2017/09/09

股関節の痛みのなぜ?を考えるためのたった一つの大事なこと

 

スポンサーリンク




この記事を書いている人 - WRITER -
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
詳しいプロフィールはこちら
股関節痛の訴えがある患者さんで中々改善せずに悩んでいませんか?
 
なんで痛むのか?どんな疾患が基盤にあるのか?これら知っておくことと、股関節の解剖学、運動学などを合わせて考えることで、どのように対応したらいいのか明確になります。
痛みに対する考え方とどのようなトレーニングをしたらいいのかをまとめてみました。

股関節痛の原因となる疾患

 
股関節の痛みからどのような疾患が考えられるのか、臨床で多いものをピックアップして以下に挙げています。
 

変形性股関節症

変形性股関節症とは、名前の通り股関節が変形している疾患です。
寛骨の関節窩と大腿骨頭から形成される股関節の関節腔が狭小化している状態のことを指します。
 
 
 
・一次性
原因となる基礎疾患がなく、加齢や過剰な負荷がかかった結果として変形が起こるものを指します。
 
・二次性
臼蓋形成不全、先天性股関節脱臼、ペルテス病、大腿骨頭すべり症、化膿性股関節炎、関節リウマチ、血友病、突発性大腿骨頭壊死、骨折などの明らかな原因となる疾患がを有する場合に起こるものを指します。
 
日本では、一次性の股関節症は稀でほとんどが先天性股関節脱臼や臼蓋形成不全による二次性の股関節症とされています。
 
症状としては、疼痛、跛行、運動制限が主で、周囲筋群の萎縮や骨萎縮も認められ、圧倒的に女性に多いことが特徴です。
痛みの原因は、関節不適合による軟骨破壊、骨棘形成、骨嚢腫形成によりスムーズな運動が阻害されること、関節内循環不全、滑膜の炎症、関節軟骨の炎症などによって発生するとされています。
 
変形の初期は、激しい運動後などに違和感を感じる程度ですが、進行すると炎症症状が出現するため痛みとして現れるようになります。
次第に炎症症状が悪化すると軟骨の磨耗が進み、関節腔が狭小化、骨棘が形成されて変形が進んでいくという流れになっています。
 
主訴としては、起立時や歩行開始時に鼠径部の痛みを訴える場合が多いです。
 
特徴的な歩行としてトレンデレンブルグ歩行とデュシェンヌ歩行という前額面上の形態異常が認められます。
 
トレンデレンブルグ歩行は、立脚期において中臀筋の収縮が不十分なために骨盤を水平に保持できず、反対側の骨盤が下制し中臀筋の筋張力に頼った歩行形態のことを指します。
 
デュシェンヌ歩行は、立脚期において体幹を同側へ側屈させることで相対的に股関節を内転位とする中臀筋の収縮力の低下を補っている歩行形態のことを指します。
 

なぜ変形が進行するのか?

上述した通り、二次性の変形が多いので先天的に寛骨の臼蓋が浅い状態となっています。
股関節が適切に筋力を発揮したり、関節を痛めることなくスムーズに可動するには、関節窩から大腿骨頭がずれないように動く必要があります。
 
しかし、関節窩が浅い状態であるため大腿骨頭が関節窩からずれやすく、関節窩の一部分に過剰な負担がかかりやすくなります。
過剰な負担に対応した結果、骨棘を形成して関節窩からずれにくくする、大腿骨頭を扁平化させて関節窩に密着するような形となるのです。
 
ここで重要なのは、ただ筋力をつけましょうといった考え方ではなく、筋力を発揮したくても発揮できないような身体環境であることが多いため、骨頭に対して臼蓋を安定した位置へ持ってくる、臼蓋に対して骨頭を安定した位置へ持ってくるような操作能力が求められるということです。
 
つまり、体幹と下肢(股関節)が連動して協調的に動く結果、関節が安定して筋力も発揮しやすくなるといった状態を作ることが必要ということです。
 

臼蓋形成不全

臼蓋形成不全とは、寛骨の関節窩が浅く、狭い状態となっていることで、大腿骨頭のはまりが悪い、不安定となっていることを指します。
 
 
 
本疾患が基盤となり、二次性の変形性股関節症へと進行する可能性があります。
股関節症でも述べましたが、先天的に関節窩が浅いために関節が不安定となっており、荷重が一部分に集中しやすくなっているという特徴があります。
 
股関節症へと進行させないためにも、体幹と下肢の連動した協調的な動きによって関節窩と大腿骨頭がうまくはまった状態を保つことが重要となります。
 
また、よくある間違いとして変形して軟骨が磨り減り、骨同士がぶつかっているから痛いという誤解。
関節軟骨、関節軟骨の真下の骨のどちらにも神経は存在していません。
神経が存在していないということは、痛みも感じないということです。
 
