頚部痛のリハビリ【頚部に負担をかけている原因を探す】

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いつもお読みいただきありがとうございます!
リハ塾の松井です。
特に神経学的な所見がなくても、頚部痛を訴える方いらっしゃいますよね。
腰痛と同じくらい、頚部痛の経験がない方はいないと言ってもいいほど、ポピュラーな痛みだと感じます。
生活や仕事に深刻な影響を与えるほどではないが、頚部痛があることで不安や少なからず生活しにくさを感じる場合もあると思います。
本記事では、ガイドラインを基に頚部痛の基本的な病態、評価、アプローチについてご紹介します。
目次
頚部痛に対するリハビリテーションの目的
背部痛 Back Painとは、上背部ならびに腰背部の疼痛を主訴とするもののうち、原因が明らかでなく、神経学的な変化がみられず、さらに画像所見において明らかな器質的変化を認めないものの総称である。
引用:背部痛 理学療法診療ガイドライン
理学療法ガイドラインでは、上記のように背部痛は定義されており、その中でも頚部痛は以下のように定義されています。
背部痛のうち、頚部、肩、上背部全体の痛み、こり、張りといった症状を呈し、上背部に起因するが上肢に神経症状を含まないものについては「非特異的頚部痛 non-specific neck pain」と表現される。
引用:背部痛 理学療法ガイドライン
要するに、はっきりとした原因は認められないが頚部に痛みを感じている状態を指している。
頚部痛に限ったことではないが、骨折などの外傷ではないので患部に慢性的にストレスが加わった結果、痛みが出現していると考えるのが自然。
つまり、頚部痛に対するリハビリテーションの目的としては痛みを取り除くことはもちろんだが、なぜ痛みが出現したのか、どこにどのようなストレスが加わって痛みが出現しているのか、特定の動作で痛みが出現するのか、それとも特定の姿勢が起因となっているのか、それ以外の要素があるのか。
これらを明らかにして、原因に対してアプローチすることが求められる。
頚部痛の概要
疫学
頚部痛の1年有病率は、人口全体の12.5~71.5%、労働者では27.1~47.8%となっている。
その中でも頚部痛障害、頚部痛によって何らかの障害を抱えている割り合いは少なく、全体の1.7~11.5%とされている。
労働者で多いのが特徴的であり、毎年約1~2割の労働者が頚部痛による活動の制限を訴えている状況。
あまり深刻視されていないが、頚部痛による活動制限で生産性が減少することは、高齢化によって若い世代への負担が増える今、社会的に大きな問題であると認識すべきだと感じます。
リスクファクター
若年者では予後は良好。
運動習慣は予後には関連がないとされ、心理社会的要因が最も重要なリスクファクターとされている。
また、労働者においては必ずしも年齢が予後に関連するとは限らない。
理学療法士が知っておくべき評価のポイント
レッドフラッグ
レッドフラッグは特異的に必ずしも関連していないが、詳細な検査を必要とする重篤な基礎疾患の存在する可能性が高いことを示しています。
レッドフラッグを示さない場合、X線検査によって重篤な脊椎病変が発見された例は2500例のうち、1例のみであったと報告されているため、
レッドフラッグに当てはまらない場合、重篤な脊椎病変が存在しないという信頼性は99%となります。
つまり、重篤な脊椎病変を見逃さないためにも、レッドフラッグの徴候を確認することは重要な要素であると言えます。
頚部痛のレッドフラッグとして、頚部痛以外に認められる徴候はないか確認します。
具体的には以下の通りです。
・病理学的骨折(軽度の外傷に続くもの、自然発生、骨粗鬆症やステロイド剤の使用による骨量の減少)
・腫瘍(がんの病歴、原因不明な体重減少、全身症状、1ヶ月の治療で改善傾向がない)
・全身炎症疾患(強直性脊椎炎、炎症性関節炎)
・感染症(薬物乱用、尿路感染、皮膚感染)
・頸髄障害
・頸椎や頸部手術の既往歴または開放損傷などがある
初回評価時、もしも上記のようなものが疑われるのなら、すぐに医師へ報告するべきです。
神経症状や全身症状を伴わない、頚部後方の痛みであれば、重篤な脊椎疾患の可能性は低いがレッドフラッグの兆候は頭に入れておく必要がある。
頚部痛のリハビリテーション
理学療法評価
疼痛が出現する動作、姿勢の確認
これを評価しないことにはその後の方針を決定できないので、必ずチェックします。
意外とこれを疎かにして、いきなり寝かせてマッサージをしている場合も見かけます。
まずは、評価を詳細におこないましょう。
ポイントは以下の通り。
・偏った姿勢アライメントとなっていないか
徒手的にアライメントを修正した場合、痛みに変化があるのかチェック。
(ex.胸椎伸展を誘導した場合に痛みが軽減する、上部頸椎屈曲位に誘導した場合に痛みが軽減する…etc)
・痛みが誘発される動作はあるのか
複数の部位の動きで痛みが再現される場合、それらに共通点があれば原因として疑う
(ex.下部頸椎屈曲、回旋によって痛みが誘発される場合→胸鎖乳突筋が原因?)
