対するアプローチ
直接的なトレーニング
基本的には、深部にあるのでマッサージなど直接的に緩めるというよりは、反復収縮によって緩める方法が効果的です。
実際には回旋筋腱板は強い筋出力を持っていないので、わずかに力を入れてもらう程度で十分働きます。
大胸筋や三角筋などアウターマッスルを触診しつつ、収縮が入らない程度に収縮してもらうことがポイントになります。
上述した1st、2nd、3rdのポジション毎に働きやすい、伸張されやすい筋が違うので参考にしていただければと思います。
間接的なトレーニング
間接的というのは、周囲のアライメントや筋肉を調整してローテーターカフが働きやすい身体環境とした結果、ローテーターカフがうまく機能してくれることを目指します。
見落としがちなのが、上腕骨の動きばかり気にしてしまい肩甲骨の動きを忘れてしまうこと。
肩甲骨に対して上腕骨ばかり動くのではなく、上腕骨に対して肩甲骨も動いて上腕骨頭に対して適切な位置を保っています。
つまり、肩甲骨を動かして上腕骨頭に合わせるトレーニングをすると良いです。
具体的には以下の通りです。
①.四つ這いとなる
②.上腕骨外旋、肘関節伸展位、手指は真っ直ぐ前方へ向ける
③.②の状態を保ちつつ、胸骨が床へ近づくように床を押す
ポイントとしては、
・頭部が持ち上がらないように
・肩をすくめないように
・肩甲骨下制を意識する
まとめ
・ローテーターカフの役割と構造を理解しておくべき
・腱板断裂・損傷した結果にとらわれず、なぜ腱板断裂・損傷してしまったのか背景を探る
おわりに
回旋筋腱板は肩関節疾患、上肢全般の障害をみる上では欠かせない部位ですので、各筋肉の特徴など必ずおさえておくべきです。
ぜひ本記事を参考に実践してみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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