では、なにが痛いかというと、関節包、関節周囲の筋肉や靭帯などの組織が炎症や侵害刺激を受けることで痛みを感じます。
関節面には神経が存在していませんが、骨幹部を覆う骨膜には神経が存在しており、関節包は骨膜の延長なので神経を含んでいます。
 
このことからも、変形して骨棘ができているから痛いんですよ、という説明は間違いであることが分かるかと思います。
骨棘が悪いわけではなく、関節窩と骨頭の関係性が崩れていて関節が不安定な結果起こる、炎症などが原因となっているのです。
 
ですので、手術で骨棘を取り除いたとしても炎症を起こしてしまうような運動パターンが改善されない限りはまた痛みを起こしてしまうことが考えられます。
 

関節リウマチ

関節リウマチは、膠原病に含まれる代表的な病気の一つで、免疫系に異常が生じることで身体の多くの関節で炎症が起きる病気です。
 
 
 
症状としては、関節炎に伴う腫れや痛み、発熱、関節のこわばりなどが挙げられます。
 
症状が起こる経過としては、まず関節包の内側に存在する滑膜が炎症を起こし、それとともに異常増殖します。
関節内の血管が増加し、滑膜組織に白血球が入り込むことで、関節内で自己免疫(自身の細胞を攻撃してしまう現象)が起こり、マクロファージから炎症性サイトカインが放出されます。
これによって、破骨細胞、滑膜の増殖を引き起こされ、過剰に増殖することで軟骨・骨の破壊が進み、次第に関節の変形・脱臼へと進行するのです。
 
また、全身症状として、易疲労性、脱力感、体重減少、食欲低下などもあります。
 
症状の経過としては、慢性的な経過を辿るので治らないから痛みは仕方ないと諦めるのではなく、少しでも関節に負担がかからないような動き方を身につけることが重要となります。
 
問題となるのは、関節内の炎症と変形の進行であるため、関節内で局所的に負荷が集中するような運動パターンは炎症や変形を悪化させてしまいます。
リウマチでもやはり、上述したような関節運動に伴った股関節と体幹の相対的な位置関係を考慮することが大事で、関節から逸脱した運動が起こらないような指導によって少しでも症状の進行を進めないようにするべきです。
 

大腿骨頸部・転子部骨折

大腿骨頭と大転子の間にある頚部の骨折のことを指します。
大転子部の骨折を転子部骨折、大転子の下方の骨折を転子下骨折とそれぞれ呼びます。
臨床でも大変多い疾患の一つです。
 
 
 
手術の方針としては、関節包内骨折では大腿骨頭置換術、関節包外骨折では骨接合術が適用されます。
関節包内骨折であっても、保存的に治癒が望める場合は骨接合術や保存療法が適応されます。
 
術式としては、前方アプローチと後方アプローチの二種類があります。
 
前方アプローチは、大腿筋膜張筋と中臀筋の間を切開するものでメリットとデメリットは以下の通りです。
 
<メリット>
・軟部組織の侵襲が少ない
・脱臼のリスクが少ない
<デメリット>
・難易度が高く、医師の技術が要求される
 
後方アプローチは、後方の臀部から切開するものでメリットとデメリットは以下の通りです。
<メリット>
・前方アプローチより難易度が低い
<デメリット>
・大臀筋、梨状筋を含む外旋筋群を一旦大転子から切除するため、軟部組織の損傷が大きい
・股関節後方の安定性に乏しくなり、脱臼のリスクも高い
 
どの術式を適応されているのか、術中脱臼角度、侵襲筋などによって痛むが出現する部位、アプローチも変わってくるため情報収集しておくことも重要です。
 
術後は炎症症状や侵襲された筋の関係などで代償的な運動パターンが強く出たりしています。
ここで見るべきポイントとしては、自らの運動で炎症を強める、痛みを助長するような動きとなっていないかということです。
 
炎症症状は安静にしていれば次第に落ち着いてきます。
しかし、関節から逸脱するような運動パターン、関節に負担をかけるような運動パターンであると、おさまるべき炎症も中々おさまってこない場合があります。
セラピストによる徒手的なROMexも同様で、関節の形状に沿った動きを誘導していると逆に関節を痛めてしまっていることも考えられます。
 
このような場合、関節を守った運動パターンであるか、関節を壊すような運動方向へ誘導していないか考えることが必要です。
 
 

