2018/05/15

膝関節疾患への運動療法【変形性膝関節症に何となくパテラセッティングしていませんか?】

 

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松井 洸
ロック好きな理学療法士。北陸でリハビリ業界を盛り上げようと奮闘中。セラピスト、一般の方へ向けてカラダの知識を発信中。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
リハ塾の松井です。

可動域は十分にあるのに痛みがとれない…。
その場では可動域が改善するが、持続しない…。

このような悩みありませんか?

原因は構造レベルでは変化しているが、運動レベルでの変化ができていないことかもしれません。

可動域を獲得しても動作が変わらなければ、痛みはとれない、またはすぐに再燃してしまう場合は多いです。

本記事では、膝関節の運動療法を中心に、難易度を調整しやすいよう多くの種類をピックアップしています。
膝関節の障害を運動から変えましょう!

運動療法をおこなう目的

変形性膝関節症の術後に伴う、可動域制限や痛み。

ROMexやストレッチ、マッサージなどで一時的には効果は得られます。

しかし、獲得した可動域や筋肉の柔軟性があっても、力の入れ方がわからない、動かし方がわからない。
このような方は多くいらっしゃいます。

運動療法の目的としては以下の3つ。

・運動の再学習
・獲得した可動域、柔軟性を保つ
・再発予防

運動療法によって、今までうまく使えていなかった部位を使ってもらう。
獲得した可動域を動作に活かすためのツールとして用います。

また、マッサージなどセラピストが提供するものに依存的にならないためにも、運動療法を自ら実施してもらうことも重要です。

依存心が強いと、自分の体を自らなんとかしようとしなくなり、慢性痛の原因ともなりえます。

自らの体に意識を向けてもらい、何ができて何ができないのか。
運動を通して感じてもらい、自分の体には責任を持って自立してもらう必要があります。

そういった意味では、運動療法の重要性はかなり大きいと考えます。

 

膝関節における問題点

まず、膝関節運動を分解すると以下の要素から成り立ちます。

膝関節運動=脛骨(+腓骨)+大腿骨+膝蓋骨(+骨盤+腰椎+足部)

これらの要素のどこに問題があるのかを評価し、そこに対してアプローチすることが必要です。

股関節の制限が問題で膝関節がうまく動けないとすると、筋力が弱いからといってパテラセッティングをいくらしても大きな効果は見込めません。

この場合は、股関節に対して徒手的なアプローチ→股関節に対して運動療法という流れを考えるべきです。

 

膝関節におけるマルアライメント

多いのは、膝関節が内反変形を呈しているアライメント。

・足関節回内
・下腿外側傾斜・外旋
・膝関節屈曲
・大腿骨外旋
・骨盤後傾
・腰椎後彎

がに股で外側の軟部組織の張力に依存して姿勢を保持しているような姿勢。

 

筋肉に置き換えると以下のようになる。

緊張している筋肉
・腓骨筋
・前脛骨筋
・足趾伸筋
・ハムストリングス
・膝窩筋
・腓腹筋
・大殿筋
・中殿筋
・大腿筋膜張筋
・縫工筋
・腹直筋

弱化している筋肉
・後脛骨筋
・ヒラメ筋
・足趾屈筋
・大腿四頭筋
・大内転筋
・長内転筋
・腸骨筋
・大腰筋
・脊柱起立筋
・多裂筋

 

変形性膝関節症に多い内反変形のメカニズムは、大腿骨内旋制限があることによって、代償として下腿を外旋位として適応、その結果、下腿が外側へ傾斜して内反方向にストレスがかかります。

膝関節は屈曲=脛骨内旋+大腿骨外旋、伸展=脛骨外旋+大腿骨内旋という動きが起こっています。

立位では膝関節伸展位で膝関節は構造的な安定性を得られるため、膝関節を伸展位にしようと適応した結果と考えることができます。

なので、膝に制限や痛みがあるからといって、大腿四頭筋のトレーニングを中心にしても思ったような効果が得られないような場合が多いです。

 

