2017/06/24

神経可塑性のメカニズムと脳卒中後の回復を最大限に引き出す3つの重大なポイント

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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神経の可塑性を理解してリハビリしていますか?

脳卒中の回復において、神経可塑性は欠かせない要素の一つです。

きちんと理解することで、回復を最大限に引き出してリハビリすることができます。

これを理解しないまま脳卒中の方のリハビリにたずさわっていたと今改めて思うと非常に申し訳なく思います。

よく分かっていないかも…と思ったあなたは是非本記事を最後まで読むことをオススメします。

本記事には、神経可塑性のメカニズムと脳卒中回復過程に合わせたアプローチについて解説しています。

神経可塑性とは?

そもそも神経可塑性とは何なのか?

残存した脳には脳損傷によって失われた機能を補うための適応する機能がある。

この機能のことを神経可塑性と呼び、神経回路を再構築して新たなネットワークを構築してくれる機能です。

この機能があるおかげで脳卒中後の機能回復が見込めます。
逆に言えば、この機能を如何に引き出すかでその後の回復度が変わってきます。

この神経回路の再構築はより強固にしたり、数を増やしたりすることもでき、セラピストが神経可塑性の原理を理解していることでこれに貢献できます。

一定期間を過ぎるとプラトーになってそれ以上の回復は見込めない。

確かに、一定期間を過ぎると急性期に比べて回復は緩やかに変化してきますが、新しい刺激を入力することで既存の回路がより強くなったり、今まであまり使用されていなかった回路が使われ始めたり、回路を再編成したりといった変化は起きています。

脳内には自身の身体、周囲の環境をどのように捉えるのか、これを地図として埋め込まれており、運動とそれによって得られる感覚入力を繰り返すことで新たな情報として脳内の地図が広がっていきます。

脳卒中後は、損傷した部位によって今まで処理されていたことを同様に処理できるように機能を変化させて適応しようとします。
これを「脳内地図の機能的拡大」と呼び、神経可塑性に伴って生じています。

これはここ20年くらいで言われ始めたことでまだまだ分かっていないことも多いかと思いますが、回復の終わりはないということを示唆しています。

そのためにもセラピストが正しく可塑性について理解して、不良姿勢のまま運動をおこなったり、動作に集中できるような環境設定などあらゆる要素にこだわるべきです。

そんな神経可塑性について以下に解説しています。

神経回復のメカニズム

神経損傷後はアンマスキング、側芽形成、神経細胞の移植によって回復されます。

神経細胞の移植に関しては、まだまだ一般的におこなわれるほど普及していないのが現状のため、今回はアンマスキングと側芽形成の二つについて解説します。

アンマスキング

アンマスキングとは、代償性の経路を構築することであり、元々存在していたがマスキング(抑制)されていたシナプスの結合が顕在化したものを指します。

例えば、シナプスA→シナプスBへCという経路で結合していたとします。
Cの経路が損傷された場合、シナプスAからシナプスBへの結合は途絶えることとなり、そこから先の運動機能は障害されます。
Cの経路を代償してDという経路を新たに構築し、その経路を使ってA→Bへの結合を再編成されることをアンマスキングと言います。

また、皮質脊髄路の内、85%は延髄で交差して下降しますが、残りの15%は通常では興奮しないようにマスキングされています。
脳卒中により、本来使用していた皮質脊髄路の経路が途絶えた場合、いつもは使用していなかった15%の経路を興奮させることで損傷された経路に代わって運動を起こすことが可能となります。

肩関節が屈曲できないのを肩甲帯の挙上や肘屈筋で代償してなんとか屈曲しようとするように、脳内でもなんとか代償して運動を発現しようとネットワークが再編成されるわけですね。

側芽形成

先ほどの例で言うと、シナプスA→シナプスBへCという経路で結合していたがCの経路が損傷されてしまった。

アンマスキングでは別の経路を使用しましたが、側芽形成では損傷された部分から再び経路をシナプスBへ伸ばして結合するというものです。
新たな経路を構築するというよりは、同じ経路を使用してシナプスの結合を再編成するというイメージです。

このような神経の可塑性があるおかげで脳卒中後の回復が期待できるわけですが、可塑性を促すためには刺激を入れ続ける必要があります。

適切な刺激が入ることで細胞間のやり取りがおこなわれますが、刺激がなくなると細胞間のやり取りがなくなり、細胞死を起こしてしまいます。(逆行変性)