スポンサーリンク

痛みが出やすいポイント

痛みが出やすい部位としては以下の通りです。
・股関節外側(中臀筋、大腿筋膜張筋、腸脛靭帯)
・鼠径部(腸腰筋)
・股関節後方(大臀筋、梨状筋)
 
中臀筋、大腿筋膜張筋、大臀筋などは手術による侵襲を受けていることで痛みが出やすい状態であると言えます。
組織自体が損傷しているわけですから、収縮すると痛いのは当然ですよね。
 
また、関節の安定性が不十分、インナーマッスル(腸腰筋、外旋六筋)が機能していない場合、外側荷重となって中臀筋などのアウターマッスルによって姿勢・運動制御を行う傾向となり、それら筋群を過剰に収縮させたり、筋の張力に頼った戦略になりやすいです。
そのため、侵襲している筋群を侵襲されているにもかかわらず、過剰に収縮を繰り返したり常に緊張した状態を保つ必要があるので痛みが出やすくなります。
  
腸腰筋は大腿骨頭の前方に付着しているため、関節の安定化に働きます。
しかし、術後は臀筋群の侵襲の影響で過緊張となりやすく、骨頭を前方に押し出すためそれを抑え込もうと腸腰筋は緊張を高める傾向にあります。
そのため、立脚期における股関節の伸展時に痛みが出たり、そもそも伸展が出にくい状態であったり、臥位で下肢を伸展位とした際にも痛みが出ることがあります。
 

痛みを出さないために必要なこと

炎症や術後侵襲などである程度の痛みが出ることは仕方ありませんが、その痛みを助長するような運動パターン、セラピスト側のアプローチとなっていないかというところが重要です。
 
何回も言っていますが、大切なのは正常な関節運動から逸脱した動きを出さないこと。
如何に関節を守りながら動けるか、動かせるかということです。
 
大腿骨頭と臼蓋の関係性を考えることが一番大事です。
 
痛みが出現するのは、大腿骨と臼蓋との適合性が崩れている、もしくは動作時に崩れてしまう場合に起こります。
大腿骨と臼蓋の形態から適合性が良い状態というのはどのような状態であるのか考えてみましょう。
 

関節運動に伴う骨頭と臼蓋の関係性

よくある誤解が体幹に対して真っ直ぐ屈伸するという認識。
大腿骨と臼蓋の構造から真っ直ぐ屈伸すると骨頭が臼蓋から外れる方向へ動くため、脱臼・インピンジメントしてしまいます。
 
 
 
こうならないためには、臼蓋に対してはまるように骨頭の向きを調整しなければいけません。
 
<屈曲時>
屈曲時の場合で考えると、脛体角があるので真っ直ぐではなく、頸部の長軸にそって軸回旋するように外側に向けて屈曲する必要があります。
屈曲に伴って骨頭は後方へ移動、外側へ屈曲する(外転方向)と骨頭は下方へ移動します。
このままだと、下後方へ脱臼してしまうので外旋して骨頭を上方へ向けます。
臼蓋は寛骨臼前傾角もあり、前方に比べ後方の方が深くなっているため、後方へ向くようにすると適合性が得られるというわけです。
 
 
 
つまり、骨頭が臼蓋から逸脱しないように屈曲するには、屈曲・外転・外旋の複合運動が必要なのです。
セラピストによるROMexにおいてもこの複合的な動きを意識して動かすべきです。
 
また、立位では先ほどと反対に骨頭に対して臼蓋の向きを変えなければいけません。
つまり、体幹、骨盤の抗重力位での操作能力が求められます。
 
屈曲時の骨頭向きは、前内方へ向くため臼蓋は後外方へ向きを変える必要があります。
言い換えると、骨盤後傾ですね。
 
<伸展時>
伸展時の場合も同様に脛体角を考慮して、頸部の長軸にそって軸回転するように動く必要があります。
屈曲時は外側に向けてでしたので、真っ直ぐではなくそのライン上に合わせて内側へ向けて伸展します。
 
伸展位から屈曲位へは内側から外側へ斜めに動くことになりますね。
 
 
 
伸展時は骨頭が前方へ向くため、内旋・内転によって骨頭を後上方へ向けると臼蓋の適合性が高まることになります。
つまり、骨頭が臼蓋から逸脱しないように伸展するには、伸展・内転・内旋の複合運動が必要なのです。
ROMexにおいてもこのような複合的な動きを意識するべきです。
 