ポイントは、下腿に対して大腿骨-骨盤-腰椎を起こすことができるかどうか。

大腿骨を下腿の真上に持ってくるには骨盤の前傾が必要ですし、骨盤の前傾を起こすには腰椎の前彎が必要となります。

この流れのどこに問題があるかでプログラム内容を変化させていく必要があります。

 

膝関節おける問題改善のポイント

ポイントは以下の3つ。

・股関節、腰椎の可動域制限の改善
・下腿に対する大腿骨、体幹のコントロール
・大腰筋とハムストリングスの協調

 

股関節は屈曲/伸展、外転/内転、外旋/内旋の3軸の可動性を持つ関節なので、膝関節に比べて自由度が高い関節です。

股関節の可動性が保たれているからこそ、下腿に対して大腿骨を真上に持ってくることができます。

しかし、股関節単体ではそれほど可動性は大きくはなく、骨盤と腰椎と合わさることで大きな可動域を動くことができます。

 

問題となりやすいのは、股関節の伸展制限。

股関節屈曲位だと上記で挙げた姿勢のような、膝関節屈曲位、骨盤後傾位、腰椎後湾のアライメントを呈しやすいです。

このアライメントでは、大腿四頭筋の遠心性収縮で姿勢、運動制御をしなくてはいけず、股関節のインナーマッスルである大腰筋が抑制されてしまいます。

そのため、ますます股関節のコントロールが難しくなってしまいます。

 

大腿四頭筋の筋力も必要ですが、大腿四頭筋単体で働くと下腿後傾し、バックニーのような状態に力が働きます。

姿勢を直立できないのは、あくまでも股関節や体幹の問題。

下腿に対する大腿骨、体幹のアライメントが整っていることが前提で大腿四頭筋の機能が弱いのであれば、大腿四頭筋への筋トレも必要です。

しかし、そうでないのであれば、常に遠心性収縮で姿勢、運動制御し緊張が高いということ、大腿四頭筋単体で働いてもアライメントを直立できるわけではないということから、股関節や体幹機能の改善を考えるべきです。

 

大腰筋は股関節の安定、骨盤・脊柱の直立化に作用するため、これまでの話をふまえると重要な筋肉です。

大腰筋とハムストリングスは骨盤を介して互いに拮抗する関係にあります。

大腰筋収縮→骨盤前傾、ハムストリングス遠心性収縮
ハムストリングス収縮→骨盤後傾、大腰筋遠心性収縮

互いに協調して働くことで骨盤が安定し、立位下での姿勢の直立にも作用します。

 

また、ディープフロントラインから、大腰筋-内転筋群-内側ハムストリングスの繋がりがあるため、このことからも両者は互いに関係し合っていると言えます。

 

 

膝関節に対する運動療法

主に体幹、骨盤、股関節、膝関節に対する運動療法を中心にピックアップしています。

患者さんに合わせて負荷量を調整してみてください。

 

胸椎の伸展

<目的>

胸椎の伸展を引き出す
頸椎、腰椎の負担を軽減
腹直筋の伸張、抑制

<方法>

1.背臥位(あるいは膝立て背臥位)となる
2.肘関節屈曲90°とし、肩甲帯下制、肩関節外旋方向へ力を入れる
3.肘で床面を押して、胸椎を伸展させる
4.元に戻る

<ポイント>

・腰椎ではなく、胸椎の伸展を意識させる
・肩が浮かないように注意
・顎を引いたまま伸展する
・吸気に合わせて伸展する

上部体幹に対する下部体幹の回旋

<目的>

上部体幹に対する下部体幹の柔軟性を引き出す
体幹インナーマッスルの賦活
腹直筋、腹斜筋群の伸張、抑制

<方法>

1.膝立て背臥位となる
2.両手でみぞおちを軽くおさえ、肩甲帯下制、肩関節外旋方向へ軽く力を入れる
3.2の状態を保ちつつ、下肢を左右へ倒す
(膝関節90°、股関節90°で持ち上げておこなうと負荷量が上がる)

