2017/12/08
変形性股関節症のリハビリテーション【痛みの原因からリハビリの進め方まで分かりやすく解説!】

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いつもお読みいただきありがとうございます!
リハ塾の松井です。
股関節疾患では、大腿骨の骨折と変形性股関節症の二つがほとんどの割り合いを占めているのではないでしょうか?
大腿骨頸部骨折などは外傷が受傷起点となる場合がほとんどなのに対して、変形性股関節症は慢性的に股関節にストレスがかかることで発症します。
つまり、どういう状態が股関節にとってストレスをかけてしまうのか、これを理解しておく必要があるのです。
本記事では、変形性股関節症の病態、股関節の構造の理解、手術方法、リハビリテーションの進め方などを分かりやすくまとめています。
目次
変形性股関節症の概要
そもそも変形性股関節症とは、慢性的に繰り返される負担、怪我などによる骨の変形や関節軟骨の摩耗、関節腔の狭小化などの症状の総称です。
原因がはっきりとしない一次性、先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全などの明らかな基礎疾患や構造的異常が背景にある二次性の二つに分類されます。
その内、98%が二次性であり、ほぼ全ての症例が基礎疾患が背景にあって発症していることが分かります。
これらの基礎疾患は初めから股関節にストレスがかかりやすい状態にはあるのですが、骨棘を作るなどで適応しようとした結果、変形性股関節症へ発展してしまったと考えるのが自然です。
臼蓋の浅さを骨棘で補っている場合もあるので、一概に骨棘が悪いとは言えませんが、骨棘を臼蓋が浅くて足りない分の受け皿として頼り切っていては結局軟部組織に負担がかかり、関節軟骨が摩耗して…という流れになってしまいます。
要するに、骨棘も骨頭が臼蓋から外れる方向へ動く力が慢性的に続くと形成されるので、そもそも骨頭が臼蓋から外れないようにコントロールする機能が十分にあれば変形性股関節症へは進行しないはず。
とは言っても臼蓋が浅いのは変わらないので、多少の骨棘形成はあるかもしれませんが。
骨棘ができないためには、関節軟骨が摩耗しないためにはどうするか?
このような視点が重要となります。
有病率は、全体で1.0~4.3%、男性は0~2.0%、女性は2.0~7.5%と女性の方が高い割合となっています。
平均発症年齢は、40~50歳となっています。
変形性股関節症の分類
変形性股関節症は慢性疾患ですので、徐々に進行していきます。
なぜ、進行していくかと言うと、臼蓋が浅く大腿骨頭と臼蓋がうまく適合できず、徐々に骨棘が形成され、さらに進行すると骨嚢胞(骨に穴があく状態)も形成されてしまいます。
簡単に言えば、股関節の安定性が低い状態だから。
ここまで進行すると、痛くてとてもじゃないけど歩行などは中々難しい状態ですね。
本来は、大腿骨頭を臼蓋が覆うように構成されていますが、臼蓋が浅いと骨頭が臼蓋から外れやすくなることはイメージできますね。
臼蓋から外れるということは脱臼するということで、それに適応するために骨棘を形成して臼蓋を広げたり、もしくは骨頭を扁平化させて臼蓋と接する面を増やす方法をとるわけです。
しかし、骨棘も本来は存在しないものですので、軟部組織と擦れて炎症を起こしたり、骨頭が扁平化すると臼蓋上をスムーズに動くことができなかったりと、徐々に悪化してしまうという流れです。
このような股関節の安定性が低い状態に適応しようと、骨盤を前傾させて骨頭被覆率(骨頭に対する臼蓋が覆っている割り合い)を高めるなどの反応が見られます。
歩行時に臀部を後方へ突き出すように骨盤を前傾させた歩行をされる方よくいませんか?
