2018/01/04

橈骨遠位端骨折のリハビリ【上肢機能の再建に何が必要かを考える】

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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いつもお読みいただきありがとうございます!
リハ塾の松井です。

橈骨遠位端骨折は高齢者に多く受傷する骨折の一つ。
そのため、リハビリでも担当する機会が非常に多い疾患であります。

手は生活において必ず使用する部位でもあるため、この骨折はADL上かなり支障が出る部位です。

手は手根骨、橈骨、尺骨などで多くの関節、筋肉や靭帯から構成されているため、複雑ではありますが丁寧に評価する必要があります。

本記事では、橈骨遠位端骨折の基本的な病態、手関節の解剖学、運動学からどのようにリハビリを展開する必要があるのかをまとめています。

橈骨遠位端骨折のリハビリの目的

橈骨遠位端骨折のリハビリの目的としては以下の通り。

<橈骨遠位端骨折のリハビリ目的>
・上肢機能の再建
・巧緻動作の再建
・可動域制限の改善

 

橈骨の骨折のため言わずもがな、上肢、特に手の機能が低下することが予測できます。

手と一言で言っても、以下のような関節に分けることができます。

<手関節を構成する関節>
・遠位橈尺関節
・橈骨手根関節
・手根中央関節

また、橈骨手根関節と手根中央関節の間には6つの手根骨も存在しており、非常に細かい構造となっています。

さらに、それらを手内在筋で安定性を高め、手外在筋で動きを作り出しています。

 

普段、私たちは当たり前のように手を使って作業していますが、

当たり前のように作業するためには骨折による機能障害でどこに問題が出現しているのかを評価して、そこに対してアプローチしなくてはいけません。

 

手内在筋機能が低下すると、手外在筋を過剰に使用して負担がかかるかもしれない。

橈骨手根関節に可動域制限があると、手根中央関節、はたまた肘や肩で代償することで痛みを作ってしまうかもしれない。

目的を明確にして評価、アプローチしていくことが重要となります。

 

橈骨遠位端骨折の概要

男女比でみると、女性の方が発生率は高く、男性では年間人口10万あたり100~130人程度なのに対して、女性では300~400人と約3~4倍もの数値を示しています。

年齢別でみると、50~70歳代に多く発生し、80歳以降となると発生率は低くなっています。

これによると、比較的活動性が高い年代に好発していることが読み取れます。

80歳以降で発生率が高くなる傾向にある、大腿骨頸部骨折や上腕骨近位端骨折とは対照的なデータとなっています。

バランスを崩した際にとっさに手が出るか、そのまま大腿や肩を打ってしまうかどうかの差だと思われます。

 

どのような方に発生リスクが高いかというと、ガイドラインには以下のように記載されています。

骨密度減少は最も大きな危険因子であるが、それ以外にも転倒、過度の飲酒、動物性蛋白質摂取の不足、視力低下や歩行頻度が高いこと、歩行速度が速いこと、利き手が左であることも危険度を高める

引用:橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2012

これも大腿骨頸部骨折や上腕骨骨折とは対照的で、歩行頻度が高い方が発生リスクは高いとされています。

このことから、受傷後の上肢機能について介入するのはもちろんのこと、歩行能力についても評価・介入が必要となることが分かります。

 

また、予後は良好で1年後には9割以上の方が非受傷者とほぼ差がなかったというデータもあります。

 

橈骨遠位端骨折の分類

【GradeⅠ】
特に一つだけ推奨できる骨折型分類はない

引用:橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2012

診療ガイドラインには上記のように記載されており、国内ではAO分類が使用されることが多いです。

AO分類

  関節外骨折
A1 尺骨関節外骨折で橈骨骨折はない
A2 橈骨関節外骨折で骨折線は単純
A3

橈骨関節外骨折で骨折線は粉砕

  関節内部分骨折
B1 橈骨関節内部分骨折(sagittal)
B2 橈骨関節内部分骨折(背側barton)
B3

橈骨関節内部分骨折

(掌側barton、smith骨折 thomas分類Ⅱ型)

