2018/06/21

間質性肺炎のリハビリ【機能的に動くために必要な要素を考えてみる】

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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いつもお読みいただきありがとうございます!
リハ塾の松井です。

間質性肺炎といえば呼吸器の疾患ですが、骨折とはまた違った辛さがあり、

重症例となると、辛そうでなんとかしてあげたいと思う気持ちも強くなりますよね。

そんな方に対して、なんとなく呼吸介助や漠然と歩行練習を続けてはいませんか?

呼吸介助一つとっても、細かい部分を評価していくと効果を高くすることもできます。

本記事では、間質性肺炎の基本的な病態、リハビリテーションのポイントをまとめてあります。

なぜ間質性肺炎のリハビリをするのか?

そもそも、なぜ間質性肺炎に対してリハビリをするのか。

リハビリの目的をはっきりとさせておく必要があります。

 

なぜなら、目的がないと何を目指してリハビリしているのか分からないから。

当たり前のことですが、重要なポイントです。

 

間質性肺炎に対するリハビリの目的としては以下の通り。

<間質性肺炎のリハビリ目的>
・呼吸困難感の改善
・持久力の強化

大きな目的としては主に上記の2つです。

これだけでは、抽象的すぎるのでこの目的を達成するには何が必要か?という視点が必要になります。

 

骨折など痛みといったはっきりとした症状がある場合は、痛みがなくなれば一つのゴールと言えるので比較的分かりやすいですよね。

しかし、間質性肺炎で問題となるのは、息苦しさや倦怠感といったいまいちはっきりとしない抽象的なもの。

もちろん、息苦しさや倦怠感がなくなったという患者さんの主観的な指標も大事です。

ですが、主観的な指標だけを頼りにしていては、本当にこの方針で良いのか?改善してくるのだろうか?という疑問が出てきます。

 

つまり、リハビリの開始時から終了時、ゴールまでの間が抜けているんですね。

ゴールまでの間をどのようにして埋めるのかという視点で考えることが必要です。

 

この場合で考えると、呼吸困難感を改善してどうするのか?どうなれば良いのか?

例えば、トイレ動作を自立したい。

自立するために呼吸困難感を改善する必要がある。

そのために必要な要素として、頸部・胸郭周囲の軟部組織の柔軟性、上下肢・体幹筋筋出力発揮の効率化、呼吸方法の是正 etc…

効果判定として、SpO2や6分間歩行試験などの客観的な指標も必要になってきます。

 

目的を明確にしておくことが何より大切です。

間質性肺炎の概要

肺の間質を病変の主座としてびまん性に炎症が広がる病態をいい、しばしば肺線維症を起こす。

引用:突発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン

間質性肺炎は拘束性肺疾患であり、肺炎と並んで多い疾患のCOPDは閉塞性肺疾患となります。

ちなみに、間質とは以下のように定義されています。

肺胞腔を支える肺胞壁の間質を狭義の間質、その他の気管支血管周囲、小葉間隔壁および胸膜下などの間質を広義の間質と呼ぶ。

引用:突発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン

 

間質性肺炎の症状

%肺活量の低下により、運動耐用能が著名に低下します。

簡単に言うと、少しの動作ですぐに疲れてしまうということ。

 

上述しましたが、間質とは肺の周りを覆う壁のようなもの。

ここが炎症を起こし、硬く繊維化してしまって肺が十分に膨らまなくなることが原因で呼吸困難感が生じてしまいます。

 

肺が膨らみにくくなるということは、吸気で酸素を十分に取り込めず、

その分、全身に酸素を供給できない。

ということは、筋肉を動かすための酸素も不十分であり、

酸素が多く必要な動作では疲労感が強くなるということ。

 

身体所見

胸郭の変形

・高度な肺気腫では洋樽変形(Barrel chest)が認められる

・漏斗胸(胸骨が陥没した状態)、鳩胸(胸骨が突出した状態)の有無

ばち指

・詰めの付け根が膨隆(側面から見て180°以上、通常はやや陥没して160°程度)