あれが股関節の安定性を高めようとした結果ですので、安易に姿勢を変えようと指導したり徒手的に矯正すると痛みの原因にもなりかねないので注意が必要です。
このような姿勢ですと、二次的に腰痛を引き起こすことも予測されます。
前期股関節症 | 関節裂隙狭小化なし | 臼蓋形成不全 | |
初期股関節症 | 関節面の不適合あり | 軽度の骨棘形成 | 臼蓋の骨硬化 |
進行期股関節症 | 部分的な関節裂隙の消失 | 骨棘形成 | 骨嚢胞形成 |
末期股関節症 | 広範な関節裂隙の消失・骨硬化 | 著名な骨棘形成・臼底の二重像 | 骨嚢胞形成 |
股関節の構造から考える変形性股関節症
大腿骨の形態
脛体角
前捻角
大腿骨頚部の前捻増大や頚部の短縮は、臼蓋形成不全による変形性股関節症の特徴的骨形態である。引用:変形性股関節症診療ガイドライン
寛骨の形態
CE角
臼蓋前壁および後壁の低形成、腸骨翼の形態異常は、臼蓋形成不全による変形性股関節症の特徴的骨形態である引用:変形性股関節症診療ガイドライン
寛骨臼前傾角
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変形性股関節症の疼痛
症状として多いのが疼痛ですよね。
しかし、疼痛に関して誤解して解釈している場合がありますので注意してください。
よく変形性膝関節症で痛みを訴える方に対して、「軟骨がすり減っているから痛いんですよ。」と説明することがありますが大きな間違いです。
変形性股関節症においても同じことが言えます。
そもそも、関節軟骨には神経が通っていないですし、その下の骨にも神経はありません。
神経が通っていないので、痛みを感じることもないということ。
実際に痛みを感じているのは骨膜の延長である「関節包」と言われています。
骨膜には神経が通っており、骨折すると痛いのもそのせいです。
骨膜は骨幹部を覆っており、関節面の手前で関節包に移行するため、関節面の骨端は骨膜でおおわれていませんが、関節包となって関節の周りを囲んでいるというわけです。
つまり、痛みを感じるのは軟骨や骨端部ではなく、関節包や周囲の靭帯や腱、筋・筋膜などの組織が炎症や刺激を受けることで痛みを感じるということになります。
また、軟骨や軟骨下骨は痛みを感じませんが、軟骨下骨内には血管(骨髄内小脈)が通っており、それがうっ血、つまり、血流が阻害されることで痛みを感じることもあります。
痛みを感じる3つの要因
・軟骨周囲の摩擦による関節包への刺激
・軟骨下骨の骨髄内小脈のうっ血
・変形、拘縮による筋腱付着部の炎症
変形性股関節症に対する手術
主に関節温存手術と関節置換手術のどちらかが適応となります。
関節温存手術とは、関節周囲の骨を整えて関節に負担のかからないようにするというもの。
寛骨臼回転骨切り術、骨盤骨切り術、内反骨切除、外反骨切除などの方法があります。
関節置換術とは、有名なのが人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)ですね。
どちらの場合においても、侵襲方法については知っておかないと術後のリハビリはできないと言っても過言ではありません。
侵襲を受けた組織は当然、筋出力が低下しますし痛みが出現することも予測できます。
こういった事前情報を知っておくことで、痛みや可動域制限、筋力低下の原因についても仮説を立てやすいですね。
前方アプローチ
前方アプローチでは、大腿筋膜張筋と中臀筋の間から侵入します。
【前方アプローチのメリット】
・軟部組織の侵襲が少なくて済む
・脱臼が起こりにくい
【前方アプローチのデメリット】
・手術の難易度が高く、医師の高い技術が必要
前方から侵入しているため、股関節伸展+外旋+内転の複合運動で脱臼リスクを高めるため、注意が必要です。
後方アプローチ
後方からの侵入では、殿筋を切開して侵入します。
大殿筋、梨状筋を含む外旋筋を一旦大転子から切除。
軟部組織が損傷を受けるため、後方の支持性の低下につながります。
また、侵襲による影響もありますが、低下した支持性を高めるために筋緊張を高めている場合もあるので、安易に緊張を落とすようにストレッチやマッサージをするのは注意が必要です。
後方から侵入するため、股関節屈曲+内旋+内転の複合運動で脱臼リスクを高めるため、注意が必要です。
変形性股関節症のリハビリテーション