細胞死が起こると再生はしなくなるため、麻痺の回復のチャンスを逃してしまわないためにもここはセラピストの関われる部分ですね。

運動麻痺回復ステージ

 
運動麻痺の回復には3つのステージを経て回復していき、それぞれの時期に合ったアプローチを選択することが運動麻痺の回復を助けます。
 
・1st stage
 
・2nd stage
 
・3rd stage
 
この3つに分類されます。以下にそれぞれ解説します。
 

1st stage

このステージの特徴としては以下の通りです。
 
・残存している皮質脊髄路の興奮性を向上
 
・残存している皮質脊髄路の興奮性は急性期から急激に衰退していき3ヶ月で消失
 
・ワーラー変性が残存している皮質脊髄路の興奮性衰退に関わる
 
上記の通り、麻痺側の不使用によってワーラー変性が早い時期から起こってしまうと十分な回復は見込めなくなります。
 
そうならないためにも如何に残存している皮質脊髄路を興奮させるか、興奮を阻害している要因を排除できるか。
この二つ視点から考えることが重要となります。

半球間抑制

皮質脊髄路の興奮を阻害する要因の一つとして、半球間抑制によるものがあります。
 
本来であれば、左右の大脳半球は脳梁を介して相互に抑制しあい、バランス良く働くように互いに調整しています。
脳卒中によって片側の大脳半球がダメージを受けると、健側の大脳半球から一方的に抑制を受けるような形となってしまうため、損傷による運動麻痺に加えて半球間抑制による運動機能の低下が起こります。
 
つまり、非麻痺側ばかり使用して動くと損傷した大脳への抑制がより強まり、さらに運動機能は低下していきます。
皮質脊髄路の興奮性も阻害されてしまいますね。

一次運動野の機能

一次運動野の中でも前方と後方では機能が異なります。
 
前方では肩など中枢の動きに関与し、後方では手指など末梢の動きに関与しています。
 
運動野前方では筋肉・関節の固有感覚入力を受け取り、その情報をもとに動きをコントロールします。
運動野後方では皮膚触覚の感覚をもとに動きをコントロールします。
 
どの機能を高めたいかによってアプローチ方法を選択する必要性を考えさせられますね。

1st stageの時期のアプローチ

以上から、1st stageの時期においてどのようなアプローチを選択すべきか考えます。
 
急性期では麻痺側を十分に動かせないため、非麻痺側を過剰に使用してしまいがちですが、それでは半球間抑制を強めてしまいます。
そうならないためにも、麻痺側を積極的に使用していくことが求められます。
 
一次運動野の機能から、肩や股関節など中枢の部位に対しては固有感覚を高めるようにアプローチする必要があります。
手指など末梢の部位に対しては皮膚に焦点を当ててアプローチする必要があります。
 
具体的には、随意性があるなら努力性の運動とならないように適宜セラピストによる介助を入れつつ、運動によって運動感覚を取り入れます。
随意性がない場合では、他動的に関節の形状に合わせた動きをおこなうことで、良好な感覚入力をおこなうことができます。
 
末梢に対しては、運動に合わせて皮膚の動きを誘導したり、徒手的に皮膚をこすったりするだけでも感覚は入力されます。
 
さらに、筋骨格系のアライメント異常がある場合は、その異常を取り除くことでより感覚を取り込みやすい身体環境とすることができます。
 
筋骨格系のアライメント調整→自動・他動運動による運動感覚入力の流れとなります。
 

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2nd stage

このステージの特徴としては以下の通りです。
 
・皮質間の新たなネットワークの興奮性に依存
 
・3ヶ月をピークにこのメカニズムの再編成が起こる
 
・皮質間の抑制が解除されることで、新たな皮質間ネットワークが再編成され、残存している皮質脊髄路の機能を最大限引き出すように機能する
 
・このメカニズムは6ヶ月までに消失する
 
発症後、3ヶ月〜6ヶ月の間の時期に相当するということですね。
 
このステージでは、現状持っている機能を用いて新たなネットワークの構築をするため、自身の運動イメージと実際の運動のズレがないか統合と修正をおこなっていくことが重要となります。
 
つまり、雑に関節運動や歩行練習など繰り返すのではなく、動作において何が足りていないのか必要に応じてフィードバックしたり、徒手的に必要な機能を促通することで動きのズレを本人に気づいてもらうことが大事。
 