<ポイント>

・みぞおちから捻るイメージで動かす
・肩が浮く、すくまないように注意
・第10肋骨-ASIS-恥骨結合を一直線上に保つ
・素早くおこなわず、ゆっくりと動かす

両手・両足の挙上

<目的>

体幹インナーマッスルの賦活
腹直筋、脊柱起立筋の抑制

<方法>

1.背臥位となる
2.両肩関節屈曲90°、両膝関節、股関節90°屈曲位とする
3.2の状態を5秒保持
4.元に戻す

<ポイント>

・第10肋骨-ASIS-恥骨結合を一直線上に保つ
・肩甲帯の挙上の代償を防ぐため、肩甲帯下制、肩関節外旋方向へ軽く力を入れる
・呼吸は止めない

 股関節伸展遠心性エクササイズ(臥位)

<目的>

股関節のコントロール能力向上
大腰筋の遠心性収縮
大腿四頭筋の抑制

<方法>

1.背臥位で片膝を立てる
2.鼠径部を触れる
3.触れつつ、股関節屈曲する
4.屈曲位からゆっくりと足底を接地させる

<ポイント>

・第10肋骨-ASIS-恥骨結合を一直線上に保つ
・素早く動かさず、ゆっくりと動かす
・鼠径部から動かすように意識する

股関節屈曲エクササイズ(臥位)

<目的>

大腰筋の促通
大腿四頭筋の抑制
股関節コントロール能力の向上

<方法>

1.背臥位にて両膝を立てる
2.片膝に反対側下腿を乗せる(乗せられない場合は下肢伸展位で下腿前面に乗せる)
3.膝の上を滑らせるように乗せた側の股関節を屈伸する

<ポイント>

・第10肋骨-ASIS-恥骨結合を一直線上に保つ
・素早く動かさず、ゆっくり大きく動かす
・股関節外転、外旋方向へ動かす
・鼠径部から動かすように意識する

股関節回旋エクササイズ(臥位)

<目的>

股関節回旋可動域改善
股関節のコントロール能力向上

<方法>

1.背臥位で下肢伸展位とする
2.鼠径部を触れる
3.触れたまま、股関節を内外旋する

<ポイント>

・素早く動かさず、大きくゆっくりと動かす
・鼠径部から動かすように意識する

 

股関節内転エクササイズ(臥位)

<目的>

各肢位での内転筋のコントロール能力向上
外転筋群の抑制

<方法>

1.背臥位となる
2.股関節外旋位、中間位、内旋位それぞれで股関節外転位から内転する

<ポイント>

・鼠径部から動かすように意識する
・素早く動かさず、ゆっくり大きく動かす

 

股関節内転エクササイズ(側臥位)

<目的>

内転筋群の促通
外転筋群の抑制
股関節コントロール能力の向上

<方法>

1.側臥位となる
2.上側の股、膝関節屈曲90°で前方に出す
3.下側の股関節を内転する
4.内転からゆっくりと降ろす

<ポイント>

・骨盤が後方回旋しないように注意
・鼠径部から動かすように意識する
・ゆっくり大きく動かす

 

胸椎の回旋(側臥位)

<目的>

胸椎の回旋を引き出す
頸椎、腰椎の負担を軽減
腹直筋、腹斜筋群の伸張、抑制

<方法>

1.側臥位となる(上側の下肢を前方に置くと骨盤がぶれずに安定する)
2.両手を胸の前で組む(上側の肩関節を肩甲骨面上に屈曲・外転位でおこなうと負荷量が上がる)
3.後ろを振り向くように、胸椎を回旋する
4.元に戻る

<ポイント>

・骨盤が後方回旋しないように注意
・腰椎ではなく、胸椎の回旋を意識させる
・吸気に合わせて回旋する
・肩関節屈曲、外転位で行う場合、肩甲帯の挙上に注意

四肢CKCでの脊柱運動(四つ這い)