変形性股関節症では、手術によって骨アライメントが整って脱臼リスクや痛みが出現する可能性は減ったとはいえ、治ったわけではありません。
痛みは関節軟骨がすり減って起こっているわけではなく、関節包や周囲の軟部組織が機械的な刺激を受けることで発生しています。
軟部組織へのストレスは減るでしょうけど、本人の体の使い方が変わらなければ再び痛みや可動域制限を引き起こす可能性が十分に考えられます。
この考え方は保存療法では特に重要です。
手術と違って骨アライメントは悪いままですので、根本的な体の使い方を変えていくよう指導するべきなのです。
この考え方をすると、痛い部位のマッサージなんかでは良くならないのはイメージできますよね。
股関節の安定性
股関節の痛みを出さないために重要なのは一つだけ。
「関節の適合した状態を保つ」これだけです。
要は、大腿骨頭が臼蓋から外れる方向に動くと骨棘の形成や軟部組織の炎症の原因となるわけです。
つまり、大腿骨頭を臼蓋におさめたまま姿勢を保つ、動作をおこなうことができればいいわけ。
ここで重要な役割を果たしてくれるのが、インナーマッスルである「腸腰筋」。
臀筋群や大腿四頭筋が優位に活動すると、骨頭の細かい動きを制御することは難しく、すぐに骨頭が逸脱する方向へ動いてしまいます。
それを抑制してくれるのが腸腰筋。
骨頭を臼蓋に対して押さえ込んでくれる作用を持つため、これがあるおかげで臀筋群や大腿四頭筋などアウターマッスルが十分に動きに関与できるわけです。
さらに関節の適合性を保つために大事な考え方が、「関節を構成する両骨が相対的に動くこと」。
どういうことかと言うと、関節運動時にはどちらか片方の骨だけでなく両方の骨が動き、相対的に位置を変えることで関節の適合性を守ることができるということ。
具体的には、歩行時立脚後期で股関節が伸展する場面。
股関節伸展時、大腿骨頭は前方へ偏位、それに合わせて寛骨が前傾する。
この寛骨の動きがないと骨頭だけが前方へ偏位してしまい、脱臼することになります。
要するに、股関節疾患と言えども、下肢だけを見るのではなく、骨盤から腰椎までを含めて股関節と考えるべきです。
実際、股関節の参考可動域は大腿骨・骨盤・腰椎の全ての動きが合わさって出ていますからね。
純粋な大腿骨だけの動きではそれほど可動域は大きくないのです。
ということで、ここでも重要となるのが「腸腰筋」。
腸腰筋は大腰筋と腸骨筋に分かれており、腸骨筋は腸骨、大腰筋は腰椎に付着しています。
それぞれが収縮すると骨盤は前傾、腰椎は伸展。
大腿骨に対して上記の動きが出せることが大事なのです。
腸腰筋は大腿骨に対して腰椎、骨盤を近づけることができる作用を持つ筋肉。
一般的には、股関節のROMexや筋力exとして腿上げなどしますよね?
これも大事な要素の一つには変わりありませんが、大腿骨を動かすことばかりに焦点がいっていることが問題なのです。
骨盤が前傾しても相対的に股関節は屈曲位になりますよね?
腿上げをしなくても。
実際の生活場面で腿上げをすることってそうそうないと思いますが、お辞儀をしたり靴を履く際に体をかがめたり骨盤を前傾位にさせることは割と多いです。
足を動かすことばかりに視点をやるのではなくて、体の方を動かすという視点も持っておくべき大事な要素ということを覚えておいてください。
腸腰筋について詳しくはこちら↓
まとめ
・骨棘や関節裂隙の狭小化は関節を守るために適応した結果
・変形性股関節症は大腿骨前捻角が大きく、臼蓋の前後壁が低く、構造的に脱臼しやすくなっている
・疼痛は関節軟骨ではなく、関節包や周囲の軟部組織の炎症が原因
・関節を守るためには大腿骨と骨盤、腰椎の相対的な位置関係が重要
おわりに
いかがでしたか?
私自身、新人の頃はひたすら下肢を動かしてROMexや筋トレを指導していましたが、本記事のように骨盤や腰椎にも視点を広げることで見方が全く変わり、結果も自然と出るようになってきました。
下肢だけで動く人なんていませんからね!
骨盤も腰椎も人にとって大事な要素の一つなので、それも含めて評価してあげましょう。
本記事が参考になれば嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました!
引用・参考文献
1.変形性股関節症診療ガイドライン
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