チアノーゼ

・口唇、口腔粘膜、鼻尖、指先、爪床で認められやすい

・必ずしも低酸素血症に特異な症状ではないが、認められた場合は低酸素血症の疑いがある

呼吸時の胸郭運動パターン

・上部胸郭による代償が大きく、下部胸郭があまり動かない

・吸気時に腹部が膨らまず、陥没する(横隔膜機能の低下)

・呼吸が浅く早い(肺の膨らみが不十分なため)

打診・聴診・触診

・打診では濁音が認められる(響かない濁ったような音)

・聴診では吸気時に捻髪音(バリバリ、メリメリ)が認められる

・触診では呼吸補助筋(胸鎖乳突筋、斜角筋、僧帽筋、大胸筋、小胸筋、腹直筋など)に過緊張、圧痛が認められる

 

呼吸不全の基準

大気中の酸素を体に取り入れて、体内でできた炭酸ガスを体外に放出するという肺の本来の働きを果たせなくなった状態を呼吸不全と言います。

引用:一般社団法人 日本呼吸器学会

間質性肺炎を含む、COPDなどの呼吸器疾患はこの呼吸不全という状態にあたります。

通常、動脈の血液中には100mmHg程度の酸素が含まれており、

ほとんどが赤血球中のヘモグロビンと結合して体の各組織に運ばれます。

この血液中の酸素が減少することを低酸素血症、十分に二酸化炭素を排出できないことを高二酸化炭素血症と呼びます。

この酸素と二酸化炭素の量を基準として呼吸不全を定義しています。

 

具体的には以下の通り。

・動脈中の酸素が60mmHg以下となることを呼吸不全と定義

・Ⅰ型呼吸不全:二酸化炭素分圧の上昇を伴わない、45mmHg以下

・Ⅱ型呼吸不全:45mmHg以上

・上記の状態が1か月以上続く場合を慢性呼吸不全と呼ぶ

・パルスオキシメーターでは、SpO2:90%を基準にする

 

呼吸の役割

そもそも、呼吸の役割とはにか?

人は肝臓、腎臓、あるいは上位脳が損傷されても数日間は生き延びることができるが、

呼吸あるいは循環が約5分間停止すると組織の酸素欠乏のため、死に至ってしまいます。

 

当たり前ですが、呼吸が止まってしまうと死に至ってしまうため、

生命維持において重要な役割を担っています。

 

換気のメカニズム

そもそも換気とは、肺と気道を通って空気が吸入され、呼出されることによる機械的過程とされています。

簡単に言えば、換気=吸気+呼気と表すことができ、これは横隔膜の収縮と胸郭の動きによって実現されます。

 

吸気は能動的におこなわれ、脳幹(延髄・橋)にある呼吸中枢からの神経インパルスが横隔膜と肋間筋を刺激することでおこなわれる。

呼気は受動的におこなわれ、肺の弾性収縮力によって実現し、安静時は完全に自動でおこなわれている。

つまり、間質性肺炎では間質が線維化して硬くなり弾性力が失われているため、

そもそも、吸気によって肺が膨らまない。

吸えなければ吐くこともできないということですね。

 

吸気と呼気どちらに障害があるのか、どちらにもあるのか。

ここを理解しておくことが必要です。

 

吸気の捉え方

間質性肺炎は拘束性障害で吸気の障害ということで、今回は主に吸気についてまとめます。

吸気に関わる筋肉は以下の通り、安静時と努力時に分けられます。

 

・安静吸気時

横隔膜(7割)+肋間筋(3割)

・努力吸気時

胸鎖乳突筋、肋骨挙筋、脊柱起立筋、肩甲挙筋、僧帽筋、菱形筋群、大・小胸筋、前鋸筋

 

間質性肺炎によって呼吸困難感を訴える方には、

上記で挙げた努力吸気時の関わる筋群のどこかしらに筋緊張の高い部位、または圧痛所見があったりします。

 

ここで陥りやすい間違いとして、筋緊張が高いからその筋をマッサージしてほぐしたらいい、ということ。

100%間違いというわけではありませんが、緊張を高くする要因があるからそうなっているわけで、

そこを解決しないとすぐに緊張は高くなってしまいます。

 

なぜ過緊張となってしまうのか?