  関節内完全骨折
C1 橈骨関節内完全骨折で関節面および骨幹端部の骨折線は単純である
C2 橈骨関節内完全骨折で関節面の骨折線は単純だが骨幹端部の骨折線は粉砕している
C3 橈骨関節内関節内完全骨折で関節面および骨幹端部の骨折線は粉砕している

関節外骨折

関節外骨折はColles骨折とSmith骨折の二つに分類されます。

Colles骨折は背屈位で手をついた際に受傷しやすく、骨片が背側へ転移するもの。

Smith骨折は掌屈位で手をついた際に受傷しやすく、骨片が掌側へ転移するもの。

関節外骨折であるため、両者ともに予後は良好とされています。

関節内骨折

AO分類ではBの関節内部分骨折に該当します。

その中にBarton骨折があり、背側Barton骨折と掌側Barton骨折の二つに分類されます。

背側Barton骨折はColles骨折と同様に骨片が背側へ転移するもの。

掌側Barton骨折はSmith骨折と同様に骨片が掌側へ転移するもの。

 

関節外骨折と比べて、関節内骨折では再転移、または変形を起こしやすいため、十分な配慮をした管理が求められます。

背側Barton骨折では、掌屈によって骨折部に離開するストレスがかかり、

掌側Barton骨折では、背屈によって骨折部に離開するストレスがかかるため、

それぞれ対応する動きを伴う場合は、リスク管理が必要になります。

 

橈骨遠位端骨折の合併症

橈骨遠位端骨折診療ガイドラインには3つの合併症が記載されています。

TFCC損傷

三角繊維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)の損傷の診断には、手関節鏡、MRI、手関節造影などが用いられます。

それぞれの検査におけるTFCCの合併率としては、手関節鏡では約40~70%、MRIでは約45%、手関節造影では約13%となっており、比較的合併率は高いと考えられます。

 

TFCCは三角繊維軟骨、尺側側副靭帯、掌背側の遠位橈尺関節靭帯、関節円盤類似体、尺骨手根伸筋腱の腱鞘によって構成されています。

TFCCの機能としては、遠位橈尺関節の安定性への貢献、橈骨手根間関節の尺側支持機構、手関節における力の伝達に関与しています。

簡単に言えば、TFCCの損傷により手関節の不安定性と筋出力の低下が予測されます。

その結果、不安定性を補うために可動域制限や痛みを引き起こすことも考えられるため、TFCC損傷を合併しているかどうかをチェックしておく必要があります。

 

舟状月状骨間靭帯損傷

舟状月状骨間靭帯損傷の診断には、単純X線正面像での健側との比較、手関節鏡、MRI、手関節造影などが用いられます。

それぞれの検査における舟状月状骨間靭帯損傷の合併率としては、単純X線像では約4~41%、手関節鏡では約2~54%、MRIでは約7~30%、手関節造影では約36%とかなり合併率に幅が認められます。

 

その名の通り、舟状骨と月状骨をつなぐ靭帯の損傷を指します。

これを損傷すると、舟状月状骨間解離と呼ばれ手根不安定症の中に分類されます。

舟状骨、月状骨は橈骨と橈骨手根関節を構成しており、ここが不安定となると当然可動域にも問題が生じます。

関節を構成する骨が不安定ということは、筋力も十分に出すことができず、

結果的に可動域制限、筋出力低下につながります。

 

尺骨茎状突起骨折

橈骨遠位端骨折における尺骨茎状突起骨折の合併率は約52~69%と非常に高い割合で合併するとされています。

尺骨茎状突起にはTFCCの一部が付着しており、遠位橈尺関節のスタビリティに関与しているとされています。

つまり、尺骨茎状突起骨折によって遠位橈尺関節が障害されると回内外の動きが制限されることが予測できます。

 

橈骨遠位端骨折の治療

大きく二つのポイントから治療を分けて考えます。

・関節外骨折か、関節内骨折か

・高齢者か、青壮年者か

関節外骨折と関節内骨折では治療成績が大きく違うということ、高齢者ではベースに骨粗鬆症があることと、活動性が低い場合は機能障害が出にくいことから分けて考えるとされています。