・姿勢、動作が偏る場合、可動域の問題なのか、筋力的な問題なのか
疼痛を起こしている原因組織の特定
姿勢や動作から、ある程度痛みを起こしている部位が限局できたら、原因となっている組織を特定します。
例えば、頸椎屈曲・右側屈で痛みが軽減する場合。
右斜角筋が緩むことで痛みが軽減したと仮説を立てると、徒手的にマッサージ、持続圧迫、ストレッチなどの手段を用いて斜角筋の緊張を落とすと痛みに変化があるのかどうか。
もし、痛みが軽減するのなら斜角筋が痛みに関わっていたことになります。
まだ痛みが残っている場合は、同じ要領で他の問題となっている組織を評価、アプローチする作業を繰り返していくだけ。
上で説明した通り、複数の動作に共通する組織があれば、その組織が問題点として疑わしい可能性が高くなります。
Hyper mobilityとHypo mobility
簡単に言うと、可動性が低い部位と過可動性の部位を探すということ。
股関節や肩関節など本来可動性に富んだ関節であるはずの関節が可動性低下している場合、必ず代償して隣接関節が過剰に可動する傾向にあります。
例えば、頸椎は環椎後頭関節(C0-1)、軸椎関節(C1-2)、下位頸椎(C3-7)の3つの部位に分けることができます。
環椎後頭関節は頸椎全体の約50%の屈伸を担い、軸椎関節は約50%の回旋の動きを担っています。
軸椎関節の制限がある場合、制限がある分の回旋可動域を他の部位で代償しなくてはいけません。
隣接する環椎後頭関節で代償すると、本来屈伸に特化した形状であるため、回旋が強要されると負担が強くかかることが予測できます。
この場合で言うと、Hyper mobilityは環椎後頭関節、Hypo mobilityは軸椎関節にあたります。
このように、動きすぎている部位と動いていない部位を探し、動いていない部位を動くように、動きすぎている部位を動かなくてもいいようにするにはどうしたらよいか?と考えていきます。
整形外科テスト
重要なのは、一つのテストで陽性だからといって必ずしも問題があるとは限らないということ。
複数のテストの結果を総合的に判断して評価することで、より信頼性が高くなります。
スパーリングテスト(Spurling test)
<目的>
側屈側の椎間関節障害、狭窄の有無の検査
<方法>
頚部側屈させ、垂直方向へ圧迫
圧迫中に上肢へ放散痛があれば陽性
<ポイント>
・頚部痛は陰性とするが、神経的な影響がないだけで椎間関節障害自体は除外できない
・体幹の代償が出ないように注意
・繊細な部位なので、無理やり力を込めて実施しない
・疼痛には十分に配慮を、痛みが強い場合は実施しない
ジャクソンテスト(Jackson compression test)
<目的>
側屈側の椎間関節障害、狭窄の有無の検査
<方法>
頚部側屈+伸展させ、垂直方向へ圧迫
圧迫中に上肢へ放散痛があれば陽性
<ポイント>
・頚部痛は陰性とするが、神経的な影響がないだけで椎間関節障害自体は除外できない
・体幹の代償が出ないように注意
・繊細な部位なので、無理やり力を込めて実施しない
・疼痛には十分に配慮を、痛みが強い場合は実施しない
椎間孔圧迫テスト
<目的>
後部椎間関節障害、狭窄の有無の検査
<方法>
頚部に垂直に圧迫し、回旋させる
痛みが出現したら陽性、放散痛など神経症状が出現した場合は神経系のテストを実施
<ポイント>
・体幹の代償が出ないように注意
・繊細な部位なので、無理やり力を込めて実施しない
・疼痛には十分に配慮を、痛みが強い場合は実施しない
イートンテスト(Eaton test)
<目的>
神経根障害の検査
<方法>
頚部側屈し、反対側上肢を肩関節伸展・外旋、肘関節伸展、手関節背屈させる
上肢に放散痛出現したら陽性
<ポイント>
・体幹の代償が出ないように注意
・疼痛には十分に配慮を、痛みが強い場合は実施しない
アドソンテスト(Adson test)
<目的>
胸郭出口症候群の検査
<方法>
橈骨動脈を触知
検査側へ頚部伸展・回旋させる
動脈の拍動が減弱したら陽性
<ポイント>
・第1肋骨、前斜角筋、中斜角筋での狭窄を疑う
・体幹の代償が出ないように注意
・疼痛には十分に配慮を、痛みが強い場合は実施しない
EAST(elevated arm stress test)
<目的>
胸郭出口症候群の検査
<方法>
肩関節90°外転・外旋位、肘関節屈曲90°、前腕中間位として、手指の屈伸をおこなう