安静時にも努力性となる必要があるのか?

このような視点で考える必要があります。

 

安静吸気時の筋群をみると、横隔膜が7割も占めています。

つまり、横隔膜が働かないと努力吸気時の筋群で代償せざるを得ず、

その結果、筋緊張が高い、圧痛があるといった症状が出現するのです。

 

臨床では以下の視点で考えてみてください。

<臨床で考えるべき視点>

・横隔膜が機能しているかどうか

・横隔膜の機能を阻害する筋群(努力吸気時の筋群)が過緊張となる要因が他にあるか
→頚・胸椎、胸郭アライメント、肩関節疾患の既往など

 

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間質性肺炎のリハビリテーション

間質性肺炎のリハビリは、医師の指示を確認しつつその方の状態に合わせて進めていきます。

リハビリによって低酸素血症を起こす可能性もあるため、上記で説明した通り、SpO2をこまめに確認しながら実施します。

基本的には90%を下回らない範囲での運動療法、レジスタンストレーニングやADL練習、指導をおこないます。

 

リハビリの目的としては、冒頭で述べたように呼吸困難感と持久力の強化の二つ。

これを達成するために必要な要素を評価して埋めていきます。

呼吸筋へのアプローチ

まず、横隔膜の働きがないと吸気は必ず代償が入ってしまい、呼吸補助筋によって努力性のものとなってしまいます。

それによって、どんどん呼吸困難感は強くなっていく。

この状態で腹式呼吸を練習しようとしても、そもそも横隔膜が機能しにくい状態なので、

代償ばかり強くなってしまい、目的がずれてきてしまいます。

そのために、横隔膜が働くための前提となる条件を考える必要があります。

 

私が考える横隔膜が働くための前提条件は以下の通り。

<横隔膜が機能するための前提条件>

・胸郭下部に制限がない
→腹直筋、腹斜筋群、腰方形筋、大腰筋、広背筋に筋緊張の高さがない

・腹筋群、背筋群どちらかが優位に働き過ぎていない

・胸郭上部が優位に動いていない
→僧帽筋上部繊維、三角筋、胸鎖乳突筋、斜角筋、菱形筋群による代償運動がない

上記の条件を満たした上で、横隔膜のトレーニングとして腹式呼吸などを指導することで効果的に機能できるようにすることができます。

横隔膜に関して詳しくはこちらから↓

 

呼吸指導

間質性肺炎は吸気障害のため、当然ながら上手く吸えない方がほとんど。

その背景には間質の繊維化があるため、無理に「もっと吸って!もっと!」と促しても良い結果が期待できません。

そもそも、肺自体が障害されているので、どれだけ上手く吸気できたとしても限界はあります。

ですので、無理に吸わせようとせずに上記で挙げた横隔膜のことも意識しながらその方にあった呼吸の仕方を指導する必要があります。

腹式呼吸はあくまで横隔膜を上手く使うことで肺の広がりを補助しましょうということなので、それで肺炎が治るわけではないので。

楽に呼吸できる肢位、大きさ、回数をみつけてあげて、そこから指導してあげると良いですね。

 

運動療法

呼吸リハに加えて有酸素運動が基本的なリハビリテーションの流れとなっています。

しかし、呼吸困難感がある状態ではどうしても上手く体全体を使えないまま運動してしまいがちです。

居所だけに負担がかかるような動作と全身に上手く負荷を分散しておこなう動作では、後者のほうがエコに運動できるはずですよね。

 

呼吸不全の方に関しては、上部胸郭で代償的な呼吸が特徴の一つですので、下部胸郭を使えるように指導していく必要があります。

要するに、コアユニット(腹横筋、横隔膜、多裂筋、骨盤底筋群)、大腰筋が上手く機能することで体幹が安定しつつ、下部胸郭も上手く使うことができる。

これらは横隔膜とも筋連結があるため、結果的に横隔膜の機能を高めることにもつながります。

 