 

保存療法

関節外骨折で骨転位のない、安定型の骨折であれば保存療法が適応となります。

固定範囲や期間についてエビデンスの高い報告はないため、概ね4~6週間程度の固定期間とされます。

固定肢位としては、背屈位での固定とCotton-Loder肢位(手関節最大掌屈・尺屈位、前腕回内位)とされています。

固定期間中は患肢の浮腫、手指機能の低下を予防するため、手指を積極的に動かすことが必要となります。

 

手術療法

関節内骨折では手術療法が適応となります。

多いのはプレート固定で、最も一般的な方法となっています。

こちらも同様に、術後は主治医の指示に従って自動運動や関節可動域運動をおこなっていきますが、浮腫や手指機能低下に注意しつつ、可能な範囲で手指の運動をおこなっていくことが必要となります。

 

橈骨遠位端骨折のリハビリテーション

急性期

この時期はまだ固定期間中、保存療法であっても積極的な手関節の動きはできない時期。

この時期で重要となるのは、以下のポイント。

<急性期におけるポイント>
・患肢の浮腫の管理
・CRPSなど合併症のリスク管理
・手指の動きを状態に応じて積極的に実施

 

術後の炎症反応、痛みによる運動機能の低下、それに伴う活動性の低下。

この悪循環でどんどん機能は低下していき、合併症のリスクもあります。

その中でできることは、主に手指の運動。

前腕から手関節をまたいでいる筋肉も多いため、手指の動きを十分に出しておくことで手根管部分で腱と他の組織との滑走性を保つためにも重要です。

 

手の管理

炎症反応の早期改善、浮腫の予防の観点から、患肢は心臓より高い位置でなるべく保持することが重要。

・上腕の下
・前腕と腹部の間

それぞれに枕やクッションを入れて高い位置で保持すること、患肢に余計な緊張を与えないことが必要です。

 

手指の機能

MP、PIP、DIPをそれぞれ十分な可動範囲動かすことも重要ですが、それ以上に手内在筋の機能低下が起こりやすい。

手外在筋では主にPIP、DIPの動き、手内在筋がMPの動きを担います。

ですので、MP関節の自動運動、他動運動ともに十分におこなっておくと良いです。

 

回復期

大体、6週が経過すると積極的な関節可動域運動もできるようになってきます。

その際、大事になるのが無理やり背屈を強制したり、無理なストレッチをしないこと。

 

関節可動域運動

急性期では積極的な関節運動はできないため、組織の癒着や瘢痕化が進んでおり、無理やり動かしても改善するどころか悪化させてしまうことも考えられます。

関節可動域運動において重要なのが、関節を構成する両骨の関係性を考慮すること。

手関節(橈骨手根関節)で言うならば、橈骨と舟状骨・月状骨の関係性。

詳しくは以下の記事にまとめてあります。

 

組織間、組織自体のリリース

制限因子として問題となりやすい部分のリリース方法について以下の動画で紹介しています。

関節可動域運動をする前に実施してあげるとより良いですね!

・手内在筋のエクササイズ

 

・虫様筋、骨間筋のリリース

 

・手根管周囲のリリース

 

まとめ

・手の機能だけではなく、活動性の高い方が受傷率も高いということを認識しておく

・橈骨遠位端骨折でもどの型なのか、CollesかSmithかで損傷する部位も変わる

・合併症はあるかないか評価しておく

・急性期では手指の運動が重要となる

 

おわりに

いかがでしたでしょうか?

手関節の骨折ですが、腫脹や浮腫によって肘や肩にも影響を及ぼす可能性がありますし、手関節だけでなく手指の機能も重要な要素の一つになります。

骨折部位や症状だけに捉われず、なんでそうなるのか?今後どうなるリスクがあるのか?

これを常に考えながら広い視点で考えていただけるきっかけになれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参考・引用文献

1.橈骨遠位端骨折診療ガイドライン

2.山内 仁、大工谷 新一:TFCC損傷に対する理学療法-テニスにおけるグリップ動作を中心に- 関西理学6:59-64 2006

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