3分間実施し、その間に神経症状、筋力低下がおこれば陽性
<ポイント>
・疼痛には十分に配慮を、痛みが強い場合は実施しない
ライトテスト(Wright test)
<目的>
胸郭出口症候群の検査
<方法>
橈骨動脈を触知
肩関節90°外転・外旋させ、動脈の拍動が減弱したら陽性
<ポイント>
・小胸筋、鎖骨下筋での狭窄を疑う
エデンテスト(Eden test)
<目的>
胸郭出口症候群の検査
<方法>
橈骨動脈を触知
胸椎伸展位、肩関節伸展位、肩甲帯下制させ、動脈の拍動が減弱したら陽性
<ポイント>
・肋鎖間隙での狭窄を疑う
モーリーテスト(Morley test)
<目的>
腕神経に由来の神経障害の検査
<方法>
斜角筋三角(前斜角筋と中斜角筋の間で形成される三角)を圧迫
上肢に放散痛が出現したら陽性
<ポイント>
・疼痛には十分に配慮を、痛みが強い場合は実施しない
頚部痛に対するアプローチ
軟部組織へのアプローチ
評価にて問題となっていると予測された組織に対してアプローチします。
評価がしっかりできていれば手段はなんでもよいです。
参考までに私がよく用いる手段を挙げておきます。
組織間リリース
筋肉と筋肉の間を狙って癒着を剥がす。
徒手的に剥がすように押圧してもよし、筋間に指を入れたまま関節運動してもらってもよい。
頚部の他動運動はリスクも少なからずあるため、自動運動の方が無難。
問題となりやすい部位としては、以下の通り。
・胸鎖乳突筋鎖骨部-前斜角筋
・胸鎖乳突筋胸骨部-中斜角筋
・前斜角筋-中斜角筋
・胸鎖乳突筋-板状筋
・胸鎖乳突筋-肩甲挙筋
・僧帽筋上部繊維-板状筋
・僧帽筋上部繊維-肩甲挙筋
・僧帽筋上部繊維-脊柱起立筋
・大胸筋-三角筋
・大胸筋-小胸筋
持続圧迫
組織を持続的に30秒程度押圧して緩むのを待ちます。
繰り返していると、組織が緩んでくるのが触診で確認できます。
ただ、頚部筋は他の部位と比べ、筋の厚さや密度が小さいこと、リスクもあることから、圧迫の強さには十分に注意を払う必要はあります。
運動療法
問題となる組織をリリースしても体の使い方が変わっていなければ、再発するリスクがあります。
流れとしては、評価→原因組織をリリース→運動療法で動作レベルで変える。
オススメの運動療法をいくつかピックアップして挙げておきます。
胸椎伸展エクササイズ 背臥位
<目的>
胸椎の伸展制限を改善、
頸椎への負担軽減
<ポイント>
・肩甲帯挙上、腰椎伸展で代償しないように注意
・肩関節外旋、肩甲帯下制方向へ力を入れる
・手指は伸展位でおこなう
・肘関節屈曲90°とし、伸展しないように垂直に床面を押す
胸椎伸展エクササイズ パピー肢位
<目的>
胸椎の伸展制限を改善
頸椎への負担軽減
<ポイント>
・肩甲帯挙上、頸椎伸展で代償しないように注意
・肩関節外旋、肩甲帯下制方向へ力を入れる
・胸椎伸展→下位頸椎伸展→上位頸椎伸展の流れ、頸椎伸展が先にならないように注意
・腹部は床面へつけておく
肩甲骨エクササイズ(前鋸筋) 四つ這い
<目的>
肩甲骨の可動性改善
頚部、肩関節への負担軽減
前鋸筋の機能化
大胸筋、小胸筋、三角筋前部繊維の抑制
<ポイント>
・指先は正面へ向ける
・肩甲帯挙上、肘関節屈曲しないように注意
・胸椎、頚部は脱力しておく
肩関節エクササイズ(前鋸筋、広背筋、外旋筋群) 端座位
<目的>
前鋸筋、広背筋、外旋筋群の機能化
大胸筋、小胸筋、三角筋前部繊維の抑制
<ポイント>
・肩甲帯挙上、体幹伸展で代償しないように注意
・手関節掌屈、肘関節屈曲しないように注意
・肩甲帯下制しつつ、肩関節外旋方向へ力を入れる
・真横ではなく、斜め後方へ手を引くイメージ
顔面筋リリース 端座位
<目的>
顔面筋を緩める
<ポイント>
・痛気持ちいいくらいに引っ張る
まとめ
・頚部痛は労働者に多く、年齢による予後に有意差はない
・姿勢や動作で痛みに変化があるかどうか
・動いていない部位と動きすぎている部位を探す
・整形外科テストで問題部位を鑑別
・軟部組織へのアプローチ→運動療法で姿勢、動作を変える流れ
終わりに
いかがでしたか?
頚部痛は胸椎や腰椎などの制限により、結果的に負担がかかっていることが多いです。
頚部のマッサージだけでは、中々改善しないので運動で姿勢や動作を変えるところまでをセットに考えましょう!
最後までお読みいただきありがとうございました。


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