<目的>

肩関節、股関節への求心性刺激
ローテーターカフ、大腰筋への荷重による刺激の入力
脊柱の可動性改善

<方法>

1.四つ這いとなる(肩関節、股関節屈曲90°)
2.肩甲帯下制、肩関節外旋、第10肋骨-ASIS-恥骨結合が一直線上になるように力を入れる

脊柱側屈
3.2の状態を保ちつつ、脊柱を左右へ側屈

脊柱屈伸
4.2の状態を保ちつつ、脊柱を屈伸

<ポイント>

・頭部挙上、肩甲帯挙上、腰椎過伸展の代償に注意
・肩甲帯、骨盤が左右へずれないように注意

パピー肢位での脊柱運動

<目的>

抗重力位での脊柱伸展運動
脊柱の可動性改善

<方法>

1.パピー肢位となる
2.肩甲帯下制、肩関節外旋方向へ軽く力を入れる
3.2の状態を保ちつつ、左右へ重心移動
4.2の状態を保ちつつ、脊柱の屈伸

<ポイント>

・頭部挙上、肩甲帯挙上の代償に注意
・腹部はなるべく床面へつけておく

座位での脊柱運動

<目的>

脊柱の可動性改善
抗重力位での体幹運動

<方法>

1.端座位となる
2.みぞおちを触れる
3.みぞおちを触れたまま、脊柱の屈伸、回旋、側屈

<ポイント>

・肩甲帯挙上の代償に注意
・足部は床面に接地したまま動かないように注意
・屈伸時は腰椎、回旋時は胸椎を意識
・素早く動かさず、ゆっくり大きく動かす

 座位での股関節屈曲エクササイズ

<目的>

大腰筋の促通
大腿四頭筋の抑制

<方法>

1.座位となる
2.みぞおちと鼠径部を触れる
3.鼠径部を触れた側の股関節屈曲
4.屈曲位から脱力するように降ろす

<ポイント>

・鼠径部から動かすように意識する
・第10肋骨-ASIS-恥骨結合を一直線上に保つ

座位での股関節屈曲エクササイズ②

<目的>

大腰筋の促通
大腿四頭筋の抑制
ハムストリングスの遠心性収縮
股関節屈曲可動域改善

<方法>

1.座位となる
2.鼠径部を触れる
3.鼠径部から体を倒すようにお辞儀する
4.元に戻る

<ポイント>

・第10肋骨-ASIS-恥骨結合を一直線上に保つ
・腰部で代償しないように股関節の屈曲を意識する
・呼気に合わせておこなう

 

立位での股関節エクササイズ

<目的>

大腰筋、ハムストリングスの促通
大腿四頭筋の抑制
股関節のコントロール能力の向上

<方法>

1.立位で肩幅に足を開く
2.鼠径部を触れる
3.鼠径部を支点に体を倒す
4.元に戻る

<ポイント>

・膝関節は軽度屈曲位で過屈曲、過伸展しないように注意する
・股関節の屈曲を意識する
・呼気に合わせておこなう

立位での膝関節エクササイズ

<目的>

下腿に対する股関節のコントロールの学習
大腰筋、ハムストリングスの促通
大腿四頭筋の抑制

<方法>

1.立位で片脚を前方に出す、反対側下肢はつま先を外側へ向ける
2.前に出した側の鼠径部を触れる
3.鼠径部を支点に体を前方へ倒す
4.元に戻る

<ポイント>

・膝関節は軽度屈曲位で過屈曲、過伸展しないように注意する
・鼠径部から動かすように意識する
・呼気に合わせておこなう

まとめ

・股関節の内旋制限が膝関節へ負担となる

・下腿に対して股関節のコントロールができることで膝への負担を減らせる

・大腰筋とハムストリングスの協調が股関節のコントロールに重要

 

おわりに

いかがでしょうか?

膝関節疾患だからといって、膝関節への介入、トレーニングだけでは良くならない場合も多いです。

歩行など抗重力位での動作で膝関節に負担がかからないには、ということを考えると股関節のコントロールは必須です。

本記事を参考にそのような視点から見てみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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