「これはこうしなくちゃいけませんよ。」
「これをしなくちゃ良くなりませんよ。」
 
などと、セラピスト側のエゴを押しつけるのではなく、その方が動作に対してどのように感じているのか、どのようなイメージでおこなっているのか、視覚・聴力などあらゆる感覚器官を使うことができているのか、また、使えるだけの周囲の環境整備、身体環境が整っているのか。
 
意外と患者さんの思っているイメージとセラピストが思っているイメージがズレていることも多いです。
「え、そんなふうに考えて歩いていたの?」なんてことざらにあります。
 
運動イメージと実際の運動を統合・修正していく必要があるのに、セラピストとのイメージのズレが生じていると回復の邪魔をしていることにもなりかねません。
 
もちろん、実際の動きを見て動作分析もしますが、どういったイメージを持って動作をおこなっているのか。
この部分をしっかりと傾聴してあげることも必要ですよ。
 
 

セラピストが意識すべきポイント
・セラピストと患者さんの間で目的、理想とする状態を共有する
・解剖、生理、運動学、動作分析などから実際の動作に必要な部分、足りない部分をフィードバックする
・実際の動作に対する患者さんのイメージ、イメージと動作でズレを感じていないか傾聴する
・必要に応じて徒手的に関節を操作、タッピング、触れることで感覚入力するなど、邪魔しない程度に足りない要素を補ってあげる

3rd stage

このステージの特徴としては以下の通りです。
 
・シナプス伝達の効率化
 
・2nd stageで構築されたネットワークのシナプスの強化
 
・運動出力に関わるネットワークの効率化
 
今までのステージで構築してきたネットワークを反復してより強固なものとしていく段階です。
より生活に直結した形で麻痺側を自主的にも使うようにしていくことが必要となります。
 
この生活に直結した形で麻痺側を使用してもらうということが難しいところで、麻痺側を使用するのにその方にとって強い努力を伴う場合、中々自主的にはおこなってくれません。
 
みなさんも経験ありませんか?
「生活で積極的に麻痺した方の手も使ってくださいね。」と言ってその場では了解してくれていても、実際に後から本人に聞く、または病棟スタッフからの情報を聞くとあまり使用してくれていない。
 
言われた直後は本人も意識的に使用してくれるとは思いますが、その方にとって難易度が高すぎると続かないんですね。
 
強い努力を伴って動作をおこなうか、楽に動く非麻痺側だけ使って動作をおこなうか。
両者を天秤にかけると、やはり後者が勝ってしまいます。
 
つまり、現状で可能な最適な努力量で実現できる動作の選定とそれ以上の努力を伴う動作に対しては自助具・装具を検討するといった視点から考える必要があるということです。
 
この装具の検討については、この段階にきてから考えていては遅くて、いざ装具を検討しようとなってもすぐに処方できないこともありますよね?
2nd stageの段階から予後をある程度予測して考えていくことが求められます。
 
 

セラピストが意識すべきポイント
・現状に合った適切な課題の設定
・課題を過剰な努力を要せず実施できるための環境設定

運動麻痺の回復のためにセラピストが考えるべきこと

以上の内容からセラピストが関わる上で考えるべきポイントは以下の3点です。
 
・運動に要求される身体環境の把握
 
・如何にして皮質脊髄路を活性化させ、運動実行に移すか
 
・実際の運動に応じた適切なフィードバック、感覚を認知してもらう
 
この3点を考えて関わるのとそうでないのとでは全く効果が違ってきます。
頭の中に入れておいてくださいね!
 

まとめ

・神経可塑性によって運動麻痺の改善が見込める

・麻痺側の不使用によって細胞死してしまうと回復は見込めなくなる

・1st stageでは皮質脊髄路の興奮に焦点を当てる

・2nd stageでは運動イメージと実際の運動との統合と修正をおこなっていく

・3rd stageでは日常生活で積極的に麻痺側を使えるよう環境設定する

おわりに

いかがでしたか?

回復過程に合わせて適切なアプローチを選択する重要性がお分かりいただけたと思います。

元の機能・能力を取り戻すためのリハビリなので、その回復を邪魔しないためにも神経可塑性のメカニズムは理解しておくべき要素の一つです。

明日からでも本記事の内容を参考にプログラムを設定してみてください!

最後までお読みいただきありがとうございました。

出典・参考文献

1)原寛美:脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション.脳外誌.2012;21(7):516-526.

2)森岡周:神経可塑性と運動学習の脳内基盤.理学療法福井 13:3-9,2009

3)原寛美、吉尾雅春:脳卒中理学療法の理論と技術.2016

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