また、立位では骨頭に対して臼蓋の向きを変えなければいけず、伸展時の骨頭は後内方へ向くため臼蓋は前外方へ向きを変える必要があります。
言い換えると、骨盤前傾です。

筋肉による関節適合性への影響

上述したように臼蓋から骨頭が逸脱しないような細かい操作を実現するには、インナーマッスルによる関節の安定性が得られることが必須です。
中でも体幹と大腿骨にまたがって付着している「大腰筋」がかなり重要です。
 
特に臼蓋と骨頭の構造上、骨頭は前方への安定性が乏しく、前方へ脱臼しやすいな構造になっています。
そのため、前方から骨頭を抑え込むようにして走行している大腰筋の遠心性収縮の機能が必要です。
また、屈曲筋としても働いており、屈曲運動中も骨頭を求心位に保ってくれています。
 
腰椎から骨盤にかけて付いていますので体幹の操作に機能しますし、大腿骨の操作にも機能します。
大腰筋はインナーマッスルの一つですので、大腰筋が機能することで殿筋群、大腿四頭筋、腹直筋、脊柱起立筋などのアウターマッスルを抑制してくれます。
アウターマッスルが優位に働くと関節の安定性もアウターマッスルで担うことになりますが、インナーマッスルに比べ関節から離れた位置に付着しているので、骨頭を臼蓋に適合させるような細かい操作には向いておらず、逸脱した動きとなりやすいです。
 
ポイントとなるのは、以下の2点です。
・大腰筋をはじめとするインナーマッスルを優位に使う
・臀筋群、大腿四頭筋などアウターマッスルの優位度を下げる
 
具体的には、大腰筋とハムストリングスが働きやすいように過剰に収縮しているアウターマッスルをリラクセーションなどで抑制、その後にインナーマッスルが働くような運動療法へつなげると良いです。
 
ハムストリングスは大腿四頭筋の拮抗筋であるので、ハムストリングスが優位に働くことで大腰筋と拮抗関係にある股関節屈筋の大腿直筋を抑制できます。
さらに、ハムストリングスは寛骨を介して大腰筋と拮抗関係にあるので、互いに主動筋-拮抗筋の関係を活かして大腿骨に対する骨盤の操作も行いやすくなります。
 
つまり、大腰筋とハムストリングスが収縮と弛緩を適切なタイミングで切り替えることができると、股関節の適合性を高めたまま動くことができるのです。
 
*大腰筋については下記の記事をご参照ください。
 

股関節に対する運動療法

運動療法としては、アウターマッスルを抑制してインナーマッスルが働きやすい状態にしてから実施することが効果的です。
いくつかピックアップしてご紹介します。
 

骨盤に対する大腿骨のエクササイズ

①.背臥位にて股関節やや外転位とする
②.鼠径部を触れつつ、股関節の内外旋をする
 
ポイントとしては、
・骨盤に対して大腿骨を動かす
・やや外転位とすることで、大腿骨頸部長軸に沿った動きとなる
・股関節の動きに必須な回旋の動きを引き出せる
 
 

大腿骨に対する骨盤のエクササイズ①

①.端座位にて股関節やや外転位とする
②.みぞおちを触れつつ、骨盤の前後傾をする
 
ポイントとしては、
・大腿骨に対して骨盤を動かす
・大腰筋の起始であるみぞおちをおさえることで、大腰筋を刺激しつつ動ける
 
 
 

大腿骨に対する骨盤のエクササイズ②

①.立位にて肩幅に足を開く
②.鼠径部を触れつつ、臀部を後方へ突き出しながら体幹を前屈する
 
ポイントとしては、
・膝は過伸展、過屈曲しない(大腿四頭筋の抑制)
・ハムストリングスの起始の伸張感を出す(ハムストリングスの遠心性収縮)
・体幹の前屈から元に戻ることを繰り返すことで、大腰筋とハムストリングスの切り替えの動きを練習できる
 
 

まとめ

・臼蓋と大腿骨頭の関係性を考えることが重要

・臼蓋から逸脱しないような動かし方の理解、動き方の指導が必要

・インナーマッスル-アウターマッスル、主動筋-拮抗筋の関係性を考慮

おわりに

いかがでしたか?

臨床で多く見られる疾患を元に股関節の痛みについて考えてみました。

どれも重要なのは、臼蓋から骨頭が逸脱した異常な運動となっていないかという部分です。

常にこのことを頭に入れて考えると、どの筋肉を抑制したらいいのか?促通したらいいのか?といったことが理解しやすくなります。

ぜひ、臨床でもこのように推論してみてください!

最後までお読みいただきありがとうございました。

オススメの書籍

The following two tabs change content below.
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
この記事を書いている人 - WRITER -
松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
詳しいプロフィールはこちら
 

  関連記事 - Related Posts -

 

  最新記事 - New Posts -

 

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です