いくつか運動療法をご紹介しますので参考にしてみてください。

大腰筋の運動療法①

1.立てた膝の上に反対側の下腿を乗せる

2.乗せた側の鼠蹊部とみぞおちを触れる

3.股関節屈曲・外旋方向へ向かってゆっくり大きく動かす

 

<ポイント>

・大腰筋は遅筋線維が多いため、ゆっくりとした動きで働く

・大腰筋はわずかに外旋作用を持つため、内旋・内転方向へ動かないように注意

・みぞおちから鼠蹊部に大腰筋が走行しているため、触れることでそこ支点にして動かすことができる

 

大腰筋の運動療法②

1.端座位にてみぞおちを触れる

2.腰椎の動きを意識して、体幹の屈曲・伸展

 

<ポイント>

・上下に伸び縮みするように動く

・みぞおちは大腰筋だけでなく、横隔膜、腹横筋、腹斜筋などが密集している部位のため、それらを刺激しつつ運動できる

・痛みがある場合はできる範囲で動く

・呼気に合わせて体幹屈曲、吸気に合わせて体幹伸展

 

コアユニットの運動療法

1.背臥位にて両手を天井に向けて突き出し、両股・膝関節屈曲位

2.その状態で5秒程度保持

3.ゆっくり降ろす

 

<ポイント>

・肩関節外旋位、肩甲骨外転・上方回旋、股関節軽度外旋位で前鋸筋-腹斜筋-対側の股関節の筋連結を機能的に使える

・腰椎が過度に伸展しないように、腹斜筋を働かせる

・呼吸は止めず、ゆっくりとおこなう

・ゆくっり降ろすことで、大腰筋のトレーニングも兼ねることができる

 

有酸素運動

呼吸不全の方の呼吸困難感を改善し、QOLを高めていくには有酸素運動が重要。

年齢やADLに関わらず、呼吸リハに加えて有酸素運動を併用していく必要があります。

 

呼吸しにくく動きたくない

食欲低下、筋力低下などでさらに呼吸困難感が増加

さらに活動性が低下していく

上記のような負のスパイラルに陥りやすいです。

 

肺自体の問題もありますが、骨格筋が萎縮することで有酸素運動の閾値低下、乳酸が蓄積しやすいといったことがあり、

これによって運動耐用能が低下しているということがあります。

運動療法によって、骨格筋機能が改善してくるとこれらが改善し、運動耐用能が増加、呼吸困難感も改善するということです。

 

運動強度の目安としては以下の通り。

<呼吸不全の方に対する運動強度の目安>

・最大心拍数の0.6{(220-年齢)-100}×0.6+100

・修正ボルグスケールで3~5のレベルを目安に

・6分間歩行試験(6MWT)より算出した歩行速度の40~50%程度の歩行速度

・15~20分程度の有酸素運動

 

運動強度に関しては諸説ありますが、低負荷高頻度が基本です。

その方に合わせて設定してあげましょう。

 

まとめ

・呼吸困難感、持久力の改善を図るために何が必要なのか考える(目的の明確化)

・間質性肺炎は肺の周りの間質が線維化して膨らみにくくなる吸気の障害

・視診、触診、打診、聴診で身体所見をチェック

・吸気の7割を横隔膜が担っている

・横隔膜が機能するための条件を考える

・有酸素運動をする前に、楽に動ける体に整えてあげるべき

 

おわりに

いかがでしたか?

リハビリテーションの大きな目的としては、呼吸困難感と持久力の改善ですが、抽象的すぎるため、より明確にする必要があります。

それを達成するために何が足りないのか、逆に過剰になってはいないか?

これを考えることができれば、あとはゴールと現在を比較して過不足している要素を埋めていくだけです。

まずは本記事のように考える癖をつけて、今日から実践してみてください!

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

引用・参考文献

1.突発性間質性肺炎の診断・治療ガイドライン

2.一般社団法人 日本呼吸器学会

 

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